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クロード家の父兄参観?

 まだ心のかすり傷が痛いだの熱があるだの、ズル休みを企む我らがフローラさんは、

(重症だボケェ! あんた去勢される人間の断末魔と苦悶の表情を、至近距離で見せられた私の身にもなれ!? 耳から離れないし目に焼き付いてまともに寝れやしなんだぞ!?)

 とまぁ、元気なのに引きこもろうとしてる。

(『……フローラもアレだけど、アンタも大概アレよね』)

(……もっと言って上げて下さい、魔王の乙女様)

(『割と悪くないフレーズね。てか、ダメージ受けすぎよ?』)

(以前無体を働いたことがございますが、あれの行き着くとこまで行き着いたダメージを負う、あのイケメンの苦痛と絶叫を想像下さいませ……)

(『……ノーコンちゃん、流石に今回は優しくしてあげましょ?』)

 痛みを分かっちゃった魔王様が懐柔されてしまった。仕方ない、今回は程々にしよう。

(『何かしら。全然安心できないのは……何故?』)

(当事者の私が一番それそ感じております、乙女様)

 ここでフローラに良い話のプレゼントです。

(……何?)

 バモンのお姉様方が勢揃いしました!

(お……!? てめ……!? ふざけん……っ! ギャアアアアアアアアアア!?)

(『……アンタそれはないわ』)

 えー? どんな風に伝えても一緒じゃあん。

(『例えばよ? まずいぞフローラ、お姉様方がやってきているらしい! とかなら心情に寄り添ってくれてるなんて、思えるんじゃない? ……まぁ気休めだけどさ』)

(うう……乙女様が優しい……)

 しょうがないなぁ。じゃあちょっと寄り添ってみるか……。
 大変だフローラ! お前の父と鬼将軍が、バモンのお姉様方と睨み合ってる! 血の雨が振りそうだ!!

「ギャアアアアアア!! アホおおおおお!! もっと早く言ええええええ!!」

 そう絶叫するとフローラは上着を羽織るだけで、着替えもそこそこに飛び出していった。

(『……今のはからかいのレベル越えてなぁい? ちょっと同情しちゃうわ』)

 まぁ実の所、そこまで険悪な雰囲気でもないんだが。

(『だから性質が悪いんじゃないのさ』)

 まぁあの様子だと、

「フローレンシア・クロード! はしたない格好をするな! 走るな!」

「ギャアアアアアア!? 寮監様! コレには深い訳がぁ!」

「良いからさっさと着替えてこい! 説教はその後だ!!」

「うええ!?」

 となるわな。

(『そこまで狙ってたアンタって……』)

 絶句する魔王さんは置いといて、俺はフローラの帰還を待った。


 ………
 ……
 …


(あんた、最悪……)

 はっはっは。

(今までで一番酷いんじゃないかしら)

 そんな褒められても……てれてれ。

(……うっざ)

 風呂おっさん、顔顔ー。

(……もう良い)

(『気をしっかり持つのよ』)

(……うん)

 オランジェ女史の説教に捕まったフローラは、家族が大変なのだと色々言い訳をするも、

「お前の危惧しているあの事件については既に話がついている。そのことを蒸し返そうものなら私も黙っていない。そこは心配する必要はない」

 と、バッサリ斬られた挙句、

「他の誰にも知らせてもいない両家の到着を、何故お前が知っている? またパルフェか?」

 との言葉に、残念なフローラさんは適当な言い訳を思いつかず、かと言ってパルフェを犠牲にも出来ないのでのらりくらり躱し……切れずに説教が長引いた。

(だーれーのーせーいーだー。……っつか、私の知り得ない情報はあんた教えないって言ってたじゃん!)

(『フローラの寝てる間に、こっそりベティが教えに来てくれてたのよ』)

(え? そうなの??)

(『それを聞いたアンタの先輩が、顔を青くして飛び出ていったんだけどね……。すっごい早歩きで』)

(走ると捕まるものねぇ。私もその技術、身につけようかな)

 んで、フローラさんや。俺に何か言うことは?

(ん・ぎ・ぐ……う、疑ったりして、その)

 うんうん?

(大変悪ぅござんしたぁ!!)

 態度悪っ!

(『元はと言えば、アンタがこの子をからかうのが主な目的で、誤解しやすい言葉を選んだのが悪いんでしょうに』)

(ですよね!?)

 はいはい。魔王さんには敵わないなぁ。フローラはどうでも良いけど。

(おいこらぁ!?)

 ちな、今はオランジェ女史に連れられて、来客用のサロンまで移動中だったりする。俺との下らないやり取り中に凄い顔してるフローラの醜態は、たまに振り返るオランジェ女史には見られていない。すんでの所で余所行きスマイルを装着したりしている。すごいぞフローラさん!

(『それ褒めてるように聞こえないわね。貶してんのね』)

(そうです。あんなちょっと分かり難いとんでもキャラと一緒にしないで欲しいです。普通が良いんです)

 というか、なんで魔王さんは今回ついてきてるの?

(『フローラの関係者の顔ってそうそう見れないじゃない? ご挨拶はできないにしても、見ておこうかしらって思ってね』)

(……イケメン巡りの延長上?)

(『違う違う。年上もキライじゃないけど、若いほうが好き。っていうか、生きた年月は馬鹿みたいに長くなっちゃったけど、中身は10代から20代って所なワケ。 恋をするにしても同じ世代が良いわぁ』)

(そうなんだ)そうなんだ。

(『アンタ達、たまに仲が良いわねぇ。とりあえず興味ないのはわかったわ』)

 フローラにしてみれば家族を狙われる心配がないってことでホッとしたんだろうし、俺はそもそもそっち系はさっぱり分からん。

(乙女様と余計な確執を持ちたくなかったから否定はしないわ)

「着いたぞ。……後ろで何やらやっている気配があったが、何かしていたのか?」

「いえいえ!? とんでもありません! 何もしておりません!」

「……そうか」

 絶対信じてない目を向けたオランジェ女史だったが、深くは聞かずにサロンの扉を開く。すると開けた途端に誰かが転がり出てきた。その姿は生気がまるで感じられず、言うなればゾンビのようだった!

「ヒィッ!?」

「むっ? 誰じゃ……フローラ!」

「あっ……えっ? お祖父……様?」

「おおおおお! フローラや! 会いたかったぞい!」

「ええ、お祖父様。お久しぶりです」

「そうじゃそうじゃ。久しぶりじゃ。こんなに近くに居るのに会いに来てくれん。儂、寂しい」

 強面のゴツイ爺がぶりっこしてる姿は、色々痛いなぁ。

(『そうねぇ。でも素敵なお祖父様じゃない。まだまだ素敵なオジ様で通るわよ?』)

(そりゃあ若いですからねぇ。まだ50過ぎだし)

(『ううっそ!? マジで?』)

(私はお母様が16の時の子だし、お祖母様は16でお母様を産んだし。お祖父様はお祖母様の6つ年上なんで52ね)
「お祖父様、学院には親族と離れて暮らす者達も多いのです。私だけがお祖父様に甘えるわけには参りませんわ」

「うむぅ……そうは言うがの、フローラや?」

「ですので。学院が休みに入ったら、存分に甘えさせて下さいませ」

「おお! そうかそうか! はっはっは! それまで楽しみにしておこう!」

「……で、お祖父様? この惨状は一体?」

 フローラが惨状と言ったのは、このサロン、先程のゾンビのような者達で溢れかえってきたからだ。フローラも最初は泣き叫びそうだったが、お祖父様のお陰で泣かずに済んだようだ。やったね!

(何故ちょいちょいネタを入れんのよ)

「うむ? こ奴等か? むぅ……。のぉ? フローラや。先頃のグラジアス嫡男私刑事件、お主も怪我を負わされたであろう? ……怪我を。け、が、をぉぉぉおおおお!!」

 ビリビリビリ……!

 ゾンビ達がさざなみを打つ! どうやら全力逃げたい! でも体が動かない! 悔しい! みたいな状況だ。

(何でそんな「体と心裏腹」みたいなネタで表した!?)
「お、お祖父様!? 私は大丈夫です! 怪我も大したことはありませんでしたし……」

 ピタ

「……そうは言うてもの? 心はそうではなかったりするじゃろ? 夢に出てきたりしておらんか? 怖い夢を見ては」

「ぅぇっ?」

 まさか心の心配をされると思ってなかったフローラだったが、大丈夫と言おうとして、最近良く見る悪夢、潰される→絶叫&顔→潰される→絶叫&顔のエンドレスを見ちゃってたため、即答できず言葉に詰まってしまったのだった。

「見て、お、るん、じゃなぁ……!?」

 鬼将軍の怒りが殺意となって溢れ出て、ゾンビ達が蠢く! 先程より大分激しく! チョットキモイな。まるで大量のでかいミミズがのたくってるようだ。あ、ヤスデの大発生とか?

(ギャアアアアアア!? 想像しちゃったじゃん!)

(『ギャアアアアアア!? 私も想像しちゃったじゃないのさ!』)

 あっはっは! すまそーん。

(………………)(『………………』)

 ガンッッ! ピタッ! ……シーン

 持っていた剣を、鞘ごと床に打ち付けたのは、顔に大きな傷のある美丈夫ことフローラの父だった。

(『わぁ、イケメンねぇ』)

(それは否定しない)

 ただ、鬼将軍よりも内に溜めているらしい怒りは、何倍も大きいようであった。

「お義父上。すこしお静かに」

「うぉっ、ぉおう」

 それでいて鬼将軍を窘め、フローラへと視線を移す。

「お父様?」

「やぁフローラ。お義父上からの問い、もう一度聞くね? どうやら悪夢は見ているようだけど、伯爵家のクソガキ共に襲われたのが原因の夢……かい?」

 クソガキ共の辺りでゾンビ共の一部がピクッと動くが、静かにしている。様子をうかがっているようだ。

「いえ、それは……違いますわ」

「……そうか、良かったよ。もしそれが原因なら、手始めにここを血の海にする必要があったからね。痕跡残さず擦り潰すのって骨が折れるんだよ」

「お父様ぁ!?」

 ゾンビ達は震え上がった! フローラも震え上がった! 鬼将軍は「物騒じゃのぉ」と言うばかりで止める気は無さそうだ!

(『流石は鬼と右腕ね……』)

(わしはそんなこと、知りとぉ無かった……!)

 安定のフローラさんだった。

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