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激闘……。

「俺に勝とうなんて、百年早いですよ」


 虎鉄は、不敵な笑みを浮かべる。


「うるせえ……! まだまだ、戦いはこれからだぜ!」


 雪之丞は、勝負を諦める気など毛頭ない。


「あはははは! くらえーっ!」


 虎鉄がパンチを繰り出す。雪之丞は、それを素早く交わしながら壁を蹴り、小高い障害物の上にある、丸みのある物体の上に乗る。そこは、上部があたたかく、妙に落ち着く場所だった。


「くそう……! ここは俺の縄張りだ! 貴様には渡さん!」


 雪之丞は、悔しそうに叫ぶ。


「そこも、俺の場所です!」


 虎鉄も、叫んだ。そのときだった――。


「こらあっ! あんたたち! なに炊飯器の上に乗ってるの!」


「ニャー!」


 猫だった。

 虎鉄が、トラ猫、雪之丞が、白猫。


「まったくもう! あんたたちは、いたずらばっかりして!」


「ニャー」


 雪之丞があっさりと抱きかかえられ、戦いに幕が降ろされた。





「勝負は、おあずけです」


「あの場所は、俺のものだからな!」


 二匹は並んでご飯を食べる。今日はご主人のご機嫌がよいらしく、カリカリの上に美味しいトッピングがされていた。


「虎鉄―! 雪之丞―! ご飯美味しかったー?」


「美味しかったー!」


 二匹は声を揃えて返事をした。

 外は晩秋の夕暮れ。黄金色の木の葉がそっと舞い降りた。


「夜は長いですからね」


「とりあえず、寝るか」


 空腹も満たされ、二匹は丸くなった。

 そしてまた深夜、二匹の熾烈な戦いの幕が上がる――。

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