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妖精の手ほどき

 夜会はその後もつつがなく、というか、空気となったフローラさんに浮いた話はなかった。さすがの絶・喪女さんである。

(え? 何で「・」で分けたし?)

 途中プリン先輩が様子を見に来てくれたり、バモンとメイリアが戻ってきて3人組に戻ったり、二人のもじもじするようすをニヨニヨしながら眺めている位であった。まさに近所のおばちゃんである。

(なんでパルフェ先輩を無理に間違うの? そして誰がおばちゃんか。強く言い返せないからって言いたい放題だな、こんにゃろめが)

 結局の所、初年度生にとって初めての夜会であるため、余り別学年の人物が近づくことはなかったようだ。先輩にしても、様子を見に来てくれただけで長くは会話をしていない。

(また流す……)

 終わり際に侯爵家令息のサイモンが訪ねてきたのには飛び上がったが。

(たしかにビビった……)

 その後向けられた、他学年の下位貴族達からの視線が凄かったが。

(気になるけど今日は駄目、って我慢してるオーラが凄かったね……)

 実際はグレイスの迎えと送り、そして子爵家令息事件の4部作でお送りしたわけですが。

(初めて聞いたなー。随分とちっさい4部作ねー)

 今回の夜会は無事……メアラ先生によるドナドナで幕を引きましたー。

(何で!?)

「ねえ、フローラ、さん?」

「ふぃっ!?」

「夜会を楽しむのは、まぁ、いいわ、よ? でも、ね。まずは殿下達とのお・は・な・し、の後じゃ、ないのかなぁ?」

「はひ」

「……まぁ、良いわ。先程サイモン君にサロンの予約を頼まれたから。お話はこれからね」

「しょ、しょれふか」

「手間ぁ……」

「ひぐっ!?」

「かけさせなぁい、でね?」

「(コクコクコクコク)」

 懲りないなぁ……。

(ここまでのことに発展するとは思ってなかったかなぁ!?)


 ………
 ……
 …


「来たか。二度手間を取らされるとは思わなかったぞ」

「全くです」

「まぁまぁ、二人共。事前に連絡してなかった我々の落ち度というものだよ?」

「だな。まさか初めての夜会で知り合いを作る可能性を失念してたとはな、ハッハッハ!」

「もう、笑い事ではありませんわよ。でも夜会を楽しめたようで何よりですわ(ニッコリ)」

「そうだね。ただ君は何故かトラブルに愛されてるようだから気をつけ給えよ?」

「(コックリ……コックリ……)」

「あ、あははははは」
(皆様方がトラブルの原因とは思われないんでしょうかね……)

 思ってないだろう。

「ジュリエッタ……ジュリエッタ! ……ああ、駄目だ。こうなったらこいつは起きない」

「こらこら、揺さぶるんじゃない。……仕方ない、主役が不在だけど話を始めよう。
 フローラ嬢、ここに居る我々も君の居残りに参加することにしたよ」

「え……あ? はぁっ!?」

「下品だな。慎みを持ち給え」

(ワォ! 眼鏡をクイッとくーる! じゃねえ、)
「どどど、どういうことでしょうか?」

「ふむ……。先程メアラ女史にサロンの貸出をお願いした時『余り拘束しないで下さいね』と言われたのだ。理由を聞いてみれば君、成績が良くないらしいな?」

「はぐむんっ……」

「僕等も暇じゃない。だから日替わりで参加しよう、となったわけだ。有難く思うと良い」

「は、い」
(有難くねえ!?)

 何がフラグを踏み抜くか分かんねえもんなぁ。

(気を引き締めないと……)

 勉強も頑張れよ?

(………………)

 俺に目はないが目をそらしたのは分かる。

(いつも思うけど器用だな!)

「何やら不満げだな?」

「いえ、滅相もございません」

 ふいに現実に引き戻されたフローラは、サイモンの質問に余所行きスマイル装着! で返す。

(装備みたいに言うな)

「ではまず明日の居残りは私が参加させて頂きますわ」

 ほわほわオーラ全開でアメリアが立候補する。

「ふむ、では僕が2番手を請け負うとしよう」

 サイモンが眼鏡をクイッとやりながら宣言する。

「じゃあ3番目は私がお邪魔しようか」

 グレイスが3番目に。

「俺が4日目に顔を出してやろう。光栄に思え」

 俺様君が4人目、と。

「なら僕はその次かな? 宜しくね」

 エリオットは5番手。……でアーチボルドはというと、

「あー、俺は教えるの苦手。女性陣の護衛ってことで」

「アーチボルド……お前という奴は」

「し、しかたねえだろ!? 適材適所ってもんがあんだろ!」

「君は成績は悪くないはずですが、教えるのが苦手だったとは……」

「なんつーか、感覚! 感覚でやってるから分かんねえんだ。こうばしー! とやってずばーん! と決める感じで」

(わぁ、あー君らしいわぁ)
「えっと、それじゃあ……決まったみたいなので、私はこれで……」

「最後は……私」

 覚醒したらしい公爵家令嬢の言葉にフローラは身震いする。本来役割分担した4人以上でのみ使えるはずの、光の大規模魔法を一人で使いこなしてみせた人物。

「ジュリエッタ……様」

「光、魔法を、使いこなして、貰わなきゃ」

 フンスと胸を張るお人形さんの可愛らしさにフローラさんが気持ち悪い笑顔を……

(お前ほんと失礼だな!)

 もとい、この世界の主役のはずの綺麗なフローレンシアの顔を残念に歪めた中身は……

(ごめんなさい、すみません、私が悪かったです。それについては何の申開きもできません)

 自覚がないってやーねー。

(ぬぎぐ……)

「6日間……よろしく、ね」


 ………
 ……
 …


 そして次の日の居残り。

(色々すっ飛ばしたわね)

 夜会が終わって、中々帰ってこないお前を心配した先輩の話とかか?
 それとも朝、なんか妙なテンションになってるミランダ嬢の懐かれ度合いが、ちょっと周りをドン引きにするほどだったとか?
 特に何でもなかった友達3人ほっこり話とかか?

(一纏めにしちゃったよ……そうですねーそんなことがありましたー)

 現実逃避に過去を振り返ろうとするのは良くないな。

(違いますー、平和な日常を無碍に扱われた事に対する不満ですー)

 だって面白くないもん。

(ちょ、ぶっちゃけやがったなコンチキショーが!)

「どうなさったの?」

「あひぇ!? あいや、何でもゴザイマセンのことよ、アメリア様」

「そぅお?」

「アメリア嬢、その生徒にはもっと強めの言葉でないと響きませんのよ」

「あら、メアラ様! それでも改善されてないので、このように毎日居残りされてるんではなくて?」

(ぐっさぁ! 言葉が槍となって降り注ぐ!?)

 悪意と悪意無しと、どっちも凶悪だったな。ただの事実なのに。

「ですので今日は私が代わりに一日お相手させて頂きますわ」

 ぽん、と両手を可愛らしく合わせるアメリアに、メアラ先生も毒気を抜かれたようだ。一人残念な顔したのがいるのは気の所為にしたい。

(ごめんなさい!?)

 そしてダンスの授業が始まったのだったのだが……。

「フローラ、さん?」

「はひぃ!」

 壊滅的な足運びに、特別に作られた男性型ゴーレムの足元が崩れている。

「先程から、そうでは、ないと……何でしょうかアメリア嬢?」

 横から手を上げてアピールするアメリア嬢。カワユス。

「ここは私におまかせを。フローさん、ここはこうしてこう、多分ここに妙な力がかかってるんですわ」

「こうして、こ……おお! 凄いです! 上手く行きました!?」

「ではもう一度一人で……はいっ」

「とん、とん……たたっ……ど、どうで、しょう?」

「……驚いた。私の苦労は何だったんでしょう、ねぇ? フローラ、さん?」

「うひぃっ!」

「メアラ先生、メアラ先生。フローラさんみたいな方には締め付けるよりのびのびと、そして例を上げてやってみせた方が上手く行くのですわ。」

「……アメリア嬢は何故そう思われたのですか?」

「お恥ずかしながら、私がそうだったのです」

 頬に両手を当てながら首を小さく振るアメリア嬢。天使かな?

(うへへ、やんやん言ってる妖精がおる……)

 こっちは変態かな……。……あ、聞いてねえ、悪口が届いてねえや。

「私はとても物覚えが悪く、いくら一流の教師方から教えを請うても、成績は上がりませんでした。ですので沢山の教師方をとっかえひっかえ……。しかし一向に改善する気配がなく。
 そんな折、ご本人の成績や実績こそは大したものがないが、評判の良い先生の噂がありまして。両親は是非にと、うちへ招聘したのです」

「なるほど、その先生の教え方が」

「はい。強いるのではなく、教え諭す。理論より実例。それが私の伸びた理由ですわ」

「……ためになりました。実は少しばかり自信を無くしてましてね」

(ううっそ、だ……ぁぃやぁぁぁ……!)

 フローラがメアラの発言を心の中で否定した瞬間、全てはお前のせいだろオーラがどこぞの戦艦から発射されるビームのように襲ってきた。心の中で悲鳴を上げたに留めた喪女さんにおいては、今回に限っては褒めてもいいと思う。

(棘のある褒め方ってどうなのかしら……)

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