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16、1号がとても頼もしく感じるなんて俺もヤキが回ったかな?

 風呂の効果は偉大だ。
 昨夜あれだけ危険な様子だった野郎どもが皆スッキリした顔立ちで起きてきた。
 寝ている間にもきのこの分体達は探索を続けていたようで、16階層までのマップができたらしい。

『貴様達は寝なくても大丈夫なのか?』
「ん? ああ、この身体は疲れ知らずでな。モンスターと遭遇しなければ大丈夫だ」

 そういうものなのか。便利なもんだ。
 もっとも昨夜あっという間に風呂を作ってみせた1号のスキルならば、戦闘も本当は余裕なんじゃないだろうか。

「おはようございます、リージェ様」
『む、お、おはよう、ルシア。よく眠れたか?』
「ええ。とても素敵な夢を見られましたわ」
『そ、そうか。それは良かった』

 にっこりと微笑むルシアちゃんがなんだか艶めいていて、まともに顔を見られない。
 これまで一緒に風呂にだって入っていたというのに、無性に気恥ずかしいのだ。
 俺は話題を変えるべく1号に話しかける。

『そ、それで、この先に階層ボスはいたか? ……っ!』

 ルシアちゃん、何でピッタリとくっついてくるのかな?!
 ちょ、お胸当たってる! 当たってるから! あっ! 尻尾くりくりするのやめなさい!

「あぁ、15階でうろうろしていた所を隠れてやり過ごした。向かっていた方角的に14層に上ろうとしてるっぽい」
「なら、またすぐに遭遇する可能性があるな」
「復活時間が早すぎないか? これだと、15階に上がったらまたいるかもしれない」

 俺の方をにやにやしながらも、階層ボスの情報を伝える1号。
 すぐに戦闘になる覚悟をするアルベルトに、ベルナルド先生が再三の戦闘を避けるべく今回はやり過ごさないかと提案する。
 輜重部隊が用意してくれたあまり美味しくない野営食を食べながら話し合い、このまま最短距離を突き進み、遭遇したら倒せばいいということになった。

『まぁ、雑魚だし余裕だろ』

 恐らく、階層ボスがこの先黒モンスターになっている可能性はない。
 偽女神という強敵を前にして力を削ぐような真似、俺ならしない。
 以前少し会話しただけだが、アミールは頭もキレそうだった。
 黒モンスターを結集させてるのも、結晶を回収して力を戻すためだろう。
 つまりこの先黒モンスターと遭遇する可能性は極めて低い。どうやってレベルの底上げすっかなぁ……。




「あの、少々宜しいですか?」

 そうして出発してからすぐ。
 もう少しで14層の階段がある、という所でジルベルタが時間をくれと伝えにきた。
 なんでも、装備修繕のために連れてきたバトルスミスが、壁の中に気になる物があると言い出したらしい。

「ここだ……です。儂のスキルが、ここに宝があると言っている……です」
『壊せないことはないが……』

 腹はずんぐり、腕と足はムキムキという随分アンバランスなちっこいおっちゃんが壁をポンポンと叩いている。
 示された壁をベルナルド先生やドナートが叩いたり押したりしてみたが、何か仕掛けがある様子はないそうだ。
 おっちゃんはそれでもここにあると言い張っている。丁寧な言葉遣いは慣れていないのか、無理している感が半端ない。
 横にいた軽鎧に柄の長いハンマーを持った若い男が頭を下げた。

「作戦行動中に足を止めさせてしまって申し訳ありません。ですが、こういう時の親方はいつもその時に必要な物を見つけるのです。だから……」
『今回も、俺様達に必要な物があると』

 若い男が頷く。
 そう言われたら気になるではないか。

「よっしゃ、俺に任せとけ!」

 壁に激突してHPを半分以上削るという俺の醜態を見ていた1号が、任せろと前に出る。
 正直、ルシアちゃん達の前で醜態を晒さずに済むからありがたい。
 1号が壁に向かって土魔法のスキルを放つと、壁が踊るように形を変えた。
 おお、1号がとても頼もしく感じるなんて。俺もヤキが回ったかな。

「今とても失礼なこと考えなかったか?」
『いや、別に?』

 ジト、っと睨みながらも、1号は壁の中から卵のようなものを見つけ出して俺の前に寄越した。
 それは、よく見ると彫像が削れたような感じだ。薄らと顔のような物があってちょい不気味。
 そして結構大きい。ルシアちゃんが体育座りして身体丸めたらこのくらいかな。
 鑑定ちゃん、これなぁに?

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【風化した女神像】

 忘れ去られし古の女神を象った彫像、だった物。
 作成者:ルネット・デラ・チェチルカーレ

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 んん? 忘れ去られし古の女神? 本物の女神ってこと?
 ルネットとかいうのが誰だか知らないが……何でこんな所に?
 とびきり頑丈なダンジョンの壁の中にあったってことは、偽女神が隠してたってことか?

「これが、私達に今必要な物、なのでしょうか?」
『少なくとも、誰にも触れさせたくないからダンジョンの壁の中にあったのであろうな』

 持ち歩くには少々大きすぎるが、持っていく意義はあると思う。
 輜重部隊の引いている小型の台車に乗せてもらおう。
 若いバトルスミスにそう頼んで、持ち上げてもらった時だった。

 ーーガシャッ!

「あっ!」

 あちこち脆くなっていたのだろう。
 手に触れていた部分が崩れるように欠け、女神像は落下した。
 血の気が失せる瞬間って本当にあるんだよな。
 狼狽して平謝りしながら今にも自決しそうな若いバトルスミスを宥める。

「おい、何か入ってるぞ?」
「『え?』」

 1号の言葉に全員の視線が女神像に集まる。
 女神像の割れ目から、何かが見えた。



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