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悩める若者

2020年、季節は12月だった。

神奈川県のとある町にみょうせいじと

言う寺があった。

このお寺は普通の寺ではなかった。

普通のお寺は壇かさんたちがいるが、

この寺には悩み事がある人がたくさん

来るお寺はだった。

寺ではいろいろな悩み事を聞いてお布

施をもらっていた。

時刻は朝の4時だった。

この寺の新しい住職であるさかもとか

なぎは、目覚まし時計がなくともいつ

も朝のこの時間に起きていた。

かなぎはゆっくりと目を覚ますと立ち

上がり背伸びをして、体の緊張をほぐ

した。

かなぎ

(うーん、今日は一段と寒いな・・・・・・)

そういうとかなぎは部屋の中にある電

気ストーブの電源を入れた。

ブウウンと言うおととともに、暖かい

空気が排出された。

かなぎは今年で46歳になった。

去年、かなぎの父親である全住職は、

ガンになり長いこと入院生活をしてい

たが、亡くなった。

かなぎの関係者は悲しみと共に全住職

を送った。

そして次の住職にかなぎが選ばれた。

新しい住職になったかなぎは常に不安

を抱えていた。

何故ならば、この寺に悩み事を相談し

に来る相談者から誰も相手にされてい

なかったからだ。

それはかなぎが当初、若いと言うこと

もあり、何よりも相談者の話には耳を

傾けるが、そこに答えか光をあてるこ

とができなかったからだ。

相談者たちは全住職が亡くなると悲し

みながらこの寺から去っていった。

それほどまでに、かなぎの父親は絶大

な信頼を持っていた。

そんなこともあり、かなぎはこれから

新しい相談者の悩み事を正確に聞い

て、答えられるのか、不安だった。

彼はこの町で生まれ、この町で育った。

かなぎの母親も今年で81歳になっていた。

母親は他の家にすんでをり、父親が亡

くなってからふさぎこんで、時おり泣

いていた。

仏教の開祖、ゴータマシッタ、ブッタ

はこうといていた。

(この世界は生老病死の世界である)

かなぎはわかってはいるのだが、たま

に、たまらなく悲しくなった。

そしてこんなにも早く自分が寺の住職

を任されることを誰となく恨んでいた

時期があった。

わかってはいるのだ、売らんでも、悲

しくても、生きなければならないこと

など。

かなぎはわかっているのだが、そんな

ときには己の未熟さに腹がたった。

しかし、この事は誰にも話してはいなかった。

この問題は長い時間をかけて、かなぎ

が一人で解決しなければならないと深

く思っていた。

かなぎは深いため息を漏らした。

今日からはじまる相談会のことを考え

ると胃が痛くなる。

思わず右手で胃の辺りを撫でた。

かなぎは思った。

(今日の相談会、果たして勤まるだろう

か、この私に、父さん、いくのが早す

ぎるよ)

かなぎは戸を開けた。

戸を開けると外は初雪が降っていた。

かなぎは思った。

(初雪か、どうりで今日は寒すぎるわけ

だ・・・・・・)

暗く薄暗い外をぼんやりと眺めている

と、自然に流れている初雪がとても綺

麗だった。

かなぎは笑みをこぼしと思った。

(そうだな、いま、この事に悩んでも仕

方がないな、よし、やるか・・・・・・)

かなぎは布団の横に置いてあったコッ

プと水の入った瓶をとり、つぐとゆっ

くりと飲んだ。

それから15分もすると布団をたたみ、

ストーブと部屋の電気を消して、ドア

を開けて1日のお勤めに向かった。

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