VS先輩
授業を終えた、放課後。
俺は1人、校庭を歩いていた。
悪魔女リコリスはというと、ハンスを追いかけ、どこかに走っていった。折れも追いかけるべきだったのだろうが、めんどくさくなった。まぁ、問題が起こらないことを祈ろう。
教室でリコリスを待つのものありだった。だが、クラスのやつはおろか、他のクラスの生徒までもが俺を見てくるので、いてもたってもいられなくなり、人が少ない校庭を歩いている。
今日は特にすることもないし、寮にでも帰ろうか。
そう思いながら、赤レンガの道を進んでいると、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい。そこにいるのは、学園一の落ちこぼれのネルくんかーい」
振り向くといたのは、ハンスと同じく俺をずっとバカにしてきた先輩たち。
最悪だ………嫌な予感しかしない。
「お前、帰る場所、間違えたか? 送ってやろうか?」
「間違えてないです。俺は、ここの生徒です」
そう答えると、先輩たちは、腹を抱え大笑い。
どうもウソだと思われているようだ。
「落ちこぼれで1回強制退学を食らったお前が、ここの生徒? ハハハ、冗談はよせよ」
「俺は、
「Lv.12だったお前が、Lv.9000になったという噂もあるらしいが、どうせウソだろ? 編入だってウソなんだろう? 優秀な妹に負けているからって、変な見栄をはんなよ」
そう言いながら、先輩たちは、俺に詰め寄ってくる。
目は逸らさない。逸らせば、また1年前のような生活に戻ってしまう気がした。
「よせ」
すると、一番後ろにいた茶髪男が、こちらへ近づいてくる。その人を知っていた。
「お前、なんか変わったな」
「………マナト先輩、お久ぶりです」
マナト先輩。
彼は、1年前の俺が「落ちこぼれ」であることを学園に広めた張本人。
「この学園にお前みたいな落ちこぼれなど、いらない」と何度も何度も言われた。
「俺は、コイツらの言う通り、落ちこぼれだったお前が編入試験に受かったとは思えないんだ」
「でも、僕は確かに編入試験を受けました」
その試験中、学園長を殺しかけたが。
嫌な笑みを浮かべるマナト先輩は、俺の返答に、「ほぉ」と声を漏らす。
「………それだけ言うんだ。じゃあ、お前の実力を見せてもらおうじゃないか。ワンオンワンで、俺と勝負しよう」
俺としては、平穏な学園生活を送りたいのだが………。
でも、ここで勝っていたら、勝負かけてくる人間はいなくなるんじゃないか?
マナト先輩は、3年生の中でも上位。
そんな人に勝った俺は、いじめられることもバカにされることもなく、穏やかな学園生活を送れるのではないか?
Lv.9000の能力を最大限に生かして、「制御できないから、勝負をかけないでください」アピールをしておくのも悪くない。
「分かりました。その勝負、受けてたちましょう」
そして、校庭は狭いため、第2運動場に移動した。ここは、第1運動場よりも広く、職員室から離れている。勝負するには絶好の場所である。因みに第1運動場は、学園長と勝負をした所だ。
向かいには、杖を持つマナト先輩。そして、運動場の周りには、勝負のことを聞きつけた生徒たちが集まっていた。
「ルールは単純。相手の動きを封じた方が勝ちだ。方法はどんなものでもOK。相手を気絶させても、腕を切ってもいい。あ、でも、殺しはなしな。サーニャの回復魔法ではどうにもならないからな」
マナト先輩は、親指を指す。その先には、1人の女子が手を振っていた。
「分かりました。俺、制御できないので、死んでも自己責任で………よろしくです」
俺たちの中間当たり立つ先輩たちの1人が、手を上げる。そして、掛け声とともに振り下ろした。
「ファイツっ!」
「クランスカテーナ!」
開始の合図とともに唱えると、自分の地面から太い蔓が生えてきた。杖を振り、その蔓を先輩に向かって伸ばしていく。
「草? ハッ、お前はバカなのか? 1年前のお前はペーパーでパスしてきていたらしいのに、草を使うとは! お望み通り炎でやってやるよ! ブレイズフォレスタ!」
マナト先輩は、炎の魔法を唱え、地面を火の海にする。しかし、蔓は
「なんだと!?」
伸びに伸びた
困惑気味の先輩は炎を使い、蔓を燃やそうとするが、無駄。蔓は弱まることなく、先輩を縛り、空高く上げていく。
魔法で外すことと予測し、蔓には、事前にバリアを張っていた。
蔓を外せない先輩は、必死にもがいている。
………なんだろう。この景色、なんか気持ちいいんだけど。
思わずニヤリとしてしまう俺は、宙に浮いている先輩に声を掛ける。
「先輩、どうですかぁ? 蔓に巻かれる気分はどうですかぁ?」
「っつ! お、お前!」
苦しみながらも、睨んでくるマナト先輩。なんか最高な気分!
動きを封じ込めたし、これで勝ったも同然だな!
と、マナト先輩に背を向けた時、
「お、おい! 何すんだよっ! ふぁぁん!」
という情けない声が聞こえてきた。
マナト先輩が妙に騒いでいるな。演技か?
振り返ると、捕えている蔓がくねくねと奇妙な動きをしていた。
別に意識して動かしているわけではない。勝手に動いている。
やがてその蔓は、先輩の服をビリビリとはがし始めた。
自分の魔法だから言うのもなんだけどさ………変態な蔓だな。
俺は、勝手な動きをする蔓を操ろうと、杖を振る。しかし、蔓の動きは止まることなく、先輩の服をどんどんとっていき、遂にパンツまでも取りあがった。
「キャアァァ————!」
マナト先輩の裸を目にし、運動場に響く女子たちの奇声。
ああ………制御はやっぱりうまくいかないか。
「てめぇ! マナトに何してんだっ!」
さすがに怒ったのか、他の4人も、こちらに向かって走ってくる。
めんどくさいし、マナト先輩と同じ目に合ってもらおう。
俺は、4人に杖先を向け、同じ呪文を唱える。
「クランスカテーナ! クランスカテーナ! クランスカテーナ! クランスカテーナ!」
蔓はその4人を捕まえるなり、服を破き始めた。
パニック状態の4人は、3年上位の人間と思えないぐらい叫ぶ。
「あそこに好きな子がいるんだ! こんな姿は見られたくねぇんだっ!」
「俺の青春、オワタ………」
「か、母ちゃん! 母ちゃん! 助けてくれっ! 蔓に襲われてる!」
「お前をバカにして悪かった! 服を返してくれ!」
そう言われても、どうしようもないんだが。正直言って、自業自得。
勝負をする前に、忠告したんだ。制御はできないって。
俺は悪くない。絶対に悪くないぞ。
空を見上げると、蔓によって浮く先輩たち。
「………プグっ」
「ネル! 笑うなっ!」
笑いこらえろというのも無理な話だ。
先輩たちみんな、蔓に服を脱がされ、全裸になっていた。
「お前の魔法、
マナト先輩は、柄にもなく、裸姿でそう叫んでいた。
★★★★★★★★
先輩たちが「ギブ! ギブだから! 許して!」と叫ぶので、仕方なく魔法を解除してやった。
まぁ、先輩たちが素っ裸であるのには変わりないが。
マナト先輩たちは、大事なところを手で隠し、立っていた。
「なぁ、服を直してくれよ。お前ぐらいの術者なら、そのくらいなんともないだろ?」
「いいですよ」
弱りに弱った先輩に大満足した俺は、服を元通りにする。
「ナットインディア―トロ!」
バラバラになった服が集まり、光輝く。
光が収まると、そこには、そこには………………。
「あれー?」
「………『あれー?』じゃねーわ! 誰がこんな服を変えろって言ったぁ!」
地面に合ったのは、元通りになった服、ではなく、その元の服によって作り直された服だった。
その服は、なんと言うか………………非常にダサい服だった。
黒と赤ワインを基調とした制服だったものは、赤と緑の色の布に変わり、非常に露出の多い服となっていた。
裸で動くこともできないので、仕方なくその服を着る先輩。
「先輩、その服お似合いだと思いますよ………プグっ」
「笑うなっ! この服、お前のせいんだんぞ! 次見てろよ! お前も同じ格好、いやもっとダサい格好にしてやる!」
「次の勝負待ってますよ」
その時はもう1回、変態蔓を出してやるよ、先輩。
★★★★★★★★
ネルたちの勝負を見ていたギャラリーの中、1人の少女がいた。彼女は、他の生徒よりも身長は低く、また髪型がツインテールであるせいか、幼稚な姿に見える。
彼女は1人、誰も聞こえないような小さな声で呟いた。
「へぇ………アイツ、結構持ってそうだな」
彼女の手には、銃型の魔道具があった。