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vs,モスマン Round.2

 
挿絵


 閑静な住宅が建ち並ぶ舗道は、ボク達〝女子高生〟が醸す青春的若々しさで賑わっていた。
 登校に賑わう制服姿の少女達。制服文化の主流が〝ブレザー〟となって久しいが、我が校は〝ボレロ〟──つまり〝綴じボタンが無い前開き仕様の上着〟だ。かつてのJKマスト〝セーラー服〟ですら珍しい御時世だってのに、(さら)に輪を掛けてガラパゴスぶりがハンパない。
 まあ、可愛いからいいけど。
 ライトブルーのは清楚で品がいいし。
 爽やかな薫風(くんぷう)が吹き抜け、腰丈まで伸びる長い()()げを泳がせた。
 憂鬱(ゆううつ)()(いき)に仰ぐ空は桜が舞い、腹立たしいほどの幻想美。暗く沈む気持ちには対照的だ。
「ハァ……まだ春で良かったよ。時期がずれて、夏服だったらと思うとゾッとする。隠しようがないし」
 左腕は包帯グルグルの完全密封。制服を着ている分には見えないけど、露出した手首だけはどうしようもない。火傷(ヤケド)とか言って誤魔化(ごまか)すとしよう。
 (おもむろ)に足を休めると、ボクはスマホを取り出した。ネット上の情報をググるためだ。
「……やっぱ〈鋼質化〉なんて項目は無いか」
 いっそヤケクソで『左腕が鋼鉄になる奇病にかかっちゃったスレ』でも立ててみようかな。前例が無いなら、反応を見てみたい気もするし。
「マドカ、おはよう」
「あ、ジュン。ハロす」
 仲のいい級友──ってか、大好きな親友と遭遇。
 ボクとは対象的な清楚系美少女〝星河(ほしかわ)ジュン〟だ。
 ちなみに、学年成績上位の常連。つまり模範的優等生。
 フワリと伸びた豊かなロングヘアは、左右側頭部で一握(ひとにぎ)りの(ふさ)にしていた。ツインテールと形容するよりも、まるで愛玩犬の耳のようで可愛らしいアクセントだ。
 顔立ちは美少女フィギュア然と整っているけれど、ほわっとマシュマロのような肉感が現実的(リアル)な存在感を再認識させた。小鼻の下には薄い唇が薄桃色に実り、穏やかで(つぶら)らな眼は澄んだ湖面(こめん)と潤っている。
 やや色白な肌が相俟(あいま)って、むっちりした脚線美が(かも)すフェロモンは強い。躍動的なボクの肢体(したい)とは対照的な美観だ。
 そして何より、Fカップと(みの)った胸は(うらや)ましい。
 二人して、しばらく無言で並び歩く。
 ややあって、ようやくボクは切り出す決心を固めた。
「ねぇ、ジュン?」
「何よ?」
「鉄分増えなかった?」
「は?」
 頓狂(とんきょう)な顔を返されたよ。
「いや……昨日の放課後、屋上でUFO呼んだじゃん?」
「呼んでない」
 素っ気なく否定された。
 あれ? 心無しか、急にテンション冷やか?
「呼んだじゃん! 二人で輪になって『ベントラーベントラースペースピープル』って回ったじゃん!」
「そうね。休日だって言うのに呼び出された挙げ句、校内に無断侵入──その後、一時間も付き合わされたわね。あのアホくさい儀式。ついでに言えば、その後、あなた一人で『ユ~ンユンユン』って呼び掛けるのを、(さら)に三〇分も傍観させられたわね」
「ま、結局来なかったけどね?」
「だから、呼んでない。来なかったから、呼び掛けた(・・・・・)だけ」
「結果論じゃん!」
「結果論よ? 結果論ですけど何か?」
 またもや声音は冷たい。
 何故だろう? 何故かしら?
「もう! さっきから何さ? ツンケンツンケンタムケンと!」
「自分の胸に()いてみたら!」
 怒気(どき)られたので、素直に従ってみた。
「……小さい」
「……誰もAカップを()めとは言っていない」
 ──フニン。
「大きい」
「誰が私の胸を()めと言ったァァァーーッ!」
 通学鞄がボクの後頭部をスパーン!
 ジュンの怒気(どき)はリミッター解除。
「イテテ……あれ? もしかして体育の時間に着替えを盗撮したのバレてた……とか?」
 間髪入れずに通学鞄がリターンスパーン!
「そんな事してたの? あなた!」
「うう……配布目的じゃないよぅ? あくまでもボクの趣味用だよぅ?」
「消せ! いますぐ! 消されたくなかったら消せ!」
 命の危険を感じたので、悄々(しおしお)とお宝フォルダを削除した……シクシク。
「っていうか! あなた、嫌がる私に無理強(むりじ)いさせたわよね? 俗っぽい好奇心だけで!」
「だってさ? 見たいじゃん、UFO?」
「見たくない! わたしは小さい頃から頻繁に見てるから辟易(へきえき)してるの!」
 そう……彼女は小さい頃から、よくUFOを目撃するという。話を聞くだけでも遭遇率は半端なく、それはもう偶然の域を越えていた。
 だから、ボクは思った──「ジュンってば〈コンダクター〉じゃね?」と。
 この〈コンダクター〉っていうのは、UFOと精神的に繋がっていて意志疎通ができる人の事。結構ベタなオカルト超能力。
「でさ? あの後、鉄分増えなかった?」
「だから、それ何っ?」
 癇癪(かんしゃく)気味なツッコミ。
 相変わらず、ボクに対しては沸点(ふってん)低いし。
「まどろっこしいな! もう! コレだよ! コレ!」
 痺れを切らせて、包帯グルグルの左手を見せつけた。
「……マドカ?」
「うん」
「中二病の高校デビュー?」
「誰がさ! ってか、何だ! そのややこしい病名は?」
「頼むから『この封印が解けた時、秘められし恐るべきパワーが云々(うんぬん)』とか言わないでよね? メンドクサいから」
「言わないよ!」
 いや、あながち『秘められしパワー云々(うんぬん)』ってのは的外れじゃないけどさ。
 どうしてこうも伝わらないかな?
 ジュンにだけは早く打ち明けたいのに。
 むしろ泣きついて相談したいぐらいなのに。クスン。
 ってか、周囲の人混み邪魔ァァァーーッ!
 話すにしても邪魔ァァァーーッ!
 そうは思いつつも仕方がないので、今回は見送る事とした。納得はしてないけど。
 ま、その内に機会もあるだろう……今日中には。
 と、前方の雑踏から、こちらの様子をジッと(うかが)う少女がいた。
 小柄な少女だった。
 銀髪のシャギーボブで、幼さが残る顔立ちながらも構成するパーツはシャープ。ガラス細工を想起させる繊細な美少女っぷりだ。
 着ているボレロ制服から、ボク達と同じ〝私立(きらめき)女学園〟──通称〝煌女(きらじょ)〟の生徒には間違いない。
 受ける心象は、ひたすらクール。とりわけ、こちらを淡々と観察視するような眼差(まなざ)しは印象強い。
 俗に言う〝クールビューティー〟ってのは、きっとこの子みたいなのを指すんだろう。
 いや、これは〝クールロリータ〟だな。
 これだけ優良物件な美少女は、ちょっと見た事がない。
 きっと一部のマニアから推し人気が高いと思われる。ストーカー紛いの非公認ファンサイトとかもあるだろう……アングラで。そして、彼等が掲げるテーマソングは『がんばれ! ロリコン』に違いない。いや、待てよ……それとも──。
「マドカ、どうしたの? 急に黙り込んで……」
 脱線黙想中のボクへと、ジュンが怪訝そうに訊ねてくる。
「──『()えろ! ロリコン』?」
「いきなり何をカミングアウトしてんの、あなた」
「いや、ボクの性癖(せいへき)じゃなくって……あれ?」
 説明しようとした矢先、クルロリは消えていた。
 注視を外した覚えはない。
 けれど、人影が重なった一瞬に、いなくなっていた。
(……で、誰さ?)
 いやまあ、初面識なんだから〝()〟もクソもない。
 それでも何か気になる子だったんだよね。
 直感的に──ってか、本能的に。

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