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一番上の姉の話

「お話はぁ、終わった? かしらぁ?」

「め、メアラ先生……!?」
(そう言えば勢揃いしてるって言ってたっけ!?)

「……ああ、終わったとも。後は好きにすると良い」

「うふふ、ですってよ? 姉様方? ……せっかくなので姉様方はフローラちゃんと親交を深めておいてはいかが、かしらぁ? ここは私一人でも大丈夫です、しぃ?」

(ひぃ、メアラ先生! 何てことを!?)

「そうだな」「良い機会ですしね」「興味あるわぁ」「(コクリ)」

「………………」「………………」

 興味を示すお姉様方、そして無言でフローラの前に陣取る鬼将軍と右腕。

「心配せずとも荒事にはならぬ。……そうであるな? 双方とも」

 オランジェの掛けた声にうなずきで返す6名。

「まぁ一応私も同席しよう。安心しろフローラ」

「お、お願いします」

「最悪、力づくで黙らせる」

「ほ、程々にお願いします?」

 フローラは何となくそんなことできるのだろうか? と思いつつも、オランジェに頼ることにした。

(『ねえ、気のせいかしら? あの6人の顔色が悪いのって……』)

 いや、気のせいじゃないな。あの6人にとってオランジェ女史は相性が悪いのかね?

(強さだったりしたら怖いなぁ……)


 ………
 ……
 …


「あらあら、久しぶりねぇフローラ」

「お母様!?」

 死屍累々だったあの場所で話し合いはどうかとのことだったので、空いているサロンを追加で借りたのだ。そして借りたばかりのサロンには何故かフローラの母、ステラが居たのだった。

「元気そうねぇ。怪我したって聞いたけど、平気?」

「はい! 皆優しいですし、同室のパルフェ先輩はとても頼りになるんですよ!」

「あらあらまぁまぁ」

 クスクス笑う30に見えない美人さん。天使かな?

(『素敵なお母様ねぇ』)

(ありがと、乙女様)

「あら、皆様どうしたの? 表情が硬いですわよ?」

「来ていたのかステラ」

「あら、オランジェ先輩。お久しぶりですわ。……なるほど? 先輩がこちらにいらっしゃるから皆緊張してるのねぇ」

「え? どういうことですかお母様?」

「え? 知らない? 先輩って……」

「私のことを吹聴して回るのはそのへんにしておけステラ」

「ええ? だって先輩格好良いのに……」

「お前がいつもそう言うから、ゼオルグ殿が嫉妬して私に突っかかってくることになったのだろう?」

「ぱ、パーリントン夫人……その話はその……」

「うふふ、先輩ったら旦那様を一蹴した挙句、躾がなってないとお父様の所に突撃されて……けちょんけちょんにのしちゃったんですよねぇ」

「お、おい、ステラ……父の不名誉をそんな楽しげに言う奴があるか」

「大の大人が、それも男性が女性にのされたなんて話が、ですか? お父様?」

「うぐぅ……」

「えぇぇ……?」

 おお、マジでオランジェ様最強説キタコレ。

(『実際あの女性は強そうよね。少なくともメアラって先生よりは遥かに強いわ』)

(マ・ジ・デ!?)

「クロード夫人。そろそろ私達も話の輪に加えてくれないかな?」

「あらあら、これはザルツナー辺境伯夫人、何時も夫と父がお世話になっております」

(ん? ザルツナー? ザルツナー!?)
「も、もしかしてアーチボルド様のお母君でした、か?」

「そうだ。アレからも君の事は聞いている」

「こここ、これは大変ご無礼を……!」

「良い。別に責を問うつもりはない。バミーは確かに都市の離れた弟で、我が子も同然である。が、男子たるもの、負けっぱなしは良くない。何時かは打ち克つ! それ位でないとな。それに子を成す機能が失われたわけではないのだろう?」

「ははは、はい」

「ならば良い。ということでパーリントン夫人、圧を解け。我等に敵意は無い」

「残念ながら、ここに居る者達は『前科あり』ばかりでな。信用が置けんのだ。許せ」

「……それも仕方なし、か」

 何したんだこの人達。

(ホントだよ。信用できないって言い切られる前科って何さ……!)

 グラジアス家のお姉様方は、長女がザルツナー辺境伯へ嫁いでいるのを筆頭に、次女は伯爵家、3女が侯爵家、4女が子爵家と、全て玉の輿である。てか辺境伯に嫁いだってのもそうだが、侯爵も凄いな。

「不思議そうな顔をしているな? うちがここまで格上との婚姻を結べたのは私がきっかけだ」

「ザルツナー辺境伯夫人が、ですか?」

「うむ。学院に通っている当時に、うちの夫を私が叩きのめしたのだ」

(え、ちょ、は? 辺境伯の嫡男を?)

 すげえ。さすが狂犬一族。

「きっかけはもう忘れた。それにうちの夫は次男坊だったので、継承権は元々無かったのだ。しかし当時のご当主様が大変にお怒りでな? 『例え相手が狂犬一族であろうと、前線に立つ我等が女子に遅れを取った等と許せようか! あの雌犬に勝てぬものは当主の資格なしと思え!』とな」

「うわぁ……」

「酷いものだろう? それ以来分家筋まで含んだザルツナー家の男共が、隙を狙っては決闘を申し込んできてな。まぁ鬱陶しいと言ったらなかった。毎日コレではかなわんと、私は最初に打ち負かした男児、詰まり後の夫に事の次第を問いただしたのだ。で、先程の暴言を聞かされたわけだが……」

(『何だか想像着いちゃったんだけど気の所為かしら?』)

(右に同じく)

 俺も乗っかる。

「腹を立てた私はザルツナー辺境伯家に乗り込んでな? 当時のご当主殿に決闘を申し込んだのだ。『次から次へと湧いて出てきおって鬱陶しい。下らぬ誇りとやらのために私を煩わせる位なら、命令した本人がかかってこい!』とな」

(想像の斜め上!)

(『なんて見事な煽り文句……!』)

 わっはっはっは! 何この女傑! おんもすれー。

「……で、結果は?」

「私が勝った。故に私に対する決闘三昧の日々は終わった……のだが」

「が?」

「今度は求婚三昧の日々が始まったのだ……」

「うわぁ……」

 うわぁ……。

(『うわぁ……。今度こそ想像つくわね』)

「何でも私に負けたご当主殿が『あの様な女傑、放っておくのは勿体無い! あの気性、あの強さ! あの血はうちのように外敵を防ぐ家にこそ必要である! あの女子を嫁にしたものこそ次の当主である!』だ等とのたまったらしい。
 そんな中、一人だけ求婚ではなく決闘を申し込んできたのがいてな。分かるだろう? 今の夫だ。『俺が勝てたらお前を妻にしたい』とな。中々激しい求婚だとは思わないか?」

「凄いですわねぇ。私の時は元々惚れ込んでいた主人が、身を挺して私を守ってくれたので……」

 等と惚気に惚気を乗っける超強心臓なフローラの母ちゃん。旦那が真っ赤だぞ。

「それはそれでロマンがあって良いではないか。まぁ何だ。僅差ではあったが……私は敗れたのだ」

「本気でやって負けたのですか?」

「武門の名家の子息に対し、手を抜くのは失礼だろう? 私は知らなかったが、夫は最初の負け以来、ずっと鍛錬を続けていたらしいからな。そこまで私のことを求めてきた相手を無下には出来まい?」

 こともなげに話しているようだが、長女お姉様の耳は赤い。

「ちなみにバミーがもう少し生まれるのが遅ければ、うちのアーチボルドがグラジアス家を継ぐ予定だった。うちはアレの上にも二人居るからな」

「姉様の所はぁ、アーチボルド君の下にも3人居る上にぃ、まだ増えそうですものねぇ?」

「……そうだな」

 今度は真っ赤になって顔を逸した長女お姉様。ラブラブらしい。

「お姉様は『きっかけは忘れた』なんて仰ってるけど、実際は交際を申し込まれたのよねぇ」

「お、おい、こら!」

 流石にこの話題には、長女お姉様は慌てるらしい。ゆさゆさ3女お姉様を揺さぶって妨害しようとしてる。

「まーあー、こーんなーわーけーでー。って、んもう! お姉様ったら! 照れ隠しに揺さぶるのも大概になさいませ! 話が出来ないですわ! もうお姉様が羞恥に悶えるような話は御座いませんわよ?」

「う、そ、そうか。……それにしても何故お前は何時も私をからかうのだ?」

「第一に面白いからですわ! そして第二にカワイイからですわ!」

 長女お姉様がええ!? って感じで引いてる。すげーな、3女お姉様。

(『本当に仲が良いわねぇ』)

(ほんとほんと。そこは聞いてた通りではあるけれど、それにしても雰囲気がメアラ先生から聞いてた話と違うような?)

「私達は、まぁ経緯はそれぞれ違いますけれど、大姉様の伝手で結婚できたのですわ。何せ皇国内に比肩するもの無しとまで恐れられた鬼将軍及び新鋭の右腕候補、それらを擁するザルツナー辺境伯家ですもの。縁談が次々舞い込んできましたわ」

「選び放題だったわね」「(ボソッ)……いれぐい」

 熱い愛の話から一転、下のお姉様方は好みで選んだというその温度差に、フローラは

「そ、それは良かったですわ、ね……」

 と、乾いた笑いを浮かべるのだった。

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