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捨てる覚悟

アスティはとりあえず、ほとぼりが冷めるまで当分の間ここで静養させるとこにした。
そうだ、言うのを忘れてた……
あいつ曰く、クビを言い渡された後に、先輩が酒を奢ってやる。と持ちかけてきたらしい。俺も不可解な点だらけだ、いつでも力になってやる……と。そんなこと言われて強い酒を一杯、二杯……気がついたら身体に石をくくりつけられた挙句、川底にいたそうだ。
なんとか石を取ることはできたが、息が続かずにそのまま溺れて……意識が戻った時はベッドで寝ていた。というわけだ。
「でも、ラッシュさんは僕の目を覚まさせるためにここまでやってくれたんですもんね……」アスティはそう言ってくれてるが、ラザトの方はカンカンだった。そうだよな、さっきもアスティは「ラザト叔父さん」って言ってたし。家族ぐるみの関係だったんだろう。あいつが俺のファンでなければ、恐らくラザトに半殺しにされていただろう。
とはいえ、もはやここではアスティは除籍……いや、もう死んでるのか? なんて思いながら、俺は眠れずに朝を迎えた。
何から何まで謎だらけ。
アスティは軍を辞めさせられた挙句に殺されて(ないけど)しまうわ、俺はギルドをクビにされたわで散々だ。この怒りは一体どこへ向ければいいのやら……

「チャンスは一度だけならある」

相変わらず強い酒を飲みつつラザトは言った。こいつメシ食うときあるのか? 延々酒ばっか飲んでやがるし。
「恐らく近いうちに、あの坊ちゃん騎士連中がまたここに来るさ。お前を呼びつけにな」
「呼びつけに……そりゃ一体なぜ?」
「とりあえず最初に報告をしにきただけさ、この前のはな。そして後日、城にお前が行って、そこでお偉いさんが直々にお前にギルドライセンス剥奪を言い渡すって寸法だ。奴らだってきちんと法にのっとった宣告はするさ」
よく分からんけど、法ってのがあるわけか。
「騎士団長とかそこら辺の偉いやつが来たら、とにかくわけを聞くんだ。これは理にかなってないじゃねえかって。きちんと理由は聞いとけよ。お前はバカだから殴る蹴るで聞き出すかも知れねえけど、そんなコトしたら全部が水の泡だ。最悪そこで首と胴体が切り離されるかもな」
とにかく……怒りも感情も抑えろってことか。俺には厳しいことだが、やるしかない。
けど……
「そういやラザト……あんた言ってなかったか? この城の連中はマシャンヴァルに乗っ取られてるって。もしそうだとしたら、それ自体罠じゃないのか?」
「ああ、絶対に罠だ。最悪お前を殺す気だろうな」
「じ、じゃあ……どうするんだよ! 理不尽な理由言われて処刑されるかも知れねえじゃねえか!」
その時、ふとラザトは俺に言った言葉……おそらく、この時に俺の運命は変わったのかもしれない。

「おまえ、この国を捨てる覚悟はあるか?」

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