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天下への階段7

 玉虫色の講和となった。中央に2人が並び立ったことになった。これで治まることがないだろう。蝙蝠は小頭として長老の元に帰る。狗は再び浜松城下に戻る。旅籠に戻ると鼠が待っている。
「初めてあの寺の中に入り込めたのです。それがそこには光秀の姿はなかったのです」
「光秀がいない?」
「寺から出た形跡がないのです」
「京之助は?」
「大坂に旅に出たようです」
 これは長老から以前報告があったのを思い出した。秀吉が大坂に城を築くと言うことだった。京之助はまた隠密に戻ったのか?あの寺での戦いではわざと狗を逃がしたのだ。揚羽のいうのが事実だろう。
「あの寺には?」
「天海と言う僧がいます」
「天海?」
 その名で家康と宗矩との会話を思い出した。
「光秀では?」
「顔が全く違うのです。それで年寄りに天海の素性を調べさせています」
「揚羽は?」
「やはり姿が見えません」
「よし、天海を拝みに行こう」
 その夜、鼠を連れて寺に潜る。やはり鼠のいうように忍者の気配はない。庫裡の中を覗くと体格のいい僧がお経をあげている。前から回って覗いてみる。光秀ではない。だが目の奥の光に覚えがある。
「鼠、しばらくこの天海を見張るのだ」
 狗が外に出ると表に年寄りが待っている。繋ぎの文を渡される。これは秀吉からすぐに大阪に来いと言う命令だ。

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