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vs, モスマン Round.8

 
挿絵


「モグモグ……ゴクン……ってか、ボクは快諾した覚えはないぞ! そもそも、こんなパンピーJKに地球防衛を一任して、どうする気さ!」
「アナタは普通じゃない」
 ……ヤな誤解を生む()(ぐさ)だな。
「現実として、もはやアナタは生物学分類的見地から〈ベガ〉以外の何者でもない。従って、アナタの主張や意向は無意味」
「さらりと残酷な定義をすな! そんな〝悪魔〟か〝人間〟か〝悪魔人間〟か──みたいな!」
日向(ひなた)マドカ、そもそも〝悪魔〟は実在しない空想産物であり、無制限に拡張設定が可能。従って〈ベガ〉との比較対象としては不適切」
 細かッ! この()、細かッ!
「ともかく、これからも種々様々な〈ベガ〉が、アナタを襲撃してくるものと思われる」
「モグモグ……ふぇ? 何でさ?」
「アナタ名義でジャイーヴァへの宣戦布告を送付しておいたから」
 ……え?
 何してくれてんの? この()
「これで、一般人が巻き込まれる可能性は激減した。準備万全」
 ボクは巻き込まれてますけど?
 それも、渦中のド真ん中に……。
日向(ひなた)マドカ、人々の平穏はアナタに委ねられた」
飛蝗(バッタ)改造人間(サイボーグ)かーーッ! ボクはーーッ!」
 思わず頭抱えてオーマイガッ!
 閑寂が支配するゴーストビルに、ボクの憤慨が虚しく木霊したよ!
 どうやらボクが何に(・・)怒気(どき)ってるのか理解できず、天然SF娘は「ふむ?」と小首を傾げる。
 あ~、もう!
 一挙一動がロリくてカワイイな! もう!
 怒気(どき)()がれるな! もう!
 と、ややあって彼女はポンと手堤(てつづみ)を打って独り合点した。
「心配無用。今後、戦闘に必要となる有益情報や凡庸装備は、こちらから提供する。あなたは戦闘にだけ集中してくれればいい」
「そういう事じゃないよ!」
「まずは、とりあえずコレを譲渡しておく」
 そう言って取り出したのは、シノブンに放電攻撃したカード──の、色違い。赤色のヤツ。
 それをボクへと手渡してきた。
「何? コレ? TCGみたいだけど……イラストスペース真っ黒けじゃん」
「TCG? 何?」
 初見アイテムを怪訝そうに覗くジュン。
 一方で、ボクにしてみれば馴染み深い玩具(ホビー)だ。ヒメカとやってるし。
「ジュンってばTCGも知らないの? つまり『トレーディングカードゲーム』の略だよ。集めたカードでデッキ作って対戦するんだよ」
「え? え? 甲板(デッキ)を作……え? 船を作るの? え?」
 混乱に拍車が掛かった。
 どんだけ俗物趣味に興味無いんだか。
日向(ひなた)マドカ、それは誤認。コレは〈パモカ〉──つまり〈パーソナル・モバイルカード〉と呼ばれる超薄型多機能電子端末」
「いや、どう見てもトレカじゃん。ミスプリ試作版じゃん」
「見た目は酷似していても、実質は超科学の結晶。アナタがイラストスペースと勘違いしているのは、ディスプレイ画面。ディスプレイフレーム四隅のアイコンをタッチすると、様々な多機能アプリが立ち上がる仕様。もちろんディスプレイ自体もタッチパネル」
「……言い張るか」
「使用アプリによっては、簡易的ながらも自衛手段になる──先程、胡蝶宮シノブへと放電攻撃したように。(さら)に、パモカ間の通信・通話に()いては〈ネオニュートリノ・ブロードバンド〉を採用。太陽系圏内ならばタイムラグ皆無で連絡が取れる」
「言い張るか!」
「百聞は一見にしかず」
 宣言に沿()い、アイコンを長押しするクルロリ。
 と、イラストスペースが「ヴォン」と電子音を鳴いて(とも)った!
「おおっ? マヂか!」
 未知のハイテクツールを前に、一転してテンションがアガる!
日向(ひなた)マドカ、コレをアナタに譲渡する」
「ホント? イエス!」
 ボクは嬉々としてイジリまくった。
 先程までの憤りは何処へやら……だ。
 だって、目新しいアイテムってワクワクするじゃん?
「にへへ~♪  ボクのパモカか~♪ 」
日向(ひなた)マドカ、気に入った?」
「うん! 寸分違わずトレカなのに、スマホやタブレット以上の性能なんて……これでアガらないワケないじゃん!」
「良かった。これで交渉成立」
「うん♪  ……って、え? 交渉?」
 不吉なワードに、警戒心が硬直を(うなが)す。
 強張(こわば)った満喫顔で一応確認。
「あの? 交渉成立って何の?」
「今後、アナタには〈ベガ〉と戦ってもらう事になる」
 やっぱりだーーッ!
 ボクは血相変えて訴えた!
「返すよ! クーリングオフで!」
日向(ひなた)マドカ、私は営利目的の企業団体ではない。よって、その制度は受け付けていない」
「トんだブラック企業だったーーッ!」
 と、それまで傾聴していたジュンは熟考を噛み締め、クルロリを露骨に警戒視する。
「これほどの超常的情報に精通している──あなた、いったい何者なの?」
「それに関する情報開示許可は得ていない。現段階では伏せておく」
「納得に足らない返答ね。それで信用できると思う?」
「極論として、事態収束へと事が運べれば〝信頼関係〟は必要無い」
 ()めた一瞥(いちべつ)を返すクルロリ。
 そして、その(かたわ)らで絶叫するボク!
「カムバーーック! ボクのJKライフゥゥゥーーッ!」
 再度、閑寂に木霊する悲嘆!
日向(ひなた)マドカ、頑張れ! 私も頑張る!」
「コンパクトに小脇締めて『頑張る』ぢゃないよ! アブダクション娘!」ガクリと膝を着き、ボクは途方に暮れる。「ううっ……昨日までの平穏な日常はドコへ?」
 ボクの様子を見つめるクルロリが、コクンと小首を傾げた。
「困った……何が不服?」
「逆に訊く……何処に役得(メリット)が?」
「ふむ?」と、一考。「では、任務遂行(ごと)に星河ジュンの胸を()んでいい」
「乗った!」「乗るなーーッ!」
 間髪入れずに後頭部ビンタがスパーーン!
「星河ジュン、世界秩序防衛の(ため)……協力を願う」
「私の秩序が乱れるわよ!」
 ややあって興奮を鎮めると、ジュンはクルロリへと手を差し出した。
「まったく……ハイ!」
「星河ジュン、何?」
「その〈パモカ〉ってヤツ、私にも頂戴!」
「ふぇ?」
「星河ジュン、意図が解らない」
「私もやるって言ってるの!」そして、彼女はボクへと苦笑(にがわら)う。「どうせあなたの事だから、私と一緒ならやるんでしょ?」
「やるーー♪ 」
「理解不能。星河ジュン、どういう風の吹き回し?」
「別に深い意味はないわよ。この押し問答も、そろそろ不毛に思えてきたし。それに──」照れ臭そうに顔を()らした。「──マドカ一人に重荷を負わせるのは、もうイヤだもの」
「ジュンーーーーッ♪ 」
「ひわわ? 抱きつくなーーッ!」
 ──ずごし!
 顔面から崩れ倒れた。
 ジュンが後頭部へ渾身のフックを叩き込んだから。
「何にせよ事態は好転した。星河ジュン、英断を感謝する」
「どう致しまして」
 クルロリの謝辞(しゃじ)を、ジュンは社交辞令然と返した。その態度は冷ややかに距離を置いている。
 あ……コレ、まだ気を許してないな?
「では、現時点を(もっ)て、アナタ逹をコードネーム〈SJK〉と命名する」
「えすじぇーけー? いや、ボク達〝高一(こういち)〟だけど?」
「何の略よ?」と、俗語に(うと)いジュンがキョトン。
「もう! そのぐらい知ってなよ? つまり〝セカンド女子高生〟の略──〝(こう)()〟って事だよ」
「ふぅん?」
「違う」
「ふぇ?」「うん?」
「これは〝宇宙(スペース)女子高生(じょしこうせい)〟の略」
「「ダサッ!」」
 素直な感想がユニゾったとさ。


 クルロリは帰った。
 何処へ帰ったかは知らないけど。
 一足先に席を立ったのを後追いしたけど、(すで)にいなかった。柱の角を曲がっただけなのに……う~ん、神出鬼没だ。
 ともあれ眉唾(マユツバ)臭い情報開示は終わり、ボクとジュンはゴドウィンビルを後にした。
 黙々と帰路を刻む。
 明日からは、前代未聞の青春が幕を開けるだろう。
 モヤモヤした思いが募る。
 けれど、それは〈ベガ〉と戦う事ではない。
 そうなっちゃったものは仕方ないし、もう割りきった。
 ま、なるようになるっしょ。
 ボクの胸中を占めているのは、もっと別な事柄。
 何回考えても()に落ちない。不自然だ。
 見慣れた公園に差し掛かった。
 草木の薫りを運ぶ夜風が爽やかに撫で去る。
 もうすぐ別れ道だ。
 ジュンとは此処でサヨナラとなる。
 だから、ボクの方から沈黙を破った。
「あのさ、ジュン?」
「何よ? 珍しく神妙な顔して?」
「……うん」
 ボクの表情を汲んだか、彼女は慈しむ(うれ)いで優しく言った。
「大丈夫……一人じゃないから」
「ふぇ?」
「私も一緒よ。だから、大丈夫。私達二人なら、何とかなるわよ」
「いや、そうじゃなくてさ」
「……うん?」
 胸につかえる疑問を投げ掛ける。
「〝胡蝶宮(こちょうみや)〟なのに〈()〉とは、コレ如何(いか)に?」
「知らないわよッ!」

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