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小等部のいじめっ子

 マナト先輩たちとの勝負をした、次の日の休み時間。
 俺は席につき、ある1枚の紙と向き合っていた。
 2学期もコレがあるのか………。

 「その紙、なんなの?」

 気になったのか、隣の席に座るリコリスは、首を伸ばしてくる。
 
 「これか? これはな、グループワークでのチーム分けの紙だ」
 「グループワーク? 何それ?」
 「チームでダンジョンに()ったり、チーム戦を行ったりするんだ。当然その結果が成績に反映される」
 
 1学期にもあったが、俺は完全に足手まといだった。ダンジョンに行って、他のチームメイトが弱らせた魔物を倒すことをしても俺のレベルは上がらず、チームメイトたちからお荷物扱いされた覚えがある。嫌な思い出だ。
 
 「ダンジョンがこっちにもあるのね。ねぇ、その紙に名前を書けばいいんでしょ? ちょっとその紙を貸して」
 「嫌だよ! どうせお前、他のチームメイトをおもちゃ扱いするんだろ? そんなやつとチームを組むのは頑固として拒否だ」

 「でも、私、優秀よ? こっちの話で聞けば、Lv.44の高校生はまぁまぁ強い方らしいじゃない。ネルは火力があるだけで、制御はポンコツ。優秀高校生の私がめんどうを見て上げるって言うんだから、その紙を貸しなさいよ」

 「どうせ年はかなりいってんだろ? 悪魔ババアなんだろ? 頑張って高校生ぶるなよ」
 「誰がババアですって!?」

 「私にも貸してくれYO!」
 「「あ!」」

 前の席に座っていたラクリアは、俺の手にあった紙をひょいっと取り上げる。
 俺が紙を取り上げる前に、ラクリアは、素早く名前を書き、紙を返してきた。
 紙を見ると、先に書いていた「ネル・V・モナー」の下に、綺麗な文字のラクリアのフルネームがあった。

 この変人とチーム………。
 修正ペンを書き直す、魔法が掛けられたこの紙にはできない。1度書けば、消えない魔法が事前に掛けられていた。

 もちろん、新しい紙を貰うことはできるが、「いじめているのではないか」「仲が悪いのか」など、先生に根掘り葉掘り尋ねられる。それはそれで非常に面倒。

 つまり、俺はチェケラ女とチームを組むことが決定。最悪だ。
 
 「お前! 勝手なことすんなよ!」
 「まぁまぁ、勝手にしたのは悪かったYO。許してちょうだいYO」

 てへっと笑う、ラクリア。
 このチェケラ女は断られる前にと考え、書いたんだろう。このやろう。

 「計算してやったな………」
 「私も………っと!」
 「おぉいっ!」

 油断したすきに、リコリスが紙を奪い、ペンで名前を書いていく。
 そして、ニコニコ笑顔で返してきた。
 
 「ネルが何かやらかしても、私がフォローしてあげるから!」
 「その後、俺がお前の後始末しないといけないじゃないか………」



 ★★★★★★★★


 
 授業を終えた放課後。
 特に何もすることがない俺とリコリスは、2人で校庭を歩いていた。
 なんかクラブとかに入ればいいのだろうが………。

 普通の学園生活を送りたいと思っていた俺だが、どうもクラブに入る気にはなれなかった。
 3人の名前が書かれた紙と黙って向き合っていたリコリスが話しかけてきた。
 
 「ねぇ、ネル。グループワークって5人必要なのよね? ってことは、あと2人集めないといけないじゃない」
 「別に必ず5人ていうわけではないぞ。3人以上いればいんだ」
 「そうなの? でも、5人いた方が楽そうだし、今のメンバーだとおもちゃになるような人はネルしかいない………」
  
 やっぱ人間をおもちゃにすることしか考えていないぞ、コイツ。
 ていうか、昨日はハンスをどうしたのだろうか? おもちゃにしてもいいといったが、殺しはさすがにしていないよな?
 と俺が、ハンスのことを聞こうとした時、
 
 「いた!」
 
 甲高い声が聞こえてきた。正面を見ると、俺たちの方に指をさす、金髪ツインテール少女が立っていた。

 彼女は、他の生徒より一段と背が低く、まるで小学生。
 いや、コイツは小学生なんだがな………。
 
 「アスカ、こんな所で何してんだよ? 俺をからかいにきたか? 残念ながら俺はもうLv.12なんかじゃねーよ。もう小等部のお前には負けねーぞ」
 
 そう。
 1年前の俺は、このアスカという金髪ツインテール小学生にさんざんやられていた。俺よりレベルがあるので、いたずらやいじめ、時には強制的に勝負まで仕掛けられた。

 ガキんちょが相手であれば、知識で差をつけれる。そう考える者もいるだろう。
 しかし、全て負けた。嫌ってほど、アスカ(コイツ)にやられまくっていた。
 
 「ネル! やっと見つけた! 授業の時はちゃんと教室にいるのに、放課後になるとすぐに消えるネル!」
 「………お前、なんでこんな所にいるんだよ? 小等部だろ? 調子に乗って高等部の制服なんて着てないで、さっさと帰れよ」
 
 ゼルコバ学園には、小等部から高等部まであり、校舎も隣にある。だから、簡単に他の所に入ることができるが、制服の違いで、入りづらい雰囲気があった。
 しかし、この金髪ツインテールは、どこで手に入れたかは知らないが、高等部の制服を着ていた。
 
 「ふっ。あんた、あたしが高等部の人に制服を借りたとでも思っているんでしょ! それは大きな間違い! あたしは高等部の生徒! 正真正銘、高等部の生徒よ!」
 
 そう宣言し、ニヤリと笑うアスカ。
 
 「………コネを使ったんですか。自称高等部の生徒、アスカさん」
 「違うわよ! 自称じゃないわよ! ちゃんと飛び級制度を利用してきたのよ!」
 「はいはい、そーですか。………それでそんなアスカさんは、俺になんの用で?」
 
 尋ねると、低身長金髪ツインテールは、フフフと不気味な声を上げ笑い出す。
 
 「よく聞いてくれたわ………あんた、あたしと勝負しなさい!」
 「お断りします」
 「なんでよー!」
 
 ………当たり前に決まってんだろ。

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