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第82話 愚かな絶対的強者、ヒロインアリス

(ミストリア王国を救う聖女として覚醒した彼女を、宰相が市井で見つけたと触れ込みだったはず。今の言い回しでは、ちょっと違うような……)

 気がついたときという経緯では、ローゼマリアと一緒ではないかと思えてしまう。

「やはり……アリス、あなたも……」

「私が微笑むと、男たちはメロメロになっちゃうのよね。ふふっ……」

 この期に及んで、また笑っていられるアリスに、ローゼマリアは恐怖を覚えた。

「それなのにジャファルさまは言いなりにならなし、なんかおかしいのよねえ」

(どこまでいっても彼女に話は通じない。自分が絶対的強者であることを疑っていない。なんと愚かな……)

 アリスがヘラヘラ笑いながら、ローゼマリアに向かってこう言い放った。

「ねえ。ローゼマリア。あんた、早く死んでよ。そうしたらすべてはシナリオどおりにいくような気がするの」

「アリス……あなた……」

 ラムジが再び現われ、ジャファルにこう報告した。

「ジャファルさま。城壁門にミストリア王国貴族のご子息が大挙として押し寄せているそうです。中に入れろと喚いているそうですが、追い払いますか?」

「いいや。ここに招き入れろ」

「いいのですか?」

「ああ。構わん」

 アリスが両手を合わせて、飛び跳ねんばかりに喜んだ。

「きゃーっ! やっときたのね! ほんと、あいつら遅いんだから!」

 はしゃぐアリスを尻目に、ローゼマリアはジャファルに目線だけで問いかける。

(フォーチュンナイトを宮殿に入れて大丈夫なの? ジャファルさまは、なにを考えていらっしゃるの?)

 ジャファルが心配するなという視線を返してきたので、ローゼマリアははなにも言わなかった。

 数十分後、ドカドカと十人のフォーチュンナイトが貴賓室に入ってきた。
 途端に、広々とした貴賓室が狭くなってしまう。
 彼の姿を目にしたとたん、アリスがキャンキャンとわめき立てる。

「遅かったじゃないの! さあっ、ローゼマリアを殺しなさい! 功労者には報償を取らせるわよ!」

 フォーチュンナイトの先頭に立つユージンが、剣を抜いて一歩前に出た。

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