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第四十一話 神からの忠告

/*** シンイチ・マナベ Side ***/

『クスクス』『キャハハ』

「誰だよ?」

 ん?ここはどこだ?
 以前にもどこかで?

『やっと起きた』『起きたね。飲み過ぎ。飲み過ぎ!』

 エトとエリ!

『そうだよ。エリだよ』『覚えていた。覚えていた。エトだよ』

 とい言うことは、ここは、アリーダ様の?

『前にもいいましたよね?』

 え?あっ、アリーダ。ここは?

『私の居城ですよ。貴方の妹さんが眠る場所とつなげる事ができましたのよ』

 そうですか?
 それで、今日は、その連絡ですか?

『それも有りましたけど、今日は忠告に来たのですよ』

 忠告?

『加護の事です』

 加護?

『シンイチが、精霊に愛されているのは、加護の数を見ればわかります』

 はぁ・・・そうなのですか?

『えぇそうなのです。忠告と言うのは、このまま、加護を使い続けると、貴方だけではなく、貴方の周りにも影響し始めます』

 え?そうするとどうなるのですか?

『手始めに、周りの者も加護が増えます』

 その程度なら問題ないのでは?

『そうですね。もうその影響は見られているのではありませんか?』

 どうでしょう。よくわかりません。
 でも、その程度なら、喜ばしい事では無いのですか?

『そうですね。シンイチとそこまで深い付き合いでない場合にはですね』

 深いというと?
 ユリウスたちとの付き合いは、世間一般から見れば深いと思いますが?

『皇太孫たちのことでしたら大丈夫です。多少影響があるくらいです』

 そうですか?
 それなら大丈夫だとは思いますが?

『今は大丈夫でしょう。でも、注意しなさいね』

 はい。
 何を注意したらいいのかわかりませんが注意する事にいたします
 それで、加護を使い続けると、どうなってしまいますか?

『簡単にいうと、種族が変わってしまう可能性があります』

 もうしわけありません。
 おっしゃっている意味がわかりません。

『そうですね。人族ではなくなって、種族名はわかりませんが、寿命が伸びる可能性があります。まだ正直、私たちでもどうなるか予測ができていません』

 そうなのですね。
 それでは、何が発生するかやってみるまでわからないという事ですか?

『いえ、そうではないのです』

 では?

『力を求めすぎないようにしてほしいのです』

 それはできません。
 もし、それで、人外になってしまったのだとしても、私には、やりたい事があります。
 ご忠告ありがとうございます。でも、そればかりはお約束できません。

『どうしてもですか?』

 申し訳ございません。
 私が欲するのは、あいつらに自分が行った事への報いをうけさせる力です。
 それ以上でも、それ以下でもございません。

『わかりました。無闇に力を誇示したりしないのですね』

 はい。
 誇示する事で、抑止力になり、家族や仲間を守れるのなら、躊躇しないと思います。

『・・・そうですか。それで、1人になってしまってもですか?』

 はい。
 それで、守れるのなら・・・もう、躊躇いたしません。

『そうですか、わかりました。私たちは、そうならない用に、見守る事にしましょう。あっそうそう、隣で寝ている彼女を大切にしてあげてくださいね。貴方の加護の影響を一番強くうけ始めていますからね。それでは、また別の機会に会いましょう』
『バイバイ!』『バイバイ!』

 え?隣?
 おい、なんか最後に重要な事を言って帰っていくなよ。説明してから帰れよおぉぉぉぉぉ!!!


/*** シンイチ・アル・マナベ Side ***/

 頭が覚醒する。
 昨日は、エヴァに案内させて、ユリアンネたちの眠る場所で食事をした、エールを浴びるほど、全てを忘れるために飲んだ。
 飲めば飲むほど、ユリアンネの笑顔やラウラやカウラの笑顔や思いでが蘇ってくる。父上と母上の言葉が、ルグリタの小言や、ロミルダの美味しかった食事。1人だと、泣き崩れてしまうと思って、エヴァと夫人に居てもらった。

 笑えているとは思わなかったが、作り笑いはできたと思う。
 涙も堪えた。俺が泣いても何もならない。笑えって、皆と話をする。エヴァに無様な格好は見せられない。夫人に、これから頼む場所で、俺が涙を見せるわけにはいかない。

 そして・・・アリーダ!

 あいつ、最後・・・そもそも、俺、ユリアンネたちの前で飲んでいたよな?

 なんでベッドで寝ている?誰が運んだ?それに、ここはどこだ?寮ではない。

 起きよう!

”むにゅ”

 は?右手を置いた所確認する。もうわかっているが、確認する。
 エヴァが、俺の服を掴んで気持ちよさそうに寝ている。そのエヴァの肩から少し下がった所で、心臓がある辺りに、俺の手が置かれている。動かしてはダメだとわかっていても、柔らかい感触が、手に伝わってくる。動かすなよ。動かすなよ。動かす・・・動いた。

”あっあん”

 エヴァ。今、その声はやばい!
 ダメだ。離れよう。理性が有る間に離れよう。離れようと思っても、手が柔らかい感触から離れるのを拒否する。
 それに、エヴァは、服を離してくれそうにない。ダメだ、人としてダメな気がする。
 しょうがないので、上着を脱ぐ。脱いだ服を、エヴァが抱きかかえるようにしてしまった。でも、これで起きられる。ここは、エヴァの部屋か?寮は、華美な装飾を施していないが、質素ではない。この部屋は質素だ。

 ベッドから立ち上がる。よかった。下は履いているし、形跡はない。セーフだろう。
 エヴァの上半身に布団が掛かっていなかったので、布団をかけておく。嬉しそうに、さらに服を抱き込んで丸くなる。小動物のような可愛さだ。

 起こさないように、そっと部屋を出る。教会?違うな。ユリアンネたちが眠る寝所だな。多分、世話係用の部屋なのだろう。作りが質素なのは、そのせいなのかも知れない。

 食堂に行けば誰か居るのかも知れない。
 そう考えると、結構大きな建物だな。警備兵とか置いた方がいいのかな?

 明かりが付いている?

「あっアルノルト・・・いえ、シンイチ様。起きられたのですね?」
「夫人。済まない」
「何を謝られるのですか?それから、これから、私の事は、オルタンスとお呼びください」
「わかった、オルタンス。それで、済まないが、なにか、上着になるようなものはありませんか?」
「これからは、私は、貴方様の家人でございます。どうぞ、お命じください」
「・・・わかった、上着はないか?」
「エヴァンジェリーナ様を起こされればよかったのでは?服の袖を離されませんでしたので、ご一緒のベッドに運ばさせていただきました」

 犯人はこの人か!
 間違いを起こしたらどうする・・・それが狙いか?

「オルタンス。なぜ、娘に”様”と着ける?」
「けじめでございます。お気になさらないでください」

 なんとなく、堀が埋められていく大阪城の気分だ。

「そうか、エヴァはまだ寝ている。そのまま寝かしておいてくれ、俺は、ライムバッハ領に向かうための買い物をしてくる」
「お待ち下さい。それならば、エヴァンジェリーナ様をお連れください。それに、必要な物でしたら、お申し付けくだされば、ご用意いたします。それに」
「それに?」
「・・・まだ、朝日が登る前ですので、市もまだ開いておりません」

 結局、俺はどのくらい、ユリアンネたちと居たのだ?
 その間、エヴァは付き合ってくれていたのか?そうだな。それでなくて、服を掴んで寝るという状況にはならないだろう。

「解った。何か、簡単に食べられる物を頼めるか?」
「わかりました。エヴァンジェリーナ様は起こしてまいりましょうか?」
「いや・・・いい。昨日は付き合ってくれたのだろう?無理に起こす必要はない。出かけるまでに起きていたら、一緒に行けばいいからな」
「かしこまりました」

 一礼してから、奥に入っていく、そこにキッチンが有るのだろう。
 5分くらいしてから、先にという事で、飲み物を持ってきた。確かに、喉が乾いていたのも事実だ。出された物は、なにかの果実を絞った物だろう。一気に飲んでしまった。オルタンスは、笑顔になって、もう一杯持ってきてくれた。

 今度は、自分で氷を作って、冷やして飲むことにした。

 10分後に、エヴァが申し訳なさそうな顔しながら、パンに肉を挟んだ物を持ってきて、俺の正面に座った。

「ごめんなさい」
「ん?」
「いえ、先に寝たのに、起きるのが遅くなってしまって・・・そのそれだけじゃなくて、アルの服を・・・その、ごめんなさい」
「あぁいいよ気にしないよ。それに、俺に付き合ってくれたのだろう、ありがとう。エヴァ」
「・・・・(アルの匂いだと思ったら)・・・あの?怒っていませんか?」
「ん?怒らないよ。ありがたいとは思っているよ。ユリアンネ、ラウラ、カウラの事を大切に思ってくれていたのだろう?」
「・・・いえ、私は・・・えっあ」
「いいよ。エヴァ。そうだ、今日、買い物に行きたいけど、付き合ってくれるか?」
「え?あっもちろんです。あっアルの服。私が抱きしめちゃって・・・その・・・」
「ん?よだれ垂らしたりしてなければ、大丈夫だよ」
「!!ひどい。よだれなんて出ていません!ちょっと抱きしめちゃっただけです!」

 なにか、オルタンスに言われたのだろう。真っ赤なかおをしてうつむいてなにか、ブツブツ言っている。

「いいよ。持ってきてくれている?」
「はい!あのぉアル?また・・・ううん。なんでもない!はい。これ!」

 綺麗に折り畳まれた、俺が昨日来ていた服だ。
 エヴァの匂いだろうか、いつもの違う匂いがする。さっきの手の感触が思い出されてしまう。

 上着を羽織ると、余計にエヴァの匂いを強く感じる。
 なにか、エヴァが残念そうな顔をしている。スルー推奨だろう。エヴァが持ってきた、物を食べてから、冷えた飲み物で喉を潤す。

「エヴァ」
「はひ!?」
「エヴァも喉乾いているだろう。昨日、遅くまで付き合ってくれたのだろうからな」
「はい。でも大丈夫です」
「そうか?」
「はい。少しだけいただければ・・・」
「そうか?あぁこれでいいか?」

 俺が冷やした物を見ていたから、冷えたものが飲みたいのだろう。確かに、冷やしてくれとは、言えないだろうからな。
 まだ半分くらい残っている。飲みかけでもいいのかな?

「え?よろしいのですか?」
「あぁエヴァが問題なければいいぞ?」
「ありがとうございます。いただきます」

 買い物どうしようかな?
 オルタンスが、エヴァを起こしてしまったからな。荷物は、ステータス袋があるから困らない。気分転換に、王都をぶらぶらしてもいいかも知れないな。そうだ、エヴァに、マナベ商会への登録をしてもらえば、オルタンスへの支払いとか、新しく雇う者たちへの支払いも困らないな。
 ついでに、冒険者ギルドへの登録もお願いできないかな?なにか情報が解った時に、俺に伝達しやすいように出来ると嬉しいな。それに、教会にも支払いの確認と、登録?洗礼を受ける必要があるのだったよな。

「エヴァ」
「はっはい!」

 何故かわからないけど、エヴァが、コップを眺めている。
 飲み終わったみたいだけど、足りなかったのかな?

「エヴァ。エヴァは、教会所属なんだよな?」
「・・・いえ、正確には、聖職者ではありません。洗礼をうけただけです」
「そうなのか?」
「はい。もうしわけありません」
「ん?謝る必要はないと思うぞ、それに、エヴァはエヴァだろう?」
「え?あっそうですけど・・・聖職者だと思われて、私に・・・」
「ん?あぁ違う違う。俺は、エヴァにお願いしたかった。それに、顔も知らない聖職者よりも、俺はエヴァの方を信用しているし、頼りにしているぞ。それじゃダメなのか?」
「いえ・・・嬉しいです!すごく嬉しいです」
「うん。そうだ、それを聞きたかったわけじゃない。エヴァ。商人ギルドや冒険者ギルドへの登録は問題ないのか?」
「問題ないです。でも、私なんかが登録してよろしいのですか?」
「うーん。どうだろうな。問題ないと思うぞ。でも、エヴァのスキルだと、いろんな所から勧誘がうるさそうだな。そうだ、俺とパーティー組んでおくか?俺も、暫くはソロかでの活動になるだろうし、ちょうどいい。エヴァに問題なければそうしよう」

 いろいろ問題が解決しそうだ。
 パーティーを組んでおけば、エヴァが勧誘されても、断る口実にはなるだろう。俺も同じだな。”パーティーメンバーに聞かなければわからない”と理が出来るのは、いろいろ便利だ。

 朝食を食べ終えてから、オルタンスにいうと、是非という事だったので、エヴァと二人で、買い物がてら、商人ギルドと冒険者ギルドで、エヴァを登録した。両方共、ギルドマスターに話が通って、活動しやすいように、エヴァの偽名をでの登録となった。

 エヴァから、名前を考え欲しいと言われたので、”レイ”と提案した。エヴァは嬉しそうに、これから、レイ・エヴァ・マナベ だと宣言していた。
 俺が聞いたのは、商人ギルドでの登録が終了してからだった。エヴァがにこやかに笑っているので止められなかった。外堀が完全に埋められた感じがする。でも、まだ内堀がある。内堀だけでも死守しなければならない。

しおり