あの頃
突然、食堂の中が、まるで大仕事を終えた時のような喧騒に包まれていた。
さっきまでランプが一つ灯っていただけなのに、今、俺の周りは暖かい明かりで満ち溢れている。
おかしなことに、隣にいたゲイルも、ルースも、そしてジールまでもがいなくなった。
不思議に思いつつ正面に目をやると、小さくて黒っぽい毛の、子汚い獣人のガキが、皿に盛られたシチューを無我夢中でがっついて食っている。
さっきまで俺の前でドロドロの飯を食っていたチビのように。汚い食いっぷりだけど、精いっぱい。
あれ、けどこいつどっかで見たことあるような……
シチューを平らげると、今度は小さな手でパンを、左手でチーズのかたまりを握りしめ、交互にまたがつがつと食い始めた。
こんなちっこい身体なのに、食い方は大人顔負けだ。
「いい食べっぷりだな、うめえだろう」
ふと、このチビの頭の上に、大きな岩のような手が乗っかってきた。それに聞きなれた、野太く懐かしい声。
「うん、おいしい!」そいつは満面の笑みでその声に応えた。
「そうか、よしどんどん食え! 何杯でもおかわりしていいからな!」
チビの後ろに立っているこの大きな人影……そうだ、親方だ! まだ全然年とってねえし、髪もたくさん生えてる。それに顔も全然シワだらけじゃないし。
それに……ああ、すっげえ嬉しそうな顔してる……!
その若い親方はチビ犬の隣に座って、メシの食いっぷりをじっと眺めていた。
時折、持っているハンカチでチビの顔を拭いてて……まるでさっきのジールみたいだ。
「いいか、俺が明日っからお前を一人前の戦士にするためのいろんな技を叩きこんでやるからな、覚悟しておけ、でもうまいメシもたらふく食わせてやるからな」
「せんしってなんだ?」チビは親方の言葉に、たどたどしい言葉で問いかけてきた。
「そうだな、戦士って言うのはな、戦いで一番強いやつのことを言うんだ。この長い戦争で生き残れるには誰よりも強くなきゃダメだ。それにな、お前を初めて見たとき分かった、こいつなら絶対強い戦士になれるってな。それにメシもいっぱい食ってるからな。そう! メシを食うのも戦いも一緒だ、腹にいっぱい収めたモンが勝ちなんだ。食ったら食った分だけ強くなれる! 」
「じゃあおれ、もっとたくさんたべてつよくなる!」
親方は食堂に響きわたるほどの笑い声を響かせながら、俺の頭をガシガシと強く撫でまわしてくれた。
ただでさえ俺はボサボサな硬い髪だっていうのに、痛いくらい撫でまわしてくれて……。
……って、俺?
このチビは……俺⁉︎
そうだ、思い出した。初めてギルドに来たあの日。
腹ペコだった俺を、まず食堂に連れて行ってくれた、あの日の俺だ!