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 アルザスの全軍は、全力疾走でアルザス城に戻ってくる。

 キバはアルバートに指示を出す。

「敵は明日朝にはすぐにやってきます。急いで、“城を捨てる準備”を進めましょう」

「承知しました、軍師様」

 それからキバは、アルバートと具体的な作戦の打ち合わせをした。

 そして、この作戦のキーパーソンである――王女にも声をかける。

「……申し訳ありませんが、王女様にも大役を担っていただくことになります」

「もちろん、私にできることがあればなんでもいたします」

「……王女様にしかできないことです」

 ――それから数時間後、城の見張りが敵襲を知らせた。

「ラセックス軍が来たゾォ!!!!!」

 キバとエリスは共に城壁の上に登り、敵の様子を探る。


「エリス! 久しぶりじゃない!」

 ラセックス軍の先頭の騎馬に乗る女がその声を轟かせた。
 これから戦おうとしている相手に妙に親しげに、いや馴れ馴れしく話しかけている。

 ……あれが、ラセックスの第一王女ルイーズか。

 ショートカットで快活そうな少女。小柄ながらも、鉄鬼軍の先頭にいて違和感がない威厳が既に備わっていた。根っこからの戦士、という印象だ。

「ラセックスを追放され、こーんなど田舎で王女様ごっこしてるなんて、本当に落ちぶれたわね!」

 その一言で、エリスがラセックスの王宮で姉からどんな扱いを受けていたのか、想像するのに十分だった。

「……ルイーズお姉様! アルザスを攻めても得はないでしょう? どうして攻めてくるのですか?」

 あくまでエリスは戦わなくて済む道を模索する。
 だが、相手には毛頭そんな気はないらしい。

「簡単に奪える領土があるのに、見過ごす方がバカでしょ?」

 と、ルイーズは高笑いして答えた。

「あら、それに、そこにいるのは……見たことある顔だと思ったら、確かにドラゴニアの軍師じゃない!」

 以外なことに、ルイーズはキバのこと。覚えていたのだ。

「まえに連合を組んで戦ったことがありましたね。覚えておいていただけたとは」

 キバが言うと、ルイーズは鼻で笑った。

「あまりに無能だとドラゴニアの将軍たちから聞いてたけど、まさか追い出されちゃったの?」

 ……俺が追放された昨日の今日で、ルイーズがその事実を知るはずもない。当てずっぽうで言い当てるということは、俺がそれだけ追放されそうなキャラだったってことかよ。

「さぁ、これ以上雑談は無用! 全軍、攻撃準備!」

 とルイーズが鉄鬼軍に指示を出す。
 彼女の部下たちは魔法砲の準備をする。城の城壁を破るための兵器だ。
 凡庸な兵器だが、鉄鬼軍の魔力は強力なだけに、その威力は凄まじいものがある。
 そのことを戦場でなんども目撃してきたキバはよく知っていた。

「打て!!」

 ルイーズの号令とともに、魔法弾が城壁に向かって、撃ち放たられる。
 轟音が鳴り響き、地面を揺らした。
 城の城壁は数分と持たないだろう。

「王女様、行きましょう」

「了解です」

 既に、アルザスの主力部隊は城を出て、後方にある森の入り口に布陣していた。
 キバたちも事前に打ち合わせした通り、地下道から城を出て、味方の元へと向かった。


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