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事前準備

「………………力を示す必要はなかったようですね」
「はい。本能的な部分とでも言えばいいのでしょうか? どうやら分を弁えた存在のようです。やはりあんなのでも世界の危機とまで言われた存在ということでしょう。もう一人は根はそれなりに善良なようで、もう片方が大人しいのであれば、暴れることはないでしょう」
「………………そうでしたか。苦労を掛けました」
「いえ。れい様のお役に立つことのみが私の存在意義。今後も如何様なことでもお命じください」
 そう言うエイビスに、れいは魔木経由で効能を弱らせた褒賞用の果実を一つ渡す。食べるとただ元気になるだけの実なので、気楽に渡せて丁度いい。
 それを恭しく受け取ったエイビスは、れいの許を辞した。
「………………今回の増強により、新大陸はもう少し魔物を強くしてもいいかもしれませんね。ただでさえ他の大陸の住民にとっては、今配置している魔物はそれほど強い魔物でもないようですし」
 今回勇者と魔王を漂着させる前に、れいは新たな大陸を創造していた。その新たな場所に保管していた人を先に入れ、別の大陸からも助言出来そうな者を少し移住させておいた。
 建物も大分在庫が増えたので、それを惜しげもなく使用して配置する。勿論、発展の余地を残しておくのも忘れない。
 そうして環境を整え、先に入れた人達がすっかり環境に馴染んで町づくりを始め、それから少し経ったところで、れいは勇者と魔王をその大陸に投入したのだった。
 それから少し時が経つと、勇者も魔王もすっかり現地に馴染んだようで、今では二人で組んで魔物を狩ったり、近くに配置している地下迷宮の攻略に乗り出したりと活躍していた。
 二人の強さは、他の大陸から移した者達よりも少し強いぐらいか。少し前まで別の世界に居たことを考えれば、移住させたのが文官タイプばかりとはいえ、二人の実力はかなり高いということになるのだろう。
 町の方も予定していた工事が終わり、一応の完成をみたようだ。町の運営は安定しているようなので、きっとこれからも発展するのだろう。また流れ着いた人を幾らか送ってもいい。
 他の大陸も安定している。発展も今のところ想定通りで問題無い。ただ、しょうがないとはいえ、少々特殊な力に頼り過ぎな部分が目立つようだ。それを発展の方向性が定まったとみるべきか、それとも発展の選択肢が減ったと考えるべきかは人によるところだろう。
 もっとも、れいとしては気にしないが。突然世界から特殊な力が消えるという事態は、れいがそうしない限りはありえないのだから。ただ、特殊な力に干渉して妨害する方法を考えて形にする者はいずれ出てくるのであろう。考えるだけなら既に何人も存在しているのだし。
 ある程度方向性が決まろうと、選択の幅が狭まろうとも、それでもこれから色々と起きるのだろうから、ここからどう転んでいくのか、れいはそれを楽しみにしながら、今日もまたしっかりと世界を管理するのだった。

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