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 ルイーズに案内してもらい、キバは王座の間へと通される。

「――ラセックス国王陛下。本日はお時間を頂戴して、ありあたき幸せにございます」

 キバは王座の前で膝をつく。

 国王は、大柄でガタイのいい40代の男だった。歴戦の武将という風格で明らかに武闘派なのだが、その瞳の奥には、経験に裏打ちされた知性を感じる。

「そなたのことは娘から聞いている。なんでも、ドラゴニアを追い出された軍師だとか」

「……かつて、陛下と戦っていたのは事実でございます」

「別に責める気は無い。もちろん、追放された愚か者と愚弄する気もない。娘からそなたの知略は聞いておる。して、今日はなんのようだ」

「……陛下にお頼み申したいことがあります」

 と言うと、国王はハッキリした口調で言う。

「頼みは聞かん」

 まだ何も言っていないのに、断れれた。
 だが、それは何も話を聞かないと言う意思表示ではなかった。

「だが、取引ならば、受け入れる余地もあろう。双方にメリットとなることであれば、受け入れぬ理由がないからな」

 ……ルイーズが言っていた通り、損得で動く、と言うことか。

「では申し上げます。――私たちは陛下に、塩を無償で提供いたします」

 言うと、国王は鋭い視線をキバに向けた。

「なるほど。確かに今、ジュードのアホどもがランジーを征服して、我々は塩不足に陥ろうとしている。塩は喉から手が出るほど欲しいものだ。して、その見返りに、我々は何をすれば良い」

「……ドラゴニアの一万の兵から、我々をお守りください」

 キバが言うと、国王は、

「バカを言うでない」

 そう一喝した。

「それで平等な取引のつもりか?」

 ……やはりダメか。


「ドラゴニアと戦うくらいなら、その兵力でそのままアルザスを征服すれば良いではないか。そうすれば、塩はいくらでも手に入る。お前たちを守ってやるメリットなど何一つないわ」


 ……そんなことはキバにも当然わかっていた。
 ダメもとでのお願いだったのだ。

 だが、あっさりと否定されてしまった。

「交渉は決裂だな」

 国王は、呆れ顔を浮かべてそう言った。

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