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次の手2

 狗は鼠に文を持たせて走らせた。京之助に黒揚羽が信長の元に入ったと伝えた。京之助なら柳生の手のものを使って潜った黒揚羽を探すに違いない。狗の戦力と規模が違う。揚羽を見張っているが弾正と睦み合っているばかりだ。それで胡蝶に目を向けた。胡蝶には修験者が定期的に繋ぎが来る。
 日暮れた頃繋ぎに来た修験者とともに修験者の格好で胡蝶が城を抜けた。狗はその後を間隔を空けて走った。胡蝶は小鹿のように早い。この尾根道は狗の洞窟の隣の山を抜けている。もちろん尾根道からは洞窟は見えない。不意に風の臭いが変わった。同時に飛び上る。黒の鏃が雨のように降ってくる。
 気づかれていたのか。狗は枝に捕まりそのまま体を振って隣の木に移る。次の鏃が枝に突き刺さる。暗闇の中に獣のように蠢いている。狗は隣の木に移る時手裏剣を谷の茂みに投げ込んだ。すると谷に向かって獣ががさがさと茂みの中を下りていく。空が薄らと明るくなり始めている。白ではなく茶色の装束を着ている。だが修験者だ。
「谷に逃げたか?」
「追うか?」
「いや、ここの崖では落ちたはずだ。引き返そう」
と言う声とともにもう修験者は尾根道に戻ている。狗はしばらく木の上から見ている。少し離れたところから狗が走り出す。
 1刻半走ったところで尾根道から急に修験者が消えた。狗は慎重に茂みを調べる。茂みの中に急坂の崖道がある。ここに降りたのだ。ここは一人ずつしか通れない。狗は足を速めて最後尾の修験者を倒す。彼らは覆面をしているので狗は素早く入れ替わって死体を谷に落とす。
 崖道が尽きると岩が転がっている川底に出る。両側が切り立った山が聳えている。修験者は川を超えると切り立った崖の前に集まる。しばらくすると3本の縄梯子が垂らされる。狗も最後に手をかける。崖の上にはさらに登り道が続いている。だがここには修験者の見張りの姿が見える。岩山が突如現れる。岩山は道がない。だが飛び跳ねるように岩の上を飛んでいく。
「お前らは持ち場に戻れ」
 一人の修験者が言う。彼はさらに大きな岩に向かって今度はゆっくりと進む。大きな洞穴に入る。入口に5人が立っている。狗は岩場に隠れて夜を待つ。

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