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第四話

 次なる目的地は「迷いの森」。その奥深くで魔法使いが暮らしているとのことです。
 迷いの森。いかにもらしい名前じゃないですか。

「でもなんで迷いの森っていうの?」

「そりゃ、一度入ったら迷って出られないからじゃないか?」

 ……やっぱりそうですよねー。
 なんでそんなめんどくさいところに住んでるの、魔法使いさん!?

「迷うんじゃ、どうやってたどり着けばいいのよ」

「迷うのはおそらく魔法使いの魔法によるものだろうな。だから招き入れられれば迷うことはないだろ」

「でもどうやって招き入れられるの?招待状とか持ってないよ」

「そりゃお前が勇者だと認められれば」

 そこ、一番自信がないんですが。


 それはそれとしてですねぇ……。

「マリアさん、やっぱりお荷物重くはないですか?俺が持ちますよ」

「あらあら、御親切に。でも大丈夫ですから。ゴルガスさんはいざというときは戦わないといけないのですから、お荷物は私にお任せください」

「でもやっぱり……」

「いえいえ~……」

 後ろの二人、なんか変な空気感出してます。

 おかしくないですか?
 ヒロインで勇者な私を差し置いて、なんでおばさんなマリアさんがゴルガスさんにモテているのかと。

 いえ、別に私がゴルガスさんに愛の囁きをもらいたいわけじゃないですよ。
 でもマリアさん、私の三倍くらいの年齢のおばさんなわけで!若さで言ったら私なわけで!
 なんか納得できません。釈然としません。

「お前なぁ、またぶつぶつ言ってるぞ。あの二人はあの二人でやってるんだからいいじゃないか」

「でも~……」

 やっぱりあの胸なの!?山脈なの!?平野はお呼びじゃないってことなの!?
 男はみんなそうなのね!汚らわしいわっ!

「お前ほんとめんどくさい奴だな」

「ほっといてよっ!」



 迷いの森を目前にしたここでキャンプを張って今夜は野宿です。
 迷いの森までの三日ほどの旅の間、一つうれしかったことが。
 やっぱり仲間に戦士がいると強いです。楽ちんです。
 私は後ろの方で剣を構えて戦っている感じを出しておくだけでよくなりました!

「いや、良くないだろそれ。ちゃんと鍛えておかないと後々困るやつだぞ」

「えー、でもー」

 魔王めんどくさい。

「まあ鍛えておけっていうのには俺も賛成だな。どれ、稽古をつけてやろうか」

 そう言って立ち上がるゴルガスさん。
 ああもう、魔王が余計なことを言うから!

 ゴルガスさんの剣術講座(実技)が始まりました。
 剣を構えてゴルガスさんに打ち込みますが、三回やったらフラフラです。なんで剣ってこんなに重いの?

「なんだ、勇者様はもうへばったのか?」

「武器も鎧も重すぎるんです!こんなのじゃ一回武器を振るたびに休憩入れないと……」

「いくらなんでもそれは体力がなさすぎだろ。それに敵は待ってくれないぞ」

「そんなこと言ったってー」

「しょうがない。じゃあまずは素振りからだな。10回だ」

「えー……」

 10回目を終える頃にはもうフラフラで、座り込んで呼吸を整えているうちに眠ってしまったようで、次に目を覚ました時にはもう朝になっていました。



 翌朝。

「そう言えばゴルガスさんってお仕事は何してたんですか?すっとついてきちゃって大丈夫だったんですか?」

「お前今になってそれ聞くのか」

「魔王はおだまり」

「俺はもともと流れ者だったからな。あの町でも日雇いの人足で食いつないでた」

 それってフリーター?定職に就いてなかったんだ……。

「まあ勇者様と合流できたし、魔王討伐に成功すれば名も売れるから引く手数多だろうさ」

 うわー、なんて適当な将来設計。
 どう見ても30過ぎのおじさんがそんなことでいいの?

 というかその前に肝心なことが。
 私は膝でくつろいでいる魔王を持ち上げて、ゴルガスさんの前に突き出します。

「ゴルガスさん、これが魔王だってわかってます?」

「ああ、知ってるよ?」

「魔王討伐って、この子と戦うってことですよ。こんな小さな子とほんとに戦えるんですか?ていうか、そもそも戦いになるんですか?」

 するとゴルガスさんは頭をポリポリ掻きながら言います。

「それって勇者様が考えることじゃないのか?」

 えっ?

「いや、もちろん俺も何もかも勇者様に丸投げするつもりはないぜ?ただ基本的な方針は勇者様が考えてくれないとな。もちろん相談されれば知恵も貸すし意見も言うが、俺は勇者様を信じて付いていくんだからな」

 とゴルガスさん。

「まあ確かに、仮にもリーダーだしなぁ。だが戸惑うのもわからなくはないさ。今まで異世界にいて突然召喚されたわけだからな。いきなりリーダーの自覚を持てとか言われたって、そりゃ無理だろう。だから時間をかけても構わないさ」

 と魔王。

 そんな事言われましても……。

 そこへマリアさんがやってきました。

「あらあら皆さん、何か深刻なお話ですか?でも大丈夫。あったかくておいしいものを食べれば良い案も浮かびますよー。というわけで!朝ご飯ができましたよー」

 考えなきゃいけないことは山ほどあるけど、お腹が空いていては考えもまとまりません。
 みんなで朝ご飯を頂くことにしました。



「まず大事なのは、するべきことの確認だな」

 みんなで朝ご飯を食べている最中に魔王が言います。

「魔法使いを仲間にする、じゃないの?」

「それは短期的な目標だな。最終目標があって、そのために果たすべき目標の一つだ」

「それはわかるけど……」

「じゃあ勇者よ、最終目標はなんだ?」

「魔王を倒すこと……?」

「惜しいけどちょっと違うな。魔王を倒すのはそれによって得られる結果が欲しいからだ。つまり?」

「んー?」

「そりゃあれだろ、魔王軍による人間界侵略を阻止することだろ」

 あ、そうか。ゴルガスさん頭いい。

「まあその辺をきっちり勇者にも認識していてほしかったわけだが」

「むー」

「そう考えると、魔王軍を阻止する方法は一つじゃないかもしれないってことになるわけだ」

 魔王が言ってるのってなんのことだろう?

「わかんない……例えば?」

「そうだなぁ……すでに人間界に入り込んだ連中は仕方ないが、これ以上の増援を阻止するために、ポータルを閉じるって手があるな」

「ポータル?なにそれ?」

「そもそも魔界と人間界は地続きじゃないんだ。だからその間を移動するには魔法によって作られた通路が必要になる。それがポータルだ。そいつを閉じてしまえば問題はおおかた解決するわけさ」

 そこにゴルガスさんが割り込んできました。

「だが、それは間に合うのか?魔物たちがすでにこっちへ現れているってことは、そのポータルは開いているんだろ?」

「それは大丈夫だ。ポータルには大きさがある。今開いているポータルはまだまだ小さなものばかりだからな。小さなポータルでは一部の例外を除いて強力な魔界の住人は通れない。より大きなポータルを開くにはそうした小さなポータルをたくさん開いて、一つにまとめる必要があるんだよ」

 へ、へー。

「なるほど、そいつはどのくらいかかるんだ?」

「俺の命令通りに事が運んでいれば、あと1年はかかるだろうな。今の段階ではまだ先兵が出てきているだけだ。ただそうは言っても、じきにもっと手強い連中が出てくる。時間はそう残されているわけじゃない」

 あー、ゲームで弱いモンスターが最初に現れるのって、そういう仕組みなんだ。

「それに今のサイズのポータルでも通過できるサイズで厄介なやつもいくつかいるから、警戒は怠っちゃだめだな」

 魔王はどっちだろう?
 ……おじいちゃんだったしなぁ。

「厄介なやつっていうと?」

「そうだなぁスライムやミスト系はポータルのサイズにほとんど関係ないから、今の状態でも入ってこれるだろうなぁ」

「え、スライムって雑魚じゃないの?」

「とんでもない!」
「とんでもない!」

 うわ、ハモって突っ込まれた。

「あれは相当厄介だぞ。以前の魔王軍侵攻のときに入り込んだのがこの世界のあちこちで結構残留しているから時々被害が出るんだ。あいつらは普段は天井にへばりついて誰かが下を通りかかったら落ちてくる。そして獲物を取り込んで溶かして食うんだ」

 う、なんかグロそう……。
 ゴルガスさんの説明に今度は魔王が追加します。

「あいつらが厄介なのは普通に武器で攻撃しても死なないことだな。何しろもともと不定形の生き物だから、剣で切ろうにも二つに分かれるだけだし叩いたって伸びるだけ、生き埋めにしたってじわじわ染み出して出てくる。効果的なのは炎だが、それもたいまつ程度じゃ効果は薄い。大量の油をぶちまけて一気に焼き殺すとかしてどうにかなるというところだ。幸い知能というものは全くないから発見できれば避けることはできるが、そもそも発見するのも結構難しい」

 えー、ゲームではぽよぽよなのに……。

「ミスト系も厄介だ。ガス状生物でうっかり吸い込んだら肺を焼かれて死ぬ。こいつらはガス状の名の通り火を放てばどんどん燃えるから、そういった意味では対処は楽だがな」

「そう。だが問題は見つけるのが飛び切り厄介だってことだ。何しろガスだからな。暗いところだとまずわからない」

 うう、おうちに帰ってもいいですか?

「ほかに厄介なのといえばアンデッド系がいるな。強さはピンキリだが、割と共通しているのが仲間を増やすことだ。つまりゾンビに殺されたらゾンビになる。ヴァンパイアなんかはもともと強力なのにそのうえ仲間を増やすから輪をかけて厄介だ」

 ゾンビはなんかグチャグチャしてそう。
 でもヴァンパイアってイケメンイメージです。

「なんにせよ、そういう連中を相手にするには剣だけじゃ足りないからな」

「だから、魔法使いを仲間にしなきゃいけないってこと?」

「ま、だいたいそういうことだな」



 さて朝ごはんが終わって、いよいよ迷いの森に入ります。
 どんな冒険が待ち受けているのでしょうか!?



 あっさり到着しました、魔法使いのお屋敷。
 森に足を踏み入れると、木々が避けて道を作ってくれて、真っすぐ歩いたらなんか着きました。
 冒険とかは?

「いいんじゃないのか?お前、めんどくさいの嫌いだろ」

 それはそうだけど……。


「ようこそいらっしゃいました、勇者様」

 出迎えてくれたのは、灰色でつばの広いとんがり帽子とローブを着た背の小さな魔法使いの女の子です。
 微妙に袖が余っているのと、自分の身長よりも長い杖を抱えているのが萌えポイント。

「おね……し、師匠のところへ案内します。こちらへどうぞ」

 セリフを噛んだりするところもキュートです。抱っこするなら魔王よりこっちでしょう。

 小さな魔法使いさんはとことこ歩いて道案内。
 一歩ごとに上下にピョコピョコ揺れる杖ととんがり帽子のてっぺんは癒しです。

「さっきから緩みきった顔をして、お前気持ち悪いぞ」

 魔王が何を言ったところで、目の前に天使がいるのです。気になりません。


 魔法使いの屋敷は、無数の木が寄り集まってできた巨木を中心として、そこから生えた枝やうろを利用していくつもの部屋が組み込まれています。まさにツリーハウス。

 私たちは小さな魔法使いさんに案内されて、曲がりくねった階段や廊下を歩いていきます。

 まるで迷路みたいな道のりの中、時々見える外の風景から、自分たちがだんだん木を登って行ってるのがわかります。

 そしてついにたどり着いたのは寄り集まった木の幹の上に広がった空間でした。
 大小の丸太で作ったテーブルと椅子のセットが置かれ、そこに一人の魔法使いのおばあさんがいました。

「ししょー、お連れしましたー」

「ご苦労さん。あんたたちが勇者一行かね。勇者はどいつだい?」

 魔法使いのおばあさんはしわがれた声で言いました。
 すると周りがいっせいに私を見ます。
 ……そうでした、私が勇者でした。

 私は一歩前に出ます。

「私が……勇者……かも?」

「かもじゃないだろ」

 いいから!

「ふーん、あんたが勇者かい」

「あ、はい」

 おばあさんは私を値踏みするようにじろじろ見ます。
 なんかムズムズする……。

「ずいぶんやせっぽちだねぇ。ちゃんとやっていけるのかい?」

「は、はぁ……」

 正直あんまり自信はないです。

「これはまずは実力を証明してもらう必要がありそうだね」

「実力……ですか」

「ああ、腕試しにちょうど良さそうなのがすぐに来るみたいだよ」

 おばあさんは上を指さします。

「へ?……なんですか?」

 見上げた私の目に映ったのは……真上から落下して迫ってくる黒い煙の塊のようなものでした。


 え、なにこれ?イベント戦闘!?



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