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第75話 ローゼマリアの決意

 ジャファルが震えるローゼマリアの肩をしっかりと抱きかかえると、頼りがいのある逞しい胸に取り込んでくる。

「次期王妃……? アリスという黒髪の女か?」

 ジャファルの問いに、女性が深く頭を下げた。

「はい。そのように名乗っておられました。そしてご一緒に、ミストリア王国の宰相もこられています」

「ほう? 女狐を背後で操っている古狸も動いたか? それでなにを喚いているというのだ」

 ジャファルが問うと、臣下たちがおずおずとローゼマリアに視線を向ける。

「ミストリア王国内にて指名手配となっているローゼマリアという女性を引き渡せと要求しております。いないと返答しましても、そんなはずはないと居座りまして……むげにもできず困惑しております」

 ローゼマリアの視界がグラつき、後ろに倒れ込みそうになる。
 ジャファルの腕に力が籠もり、華奢な身体をすぐに受け止めてくれた。
 だが、ともすれば床に膝をつきそうになってしまうほど、目の前がグルグルと回ってしまう。
 やはりシーラーン王国に逃げ延びても、運命は追いかけてきたのだ。

「わたくしを……渡せと……」

 これまで、なんども殺そうと狙ってきたのだ。
 もし彼らに捕まったら、次こそは命を奪われるだろう。

「ローゼマリア。部屋を用意させるから、あなたはそこにいなさい。奴らは私が対応しよう」

「……え」

「どうした?」

 か細いローゼマリアの声を拾おうとしたのか、ジャファルが顔を覗き込んでくる。

「……いいえ。わたくし、行きますわ」

 ローゼマリアは心配げな彼に、はっきりとそう言い切った。

「なにを言っている! 奴らはあなたを害するつもりだぞ?」

「わかっております。どれだけ逃げても、アリスたちはわたくしを追い詰めてくるでしょう。それも執拗なまでに」

 なぜならアリスは、自分の絶対的優位を疑っていないから。
 すべてが思うがままことは進み、誰もが彼女に従い、世界が彼女を守る。
 唯一、意のままにならないのが、ローゼマリアなのだ。

 逃げれば逃げるほど追いかけてくる。排除をするために、地獄の底まで捕まえにくるだろう。
 ローゼマリアは、いつかどこかでアリスと対峙しなければならないのだ。

 であれば、ジャファルがそばにいてくれる、今がいい。

「会います。そして……アリスたちに、はっきりと言ってやりますわ」

「なにを?」

 ローゼマリアは一呼吸置くと、決意を込めた目をジャファルに向けた。

「わたくしの運命はわたくしのもの。ヒロインだろうが主役だろうが、この世界の絶対的覇者だろうが、とことん刃向かってやりますわ」

「ローゼマリア……」

 ジャファルが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口角を上げて面白そうに笑った。
 ローゼマリアはこぶしをぎゅっと握り、もう一度決意を込めて心の中で誓う。
 そう。とことん抗ってみせる。もう駄目だと思えるその瞬間まで足掻いてみせる。

 ローゼマリアの、悪役令嬢という運命から――


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