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1話・狂った運命から今新たな運命へと動きだした

 かつてのこのサラディアーナには魔法など存在しなかった。そんなある日、各地で大きな戦争が起き多くの人々が死んでいく……。
 それを天からみていた神が嘆き悲しみ、ある日一人の魔導師をこの世に誕生させた。
 その魔導師は人々に魔法を伝え、その魔法で戦争を終結させる。
 そしてやっと平和な世界が戻って来たと思っていた。


 ーーしかし……今も尚それらは繰り返す……ーー


 ここは、シェイナルズ王国の城の敷地内にある魔法研究施設。ここでは、あらゆる魔法や魔道具の研究などをしている。
 そしてこの施設内で、ある男が実験台にされようとしていた。
 この男の名はブラット=フレイ。そうこの物語の主人公である。

「さてと、ある実験のため君の心臓にある術式を組み込む。そうすることで、何が起こるか試させてもらうよ」

「うっ、やっ、やめろ~! 俺が何したって言うんだよ⁉︎ まだ彼女もいないって言うのに、このまま俺の人生……ここで終わるっていうのかよぉぉぉぉー‼︎」

「あ〜、うるさい! ふぅ、仕方ない眠らせるか」

 そう言うとブラットを動かないように押さえ込み薬を含ませた布で口を塞ぎ眠らせた。


 ーーそして夢の中……ーー


(俺は、いったいどうなるんだ? そもそも、なんでこうなった?)

 意識が遠のく中、ここまでの経緯を思い返す。

 (確か俺は親父の言いつけで、薬草と酒を買いに城下町に来ていた。そういえばあの時……)

 ブラットは色々と考え、ふとその時の状況を思い出した。

 (そうだ! あの女の子はどうなったんだ? 男たちに絡まれている所を、俺が助けたはず。その後なぜか役人が来て、俺は捕まった。やっぱり、どう考えても納得がいかない!)

 そう思っているうちに、徐々にブラットの意識がなくなっていく……。



 ……そして遠のく意識の中、ブラットのことを誰かが呼んでいる。
 
 “……ット……ブラット。私の声が聞こえますか?”

 朦朧とする意識の中でブラットは、声のする方をみた。するとそこには、美しく光を放つ女性が目の前に立っている。

 “私を認識したということは、聞こえているようですね”

 “そうみたいだけど。貴女は?”

 “私は運命の女神フェリア。ブラット、貴方はここで死ぬことになります”

 ブラットはそう言われ困惑していた。

 “死ぬって! 俺はアイツに殺されたってことなのか?”

 “現状ではそうなります。しかし、ここで死んではいけないのです。本来なら、ここで死ぬ運命ではありませんでした”

 そう言われるもまだ理解できずにいる。

 “そうか。……だけど、死ぬってことが俺の運命じゃないって、どういう事なんだ?”

 “そのことですが。何者かが貴方の運命と、この世界の仕組みを変えようとしているらしく。その影響で、人々の運命もおかしくなって来ています”

 “……それは分かった。でもそのことと俺が、どう関係してるんだ?”

 そう問われフェリアは説明した。

 “それは貴方がこのまま生き続けていれば、いずれは魔導師たちの王となっていたはずなのです”

 “ちょ、ちょっと待て! 今なんて言った? あっ、えっと……。俺が、魔導師の王。その前に魔法や魔術は全然できない”

 “ええ、それこそが既に運命のズレへと繋がっていたのです”

 それを聞きブラットは信じられず考え込んだ。

 “そう言われてもなぁ。やっぱ、いまいち信じられない。はぁ~……まぁそれは、それでいいとして。俺はこのまま死ぬのか? それとも生き返ることができるのか?”

 フェリアは首を横に振る。

 “生き返ることは、不可能です。ですが、貴方を死なせるわけにはいきません。このままでは、この世界が滅んでしまいます”

 そう言われブラットは不思議に思った。

 “それって、どういう事なんだ? ……って言うか、そもそも生き返ることができないならどうする?”

 “普通の神であれば、生き返らせることは不可能です”

 そう言いフェリアは、ブラットに微笑みかける。

 “ですが、私は運命の女神。そして神々はそのため、この私を貴方のもとに……と言うものの。現在、貴方の体は業火の炎の中だと思われます”

 “おいっ! それって……凄く、まずい状況なんじゃないのか? 本当に、生き返ることができるのか?”

 “ですが、まだ体の方は大丈夫そうです。意外と丈夫なのですね”

 そう言われブラットは苦笑した。

 “……。んで? どうやって俺の体を回収する気なんだ?”

 “神は本来、運命を変えるほどの力を直接的に使ってはいけない。ですが神王さまの許しがでていますので、貴方にのみこの力を使うことができます”

 “そうなのか……”

 ブラットが納得したことを確認するとフェリアは、話を先に進める。

 “ただこの力を使うためには、私と契約して頂きます。そして、この先々で出会う神々とも契約を結んで頂きたいのですが”

 “契約って? ……ってことは、俺が生き返ったら何かをするってことなんだよな?”

 “そうですね。それにこれは、貴方しかできないのです。生き返ったあと、この世界の悪の元凶をみつけ倒して頂かなければなりません”

 そう言われブラットは腹をくくった。

 “分かった! だけど、どこまでできるかは分からない。でも俺に、この世界を救う力があるって言うのなら”

 それを聞きフェリアは安心した顔になる。

 “良かったです。まだ世界の運命は、変えられそうです”

 少し間を置くと再び話し始めた。

 “貴方がもしここでこのまま諦めてしまっていたら、世界の運命も終わっていたかもしれません。本当にありがとうございます”

 “じゃあそう言うことなら……てか、早くしないと俺の体が墨になるぅぅぅぅ‼︎”

 “そうでした。では、急いで契約を……”

 フェリアは契約の内容が書いてある紙と専用のペンを出す。

 “ブラット。この内容をよく読んでサインをして下さい”

 そう言われブラットは内容を確認した。

【私ブラット=フレイは、この世界を救うと共に神々を尊く崇めることを誓いここに承認する】

 そしてブラットは、全てを読み終えサインをする。すると、その紙とペンはスウーっと消えていった。

 “これで私は思う存分、ブラットのために力を使うことができます。そして、生き返らせることも……”

 フェリアはスティックを持ち、ブラットに向けると一振りする。するとブラットの意識は、どこかに飛んでいくような感覚になった。



 そしていつのまにかブラットの体は、光に包まれ燃えあがる炎の上に浮いていた。
 それをみていた男。そう実験に失敗しブラットを消去しようとした男は、それをみて驚き腰を抜かし慌ててその場から逃げる。
 そしてブラットは、光に包まれたまま炎から遠ざかった位置で着地した。少しの間その場で呆然としていたが、すぐに我に返り辺りを見渡してみる。
 するとそこには、見覚えのある草原が広がっていた。

(それにしても、あれはどう考えたって夢じゃないよな。でも、本当に俺にそんな力があるのか?)

 そう考えていると後ろの方で女性の声が聞こえてくる。
 ブラットはその声のする方へ視線を向けると、そこには運命の女神フェリアにそっくりな女性がいた。
 そしてブラットは、その女性の方に歩み寄る。

「貴女は、もしかして……」

「そう私はフェリアです。貴方の補佐をするため、一時的に人間になりました」

 フェリアはそう言いながらブラットをみた。

「しばらくは、女神の力は神以下の力しか出ません。ですが、貴方の力には十分なれると思っています」

 すると一陣の風が吹き長い髪が顔にかかり視界が悪くなったためフェリアは、その髪を右手で後ろに払い再び話し始める。

「それとこの人間の姿の間は、私をフェリアと呼んで下さい」

「そうか。それでフェリア、これからどうすればいいんだ?」

「これから各地を転々と旅をし情報集めと、レベル上げをして頂きたいと思います」

 ふとブラットはあることを思い出す。

「あっ、そうだったぁ~⁉︎ どうしよう……親父に薬草と酒を頼まれたのに、金がぁ全財産がぁ~‼︎ これじゃ親父に怒られる」

「お金の都合はつけられませんが、薬草とお酒ぐらいでしたらなんとかなると思います」

「本当か⁉︎ それなら頼む。この借りはあとで返す」

 フェリアは首を横に振る。

「いいえ。これは私から、これから旅立つ貴方にプレゼントという事でいかがでしょうか」

「本当にいいのか? でも、そこまで言うならありがとうフェリア‼︎」

 そう言われフェリアは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ではこれを持って御自宅で旅支度をされたあと、準備が整いしだい旅に出たいと思います」

「そうだな。でも親父に、どうこのことを話したらいいかなんだよなぁ」

「それは私がブラットの御父様に、ちゃんと御説明させて頂きます」

 それを聞きニコリと笑みを浮かべる。

「ありがとう。それが一番いいかもしれない。だけど、素直に納得してくれるかどうか」

「それは、確かに全て正直に話せば納得してくれないでしょう。しかし私に任せてください。それと私が女神だという事は内緒でお願いしますね」

 そう言われブラットは頷いた。

「じゃっそろそろ行かないと、親父が怒りだしたら大変だ」

 そう言うとブラットとフェリアはその場を離れる。



 そして黒いローブをまとった男が、その様子を物陰からみていた。

「これは、まずい……」

 そう言いその場から去った。



 一方、女が崖の上からその光景を眺めている。

「ふぅ~ん。これはなんか面白い匂いがするね。よし決めた! アイツに着いて行こおっと」

 そう言いその女はブラット達の後を追ったのだった。

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