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それはゲームか、それとも殺伐とした未来か

「私は……ガーゴイルになりたい」

 何いきなり名作の題名をこっちの世界風にパクってんだ。あの心揺さぶる悲哀のかけらもお前さんにゃねーよ。
 やあ! 僕ノーコン! 情報思念体さ! 我らが主人公、フローレンシア・クロード男爵令嬢ことフローラさんは、曰く、フローラに寄生してる情報思念体なのが、ナレーション担当の俺。んでいつものようにフローラに突っ込んでいると、本来は敵であるところの魔王さんが、俺と同じく情報思念体となって寄生しているモモンガのフサフサの毛をふりふりさせながら聞いてくる。

(『名作ってなぁに? ……ふむふむ。あんたんところ、そんな物語があるのねぇ。恥を知りなさいな』)

(てめえら容赦ねぇなぁ! そしてその短時間でどうやって教え込んだの!?)

 情報思念体舐めんな。情報交換なんて一瞬よ一瞬。

(『涙無しには読めなかったわ。……情報だから読む、って表現はおかしいけど』)

(あんた私の世界の人じゃないって言ったよね!? 理解できないんじゃないの!?)

 バックグラウンド込みで伝えたに決まってるだろう? 馬鹿だなぁ喪女さんは。

(何処かの猫型ロボットを送り込んだご先祖様みたいな言い方しないで!?)

 先程話にも出てたが、この魔王さん、実は代理みたいなものである。何でも死にかけてる器である所の魔王さんの中身は、むしろ魔族を浄化していた勇者だったらしい。長年の浄化行脚による反動で、浄化した分の魔力を取り込んでしまい、人間を辞めたらしい。俺は人間を辞めたぞとは言ってない。相手もいないしな。細かいことは省くが、そのまま器である魔王の体を放っておけず、なんとかしてくれそうな人を探したら、由緒正しき乙女な中身を連れてくることが出来た。これが今の魔王さん。

 ついでに我らが主人公の話もしておこう。

(『主人公なのについでなのね』)

 元々は乙女ゲーム『花咲く乙女達の協奏曲』というゲームにハマっていた、美作可憐32歳のモテない女子であったが、何の因果かゲームの主役に転生、大事なことなのでもう一度言うが、主役に転生してしまったのだ。悪役令嬢ではない! はいここもポイント!
 このゲーム、攻略対象との関係が良くなる毎に、元々その相手を好きだった令嬢からの嫉妬からくる妨害の致死率が跳ね上がるという、若干猟奇じみた作品だった。協奏曲:シンフォニーより狂想曲:ラプソディーの方が似合ってる! と、公式愛称『花乙』を差し置いて『花ラプ』が定着している。本来ラプソディーは狂想曲を指さないのは、まぁこの際どうでも良い。
 ゲームは下級貧乏貴族なのになぜか名門校に入学してしまった主役が、入学後に光魔法に目覚めて高位名門貴族達の目に留まる事から始まる、割と普通のスタートである。ちなみに、入学できた理由は親族がそれもうものっそい頑張っちゃったからである。これもまた普通だ。
 で、我らが主人公は「死ぬのは嫌だから目立たないように生きよう」という、この手の話で絶対出来ない、無駄な目標を掲げる。実際、少し前に全ての主要メンバーに光魔法の持ち主だとバレて、ゲーム開始のフラグは全て回収済みである。

 にしても俺も傲岸不遜の権化な喪女さんが、まさか絶望のボルテージが振り切れて気を失うとは思ってなかった。……ちなみに気絶した時に括約筋が頑張ったのか乙女の埃は守られたぞ!

(何その権化!? そして字が違う!?)

(『騒々しいわねぇ……』)

 一番そう思ってるのは先輩だろうよ?

(あ゛……)

 一人無言で百面相しながら、もふもふと繰り広げられてるであろう見えないバトル。そんなものを見る、いや見させられる同居人の胸中やいかに!?

(もっと早く言って!?)
「あ、先輩……お、おはよーございます?」

「ああ、うん。……おはよっす。……えっと、誰か呼んだ方が良いっすか?」

「辞めて下さい!? 先輩! 何処も悪くもおかしくも、ましてや狂ってませんから!?」

「ああ、うん。……大丈夫、そう、大丈夫なんっす……よね? 信じて良いんすよね?」

「先輩……お願いします見捨てないでください呆れないで下さい嫌わないで下さい」

「あわわわわ!? だだだ、大丈夫っす! 先輩なんっすから見捨てたりしないっす! 心配なだけっすよ!」

「先輩……(ぎゅう)」

「ふぇ!? ……んもー、なんすかなんすか。甘えん坊っすねー」

「えへへ……(ぎゅう)」

「よしよし(ぎゅう)」

 変態変態、ぉぇぃ。

(『喪女喪女、残念!』)

(あ・ん・た・ら・ぁ……!)

「ぐぇ……ちょちょっときついっす、フローラちゃん……」

「あ! ごめんなさい!」

 いぇーい!

(『いぇーい』)

(思念体共のハイタッチが見える気がする……ムッカツク)


 ………
 ……
 …


「おは……よう」「やぁ、おはよう」「おはようございます」

「おおお、は、よう……ございます」

 学院に登校したら登校したらで早速の厄介事だ。フローラの登校を待っていたのか、門を入ってすぐの場所で現実離れした人形の様なジュリエッタ公爵家令嬢が、男装の麗人のような風貌のグレイス侯爵家令嬢、そして愛らしい花を体現したかのようなアメリア伯爵家令嬢と共にお茶を嗜んでいた。さすが上位貴族、自由に振る舞ってんな。ちなみに魔王さんは置いてきた。

(高位貴族だからって自由過ぎでしょうよ……)

 風呂オラさん、ドン引きである。なお、これは誤字ではない。フ・ロ・オ・ラ、よ! って念を押されたのでちゃんと変換しました。テヘペロ。
 そしてここは生徒達は遠巻きに避けていっている。理由はまぁ後ほど。

(後回しにするほどの理由もないわ。彼女たちは家格毎に分けられた貴族達の中で統括する立場にある、いわば同格にして別格の主家みたいな扱いよ。アメリア様が一番家格が下の伯爵家ではあるけど、へたな侯爵よりは立場が上だったりするから恐れられてるわね……)

 おまけに別格貴族達の結束は強く、下手に突けば皇家まで出張ってくる始末だしな。

「倒れたって聞いたけど、大丈夫なのかい?」

「え、ええ、まぁ、あ……はは」

「本当は部屋までお見舞いに行きたかったのですけれど、ご迷惑になるからと止められまして」

(止めた人グッジョブ!)

「ははっ、彼はああ見えて一番の常識人だからなぁ。我らの良識といえるのかな?」

「あーちぃ、いい子」

(あーちぃ? アーチボルド辺境伯子息!? あー君ありがとう!)

『あー君』とは花ラプにおける攻略対象者で、熱血かつ爽やか男子である。彼が陥ちた後、初恋を自覚した幼馴染のような初々しさからつけられたあだ名である。あー君を陥とそうとすると、アメリアが狂気に落ちるのだが、そのあまりの落差はマジモンのホラーだったらしい。……にしてもジュリエッタがアーチィ呼びとは。割と仲良しか?

「フローレンシア……様にも、お注ぎ致しましょうか?」

「ひぃいあ!? ……あ、いえ、結構……です?」

「そうですか」

 全く気配のない状態から急に現れたメイドことシンシア。ここには居ない公爵家令息エリオットに仕えているメイド。エリオットを陥とそうとすると牙を向く暗殺者……っぽい人。

「君達、彼女を待つからと言ってこんな所で茶会を開くのはどうかと思うぞ?」

「やぁサイモン。君の好きなチーズケーキも用意してあるのだが、一緒にどうだい?」

「……!」

 次に現れたのは侯爵家令息サイモン。飛び抜けてクールなキャラ……なのだが、若干中身はお子様でドジっ子である。素が出ると幼児化して「〜だもん」という言葉をよく使うようになるのであだ名は『もんもん』。
 そして今、好物のケーキと衆人の目を天秤にかけてぷるぷるしているぞ!

(萌える!!)

「……い、いや! 殿下を待たせているので、ね。また今度誘ってくれたまえ」

「そうか、残念だ。学院が終わったら宰相の執務室に届けさせるよ。手伝っているんだろう?」

「ああ! それは……! う゛っうん。ああ、そちらに届けてくれると嬉しい。父も喜ぶだろう」

 大人ぶってるのはバレてるんだろうなぁ。慈母の眼差しよ? これがサイモンを陥とそうとすると、とにかく決闘を申し込んできちゃうグレイス様だとはねぇ。

(全部受けて勝つと変なフラグも立つのよね。鉄より硬い女の友情、とか。無いわー)

 ちなみに殿下とは第二皇子の俺様君ことディレク殿下で、陥ちたあとはデレッデレになるためあだ名は『デレク』。
 このデレクを陥とそうとすると対立するのが、ここに居るのに余り喋ってないジュリエッタである。ただ、よくある悪役令嬢のように、ジュリエッタ本人が何かした描写は殆ど無い。そのためか周りが全て勝手に動いてるんじゃ? といわれている。

 以上が主要メンバーの説明であった。

(強引過ぎない?)

 ちょうど良かっただけだ。

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