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レアム共和国にて

 注)今回ノーコンの管轄外の話となりますので、ノーコンの出番はありません。ノーコンファンの皆様には申し訳ありませんが、4章にはこういう回も増えるかと思われます。予めご了承頂ますようお願い申し上げます。



 戦場より戻ってきたと思われる、汚れた格好で視線で人を殺しかねない形相のメアラが佇んでいた。

「あらあら、メアラ……? あ、先生も付けてあげましょうか? それで? どうしたの? 怖い顔なさってぇ」

「……バモンは、無事、なん、でしょう、ね?」

 メアラが人影に気付き、バモンの無事を問う。

「ええ、それはもう。何せこちらの言いつけ通り、身動き取れない奴らを量産してくれたんだものぉ? 大事に扱ってるわよぉ? それで? どうだったぁ? 命まで取らなくて良いと思ったら、気が楽だったかしらぁ?」

「……バモンをぉ、少しでも、傷つけたり、したら、分かってる、わよね?」

「いやねぇ、会話にならないわぁ? クスクス、で? 傷つけてたりしたらどうなさるのかしらぁ? 私とバモン君、いえ? ダーリンの命が繋がってるっていうのに。 ああ? 国を裏切ったせめてもの償いに、私と私の部隊と、そしてバモン君を道連れってわけぇ? やってみればぁ?」

「………………」

「ぷふっ、できないわよねぇ? 大事な大事な弟だもん、ね? め・あ・ら・先・生? アッハハハハハ!」

「おうおうハルロネぇ、なんだか楽しそうじゃんよぉ? 私も混ぜろよ?」

 そう声を掛けてきたのはロドミナ・エンチェルケ、レアム十傑衆の一人である。メアラをからかっていたのは同じく十傑衆のハルロネ・ウェバリアであった。

「あら? ロドミナ、貴方のお陰で私の一番欲しかった物が手に入ったわ。これでも感謝してるのよぉ?」

「へっ、よせよ、仲間だろう?」

「やぁだ、白々しぃ〜。でもまぁそんな貴女だから信用できるってのもあるのよね。実利が伴う付き合いだからこそ、ね」

「ってこたぁ、今度は私に協力してくれるんだよな?」

「ええ、良いわよぉ? なんたって私達は……」

「「相性抜群」」

 息ピッタリにそう口にすると、お互い顔を突き合わせてニタリと笑い合うのであった。

「ひっひ、全くだ。お前にはメイリアを潰してもらおうかなぁ?」

「あらぁ? 大事な男を掠め取られた挙句に、取った女にやられちゃうのぉ? かぁわいそっ♪」

「ひっひ、楽しそうに言うこっちゃねえよなぁ? もしかしてお願いを聞いて貰うってどころか、ご褒美だったりしちまったか?」

「かもぉ? だってぇ、略奪愛の終着点ってぇ、奪った相手の顔を踏みにじりながら悦に浸ることでしょぉ?」

「はーん? 私は色恋なんざどうでも良いから分かんねえ感覚だなぁ。まぁ、もしあれの怒りに触れてたら、腹ン中がぐちゃぐちゃになってそうな話だぜ」

「……何か言ってきた?」

「いいやぁ? 自分の事はともかく、他人事はあくまで他人事なんだろうよ。よく分かんねえ奴だよなぁ」

「……貴女はあいつに絡むことはないから軽口が言えるのよ。私達は下手すりゃ死ぬかも知れない、頭おかしいんじゃない? ってレベルの訓練を強制されてきたんだから」

「……なんつーか御愁傷様だな」

「ねぇ? もう、行っても、良い、かしらぁ?」

 律儀に待っていたらしいメアラだったが、とうとう痺れを切らしたらしい。

「何処かぁ、行く所なんてぇ、あんたにあんのぉ?」

「へへ、あんたはうちの大事な兵器だからなぁ。バモンの命が惜しけりゃ、黙って私達の言う事聞いてりゃ……っ!? まて! ハルロネ!」

「そうよぉ、あんたは奴隷……って何よ? こいつが私達に逆らえる訳なっ……っ!?」

「あ、ああ、なぁ、んか……、ころ、たく、って、たわ」

 メアラの周辺がゆらゆらと揺らいでいる。何かしらの力が漏れ出ている様だ。

「(おい! ハルロネ! 刺激せずゆっくり距離を取るぞ!)」

「(ななな、何よアレ! 下手したら人質無視して暴れる気? ……いやそれどころか今、下手したら本当に殺されてたんじゃない!? 大丈夫なのアレ!?)」

「(ああ、元々許容以上の刺激は控えるようにって言われてたからな。にしてもちと限界に達するのが早過ぎるよな……)」

「(むー! もっとからかって遊ぼうと思ってたのに!)」

「(今はやめといた方が良いなぁ。やんならてめえんとこの人形相手にしとけよ? ありゃあさながら爆弾だぜ)」

「(それもそうねぇ……、あいや、ダーリンとあっそぼっ)」

「(はっ、バモンとやらも可哀想にな。いや? 役得かぁ?)」

「(そうよぉ? こんな美女といちゃいちゃできるんだからぁ、感謝してほしいわよねぇ。私にも、ロドミナにも、ね)」

 爆発寸前のメアラからゆっくり後退り、視界から消えた所で走って逃げだす二人。その数瞬後、メアラの範囲10mの球状の範囲内は、ことごとく破壊されたのであった。


 ………
 ……
 …


「うん? ……今の振動は?」

「どうしたの?」

「ああ、起こしちゃった? いや、今しがた何処かで爆発が起きたようだ。何があったのかな? って」

「私達に出動の声がかからない所を見ると、侵入されたんじゃなく内部の問題よね。ならメアラって女の暴走でしょ? あの人何時も不安定だもの」

 ベッドの中から起き上がった少年のような小柄な人物は、同じくベッドから起き上がった女性に慈しむかのような眼差しを向ける。

「おはよう、シュライラ」

「おはよう、アルモ」

 共に十傑衆であるシュライラ・エッティンゲンとアルモ・ナイアルテは、顔を寄せ合って軽くくちづけを交わす。

「今日も訓練を頑張ろう」

「ええ、強くならないと、ね。私達があの国の情報を掴んでいる様に、向こうもこちらの情報を掴んでいると見ていいと、あの人は言っていたもの……」

「だからこそ情報を逆手に取れるよう、死にものぐるいの訓練を生き抜いてきたんだ」

「誇張ではなく、本当に死ぬと思ったわ。……アルモが」

「ははっ、それは仕方ないね。アレは僕しかできない役なんだもの」

「そうだけど……死んじゃ嫌よ?」

「ああ死なないさ。誰だって死にたくないさ……でも僕は君のために死ねない、死なない」

「うん、それで良いわ」

 そして二人は抱擁を交わすのだった。


 ………
 ……
 …


「おーい、ヴェサリオ殿! 今の爆発は何だろうか?」

「ああ? ハイネリアよぉ、俺がそんなこといちいち気にするかっての。知らねえよ!」

「今のはメアラ、とかいう女性の起こした爆発ですねぇ〜」

「おお、アルディモ殿、情報かたじけない」

「なんのなんの」

「チッ」

 不機嫌な顔つきで舌打ちをする男はヴェサリオ・ヴォイドマンで、爆発を気にして問いかけていた男はハイネリア・ヒューイック、そしてハイネリアの問いかけに答えたのがアルディモ・ルッケルス、3人共に十傑衆である。この3人はよく一緒に居る所を見られている。……が、仲が良いわけではない。

「時にヴェサリオ殿? 指令は把握してございますかな?」

「だからハイネリアよぉ? 俺が細けぇ事気にするように見えるか? ってんだ」

「いやはや、それはそうなのでしょうが……」

「ではそのように彼の方に伝えておきましょぉねぇ〜」

 ニコニコしながらアルディモが、ヴェサリオのやる気の無さを誰かに告げると宣言する。

「うおおいっっ! まて、それは無しだ!」

 その誰かはヴェサリオにとっても苦手な人物なようで、途端に顔色変えて抗議する。

「重要な任務を覚えるのと、覚えたくないのを素直に伝える、どちらが良いでしょぉねぇ〜?」

「……ぬ・ぎ・ぐぅ! はぁ、分かった。覚えておく。それで良いんだろう?」

「はぁい、私は素直なヴェサリオさんが好きですよぉ〜」

「俺ぁてめえが大っ嫌いだよ」

 ここまでのやりとりは何時もの光景のようで、すれ違う者達もヴェサリオの殺気前回の不機嫌さを目の当たりにしながら、何も言わずに通り過ぎていく。

「まぁまぁ。にしても羨ましい限りですな」

「ああん? 何がだよ?」

「ヴェサリオ殿の役割は、今回の突入作戦の肝でありますでしょう? 武人の誉れでは御座いませんか!」

「要・ら・ね・え・よ、んなもんは。俺は強い奴が真っ向から向かってくるのが好物なんだよ。その上で叩き潰し、踏みにじるのが最高なんじゃねえか」

「……ハルロネ殿と似ておられますなぁ」

「ああ!? 誰があの糞女に似てるってぇ!?」

「あいや! お、落ち着かれよ! 今のは失言でありました!」

 ヴェサリオにとって、ハルロネとは同列に扱われる事は我慢ならないらしく、今まで以上に激昂するのだった。

「ううん、踏みにじるのが好きなお二人は似てると思いますよぉ〜?」

「ああ!?」

「あああ、収集が……」


 ………
 ……
 …


 それより時は少し下り、場所は首相府の一幕……。

「例の計画は上手く行っているのか?」

「ええ、問題無く」

「本当に大丈夫なのか? ここまで来て『できませんでした』では済まされんのだぞ?」

「首相?」

「な、なんだ?」

「この議論を何時まで続けるおつもりですか?」

「し、しかしだな」

「貴方の用心深さというか小心者ぶりは、まぁ事をなすに当たって良い方向に転んだので我慢できましたが……それも行きすぎればただの害悪。別に頭に据えるのは誰でも構いませんのよ?」

「ま、まて! 私が悪かった! 君を信じる! それで良いのだろう!?」

「ええ、そうですね。これからもその調子でおねがいしますよ?」

「あ、ああ……」

「私は、あの子達がちゃんと訓練しているかどうか見てきますね」

 女は、首相と呼んだ男の元から離れて部屋を出て行く。コツコツコツと、ただ靴音だけが響き……

「あんな男で大丈夫なのか? ここの頭は」

 女に問いかける声。姿は見えない。

「良いのよ、ただの手駒なんだから。なにか起きたとしても、最悪私達だけでひっくり返せるわ」

「まぁそれはそうだな。忌々しい戒めも解けた事だし、良しとしよう。……心残りがあるとすれば、アレを完全にこちらの物にできなかったことか」

「事が終われば、アレは貴方達の好きになさいな。私は興味無いわ」

「ふっ、変わらんな」

「そのためだけに、色々捨ててきたのだもの……」

 首相すら手駒扱いする二人。レアム共和国には不穏な空気のみが漂うのだった。

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