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対峙

テールをスライドさせながら突進してくるインプレッサを駐車中の車の間に僅差で飛び込んでかわした高梨の背後をフラットフォーの低い唸り声が通り過ぎる。

高梨は思わず膝をついてしゃがみ込んだ。駐車中の車の下から過ぎ去った車を覗くとアンチロックブレーキを作動させながら急停車したインプレッサが見えた。
停車するやいなや、ショートストロークのカシャッとミッションの切り替わる音がしてバックランプが点き、方向転換を始めていた。

絶対、事故なんかじゃない。

ガシャッ、パーン!
駐輪場に整然と停められているバイク…そのほとんどが高価な外国車や輸入車を押し倒し、潰しながらバックし終わり、方向転換と引き換えにリアバンパーが落ちる。
そして再び高梨はボンネットに描かれた魔法少女と対峙しなければならなかった。

『逃げるぞ!』
「うわぁ!」

高梨は悲鳴にならない声をあげ停まっている車の間を泳ぐ様に逃げ、そしてその後を駐車中の車を蹴散らしながらメキメキバキバキと一緒に縫う様に追いかける青いインプレッサ。

『右だ!』

吉澤は駐車場の柱を巻く様に高梨のコースを変えさせた。
駐車中の車が有れば巻き込まれる筈が無い、と思っていたのに流氷を押し分ける様に追いかけてくるのが計算外。
でもこの柱は車で押しても動かないだろうしその角にはハマーが停まっている。流石に四駆とはいえ2t以上あるハマーを押し出すのは無理じゃ無いかという読みにかけた。

ここで止まってくれれば・・・

「テメエ、車を止めろっ!」

その時、先ほど高梨たちがいた場所から怒号が聞こえてきた。

頭から血を流しているのを左手で押さえつつ右手は真っ直ぐにインプレッサを指差している。
その右手には細身のSIG中型自動拳銃が握られていた。

SIG P232

警視庁が発注し安全装置を追加した日本仕様のオートマティック。

そしてかんしゃく玉が破裂した様な乾いた音と共にウィンドウガラスに撃ち込まれた。

通常行われる警告射撃無しに次々とリアウィンドウに弾痕が入り細かな粉砕された蜘蛛の巣状にヒビが入る。

もはやインプレッサの進める進路は無かった。観念したのか運転席のドアが開き男が転がり出てきた。

転がり出るや否や同時に手に持った消火器を辺り一面に噴射し白い粉が舞い飛びもうもうと視界がホワイトアウトする。

くそっ!

視界が回復する頃、インプレッサを運転していた男は既に消え去っていった。

しおり