5
アルザスの全軍は、全力疾走でアルザス城に戻ってくる。
キバはアルバートに指示を出す。
「敵は明日朝にはすぐにやってきます。急いで、“城を捨てる準備”を進めましょう」
「承知しました、軍師様」
それからキバは、アルバートと具体的な作戦の打ち合わせをした。
そして、この作戦のキーパーソンである――王女にも声をかける。
「……申し訳ありませんが、王女様にも大役を担っていただくことになります」
「もちろん、私にできることがあればなんでもいたします」
「……王女様にしかできないことです」
――それから数時間後、城の見張りが敵襲を知らせた。
「ラセックス軍が来たゾォ!!!!!」
キバとエリスは共に城壁の上に登り、敵の様子を探る。
「エリス! 久しぶりじゃない!」
ラセックス軍の先頭の騎馬に乗る女がその声を轟かせた。
これから戦おうとしている相手に妙に親しげに、いや馴れ馴れしく話しかけている。
……あれが、ラセックスの第一王女ルイーズか。
ショートカットで快活そうな少女。小柄ながらも、鉄鬼軍の先頭にいて違和感がない威厳が既に備わっていた。根っこからの戦士、という印象だ。
「ラセックスを追放され、こーんなど田舎で王女様ごっこしてるなんて、本当に落ちぶれたわね!」
その一言で、エリスがラセックスの王宮で姉からどんな扱いを受けていたのか、想像するのに十分だった。
「……ルイーズお姉様! アルザスを攻めても得はないでしょう? どうして攻めてくるのですか?」
あくまでエリスは戦わなくて済む道を模索する。
だが、相手には毛頭そんな気はないらしい。
「簡単に奪える領土があるのに、見過ごす方がバカでしょ?」
と、ルイーズは高笑いして答えた。
「あら、それに、そこにいるのは……見たことある顔だと思ったら、確かにドラゴニアの軍師じゃない!」
以外なことに、ルイーズはキバのこと。覚えていたのだ。
「まえに連合を組んで戦ったことがありましたね。覚えておいていただけたとは」
キバが言うと、ルイーズは鼻で笑った。
「あまりに無能だとドラゴニアの将軍たちから聞いてたけど、まさか追い出されちゃったの?」
……俺が追放された昨日の今日で、ルイーズがその事実を知るはずもない。当てずっぽうで言い当てるということは、俺がそれだけ追放されそうなキャラだったってことかよ。
「さぁ、これ以上雑談は無用! 全軍、攻撃準備!」
とルイーズが鉄鬼軍に指示を出す。
彼女の部下たちは魔法砲の準備をする。城の城壁を破るための兵器だ。
凡庸な兵器だが、鉄鬼軍の魔力は強力なだけに、その威力は凄まじいものがある。
そのことを戦場でなんども目撃してきたキバはよく知っていた。
「打て!!」
ルイーズの号令とともに、魔法弾が城壁に向かって、撃ち放たられる。
轟音が鳴り響き、地面を揺らした。
城の城壁は数分と持たないだろう。
「王女様、行きましょう」
「了解です」
既に、アルザスの主力部隊は城を出て、後方にある森の入り口に布陣していた。
キバたちも事前に打ち合わせした通り、地下道から城を出て、味方の元へと向かった。