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26.わからない単語ばかりで、ちょっと不安…

「次は上の階。Eコマースチームと営業チーム」

 逢坂について、階段を昇っていく。
 29階と30階と聞いていたが、社内に階段があり、どうやら繋がっているようだ。
 それにしても階段ですら吹き抜けタイプで、とても洗練されており気後れしてしまう。

 天井には豪華なシャンデリアがぶら下がり、窓枠には小さな観葉植物。
 それに壁にはお色気たっぷりの女性が、あられもない下着姿でポーズをとっているポートフォリオがいくつも飾られている。
 その迫力に唖然としていると、逢坂が階段の踊り場で立ち止まった。

「どうした」

「あ、いえ……セクシーすぎる写真なので、ちょっと恥ずかしくて……」

「それくらいで恥ずかしい? 普段どんなインナーを着用しているんだ」

「どんなって……普通の……」

 ちひろは正直に、リボンとレースしかないヘソ下までのパンツと言いかけてしまう。
 はっと気がついて、慌てて逢坂に言い返した。

「なぜ穿いている下着を答えないといけないんですか」

「別に答えを要求してない。疑問に思っただけだ。次に行こう」

 彼は表情も変えずにそう言うと、何食わぬ態度で階段を昇っていってしまった。

(やだ……恥ずかしい……過剰反応した私がバカみたい……)

 子どもっぽい言動をしてしまったことを自省し、うなだれたまま彼のあとをついていく。

 30階もこぎれいな室内だ。
 29階と似たような机の配置だが、真ん中にパーティションが置かれている。

「おはようございます。逢坂社長」

「ああ、おはよう」

 次々と軽快な挨拶が飛んでくる。
 各自仕事を始めているようで、電話をかけたりパソコンを叩いたり、みな忙しそうにしていた。

「ここはEコマースチームのエリア。うちは複数のモールに出店してネット販売をしている」

 29階はバリキャリ系ファッションの女性たちばかりだが、ここはモード系ファッションの女性が多かった。
 どちらにしても、オシャレなことに変わりはない。

「Eコマース……初めて聞く単語です。意味はなんでしょうか?」

 そう質問すると、逢坂のが驚いた表情でちひろを見返してきた。

「君はネット通販をしたことがないのか」

「あります。大好きです。ポイント還元キャンペーンとか送料無料とか。お得なときを見計らって、月に3回くらい購入します」

 そう返すと、逢坂は呆れたように肩を竦めた。

「……Eコマースとは電子商取引のこと。ネット通販やネットでのオークションもそれに含まれる」

「そうなんですね」

 のんきにそう返すちひろに、逢坂は人差し指で顎の無精ヒゲを掻きながら、ふうと嘆息する。

「君は覚えることが多そうだな」

 初めてのことばかりで、ちひろは逢坂の漏らす言葉を深く捉えなかった。

 逢坂がパーティションの向こう側へと向かった。

「ここは営業チームだ」

 彼の指さす方向には、誰もいなかった。

「直行直帰が多いから、席にいないことが多いな。営業は全員が男だ」

 確か八割が女性ということだった。
 ということは、残り二割の男性が営業チームということになる。

「顔を合わせることがあれば挨拶しておいてくれ」

「はい。わかりました」

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