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vs, ブロブ Round.8

 
挿絵


 イートインコーナーの一卓(いったく)で、ボクは(なぐさ)められていた。
 ジュンが(おご)ってくれたソフトクリーム……おいし ♪
「でも、それはラムスが正しいわ。目的は夕飯の買い物なんだし、彼女だって預かった予算で計算している。そんな中でオモチャなんて買っていられないわよ」
「オモチャじゃないよ! お菓子のオマケだよ!」
「主体は〝オモチャ〟なのに、申し訳程度のお菓子を付属させて便宜上(べんぎじょう)〝菓子〟として分類販売させる──食玩(しょくがん)商法っていうのよ、そういうの」
「でもさ? ヒメカの『魔法戦士(セラキュア)チョコ』はオッケーなんだよ?」
「それってオマケは?」
「シール」
「値段は?」
「八十円」
「あなたのは?」
「六百円」
「高ッ!」
「プラモデルとシールを(はかり)に掛けるな!」
「プラモデルを買おうとするな」
 冷徹な正論で撃沈された。
 ボクはテーブルへと()()す──いや、()伏死(ぷし)すると涙声ながらに(うった)える。
「合体したいよ~ぅ……ジュン、どんな感じになるのか合体してみたいんだよ~ぅ」
「分かったから! 分かったから、(ひと)の名前を織り込まないで!」
 周囲の目を気にしてアワアワしていた。何故かは知らないけど。
 とりあえずアイスミルクティーを(たしな)み、彼女は強引気味に平静を取り戻す。
「でも、安心した。ラムス、うまくやっているみたいね。ヒメカちゃんは、すぐ受け入れたの?」
「意外と早く思い出したよー……教えてから一分(いっぷん)で」
 ボクは()伏死(ぷし)フテ寝で対応した。
 いくらヒメカでも信じるまでは時間が掛かるかと思いきや、信じる信じない以前に記憶(・・)が戻った。
 たぶん心の底に、こびりついていたんだろう。
 それだけヒメカにとっても〝大事な友達(・・・・・)〟だったってワケだ。
 人間の〝大切な記憶〟が、機械なんかで完全操作できるわけがない。
 そう、できてたまるか!
 だから、ボクの〝胸ペッタン〟という心象も()()えられないんだよ……シクシク。
「ラムスが〈ベガ〉って事も思い出したの?」
「出したよー」
 覇気無く()伏死(ぷし)たまま返す。
 ボクの気力が()れている事を感じ取ったか、彼女は無難な話題へと推移(すいい)した。
「にしても……あなたのお母様も、あんな同居理由をよく通したわね」
「ウチのお母さんは〝()る時は()る女〟だもん」
「それ……たぶん賞賛の字、間違ってる」
 口頭(こうとう)で、よく分かったな?
 でも──「間違ってないよぅ」
「はい?」
「実際、今回の件を承諾(しょうだく)させる過程(かてい)で、ボクは〝ウェスタンラリアートのちタイガードライバー経由(けいゆ)ドラゴンスリーパーホールド〟を喰らったし」
「……技の名前は解らないけど、何かエラい目に遭ったのは分かった」ドン引きしながら、気マズそうに氷をストロー突っつき。「まあ、あんな嘘じゃあね」
「別にボクを疑ったわけでもなければ、新家族提案への拒否でもないよ。ボクのお母さんは、基本的に(じょう)(あつ)い人だもん。むしろ『彼女には身寄(みよ)りがいなくて天涯孤独(てんがいこどく)』って(うった)えたら、深い同情を寄せていたぐらいだし」
「じゃあ、何で?」
「帰宅したら、ボクの部屋が半壊していたからだよぅ……ボクの顔を見るなり、問答無用で『今度は何やったぁぁぁーーッ!』って……シクシク」
「……ああ~~~~」
「何さ? その妙に納得した『ああ~~~~』は?」
「いえ……日頃(ひごろ)(ほど)(うかが)えるなぁ……って。あなたの信用具合」
「失敬だな!」
「失敬かなぁ?」
 本気のクエスチョンでやんの。
半殺(はんごろ)されるボクを()の当たりにして、さすがのラムスも戦慄(せんりつ)に凍りついてたっけ……」
「宇宙怪物が引く日向(ひなた)()って、いったい……」
「ま、ヒメカが直訴(じきそ)して怒りを(しず)めたんだけどね」
 手頃な会話も尽き、二人して微妙な沈黙にたゆとう──。
 やがて、ジュンが眼差(まなざ)しを落として(つぶや)いた。
「ねえ? 今回の件で改めて思ったんだけど……〈ベガ〉って何なの(・・・)かしら?」
「少女型ベム」
 ()伏死(ぷし)継続(けいぞく)で無気力()簡潔(かんけつ)に答える。
 投げやりな感情に(さいな)まされて、もう全部がどーでもいいし。
「それは判っている。でも何故、総じて少女型に?」
萌娘(もえっこ)の方がいいんじゃないのー? 読者的にもー?」
「何だ〝読者的に〟って」
 ジュンはアイスティーで気持ちをリセット。
「ヒメカちゃん、毎日楽しいでしょうね。新しい姉妹ができたみたいで」
「何だよぉ……ジュンまでヒメカヒメカって」
 思いっきり()ねた。
「何? ()いてるの?」
「うん」
 肩を(すく)めて苦笑すると、ジュンは優しい抑揚(よくよう)(なぐさ)める。まるで駄々(だだ)()(さと)すように。
「大丈夫よ。ヒメカちゃんにとって、ラムスはあくまでも親友。何だかんだ言っても〝大好きなお姉ちゃん(・・・・・・・・・)〟は、あなただけよ」
「じゃなくて……ジュンってば、ヒメカには優しい」
「え?」
「ボクだって、ジュンにアマえたいのに……イジイジ」
「え……えっとぉ?」
 何故か(ほほ)を紅潮させてドギマギしていた。
 ボクは素直な心境を答えただけなんですけど?
「ハァ……本当、世話が焼ける()なんだから」
「ふぇ?」
 (いつく)しむような困惑に、ボクはようやく顔を向けた。(ほう)けて締まりない顔を。
 顎線(あごせん)に指を添えて、何やらジュンは思案する。
「う~ん、そうねえ……一個だけならいいかな?」
「何が?」
「そのプラモデル、一個だけなら買ってあげる」
「ええッ! いいの?」
 思わず興奮して、ガバッと起立!
 ボクの現金な態度を見て、彼女は微笑(ほほえ)んだ。
「人知れず頑張ってるから、私からの御褒美(ごほうび)。私も臨時(りんじ)収入(おこづかい)があったしね……この間の模試(もし)、成績良かったから」
「じゃあ、三号と七号と九号と──!」
「一個だけ!」

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