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転入、学期最終日

「それでは皆さん待望の留学生を紹介します」
教師が告げると教室がざわめく
「それでは入ってきてください」
そういうとほぼ同時に教師が僕の目の前のドアを開け、中へ招き入れる。
教室に一歩踏み入れると中からは「なんだよ男かよ」「ちょっと、あなたタイプなんじゃないの?」などといった声が聞こえてきた。
「それでは自己紹介をお願いします。」
促されて僕は自己紹介を始める。
「こんにちは。茨城県にあるこの学校の併設校から来ました。多摩野 凪(たまの なぎ)といいます。本来なら二週間早くここに来る予定だったのですが、こないだの台風の影響で今日からこの学校でお世話になることになりました。よろしくおねがいします。」
僕がそう話しているうちにさっきの先生が黒板にでかでかと僕の名前を書いていた。
「ありがとう。君の席は、えっと・・・。」
一番後ろに座っていた女子生徒が自分の左隣の空席を指さす。
「あ、そうそう。一番後ろの姫宮さん。今指を指していた子の隣の席ね。」
「わかりました。」
一礼して自分の席になった場所へ向かう。漫画とかならここで何かアクションが起こるんだろうなあと思いながら・・・
「で、多摩野君だけど10月の頭までこの学校で生活することになるから。みんなよろしくね。それでは授業を始めます。」
日直?が号令をかけ、授業が始まる。1限は古典だった。
---
キーンコーンカーンコーン
---
古典のあと数学、物理、世界史と続いた授業がようやく終わり、昼休みとなった。
昼休みといってもこの学校では学食、売店、弁当、はたまた外に食べに行く生徒までいるようで僕は教室に取り残されてしまった。
「ん、じゃああんたが声をかけなさいよ。」
「いやですネ。そういうのはあなたの担当じゃないンですか。」
振り返ると程よく日焼けした女子生徒を明らかと、明らかに日本人とは思えない女子生徒が立っていた。
「ほら、気づかれっちゃったじゃない。」
「知らないですネ。鈴が素直に声をかけなかったからじゃないンですか?」
「だから、そういうのは・・・。まあいいわ」
「あの、どちら様?」
「いきなりどちら様とは結構なご挨拶ね。多摩野」
「そうですよ。タマノ。」
「いや、話しかけてきたのはそっちだから。」
「それもそうですネ」
「まあ、そうだけど・・」
「ほら、リン。」
「わ、わかったわよ。私は能美 鈴(のうみ りん)。それでこっちは宮浦=シルトベート=ソフィー。みんなソフィーって呼んでる。」
「ハイ。能美さん。こんにちはタマノ。」
「それであなたが独りぼっちだったからこの子が話しかけようって」
そういって能美と名乗った女子がソフィーと名乗った子を突っつく。
「なんですとぉ。能美さんも同意してたじゃないですか。」
「あの、どうでもいいんだけど。何の用」
終わりそうにないので割って入った。
「あ、そうそう。併設校がどうなのかは知らないけど、この学校昼休みが1時間半ってとっても長いからその間に学校のことを案内してあげようかって。」
「そうなンですよ。」
「そうなんだ、ありがとう。」
「まあ、行きましょう。」
そういうわけで(どういうわけなんだか)構内を案内してもらった。
職員室の場所や各実験室の場所、さらには入ってよいのかわからないさぼりの場所まで説明された。
---
「で、最後にここが食堂ね。みんな学食って呼んでるけど。」
「能美さん。さすがにそれぐらいはわかるンじゃないですか?」
「一応よ、いちおう。」
「そうなンですね。」
「でこれからどうするの多摩野?」
「昼飯を食べたら職員室に来いって言われてるからそうするつもり。」
「そう。じゃあね」
そういって能美とソフィーは学食を出て行った。
---
さて、今日の昼食は何にしようか?
メニューにはカツ定食、サバの味噌煮定食、日替わり定食、気のまま定食が表示されていた。
「それ以外のは売り切れなのか。」
グレーアウトしているボタンを押しても反応がない。
とりあえず初日は鉄板のカツ定食にしてみることにした。
食券を発行し、カウンターへもっていく。
「お願いします」
「はーい。カツ定食ね。」
おばさんはそう言って後ろから出来合いのセットを出した。「はい、カツ定食。」
きつね色のカツに味噌汁と白米がついたザ・定食だった。
---
そのまま席へと向かう。
「端っこのほうがいいかな。」
とりあえずテレビの見え橋のほうの席に座る。
ふと後ろを見るとさっき教室で隣にいた女子が座っていた。奇遇なことにその子も一人だった。
トレーをもってその子の隣まで行く。
「隣座ってもいいかな?」
コクリ
ゆっくりとうなずいた彼女は自分のトレーを少しずらし、僕が座れるようにしてくれた。
「さっき同じクラスだったよね?」
コクリ
「えっと、姫宮さんだっけ?」
コクリ
「えっと、姫宮さんは・・・」
すでに聞くことがなくなってしまい、会話が続かなかった。
「無理に話しかけなくていいよ。」
突き放すような一言でついに会話が決裂してしまった。
とりあえず、黙々と食べることにする。
---
足早に職員室に向かうことにする。
校舎を駆け抜け、職員室に向かう。
4階までたどり着いたところでふっと姫宮さんのような後ろ姿の生徒が屋上に向かって歩いていくのが見えた。
「あれ、姫宮さん?」
一瞬その人影は立ち止ったかのように見えたがまた歩き出した。
「人違いかな」
「ああ、いたいた。」
ふと横を見ると朝のホームルームをしていた教師が歩いてきた。
「探したんだよ、多摩野君。」
「すみません。さっきまで食堂で昼をとっていたので。」
「ああ、そういうことなんだ。それならよかった。適当に案内しないといけないと思ってたから。」
そう思ったのならなぜこの人は"昼飯を食べてから"来るように言ったのだろう。
「さあ、入って入って。」
招かれたのは職員室
・・・ではなく大きく
"生徒指導室"
と書かれていた。
「あの、僕何かしましたか?」
「ええ、とっても大きなことをしている。この学校にとって非常に重要なことを。」
そういわれて背筋が凍る。
---
「さっ座って。」
促されるまま革張りのソファーに座る。
「さて、あなたに話さなければいけないことがいくつかあるんだけどね。まず一つ目あなたはこの土地に来ることが初めてだって聞いてるんだけど、どこに住むかっていうのと、なんでこの学校に呼ばれたのかってもう聞いてる?」
「ええ、一応二十日島でしたっけ?に住むことになると聞いています。あと、二十日島に親族がいるからですよね。」
「一応ね。それでこの学校の宿舎に住んでもらうことになるんだけど、その二十日島が今年大祭の年でね。ちょっとその絡みでお願いがあるんだけど・・・。」
結局なぜ先生が僕がこの学校に来たのかの正解を教えてくれることはなった。
「で、今言ったことわかった?」
「はい」
「じゃあ復唱してみて?」
「えっと、まず蜃気楼の島が見えているときには海に近づかないこと。それと島の神社にお参りに行って、神主さんに来たことを報告すること。」
「そうね。その通り。神社は灯台も兼ねてるからすぐにわかると思うけど。じゃあ放課後に島まで案内するから。二十日島の夏を楽しんで。」
そういうと先生は出ていこうとした。
「そうそう。間違ってもこの学校で不埒な真似をしないことね。」
そう言い残し、生徒指導室から出て行った。
しばらくしてから出ることにしよう。
---
さて、午後は終業式とのことで体育館に行くことになった。
そこで挨拶をさせられるらしい。
「えーっと皆さん一学期はどうでしたでしょう。3年生は最後の部活動楽しんでもらえたかな。一年生、初めての夏はどうですか?みなさん・・・。」
校長のありがたいお話が終わり、とうとう自己紹介をする番になってしまった。
「えー、ではここで併設校からの交換留学生を紹介します。2年に2か月間留学してくれる、多摩野君です」
壇の袖からゆっくりと出ていく。
「彼は同じ二年から併設校に留学している二人の代わりとしてきています。どうかこの学校の名誉を損じないようにしてください。」
結局はそこなのか
---
その後、下校時間となった。
夏休みが始まるからなのかあまり部活動はしていないようだった。
「ああ、いたいた。」
昇降口で待っていると先ほどの先生が下りてきた。
「はいこれ。船の定期券ね。意外と高いから落とさないでよ。」
緑色の定期券。券面には" 渋野→二十日島"と書かれていた。
「ありがとうございます。」
「まあ今日は車で行くからそれは必要ないんだけどね。さあとりあえず駐車場に行きましょう。」
そういって校舎裏の駐車場に向かう。赤色のスポーツタイプのセダンに先生は乗り込む。
「何してるの。乗って。」
そういわれて僕も乗ることにする。
「すごい車に乗ってるんですね。」
「まあね。このあたりじゃ車ぐらいしかお金かけられるものってないし。それに私自身車が好きだから。」
「へー、そうなんですね。」
「さ、行くわよ。つかまって。」
「えっ」
つかまる間もなくグンっと加速して学校を後にする。
「ちょ、ちょっと先生速すぎませんか。」
「え、何?聞こえない。」
異論は認めない気か
「何でもないです。」
「そう」
あっという間に学校の前の坂を下り、港まで来てしまった。
「お疲れぇ。これよろしくね」
「はいはい、どうも。おっそちらが例の新しい彼氏さんですか。ずいぶん若いですね。」
「まっさか。この子は学校の生徒よ。」
「じゃあ学校の生徒に手をっ」
先生はぐっと船員の胸倉をつかんだ。
「次に同じこと言ったらその鼻へし折るからね。」
「はいはい。あー怖い怖い。」
わざとらしく怖がりながら船員は船の上へと歩いて行った。
「さて、私はこのまま船が着くまでここにいるけど多摩野君はどうするの?」
このままのこっていても特に話すことがなさそうだけれど。
「ならここに残ります。」
「そう、それはよかった。」
一体全体何がよかったのだろう。
「で、お昼に話したことなんだけど。」
「先生が生徒指導室で話してくれたことですか?」
「そうそう。それともう学校じゃないし、先生って呼ばなくていいわ。」
「そういわれても、僕は先生の名前を知らないんですが。」
「あれ、言ってなかったっけ?」
言ってない
「はい。言ってないです。」
「あらそれは失礼したわね。河野 裕美といいます。」
「多摩野です。」
「それはとっくのとおに知ってるわ。」
「それもそうですね。で、話って何ですか?」
「そうそう。蜃気楼の島の件なんだけどね、クラスに姫宮さんっていたでしょう。」
「ええ、席が横の」
「そう。あの子の家がいつも祭りを担当してるんだけど、今年は6年に一度の大祭でしょ。それであの子が船に乗って"渡し人"っていうのをすることになるんだけどね。」
「はぁ」
「その神事のある曜日には絶対に外に出ないでね。ない日なら出てもいいってことじゃないんだけど。」
「どうして出ちゃいけないんですか?」
「原理は知られていないんだけれど記憶をもっていかれるらしいわ。」
「記憶を持っていかれる?」
「そう。記憶を根こそぎね。」
「どしてまた。」
「それがわかってたら誰もそのまま放置しないわよ。」
確かにそうだ。
記憶を持っていかれるということはうまくわからないが。
「だから絶対に出ないでね。」
「そんなに念を押されなくても大丈夫ですよ。」
「ならいいんだけど。」
「さて私はしばらく寝るから着いたら起こしてね。」
「わかりました。」
しばらくして河野先生は本当に眠ってしまった。
---
よく考えたらこれってかなりまずい状態じゃないのか?
横には20代の女性。健全な男子高校生なら何も感じないということはできないだろう。
密室(厳密には車内か)に二人っきり。かなりまずい気がする。
そもそも先生じゃなくていいって言ったってなんて呼べばいいんだ
河野さん?河野?河野大臣?
さすがに呼び捨てはまずいし、最後のはおかしいか
ふと胸の携帯が揺れた気がした。
携帯を取り出し、画面を見ると前の茨城のほうの学校の友達からのメールが来ていた。
"件名:元気か
本文:おい多摩大丈夫か?
こっちはとりあえず夏休み初日が始まって暇してるぜ。
そっちの学校出るって噂だしな まあ帰りたくなったらかえって来いよ"
なんとなく涙腺が緩んでしまった。
「なになに?恋の告白?多摩野君意外にやるのね。」
「うわああ。」
「ちょっと寝起きなんだから大声出さないでよ。え、あなた泣いてるの?」
「泣いてないですし、そもそもこれはラブレターじゃないです。」
「あらそうなのねつまらないの。」
「つまらんくないです。それに河野さんはつくまで寝てるんじゃないんですか?」
「何を言ってるのよ。もうついてるわよ。」
前を見ると徐々にフェリーから車が下りていた。
なんて防音性能がいいんだこの車
「さて行きましょう。」
河野先生は車のエンジンを始動して行くりと前進させた。
「さっきみたいなロケットスタートはしないんですね。」
「なかなか容赦ないわねあなた。私を事故らせたいの?死ぬわよ。」
「いや死にたくないですけど。」
船を降りると目の前には建設途中の全面ガラス張りの待合室が見えた。
「すごい。」
その待合室は夕日に照らされまるでダイヤモンドのような輝きをしていた。
「すごいでしょ。来年からは芸術祭があるからね。」
「芸術祭ですか」
「ええ。3年に一度の芸術祭たしかトレナーレだったかしら。」
「トリエンナーレですか?」
「そう、それ」
車は港を出ると左に曲がり、細い路地に入った。
さらに右に曲がりかなりの激坂を駆け上がる。
すると見えてきたのはぽつんと立つ小さなスーパーだった。
---
"二十日島マテリアル生協"
と書かれた店に車を止め、店内に入る。
「さ、ほしいもの買っちゃいなさい。今日はおごりだから。」
「別に欲しいものは自分で買いますけど。」
「何言ってるのよ。さっき言ったでしょう。今日は君の歓迎会だって。」
「言ってませんよ!そんなこと」
つくづく黙っている人だ
「そうだっけ?まあ今日は歓迎会なんだからほしいお菓子とかあったら買っときなさい。」
「はあ、わかりました。」
とりあえず好物のスルメとチー鱈、卵ボーロを買うことにした。
「ずいぶんジジ臭い趣味してるのね。あの子と気が合いそうね」
先に車に戻ってて。
---
しばらくしてレジを済ませた河野先生が戻ってきた。
「さてじゃあ宿舎に行きましょうか。」
「そうですね。」
そのまま上ってきた激坂を進み島の頂上付近のところにあるスーパーよりは大きい建物に案内された。
「じゃあ、ここがあなたの部屋ね。荷物とかは全部搬入済みのはずだけど。1時間後ぐらいに下のホールへ来てくれる?」
「わかりました。」
バタンとドアが閉められ、明かりが消える。
窓の外からは海と対岸の広島の夜景が見えた。
スイッチを押し、明かりをつける。
白色のベッドにシルバーの事務机。絵にかいたような宿舎だった。
とりあえず
荷ほどきをすることにしよう。
---
一時間は経っただろうか?
コンコンというノックのあとに再び先生が入ってきた。
「ずいぶんと片付けたわね。」
「それ以外にやることもないですから。」
「じゃあ下でみんなが待ってるから行きましょう。」
「みんなっていうのは?」
「この宿舎には教員以外にも何人かの生徒も生活してるのよ。この学校には寮もないしね。」
そういって河野さんは下のフロアへと案内してくれた。---
エントランスホールのような場所に案内された。
さっきは裏口から入ったのでこの場所には来ていないが、どことなくなつかしいような気がした。
赤や緑、黄色のソファーが並んでいる。中央には大きく校章が描かれたテーブルも置かれていた。
「ようこそ。二十日島へ。」
「そうこそなンです。」
ロビーに入ると学校にもいた陽気なふたりが出迎えてくれた。とりあえず空いているソファーに腰掛ける。
「あと二人も来るからね。あっ、今日はあと三人か。」
そういい終わると同時にロビーのドアが豪快に開かれた。
「ほら、入って。」
「~~~っ」
あれは確か、姫宮?だっけ。
赤い髪にワンピースのような服を着ている。教室では気づかなかったが意外と身長が高い。
入り口では一人の似たような子が抵抗する姫宮さんを中へ入れようとしていた。
「別に入っても害があるわけじゃないんだからいいじゃない。」
「・・・それだっていやなものは嫌だ。」
「なに?今日は一段とわがままじゃない。」
「別に普段と変わらないよ。」
結局いやいやながらもエントランスホールへ連れ込まれる。
「さてと。あと一人ね。」
そういうと河野さんは奥の厨房と思われる場所へ声をかけた。
「おーい、田浦(たうら)君。そろそろこれる?」
「わかりましたぁ」
キッチンのほうからエプロンをした男子生徒が出てくる。
「おお、お前さんが今日からここに入るっていうやつか。久々の男子だぜ。よろしくな。」
「ああ、よろしく。」
握手を求められたので素直に応じておく。
「ああ。初めてだよ。」
「何が」
「ここに男が住むのが。ああ、初めてだ。これでやっとハーレムから解放される。」
明らかに妄想に浸っている。
というかハーレムって一般の男子高校生からしたらかなりの楽園になるんじゃないのか?
「なんでそんなにハーレム状態を嫌うんだい?」
「この現状を見てわからないのか。じゃあ逆に聞くけどどうして俺がエプロンなんて似合わないものを着ていると思う?」
「自分の趣味なんじゃないの?」
河野先生がビールを片手に言った。
「そんな趣味あってたまるか」
ああ、こいつ不特定多数を敵に回したな。
「そんなこと言ってないで早く作った料理を持ってきてよ。」
「ハイハイ、わかりましたよ。」
田浦が起用に腕から抜け出してキッチンへと戻ていった。
「なんだ、意外に抜けられるんじゃないか。」
---
しばらくしてケータリングと見間違えるほど豪華な料理が運ばれてきた。
「相変わらずすごいですね、タウラの料理は。」
「そんじゃあ、改めて、二十日島へようこそ。」
「「「ようこそ」」」
田浦が声をかけた後に全員が続いていった。
「ありがとう。短い間かもしれないけどよろしくお願いします。」
そういって招かれたソファーへとこしをかける。
「えっと、全員の名前と顔は一致してるんだっけ?」
「ソフィーと能美さん以外はまだ名前も教えてもらってないんですが...」
「あれ、そうなの。てっきり姫宮のことはもう知ってるもんだと思ってた。」
「いえ、知りません。」
「そうだったのね。自己紹介をお願いしようかしらね。」
「じゃあ、私からかしらね。」
そう言って姫宮をエントランスホールに連れ込んでいた女の子が口を開いた。
「私は積浦、積浦藍(つみうら あお)って言います。一応高等部の3年で今いる面子では一番学年が上かな。」
「俺は田浦昭(たうら あきら)ていうから。一応高等部の2年だ。クラスはFだから。よろしくな。」
「よろしく、エプロン男。」
「そんな名前で呼ぶなぁ」
「じゃああと一人ね。えーっと。」
積浦が周りを探していた。
そしてソファーの裏からひょっこりと出てきたのが姫宮だった。
「なんでそんなところに入ってるのよ、あなたは」
「いや、知らないやつがいるし、怖いし」
怖いのか、ストレートに言われると少し傷つく。
「どちらにせよどうあがいたって少なくとも1か月はこの島で一緒に暮らさなきゃいけないんだから観念したほうがいいんじゃないの?」
「い、1ヶ月も」
明らかにいやそうな顔をされるとこちらも多少は傷つく。
「あそこで隠れようとしてるのが姫宮茜(ひめみや あかね)っていうやつだから。私と茜はこの宿舎には住んでないんだけどね。茜は西村地区で私は東村地区だからね。」
「そろそろいいかしら?」
久しぶりに河野先生が口を開いた。
「さてと、それじゃあ料理もできてるわけだし乾杯でもしましょうか、ほら茜もこっちに来て。」
「・・・いや」
「来なさい、教員命令」
「卑怯者」
「別に卑怯者でいいわよ、教員なんて古今東西陰口を叩かれるものだし」
渋々といった感じで茜と呼ばれた少女が出てきた。
「さてと、改めて。」
「「「二十日島へようこそ」」」
「・・・ようこそ」
全員がいった後に申し訳程度に姫宮が言葉添える。
カンという音共にその夜は老けていった。---
---
次の日の朝、歓迎会の後に荷ほどきをしてとりあえず生活できるようにした部屋で目覚めた。
時間は朝の6時。カーテンを開けると島全体と朝の帳と霧がかかっていた。
着替えを終えて日課になっているランニングへと向かう。
---
「意外と冷えるなぁ」
瀬戸内海の島は朝が冷えると聞いていたが予想以上だった。
風邪をひいてもいけないので一旦部屋に戻って上着を取りに行こう。
---
「ただいま、っと誰もいないんだよな」
とりあえずスリッパをつかっけて部屋に入った。
タンスの上に置いておいた薄手のジャケットに手を掛け、ガバッと羽織る。
「パサっ」
「ん?」
ふと後ろで物音がした。
振り返ると緑色の長方形が落ちていた。
「切符かこれ?」
長方形には一回めから5回めまでの枠が描かれていた。1回めの部分にはすでにハサミが入っている。
「7月20日、今日使うことになってるのか。別にこのままでもいいか。」
とりあえずランニングへ向かうことにする。
---
裏口から出て坂を降り、五叉路を駆け抜け、ひたすら長い直線道路を走る。
道のはじで右に曲がると駐車場とともに瀬戸内海の海面が見えた。
「すごい」
朝日に照らされ始めた水面はキラキラと淡い光を反射してとても幻想的な雰囲気を醸し出してた。
港には始フェリー(この言い方でいいのか?)が止まっていた。続々とトラックやら乗用車やらがフェリーに積まれていく。
そんな光景をぼーっと眺めていた。
--
クイ
「ん?」
ふと背中の方を引っ張られたような気がしたが後ろには誰もいない。
視線を前に戻しフェリーを眺める。
クイクイ
「誰だよ」
やはり誰もいない
「おいおい、下だよ。」
声に指示されるされるままに下を向くと一人の少女が立っていた。
「お兄ちゃん、ちょっときて」
「はい?」
「だから、凪兄さんだよね、ちょっときて」
「僕は君のお兄さんじゃないと思うんだけど」
おかしい、僕は生まれてこの方一人っ子であったはずだ。
もしかしてお袋に愛人がいて、その隠し子かっ
....とも考えたがお袋はそんな血気盛んでもない
「えっと君の名前を教えてくれるかな?」
「知らない男の人に名前をいっちゃいけないって言われてるからあと、ついていかないとも」
「えっとじゃあどうして僕が凪だって知ってるんだい?」
「なんでだろうね。」
会話にならない。
「とりあえず、お兄ちゃんうちまで来て。」
「わかったよ」
仕方がないのでついていくことにする。
「先に行って。後ろから道をいうから」
「そうするとかなりまずい絵面になりようだから前を歩いてくれないかな」
端から見たら明らかな怪しいだろそんな光景
男子高校生が女子小学生?を連れてまだ薄暗い島内を歩いていた。
なんとなく新聞の誘拐事件発生!みたいなところで使われていそうと思う絵図だ。
「しょうがないなぁ」
めんどくさそうにしつつも先頭を歩いてくれるようだ。
---
しばらく歩くと大きな門のある民家が見えてきた。
「入って」
少女に促されるままに門を潜る。
ここは宿舎から降りてくる道とはちょうど反対側にあたる場所だ。
「おかーさん、連れてきたよ」
少女が上の中に向かって叫ぶ。
「はいはーい」
ドタドタと音をたて、家の中から大人の女性が出てきた。
後ろで縛った髪に着物、腰には酒と書かれた前掛けをしていた。
「ゆうちゃん、ありがとね」
「うん」
ゆうと呼ばれた少女が家の中に入っていった。
「えっと、凪くん?」
「はい、そうですが。」
「大きくなったわねぇ、あなたが小学校を卒業したときに一度会ってるんだけど。覚えてないわよね」
「すみません。」
「いいのよ、こんなおばさんの事。とりあえず上がって。」
促されるままに古民家に入っていく。
---
中は外見とは異なり、現代風の家具や内装が整えられていた。
「さてと、凪くんは本土の高校の留学生なんだっけ?」
「一応そうですね。」
「なんか色々とあったみたいだけど大丈夫?」
「まあ、向こうとは話がついてますし、今できることは特に何もありませんので。」
今回の留学も学校側からの好意でやってくれている。いわば慰安留学のようなものだ。
「そう?ならいいんだけど。何かあったら遠慮なく頼って頂戴ね。あなたのお母さんからもそう言われてるし。」
「機会があったらそうさせてもらいます。」
「じゃあ、ちょっと人を呼んでくるから待っててね。」
そういうとおばさんは玄関から外へ出ていった。部屋にしばしの静寂が流れる。「お待たせ、お父さん彼が例の」
「おお、よくきたな小僧。」
「おはようございます。」
「おはよう」
おばさんが連れてきたのは70歳ほどの老人だった。
老人と言ってもかなりガタイが良く強そうだ。
「さてと、小僧。儂は品野だ。小僧の大叔父にあたる。」
そう言われて少し戸惑う。
「小僧の祖父の兄だ。」
「ああ、なるほど。」
格段にわかりやすくなった。
「儂はこの島でガラス細工をやっているんだがな、小僧。お前さんに渡さなあかんもんがある。ちょっと来てくれ。」
そう促され、家の奥へと連れられる。
途中先ほどの少女とすれ違ったがかなり眠そうだった。
---
勝手口から出て、すこしいったところにそれはあった。
酒蔵だ。
「ほれ小僧、とっとと入れ。麹は弱いでの」
中に入るとどことなく甘い香りがした。
「こっちだ」
「どこに行くんですか?」
「なに、大したところではない」
酒蔵を抜けてすぐのところにそれはあった。
「ほれ、入りな。」
薄暗い部屋には小さな祠が建てられていた。
「禊だ。飲め」
「お酒ですよね、未成年なんですが。」
「なに、酔うほどの量はない。」
渋々その杯を、神酒を飲んだ。
目の前がぐらつく。考えることができない
感情にふた出されたようだ
「飲んだか、祠にある木箱を取りなさい」
「はい」
体が勝手に動く。
階段を上り、祠の戸に手を掛ける。
中に水引がかけられた小さな木箱が置かれていた。
複雑なそれに手をかける。
一度も水引なんて触ったことがないのにまるで赤子の手をひねるが如く僕の手の中で解かれていく。
中に入っていたのは15センチほどの小瓶
「やはりか。ここから出なさい。」
「はい。」
何がやはりなのか聞きたいが、体がいうことを聞かない。
酒蔵から出たところで目の前が真っ暗になってしまった。
---
「はっ」
気がつくと自分の部屋にいた。
時計を見ると
「おかしい、なんで6時のままなんだ」
部屋の時計は確かに6時を指していた。
電波時計なので狂うはずもない。
「ん?」
布団の上に先ほどの瓶が置かれている
「夢じゃなかったんだ。じゃあ、どうして。」
---
「はい、わかりました。河野一族の名にかけて」
---「さてと、ランニングにはもう言った気になっているし、とりあえず下に降りるか。」
部屋の扉を開け、階段を降りる。
エントランスホールへと行くと田浦が既に朝食を作り始めでいた。
「おはよう、随分と早いんだね」
「前の学校では朝練があったからね。」
「へーそりゃ羨ましい。こっちじゃ最初フェリーが7時半だからどう頑張ったって朝練には参加できないからなぁ」
ん?そうすると僕がさっき見たフェリーはなんだったんだ
「なぁ、ここから港までって走っても1時間はかからないよな」
「ん?ああ、西村港ならかかるかもしれないが東村港の方なら歩いても15分ぐらいだろ」
「そうなのか」
やはりおかしい、さっき時計を見た時は確かに6時を指していた。
いくら上着を取ったとしても1時間はかからない
そうるるとあの船はなんだったのだろうか
「なぁ、島のフェリーって白だよな」
「は?何言ってるんだ。三年前からフェリーは赤に変わったぞ」
「え?」 
先ほど見たフェリーは明らかに真っ白だった。
色覚異常でもない限りそんな見間違いはしないだろう
「多摩野、お前寝ぼけてるんじゃないのか」
確かにその説には一理ある。
「まあ、そんなとこかもな」
あとでこの件は確認することにしよう---
田浦と朝食の準備を進めていると
「GoodMorning Grandma」
唐突にかなり発音のいい英語が聞こえてきた。
「あーあ、またあいつ寝ぼけてやがる」
「ん?あいつって?」
「ソフィーだよ、ソフィー。あの眼帯した」
「ああ、あいつなかのか。で、その何が問題なんだ?」
「ああやって寝ぼけてる日は必ずと言っていいほどヤバい格好をしている。」
同時にほうれん草を茹でていた鍋が吹きこぼれ始めた。
「すまん、こっちの手が離せないからとりあえず部屋に戻るように促してきてくれ。日常英語ぐらいなら使えるだろ。」
「英語はてんでダメなんだけどなぁ。」
「Grandma Where you in?」
「ほら、早く行ってやれ」
背中を押され、キッチンからだされた。
右を見るとよろよろとエントランスホールの方へと歩いているソフィーがいた。
ワイシャツをはだけさせ、下着?が丸見えの状態になっていた。
「えーっと、部屋に戻れって言えばいいんだから」
「ば、バックユアルームナウ」
「What ? Who? I think no man in my house. Umm, Are you a Ghost??」
通じていないみたいだった
「えーっと、アイム多摩野ユアドミトリーフレンド アンドバックユアホームナウ ソフィー」
「Oh are you Tamano Nice to meet」
全然通じない
「田浦、助けてくれぇ」
「はいはい、わかったよ」「Hey Back to your room now . I don't wanna your untidy style.」
「Please DON`T say untidy , I'm Fine」
「NOT your Fine you How about wash your cruel face, and see your style RIGHT NOW Otherwise I`ll make without you BF」
「 Okey Okey 」ヨタヨタと階段を登って行った。「ふう、なんでいつもああなんだ」
「そんなに毎日なのか?」
「別に毎日ってわけじゃないけど、週3か2ぐらいであるよ」
「結構な頻度じゃないか」
「注意して治るもんじゃないからしょうがないんだがな。それよりも運ぶのを手伝ってくれ」
「ああ、わかったよ」
----
その日の朝食はトーストにスクランブルエッグ、ハッシュドポテト、サラダと言った比較的豪華な献立だった。
「いつもこんな量を作ってるのか?」
「まあな。一応、食費分はもらってるし、俺の分の寮費は半分ぐらいみんなが守ってくれてるからな。やめるにやめられん。」
聞けば田浦の家庭は裕福ではなく奨学金でなんとか賄っている状態らしい。
「そうなのか、なんだか大変だな」
「まあしょうがない。そう言えば、福井の併設校じゃなんだっけあの、新しいスポーツ。えーっとスカイなんちゃら。あのよく分からん機械をつけて戦うっていう」
「スカイコンバースか?」
「ああ、そうそれ。確か二人1組でやるんだよな」
「ああ、ナビゲーターが計器を見てウォッチャーが操作をする。」
「へー、詳しいんだな。それが有名なんだろ」
「まあ、有名だが。あんな競技どこも楽しくないぞ。」
「そうなのか、面白そうだがなぁ」
「やめとけ」
そんな会話をしていると奥から先生が歩いてきた。
「おはよう、二人とも。」
「「おはようざいます」」
「うむ。田浦、郵便がきてたぞ。親御さんからじゃないか?」
「ええ、おそらくは」
「しっかりと返信するんだぞ」
「わかってますよ」
「後の二人は?」
「さっきそf」
途中で田浦に遮られた
「もう時期降りてきますよ」
「そうか」
(なんで遮るんだよ)
(あの姿は見られたらまずいんだよ)
田浦の言わんとすることもわかる。生徒指導の先生に見つかるのは些かまずそうだ
「それでなんの話をしてたんだっけ?」
「ああ、スカイコンバースについてですよ」
「ああ、そこに経験者がいるじゃないか」
「えぇ、そうなのか多摩野」
「昔の話だ。そう、昔の」
「そ、そうなのか。すまない」
「別に謝ってもらうことはないよ」
「「・・・」」
しばしの沈黙が流れた
「一応、うちにもSC部はあるから気が向いたらでいい。きてくれるとありがたい。」
「わかりました」
曖昧な返事をすると
「おっはよー」
上から能見が降りてきた。
青のワンピースという夏っぽいアレンジだった。
「おい、ソフィーのやつは一緒じゃないのか?」
「いますよ、そこに」
引き戸の裏から申し訳なさそうに顔を覗かせていた。
「はぅぅぅ」
「何をしでかしたのよ、あんた。」
「ぅぅぅ、多摩野さんに裸を見られてしまったのデス。」一気に自分への視線が向く
「じ、事故ですよ事故。なぁ田浦。」
「え、僕は知らないっすよ。」
しらばっくれやがった
「おいおい、まあ健全な高校生なら多少はしょうがないか」
「しょうがないじゃ済まされないですよ先生。麗しき少女の、少女の裸を見ただなんて。」
「裸じゃなかったような気がするんだが。」
「「ほう。見たことは否定しない」のね」だな」
完璧なまでに墓穴を掘った
「あ、え、えっと」
「はい。見ました。見ましたよ、ねえソフィーさん。」
「こいつ、開き直りやがった。」
「これは停学ですよね、停学」
「ああ、職員会議ものだな」
「あの、えっと、タマノは悪くないんです。私が寝ぼけていただけで」
この後状況の説明にかなり時間を要した。
「そうすると、偶然なわけね。」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
「へー。運のいいやつ」
「まあ、どっちも反省してるし、今回はいいんじゃない?でも次はないわよぉ多摩野くん」
「すみません。」
正直俺は1ミクロンも悪くないんだがなぁ
「ソフィー、あなたも。」
「はい、気をつけるんです」その後朝食を食べた。---
「さてと、今日は魚を仕入れる日だが、一緒に来るか?多摩野」
「一緒に行っていいのか?」
「ああ、いくといっても同級生の家だがな。お前にとっちゃ同学年だ。」
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続く・・・

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