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浸食

俺のほかにもオコニドとの小競り合いはそこかしこで起きているとは聞いてはいたが、ドールもまたそのうちの一人だったのか。
 とはいえ騎士団長というからには俺より腕が立つと思うんだが’’’’’’オコニドってそれほどまでに厄介な存在なのか。

 ルースは続けた。
この戦いでドール騎士団長は胸を槍で貫かれ、かろうじて命はとりとめたものの、いまだ予断を許さぬ状態が続いてるということだ。
「昨晩私が診たんですから間違いありません。しゃべるたびに口から血の泡を吹くほどで……もう打つ手は……」

「こ、こいつがやったんだ! こいつが団長をバケモノに変えたんだ!」
 その声に振り返ると、腰を抜かした状態の騎士の一人が、俺を指差しながら喚き散らしている。
 この野郎、以前から俺のことを散々こき下ろしてた奴じゃねえか!
「デュノ様! こいつですよ団長をやったのは……!」
 ルースは駆け寄ると、そいつの頬を無言のまま平手打ちした。
「……ディナレ様とエナルド神に誓って言う。彼、ラッシュは私の親友だ。この者は決して私怨や個人的な怒りで人を殺すことはしない。いっときの感情で勝手極まりない推測を口にするな! 分かったかザイレン!」
 ザイレンとかいう騎士は、ルースの気迫に押されたまま黙りこくってしまった。

 ……すげえなルース。あいつがこんな剣幕で怒る姿は生まれて初めて見た。普段は逆の立場だっていうのに。
「えー、ということでラッシュさん、手短に事の経緯を教えてもらえますか?」
「お、お前ルースって名前じゃねえのか?」
 うん。ザイレンはルースのことをデュノ様って呼んでて……なんなんだ?
「無事に帰宅できたら全てお話しします」

 ってなワケで、俺は城に入ってから起きたことをデュノ……いや、ルースに話した。
「なるほど、つまりあの方が会話中に突然苦しみだしたと思ったら、みるみる間にバケモノの姿に変わってしまった……と」
「ああ、どうなってるんだ一体……人間ってのはあんな風に変身できる能力とか持ってるのか?」
 まさかそんな、とルースは苦笑で返した。
「恐らくですが、あの人はマシャンヴァルに浸食されたのかなと」

 浸食……なんかまた訳のわからない言葉出してきたな。
「要は、マシャンヴァルが持つ、恐るべき力です」
 ルースがいうことには、どうも奴らは人間の身体を乗っ取ることができるらしい。それがどんなやり方なのかは詳しくは分からないが、だいぶ前に……そう、チビを拾ったとき。ギルド仲間のガグが同様の手段で「中身だけ」入れ替わられてしまったことがあった。あれもまたマシャンヴァルの奴らの力らしい。
 人間だろうが獣人だろうがこうして乗っ取られるとは……マジで危険だなあの国の奴らは。

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