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39話 文化祭当日

 五月丘高校の学園祭が始まった。五月丘高校の学園祭は一般の地元住民にも公開されている。そのため、朝から多くの住民達が五月丘高校へ来場している。

 出店を催したクラスは忙しそうにフランクフルトや焼きそばを売っている。凝った出店ではクレープ屋を催しているクラスもあった。

 文化祭を催している学校の生徒達も、それを見に来た街の住民の人々も皆が笑顔で学園祭を楽しんでいる。

 2年1組の劇は午前の部となっている。直ぐに体育館へ向かって、衣装に着替える。

 刀祢の恰好は女子達が作ってくれた野武士の格好だ。渋い刀祢が着ると、いかにも野武士のようで、厳めしく強そうだ。


「刀祢、舞台衣装、とても似合っていて恰好いいよ」

「直哉も心寧も、似合っているぞ。さすがイケメンと美少女だな」


 直哉と心寧が来ている服には羽織が着いていて華やかで、イケメンの直哉と、美少女の心寧にとても似合っている。


 2年1組の劇が始まった。

 劇が始まった。タイトルの「宮本武蔵と佐々木小次郎兄妹」が読み上げられる。

 刀祢が扮するが武蔵が武者修行の旅を続けていると、五十嵐が扮する、 有馬喜兵衛(アリマキヘイエ)が刀祢の前に現れて、勝負を挑んでくる。

 五十嵐は竹刀で刀祢は木刀を構える、五十嵐の激しい打ち込みを木刀でいなし、受け流す。そして、五十嵐の体の前で木刀を袈裟切りに振り下ろすと、五十嵐は自ら倒れて勝負に決着が着く。

 次々に刀祢が演じる武蔵へ剣道部員達が演じる兵法者達が挑戦し、刀祢に斬られて行く。

 中盤の山場は京都の吉岡一門と武蔵の戦いで、その時は剣道部全員が吉岡一門を演じて、刀祢が演じる武蔵へ襲いかかる。

 その乱撃を受け流して、時には躱して、刀祢がヒラリヒラリと剣道部員達を1人づつ討ち取っていく。その迫力に観客席から拍手が起きる。

 そして場面は変わって、直哉が演じる、佐々木小次郎と心寧演じる妹の多恵が登場すると、イケメンと美少女の登場に体育館の観客は湧く。

  武蔵(刀祢)佐々木小次郎(直哉)に会いに来て、妹の 多恵(心寧)と恋仲になり、2人で小倉の街を散歩するシーン。


「桜の木も美しいが、多恵さんのほうがもっと美しい」

「そんなこと言われると恥ずかしい。でも、ありがとう武蔵」


 武蔵と多恵の声優を演じている声優の生徒達が甘い雰囲気を作り出す。

 刀祢と心寧が手を繋いで互いに本気で照れて恥ずかしがっている姿を見た観客達は羨ましそうに声を出す。

 武蔵が多恵との恋仲を許してもらおうと直哉が演じる小次郎に頭を下げるが、武蔵などに妹はやれんと、一喝し、武蔵に果たし状を叩きつける。

 そして場所が移り、風景は巌流島となる。小次郎と武蔵が木刀を持って、真剣な打ち合いが始まる。


「今日は勝つからな」

「今は劇の最中だ。試合じゃない」


 そんなことを劇をしながら刀祢と直哉は小声で言い合う。

 その迫真の演技と、木刀と木刀が打ち合う音が迫力を増す。そして、刀祢が逆袈裟に斬り上げた所で、木刀を寸止めする。小次郎はそのまま斬られた演技を続け、舞台の上で討たれて倒れる。

 その後に兄の仇討ちとしようと多恵と武蔵が、木刀での一騎打ちを演じる。心寧の剣捌きは鋭く、鋭い剣戟が刀祢を襲う。

 心寧も直哉と同じく、本気で真剣に打ち込んでくる。刀祢は、心寧の胴を一閃して、心寧演じる多恵を打ち倒す。

 その後で、武蔵が多恵を抱き上げて抱きしめる。


「劇の中でも刀祢に抱かれてるのって、嬉しいし、恥ずかしい」

「俺も心寧を抱きあげられて嬉しいが、舞台のうえだと照れる」

 刀祢が心寧を抱いたまま、幕が下ろされる。


「やっと劇が終わるな」

「楽しかったね刀祢」


 解説を務める放送部の女子が、武蔵が一生涯を独身で通し、五輪の書を残したと解説して劇が終わった。

 観客達はその場で盛大に拍手をし、2年1組の劇は大盛況のうちに終わった。

 午後からは2年1組の生徒は自由時間となった。

 昼になったので小腹が空いて、刀祢と心寧は焼きそばの出店に行って、焼きそばを2つ頼んで、中庭のベンチで焼きそばを食べる。

 心寧の唇に青のりがついていたので、刀祢が無意識に指を伸ばして心寧を唇と拭くと、心寧は恥ずかしそうに俯いた。


「ありがとう」

「ああ」


 刀祢はアッという間に焼きそばを食べてしまった。すると心寧が自分が食べていた焼きそばを分けてくれる。

 今までの刀祢であれば、中庭で食べるなど恥ずかしくて考えられなかったが、最近では刀祢も心寧を2人で外で食べても平静でいられるようになった。


「心寧、どこへ行こうか?」

「私は刀祢と静かにゆっくりできる所がいいな!」


 学校の中を色々と歩いて、色々な店に入る。そして刀祢と心寧は3年生の催しているカップル喫茶へ立ち寄った。

 カップル喫茶では五十嵐にも出会った。五十嵐は同じ剣道部の女子と一緒にいる所を刀祢達に見つかった。五十嵐は慌てて、顔を真っ赤にする。剣道部女子も照れて俯いている。


「このことは剣道部の全員に内緒にしてくれ」

「わかった。誰にも話さないから、2人で楽しめよ」


 五十嵐が刀祢の言葉を聞いて、ホッと胸を撫でおろしている。

 そして、刀祢と心寧が目を見張ったのは、窓際に座っている莉奈と直哉だった。2人は仲良さそうに、手を繋いで微笑み合って、ジュースを飲んでいる。

 刀祢と心寧は、戸惑いながら2人に近寄る。


「直哉と莉奈じゃないか。2人で手を繋いで、そういう関係だったのか?」

「あら、とうとう見つかちゃったわね。私達、1学期の時から付き合っていたの」


 莉奈は恥ずかしそうに、ニッコリと笑う。


「刀祢と心寧が付き合ってから、言うと思ってたんだが、タイミングを見逃してしまってさ。今まで黙っていて悪かった」


 直哉は髪を軽く掻きながら、少し照れて、微笑んでいる。

 刀祢と心寧は驚いて顔を見合わせる。


「刀祢、2人のこと気づいてた?」

「いや、全然、気づかなかった。心寧は?」

「私、何も聞いてなかったよ」


 直哉と莉奈は幸せそうに2人で微笑んでいる。

 刀祢と心寧も隣の席に座り、直哉と莉奈と楽しく4人で過ごした。

 そして、文化祭が終わり、演劇部門で2年1組は優勝を果たした。

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