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第四十五話 ライムバッハ辺境領

/*** レイ・エヴァ・マナベ Side ***/

 ライムバッハまでの道のりは、私は、シンイチ・アル・マナベのパーティーメンバーだ。

 大勢居る護衛メンバーの中、1つのパーティーとしてだ。

 この集団が向かっているのは、ライムバッハ領。アルの実家だ。護衛しているのは、協会関係者の護衛という事になっている。護衛対象は、馬車の中に居て出てこない。

 名前を、エヴァンジェリーナ・スカットーラという。聖女の肩書を持っている女性だ。
 彼女を、ライムバッハ領まで送り届けるのが私たちの役目になっている。

 なんで、こんな茶番を行っているのかと言うと、私と私が同一人物でないと思わせる必要があるからだ。

 あれから、教会で司祭や聖職者と話をしたアルが出した結論が、エヴァンジェリーナ・スカットーラもアルノルト・フォン・ライムバッハと一緒で、ライムバッハ領で過ごしている事にしたほうが良さそうだという結論になった。

 アルが強く言ったわけではない。母が、オルタンスが強く主張したのだ。

 3年間は、高等部に進む事になるが、それも、”レイ・エヴァ・マナベ”で通う事になった。学校も、特待生クラスのままなので、全員が入れ替えになったために、私の事を知っている人は皆無だ。もともと、特待生クラス以外との付き合いがなかった上に、事情があって外に出ていなかったのが幸いした。
 髪の色と、服装を変えるだけでバレることは無いだ。

 この事を決める前に、お母様・・・教会を出てから聞いてみた。

「お母様」
「レイ様。私の事は、オルタンスとお呼びください」
「あっはい。オルタンス。それでなんで、私は、ライムバッハ領に居る事にしたほうがいいのですか?教会も、アルのやりたい事を聞いた途端に、考えを変えた・・・いや、より積極的になりましたよね?」

「レイ様。シンイチ様は、ご家族の仇をうちたいと思っていらっしゃいます」
「えぇそうね」

「それは、3年程度で終わるものでしょうか?」
「・・・いくら、アルでも無理ではないかしら?」

「私もそう思います。シンイチ様もそれは解っておいでです。それで、アルノルト様は、ユリウス様たちと一緒にライムバッハ領に向かわれたのです」

 そうなのだ。
 アルは、まだやることが残っているという事で、王都に残ったのだが、ユリウス殿下達と別れたのは、王都を出てからなのだ。
 王都から出る時には、聖女の私と、門の前で別れたのだ。カール様やお眠りになっているご家族と一緒に出られたのだ。

「そう・・・だったのね」
「はい。ライムバッハ領に、聖女を除いた、特待生が揃って向かった事は、王都の人間なら知っています」
「そうですね。それで、今度は私が、ライムバッハ領に向かう事になったと・・・そういう事なのですね」

 3年後までに、アルが敵討ちを果たした場合は、問題は少ないが、そうじゃなかった時には、私がついていく事になる。その時に、聖女である私と冒険者の私が同一人物だと知られていると、教会として、王国として、問題が出てしまう。

 特に、アルの仇が帝国に居る可能性が高いだけに、中途半端な事をしてしまうと、戦争の引き金になってしまう。

 教会としては絶対に避けなければならないシナリオだ。

 そして、母がなぜ強く主張したのかも理解した。
 私をアルと一緒に居させるためだ。

 3年後にもし帝国に行くとなったら、エヴァンジェリーナ・スカットーラのママではついていけない。冒険者登録していても、エヴァンジェリーナ・スカットーラが王都から消えたら、あまりにも不自然だ。
 だったら、最初からエヴァンジェリーナ・スカットーラは王都から離れて、新しい赴任地である、ライムバッハ領に籠もっているように見せればいい。あそこなら、信頼出来る”仲間”が大勢いる。

 だから、エヴァンジェリーナ・スカットーラは、冒険者たちに護衛されながら、ライムバッハ領にたどり着いたというアリバイを作る必要だ有ったのだ。

 そして、この護衛任務が私にとっては、新鮮な事に満ちている。
 冒険者の仕事を間近で見て、勉強になる。

 寝る時には、常にアルと一緒だ。先輩冒険者達は、私とアルの事情を知らないが。イーヴォさんが手を回してくれて、夜の見張りから私たちは除外されている。そのかわり、冒険者たちの食事を私たちが提供する事になった。

 実は、料理を提供するのは、それほど手間ではない。こっそりと、アルと私のステータス袋に既に調理済みになって、保管している料理を振る舞っているだけだ。普通、護衛任務の時には、全食硬い干し肉が珍しくもないメニューだという事だ。
 アルが最初かじってみて、食べられない事はないが、食べたくないという結論に達した。いろいろ考えた末に、ステータス袋を使うことにした。
 これが、冒険者たちにうけた。温かい料理が食べられるだけで贅沢なのだと言っていた。

 そして、はじめての夜は、ドキドキして眠れなかった。
 アルと二人だけで、同じテントで練る。言葉にすればそれだけの事だが、一睡もできなかった。次の日からは、アルに闇魔法で強制的にむらさせられてしまった。ああ起きようとした時に、服がはだけて、胸が・・・アルに抱きついて寝ていたのは、アルには内緒にしている。私だけの秘密だ。

 こんな護衛任務も明日で終わりだ。

 ライムバッハ街が見えてきた。
 ライムバッハ領の領主が住まう街だ。ここに、アルの生家がある。ラウラとカウラはこの近くの農村の出だと言っていたが、それ以上は聞いていない。さて、聖女になりましょう。面倒な事ですけど、しょうがありません。

 聖女として、ライムバッハ領に入りました。
 街頭に出て見に来てくれている人たちも居ます。そのまま、ライムバッハ街の教会にむかいます。私は、ここの司祭に手紙を渡して、レイに戻るのです。そのまま、護衛任務終了報告として、護衛隊の隊長と共に、ライムバッハのお屋敷に行く事になっています。

 アルが手配して、ユリウス殿下やクヌート先生には知らせてあります。
 あとは、笑わないようにしなければならないのです。

 ライムバッハ家への報告は無事終わった。
 これで、護衛任務の冒険者は解散となる。事情を知っている隊長に誘われて、打ち上げに参加した。そこで、料理の事を褒められたり、アルの事を旦那さんと呼ばれたり、いろいろ大変な目に有ったが、楽しかった。

 また機会があったら一緒にパーティー組みましょうと言われた時には、お世辞だと解っていても嬉しかった。私を認めてもらったという感じがしたのだ。
「レイ!レイ!」
「あっはい。アル?」
「あぁ宿に泊まるわけにはいかないから、ライムバッハ家に厄介になろうかと思うけどいいよな?」
「もちろんです」

 そうなのです。
 今このタイミングでは、私は二人存在している事になっています。聖女と冒険者です。冒険者としては、宿屋に・・・アル・・・と、同じ部屋に泊まる事になっています。そのまま、宿屋を抜け出して、ライムバッハ家から来ている馬車で、ライムバッハ家に入って、あとは、葬列までライムバッハ家で過ごす事になっています。宿屋には、途中で誰かを走らせて、宿の解約をお願いする事になります。

「おかえり!」
「クリスティーネ様。ただいま帰りました」

 あぁ帰ってきたという言葉がしっくり来ます。

「アルノルト様と、エヴァン・・・違った。シンイチ殿の部屋と、レイ殿の部屋は用意してあります。イレーネ案内してあげて・・・ね」
「あっはい!」

 イレーネ殿が案内してくれるようです。
 今日は流石に疲れたので、もう寝るつもりです。詳しい話は明日する事になっています。皆ももう働いていて、領地運営の話を、アルにする事になっています。

 イレーネの案内で屋敷の中を歩きます。
 かなり奥まで来ました。私はこういう屋敷には詳しくないのですが、こういう屋敷では、客間は二階や三階なのではないでしょうか?1階の奥は、家族のプレイベートルームだと聞いています。

「お部屋はここになります」
「え?」「おいイレーネ!ここは?」
「文句でしたら、クリスティーネに言ってください!」

 イレーネは、扉を開けて、アルを押し込みます。
 アルも少しだけ抵抗したようですが、そのまま部屋に押し込まれます。

 私の部屋はどこなのでしょう?
 イレーネを見ます。

「あぁもう!」
「なんでしょう?」
「エヴァ。貴女!いいわよ。もう!」

 なにか、私・・・イレーネを怒らせるような事をしたのでしょうか?
 イレーネはそのまま私の手を引っ張って、アルが先程入った部屋に押し込みます。

「え?」
「今日から、式典が終わるまで、食事以外は、この扉を開けないからね。そのつもりでね。二人が外に出て歩かれると、面倒だからね。いい解った?特に、シンイチ殿?解っていますよね?いいですか?」

 なにやら、疲れ切った表情と声になっています。

「わかった。誰が仕組んだ?」
「クリスティーネ様と、私とザシャと、ディアナとユリウス殿下とギルベルト殿と、ギード殿とハンスです」
「お前たち全員なのか?」「え?」

 イレーネが慌てて表情を作ります。
 アルは気が付かなかったのでしょうか?イレーネは、ハンス様だけ敬称を外したのです。

 イレーネを、見つめます。
 諦めた表情をされました。

「あえて、エヴァと呼ばせてもらいます。エヴァ。気がついたみたいだけど、そういう事だから、安心して、ザシャもディアナも、私と同じだからね」
「え?」
「うん、後は、本人から聞いて!これ以上は内緒!」
「わかった。ありがとう。イレーネ!」
「うん。また、後で話しましょう。頑張ってね。エヴァ!」
「・・・うん」

 何を頑張るのかは解っていますが・・・今はまだできません。してほしいとは思いますが、我慢します。

「レイ。何か良い事有ったのか?」
「ううん。なんでもないですよ。今日は、疲れたので、もう休みたいのですが・・・」

「あっそうだ。アイツら・・・この部屋な。俺が子供の時に使っていた部屋でな・・・」
「え?そうなの?」
「あぁそれで、ベッドだけ入れ替えやがった」
「え?でも・・・え?部屋から出るなって・・・え?」
「あぁトイレも・・・風呂も付いている。小さなキッチンもあるぞ」

 アルは部屋を案内してくれた。
 本当になんでも揃っている。でも、なんで子供の時にこんな部屋に住んでいたの?

「俺付きの乳母が・・・まぁロミルダだけどな。ここに泊まり込む事が多かったから、自然と作られていった部屋だよ。あぁエヴァは、そのベッドを使ってくれ、俺は・・・ロミルダの部屋で寝る事にするよ」
「え?ダメ。アルがベッドを使って、私がロミルダの部屋を使う。それが自然」
「いやいや。ダメだよ」

 アルは歩きだしてドアまで移動しました。
 ドアに手をかける。

「・・・あいつら・・・ここまでやるか?」
「どうしたの?」
「ロミルダの部屋・・・ドアが開かない。風呂場とトイレとキッチンにしか行けない」
「え?」
「それも、もともとあった脱衣所も潰している」
「え?それじゃ」
「大丈夫エヴァ。安心しろ、俺は後ろを向いて、布団かぶって居るから、その間に風呂に入ればいい。トイレもだ」
「え?」

 トイレを見ると、子供用なのだろう。子供がトイレで、なにか問題が発生しても困るだろうから、トイレの上半分のドアがない状態になっている。丸見えではないが、見られてしまうのは間違いない。

 冒険者として移動している時にも似たようなシチュエーションを経験している。アルに見られそうになった事も一度や二度ではない。恥ずかしいが、すごく恥ずかしいが、しょうがない・・・それに、アルの事だから、見たら絶対に責任取ると言ってくれるだろう。

「もう・・・いいよ。アル。一緒に寝よう。テントの中でも、護衛中もそうしてきたよね?」
「・・・あぁそうだけど・・・」
「なに?アルは、私じゃ嫌なの?」
「いえ、そんな事は無いです。すごく光栄です!」
「うん。それなら、お風呂一緒に入って、背中流して!」
「わかりま・・・いや、ダメでしょ?」
「ちぇぇOKしてくれたら、本当に背中流させようと思ったのにな」
「エヴァ・・・」
「何?」
「なんでもない。それよりも、風呂入ってこいよ。待っているからな」
「使い方わからないから一緒に入ってくれないの?」

 甘えてみる作戦!

「寮と同じだよ」

 ダメでした。
 これから、準備が整うまでの5日間本当に監禁されるのかも知れない。でも、アルと一緒なら楽しいかも知れない。アル覚悟してね。私の本気をぶつける事にするよ。イレーネに後押しされちゃったからね!

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