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6、はぁ……

 セントゥロに近づくにつれて、モンスターと遭遇する頻度も上がってきた。おまけにどいつもこいつも欠片持ち。
 スキル強化も兼ねてずっと索敵かけながら進んでいたら、反応が遠ざかったり消えたりしているから、欠片持ちが普通のモンスターを駆逐してんだと思う。
 欠片持ち達が俺達から先行して女神の寝所へモンスターを駆逐しながら進んでいるから、これまで俺達がモンスターと遭遇してこなかったんだろう。

「これで、最後!」

 バルトヴィーノが襲ってきた黒狼の群れの最後の一頭を斬り捨てて剣についた血糊を振り払う。
 俺が欠片を吸収し終わった遺骸に、ルシアちゃんが浄化をかけ、エミーリオが解体する。

「あ、レベルが上がっています」
「おめでとうございます、エミーリオ様」
「ありがとうございます、ルシア様」

 戦闘が終わり、休息を取っているとステータスを確認していたエミーリオが嬉しそうに笑った。
 誰もエミーリオを足手まといだなんて思ってないんだが、やはり気にしていたんだろうな。
 戦闘は面倒だが、ルシアちゃんの浄化のお陰でルシアちゃん達でも食べられる肉が手に入るし、俺の強化兼暗黒破壊神の弱体化もできるし良いことだらけだ。

『しかし、本庄の飯を食えるのも明日で最後か……』
「栗栖、それ毎回言ってるね」
「大丈夫ですよ、リージェ様。俺も料理の腕、だいぶ上達しましたから」

 俺の言葉に苦笑する本庄と、励まそうとしてくれるエミーリオ。
 うん、エミーリオの料理が上手いのは知ってるし、レパートリーも増えたのも知ってるよ。本庄が食事当番の時に手伝いながら教わってたしね。
 でもさぁ。でも、違うんだよなぁ。エミーリオは本庄から教わった料理しか作れないだろ? 本庄なら、食材さえあれば俺の「あれ食べたい」に応えられるじゃん?
 はぁ。残念過ぎる。

 森を抜けて街道を出て二日。今日中にはおっとり国王から指定された村に着く。
 そこで馬車を入手して、荷物を積みかえて出発したら明日の夜には本庄とはお別れだ。
 俺達の中には収納魔法を使える奴はいないし、時間を止めておけるようなマジックバッグもこの世界にはない。つまり、店で買った料理をいつまでも持ち歩くことはできないし、食材だって持ち歩ける量や鮮度には限度がある。
 美味しい食事をしたいなら現地調達、現地調理だ。はぁ……。

「まぁまぁ、リージェ様。あまりカツキ様を困らせてはいけませんよ。それに、ダンジョンの中にも美味しいものありますよ」

 メロンとかメロンとかメロンだろ? 知ってる。
 まぁ、確かに駄々こねてるのは俺くらい……じゃねぇな。チェーザーレ、鍋抱えてガックリしてやがる。

「リージェ様、いつまでも駄々をこねていては立派な暗黒破壊神になれませんよ」
『ウッ』
「リージェ様は暗黒破壊神になどなりません!」

 エミーリオが俺の心を抉りに来た。
 ルシアちゃんが反論するけど、それも違う。俺は暗黒破壊神になるんだ!

『う、うむ。暗黒破壊神たる俺様が駄々をこねるわけがなかろう。本庄、今まで大儀であった。帰還の時まで、改めて宜しく頼む』
「ああ」

 本庄に手を差し伸べ、本庄が握り返してくる様子をにこにこと満足げなエミーリオが見守る。って、本庄、肩震えてるぞ! わ、笑うなー!

「いや、だってお前、チョロすぎ……プッ」

 とうとう堪らずといった様子で笑いだす本庄。
 こら1号、今度からリージェに言うこと聞かすときは暗黒破壊神になれないって言おうぜじゃねぇよ。


 そんな感じで本庄との別れを惜しみながら進み、夕方には指定されていた村に到着した。
 分厚く高い石壁が村の周囲をぐるりと囲っている。壁の上には物見櫓っぽいのも見える。
 門前に武装した兵士っぽいおっちゃんが二人立っていた。

「長旅お疲れ様です!」
輜重(しちょう)部隊も到着しております!」

 迎え入れられて中に入ると、周囲に麦畑が広がっていた。その中にぽつぽつと木の家が点在している。
 広さの割に家の少ない集落だった。規模の割に防壁がしっかりしているのは近くの王都の食を支えているからか。

 村の中央付近に他より大きな建物があった。その近くに刈り取られた麦畑が一面あり、そこに馬車が三台、馬が10頭、武装した兵士だか騎士だかよくわからない集団がわらわら。
 建物から荷馬車へと物資を運んでいる人、木の板みたいなのを片手に荷物をチェックしているらしき人、陣形を確認している人、指示を飛ばしている人。なんだかとても慌ただしそうだ。
 集まっていた集団は、俺達が入ってきたのに気付くと一斉にこちらに向かって敬礼した。

「お待ちしておりました。聖女様、聖竜様、レガメの皆様……そしてバカーミオ」
「誰だ、それは」
「貴様だ、エミーリオ! 職務を放棄する者などバカで十分だ!」
「なっ! 貴様、ますます俺への態度が酷くなっていないか?!」

 おぉ、敬語じゃないエミーリオ新鮮。っていうか知り合い?
 集団に指示を飛ばしていた人物が話しかけてくると、エミーリオとじゃれ合い始めてしまった。
 アルベルトが咳払いすると、慌てて申し訳ない、とこちらに向き直った。
 そして、兜を外すとサラリと長い銀髪が流れ落ちる。
 長いまつ毛にパッチリとしたライトブルーの瞳。ぷっくりと膨らんだ形の良いピンクの唇。端正な顔をキリッと引き締めた麗人が口を開く。

「申し遅れました。私は皆様に同行させていただく輜重部隊、並びにその警護の任務に当たらせていただく近衛第二小隊の指揮を任されました。セントゥロ近衛騎士団団長代理のジルベルタ・デイ・アルコと申します」

 あぁ、やっぱりエミーリオに仕事を押し付けられた人……女性だったのか……。ん?

『同行?』
「え? ……あの、ご存知なかったのですか……?」
「あ、ごめーん。伝え忘れちゃった☆」

 戸惑うジルベルタと俺達。
 てめぇ、1号! てへぺろ、じゃねぇよ!

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