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vs, ボクらのファイナルバトル Round.7

 
挿絵


 意思が息吹(いぶ)く。
 惑星が胎動(たいどう)する。
 星々は畏怖(いふ)忌避(きひ)し、太陽は威厳を競い合う。

 それ(・・)は膨大なるエネルギーの(かたまり)
 宇宙に浮かぶ不定形な光球。
 落ち着きのない表層変化を浮かばせる異物。
 幾多(いくた)もの白き龍が絡み合い、噛み殺し、無に(かえ)り、生まれる。
 (ある)いは、それ(・・)自体が(まばゆ)い心臓とばかりに鼓動を刻み、宇宙から(エナジー)を吸収する。
 
 人知及ばぬ存在──。
 かつては肉体を(かせ)と持っていた種族──。
 進化の果て統合された精神集合体──。
 そして、宇宙の真理(ことわり)を監視し、調和と進化を()いる者──。
 それ(・・)は〈高次元生命体(エルリヴ)〉と称される者────。

 小柄な銀髪少女の意識は、それ(・・)と対面していた。
 物質的な対面ではない。
 距離と時間の束縛も、そこには無い。
 純然たる〝意識(・・)意識(・・)の対峙〟だ。
 この感覚を前時代的な生態系の観念で把握させる事は難しいが、精神世界での魂同士の邂逅と言えば近いだろうか。
「地球のデータ収集は予定通り完了した」
 少女が報告すると、光の(かたまり)は歓喜の(ごと)く膨張と伸縮を見せた。
「今回の査察に当たり不確定要素(イレギュラー)として〈ベガ〉の介入があったものの、(おおむ)ね〝地球人類の素養〟を見極めるには障害とならなかった」
 白光が不安そうに脈打つ。
「心配無用。今回保護した〈ベガ〉には、私が責任を(もっ)て新天地を探し与える。尚、不確定要素(イレギュラー)の主犯格は〝ジャイーヴァ〟──(すなわ)ち〈リトルグレイ〉へと退化する前の種族〈レトログレイ〉の生き残り。無論、彼にも意識成長の再教育を(ほどこ)すつもり」
 本題を()いて膨張を見せた。
「問題ない。〈ベガ〉同士の対決図式に(おちい)ったものの、それはいずれ(おとず)れる宇宙進化論に()ける誤差範囲内。むしろ、結果として〝地球人の本質と可能性〟を見極める好材料となった」
 結論を求めて膨張と伸縮を繰り返す。
「これは、私的見解。やはり地球人類の連帯向上意識は、まだまだ未成熟と言わざる得ない。もしも、このまま宇宙進出すれば、地球のみならず近域銀河まで実害を及ぼす(おそ)れは(いな)めない」
 納得したかのように鎮まると、続けて英断を吠えるかの(ごと)く荒ぶった。
「違う。それは早計。滅ぼすと判断するには、まだ未知数……」
 胎動(たいどう)に示された懸念(けねん)を、彼女は確固たる意志に否定する。
「不要。例え、私の観察介入が無くとも、彼女達(・・・)には生産的な共存未来を築ける可能性が眠る」
 数多(あまた)の銀河──幾多(いくた)の惑星が〈高次元生命体(エルリヴ)〉によって試されてきた。
 宇宙全体の調和を(たも)(ため)に……。
 その使徒として現場観察を(つかさど)るのが〝彼女(・・)〟のような存在である。
 彼等〈高次元生命体(エルリヴ)〉に、私情は無い。
 超進化に()いて種族的統合を果たした際に〈個〉としての肉体を破棄すると同時に、人間的な感情も失われた。
 厳粛(げんしゅく)()つ公正な判断には、統べて不要な障害だ。
 (ふるい)に残らぬ生態系は、滅ぼさねばならないのだから。
 それは強者の(おご)りと紙一重な独断にも映るが、宇宙全体の摂理からすれば至極正統性を帯びた(おこな)いでもある。
 この宇宙は──世界は、地球人類の(ため)だけに在るわけではない。
 統てが『パワー・オブ・バランス』だ。
 しかし、それでも──。
彼女達(・・・)には、無限の可能性が眠っている。それは時として、因果率や確定結果未来軸(ラプラス・コンプレックス)でさえも(くつがえ)す。よって、いま(しばら)くは観察継続の余地が必要。以上が、今回の一件で私が学んだ事実」
 学んだ?
 誰から?
 その問いには、彼女も淡い苦笑を浮かべるしかなかった。
「たぶん〝宇宙一(うちゅういち)不確定要素(バカ)〟──そして、私の…………」


 現時空軸へと意識を戻した少女は、小休止として宇宙船のコントロールシートから離れた。
 制御室内を低重力任せに浮遊し、一面(いちめん)耐圧ガラス張りのキャノピーへと泳ぎ着く。
 流れ過ぎる星々を眺めるも、そこに地球は無い。
 遥か光年の彼方だ。
 だが、そこには確実に存在している。
 あの青い惑星(ほし)も……。
 あの騒がしい未来(ともだち)も…………。
日向(ひなた)マドカ、アナタは結果として地球(ともだち)を救った……自覚は無いと思うけれど」
 幼き容姿をした〈高次元使徒(オーバーロード)〉は、敬愛と祝福を込めて微笑(ほほえ)んだ。
「……育乳、頑張れ」
 そして、この時、薄く反射する自分を見て、初めて変化に気が付いたのだ。
「あ……私、微笑(わら)えた?」

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