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魔王、本懐を遂げる

「ふろ……ら」

「え? どうし……大丈夫ですか!? ジュリエッタ様!?」

「限……りっ……きー」

「え? え? え?」

 カクンッ

 電池の切れたロボットのように崩れるジュリエッタを、すんでの所でフローラが抱きとめる。

「ど、どうなってんの?」

「なんか糸の切れた人形みたいだったわねぇ」

「……ん? うお!? どういう状況だ!?」

「ん? えっと、りっくん?」

「は? 可憐か?」

「おはよう?」

「……うおっ」

 ジュリエッタ改め、りっくんinジュリエッタは状況に気付いて、バッ! と距離を取る。

「何だ? 何なんだ?? ここはどこだよ?」

『ここは黒い繭の中さ』

「あん? 黒い繭の中ぁ? ああ、お前が魔王の本体か。で、そっちがモモンガの中身か」

「あら? 全然物怖じしないわね」

「……カマ野郎の相手は嫌って程してきたからな」

「そっちの事じゃないわよ!?」

「え? りっくん、嫌って程って何の話?」

「お前ぇもそんなもんに食いつくな!?」

 カオス!

<あっはっは! 面白ーい>

「面白くねえ!」「面白く無いわよ!」

 仲いいな。

「そういう問題じゃないでしょうに……」

「しかしここが黒繭の中か。随分と豪奢だなぁ?」

『コレでも王様だったからね』

「褒められたことじゃないわよね?」

『すみません!』

「ああ? 何で可憐にビビってんだ……って、おいおい。すげぇ事してやがんな」

「え? どういう事? もしかしてジュリエッタ様の記憶見てるの!?」

「おう。こりゃ流石の俺でも怖ぇわな……」

「ぬぐぅ……」

 自業自得だな。「自業自得よね」

「ふ、フローラ?」

「ん? ああ、そっか。ジュリエッタ様にはね、私と同じ世界に生きてた人が入ってるの。男の人だけど……って見えてるでしょ?」

「ええと……ほとんど見えないの」

「え? 何で?」

<ジュリエッタにエネルギー殆ど渡しちゃってる状態だから……えっと、フローラとフローレンシアの関係と逆と思えば良いんじゃない?>

「あー。りっくんが凄く透けて見えてるのか」

 頷くメイリアにリッキーinジュリエッタが手を上げる。

「おう。何だか知らんが俺のことはリッキーとでも呼んでくれや」

「は。はい……」

「っつーか、何でこんな所で起きる羽目になってんだ? 予定に無かったはずじゃねえか」

「え? そうなの? ジュリエッタ様が勘違いしたってことなの?」

 アレかなぁ……?

「え? ノーコンには何か心当たりあるの?」

 これ位なら良いかなぁ? ……ヒントは最近、恩を感じた喪女さんが魔王さんの呼び方を変えた感じ?

「は? 乙女様が何の関係があるの?」

「あ? 乙女様ぁ?」

「魔王様の中に居る人、由緒正しき乙女なんだって。だから乙女様」

「え? 乙女……ひっ!?」

「メイリアちゃん、私はうら若き乙女、乙女なのよ? 分かった?」

「(コクコクコクコク)」

<無理に言わせてるぅ?>

「失敬ね」

「で、それが何……ああー!?」

「うおっ、何だ!?」「きゃっ、何よ!?」

 風呂オラさんが二人を左右の人差し指でそれぞれ指差す。人を指差しちゃ駄目って言われなかったか?

(その疑問には、じゃあなんで人差し指って名前なの? って聞き返した記憶があるわ)

 流石……。

「だから何なんだよ可憐」「何なのフローラ?」

「中身!」

「中身? ……あ―――――!!」

「おい! てめえ等で分かりあってねえで俺にも分かるように言えや!」

 りっくんはそういうなり、フローラの襟首を掴む。

「ちょっ、ちょっと! 女の子相手に乱暴ねぇ!」

「んもー、りっくんてば変わんないんだから」

「ああ!?」

「あのね、乙女様は魔王様の器、つまり男の中に居るわけよね?」

「……そうだな」

「りっくんはジュリエッタ様、つまり女の子の中に居るわけよね」

「ああそうだ……業腹だけどよ!」

「ね、乙女様? 同意があれば中身を交換できるのよね?」

「できるわよ!」

「え? ……は!? マジでか!? 嘘言ってやがったらただじゃ置かねえぞ!?」

「嘘じゃないわよ。ってか、ただじゃ置かないってどうするつもりだったのよ……」

「光魔法で身動き取れないようにして、股間を潰す」

「ぎゃあああ!? フローラより具体的で凶悪だったわ!? ……嘘じゃありません。本当で御座います」

「すぐできんのかそれ!?」

「ええっと……(チラッ)」

「不安に思わなくても大丈夫よ、乙女様。りっくんは乱暴だけど、不必要に暴力振るったりしないから」

「じゃ、じゃあ……手」

「あ? 握るのか?」

「そうよ。……ってあら? やだぁ!? いけめぇん! 今まではっきり見えてなかったから分かんなかったけど、凄いイケメンじゃない!」

「ああ? ……あああ!? ちょ、お前」

「主導権は今こちらにあるわ。分かるわよね? ねぶり尽くされたくなければ黙ってなさいな」

「ねぶっ……!?」

「し―――――」

「(コクコク)」

「ええ? 何かあったの?」

「(フルフル)」「(フルフル)」

「なんでメイリアまで一緒に首振ってるの……。あ、そだ。ナビってどういう扱いになるの? りっくんについていくの?」

<私はどちらかと言うとジュリエッタについてるからぁ>

「そうなんだ」

「じゃ、行くわね」

「お、お、おう……」

『なんかワクワクするねぇ。中身の交換の様子を見るのは僕も初めてだよ』

「え? 勇者さん? 初めて見る? ……って、交換自体はできるんでしょ?」

『できるよ? だって僕が作ったんだもん』

「……ちなみに何のために?」

『ここから抜け出して遊びに行きたくなった時とか?』

「……どうやって?」

『魔界の子を呼んでちょっとの間代わってもらってた』

「……もうちょいボコボコにしとけば良かった」

『何で!?』

「ちょっとの間ってぇ? まさか1周間以上長いなんてことはないですよねぇ? ……ねぇえ!?」

『は、ははは……そんなことは。……ナヒヨホ!?』

「声裏返ってんじゃねえか!」

 勇者さん勇者さん。実際は最長どれ位? こそっと……。

『(ええっと……3年? 位……)』

 喪女さん3年だってー。

「てめえこらああ!」

『酷いよ!? こっそりって言ったのに!?』

「ちょっと! うるさいわよ!」

「へーい」へーい。

「全くもう……」

『え? え?? 何? なになになんなの今のやり取り!?』

<あっはっは! さしもの勇者さんも遊ばれてやんのー>

『ええっ!?』

「外野が煩いわぁ……よし、捕まえた! 引き込む勢いで逆に飛び出す感覚……そぉれ!」

 ブウォンッ

 突然魔王の器とジュリエッタ様の体が黒い球体に飲み込まれた。

「え? あれ大丈夫なの?」

『大丈夫大丈夫。あれで成、功っ!? 睨まないで!?』

「……絶許」

『意味は分かんないけど、とにかく怖い!?』

「……なんで3年?」

『あれぇ!? 何でここでさっきの話が続くのぉ!? からかわれたわけじゃ無かった!?』

「ええからはよ」

『はは、はいっ! ……久しぶりの外が楽しすぎて、つい』

「蹴って踏んで叩いてもげばよかったかしらぁ!?」

『きゃああああああ!? 誰か助けて!?』

「おい! いい加減うるせえぞ! ……って、お? こりゃあ?」

「あ、りっくん。魔王様の体に入れたっぽい?」

「お、お……おおおおおおおお! 男の体だ! やった! マジで……!」

「あ、あ……あはあああああん! 女の体ぁ! やったわ! 遂に……!」

「ちょ、乙女様。ジュリエッタ様の体でいかがわしい声と言い方は止めてー?」

「あら、そうよね。高貴なお姫様だもの。私も自重しないと」

「ええ、是非そうして下さい。……で、りっくん? 何してるの?」

「あ? いやぁ、この体思ったより高性能らしくてな。何が色々できるのかって調べてるところだ」

「例えば?」

「そうだなぁ……あ、こんなのはどうだ!」

 と、りっくんin魔王さんはフローラさんの頭を鷲掴みにする。

「へ?」

「そぉりゃあ!」

「ぬおおおお!? (……カクン)」

「フローラ!?」

 倒れ込むフローラはメイリアがナイスキャッチ!

『ちょっとりっくん! いきなり何するの……よ? え? ……ナニコレぇ!?』

 そこには半透明のフローラの中身、くたびれ中年さんがあった!

『放っといて!?』

「へー? 抜き出せたのねぇ? 私そんなことすれば死ぬと思ってたわ?」

「ああ、完全に抜いちまえばな。俺達の世界には魂の緒って考え方があってな。ほれ、これで本体と繋がってんだ」

「ああ、なるほどねぇ」

 あ、魔王さん。できればメイリアちゃんに触れておいて?

「え? 良いけど何で?」

 と、ジュリエッタ様の体でメイリアちゃんに触れる魔王様。なんで? って思ってるみたいだけど、会話も聞こえた方が多分面白くなる。中身の人の会話は、勇者さん以外の声は聞こえないだろうから。

『面白くなるって、何が!?』

「おい、こっち向け。あー、やっぱりかてめえ。暫く美容院来てなかったと思ったら、めちゃめちゃサボってやがったな?」

『え? あ? あー、これ? だって死んだ時の状態みたいらしいから仕方ないじゃない?』

 細かいウェーブの癖っ毛が伸び放題で……なんつーか、呪われた人形?

<あっはっは! 上手い例えねぇ>

『上手くねえよ!? ほっとけや!?』

「サボってなかったらここまでになんねえんだよ。でも丁度良い機会だ。俺が整えてやんよ」

『え? へ? どうやって……ってちょっちょちょ……どっから出てきたこの椅子!?』

 中身の方の頭を鷲掴みにされた喪女さんは、床から急にせり上がってきた美容院の椅子に突っ込む。

「魔王ってなぁ便利だなあっ!」

『都合良すぎるわぁ!?』

 りっくんは騒ぐ喪女さんを放り投げてむりやり椅子に載せると、これまたどこからか持ち出したハサミと櫛を用い、有無を言わさず髪を整えていくのだった。

『もー、いっつも強引なんだから』

 次回、喪女が進化!? それ行け、けう○げん! を乞うご期待!

『ならねえよ!?』

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