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プロローグ

「ハッ!!」

ボオォッ!

「アレスくん、すごーい!」

 また女子たちが俺に夢中だ。全く、参ったものだ。ただ目の前の超硬化コーティングされた魔人形を、消し炭にしてやっただけなのに。手をかざして、ほんの少し念じるだけで、この騒ぎよう。俺は至って普通のことしかしていないのになあ…。

「うむ、アレス、合格。次!」

 今日は、実技テストの日だ。もちろんこの俺、ベジンリ・アルト・アレスは、上位に入って通過するだろう。そう、«上位»だ。決して、俺がこの学校のトップな訳では無い。

ズオオオォオ!!

「キャー!ギースくーん!!」

「いつ見てもやべぇ……」

ほら、やっぱりザワついている。魔人形が、地面に引きずり込まれて、どこかへ行ってしまった。ダークホールの使い手、ウィーク・ギース。奴はランキングの、いつも俺の上の方に名前がある。憎たらしい奴だ。まあ、顔は俺の方がカッコいいから良いが。


この世は、魔法が全て。生活も、経済も、国政も、…そして、戦争も。魔法があるおかげで、世界がとても円滑に回っている。その魔法を、扱うのは『人』。優秀な人材が、今、世界中で求められている。そのレベルも、年々上がっている。


厳しい世界なんだ…。
俺も、このままでは駄目なんだ。


見慣れた病室、そこに眠る一人の女性。母だ。顔は元気そうに色づいているのに、目を覚ます気配は無い。この病院の先生の魔力では治せない、重い病気を患ってしまった。もっとお金があれば、他の国から天才医師が呼べるのに…。


俺はそんな母の近くのいつもの椅子に座って、彼女の手を取る。少し、暖かい。昔の記憶が、ぬくもりと一緒に蘇る。


「おれの名はアレス!世界一かっこよくて、世界でいっっっちばん強い男だ!」

 母さんの作ってくれた草冠を被って、いばってた。

「だよね?ママ!」

「フフ、ええ、そうよ、アレス。あなたは世界で一番カッコよくて、強くて……、私の一番の宝物……」

 抱きしめられたあの時のほのかな甘い香りが、今も微かに鼻に残っている。
 母の手に雫が滑る。俺は、母の手を強く、つよく握りしめていた。

「ちゃんと俺、強くなっからなぁ……!世界で一番強くなって、絶対母さんのこと、助けるからなぁ……!! だから、死なずに待っててくれよぉ………!!」

 その部屋に、電子音だけが寂しく響いていた。



 ーーーー…………ふざけるな。何なんだ、お前らは。何者なんだ。何処から来た? どうやって来た? 何のために?




どうして……。

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