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7-2「二人は、姉妹だよね?」

 あのDX-001のVRシミュレータを終えた後、クロウは航空隊にもみくちゃにされながら航空隊のブリーフィングルームに戻っていた。彼らに取ってクロウの存在はもはや単なる航空隊の新隊員というだけに止まらない。希望であり生ける英雄そのものだった。

 VR訓練室でタイラーにこの日の稼業終了、つまり今日の残りの時間を休みだと通達された彼らであったが勿論クロウを開放する気にはなれなかった。今、クロウはブリーフィングルームの真ん中辺りの席に座らされ、航空隊員達に囲まれて質問攻めの集中砲火を浴びていた。

「タイラー艦長とどこで知り合ったの?」

「で、結局私の彼氏って事でいいんだよね? 子供は何人欲しいの?」

「そもそも、あのでたらめな戦闘機のマニューバをどこで覚えたんだい?」

「見たこともない『人型機』の特性をどうしてあそこまで熟知した動きが出来たんだ?」

 様々な質問を浴びせられるが、困った事にクロウには答えられる質問は少ない。

 クロウ自身がロスト・カルチャーであるという事を避けながらそれらの質問に答えるのは難しいからだ。途中に何かごく個人的な質問が含まれていたが、クロウはそれを無視することに決めた。他の航空隊員もその質問に関しては聞かなかった事にした。

「クロにぃはロスト・カルチャーだからじゃよ。それもタイラーパパと同じ『文明破壊』以前の知識を色濃く有するレアな人材じゃ」

 どうやってごまかしたものかとクロウが思案している間に、航空隊員達に囲まれてクロウからは隠れて見えなかった小さなルピナスがそう言って航空隊員をかき分けてクロウの傍に来た。

「困っとるようじゃの、クロにぃ。助け舟を出しに来たぞぃ」

 突然のルピナスの出現と、さらりとタイラーから情報規制されている事実を言ってしまった彼女自身にクロウは目を白黒させた。言っている事は真実だが、それを答えていい権限をクロウは有していなかったからだ。

 いや、そもそもこのルピナスは自分の事をどこまで知っているのだろうか。タイラーはクロウがロスト・カルチャーである人間は数名だと表現していた。確かにあの言い方なら、ルピナスが知っていても矛盾は無いのだが。

「すまぬ、混乱させたの。まず、クロにぃがロスト・カルチャーなのは、少なくともワシは最初から知っておった。で、今航空隊にその事実を公表する許可もタイラーパパからちゃんと貰ってあるから心配しないで欲しいのじゃ」

 そのルピナスの雰囲気は8歳の少女にしてはあまりにも大人び過ぎていた。クロウはVRシミュレータ室でDX-001の操作方法を問うた時の彼女の様子と、大格納庫で他ならぬDX-001の開発に彼女が関わっていたとタイラーが発言した事実を思い出すと、ルピナス自身がただの幼い少女ではない事を思い出していた。初めて食堂であった時、ルピナスはルウに『一人目のフォースチャイルド』であると紹介されていたのだ。

「あー、クロウ。さっき言いかけたフォースチャイルドの話なんだけどよ」

 と、ミーチャは言いかけた。航空隊の自己紹介の時、ルピナスと同じくフォースチャイルドであるアザレア・ツクバの自己紹介の時にクロウが感じた疑問の事である。だが、そのミーチャの言葉を「よい『ミーねぇ』、当事者の口から説明させてもらえんかの?」とルピナスは遮った。

 ルピナスは自分の近くにいたアザレアに並ぶと、アザレアに屈むように頼む。すると、ルピナスとアザレアが椅子に座るクロウから見て同じ目線に並んだ。

「クロにぃはワシとアザレアはどう見える?」
 金色の瞳と銀色の髪の少女二人はその年齢を除けばそっくりに見えた。アザレアにもルピナスの名残というか、鼻の形などが特に似ているのだ。

「二人は、姉妹だよね?」
 だから、クロウは素直に、思った事を言った。それはアザレア自身も言葉少なく肯定していた事だった。

「にゃは! 正解じゃ! そしてこのアザレアはワシの妹に当たる」

 ここが、クロウにはわからなかった。見た目はどう見てもアザレアの方が年上に見えるからだ。そこで、はたと自分にインストールされたフォースチャイルドは実年齢5歳程度である。という事実を思い出す。それであるのだとすれば、目の前のルピナスの年齢が合わないのだ。

「そうじゃ、クロにぃ。ワシは確かにこのアザレアと同じように途中まで培養槽で育った。だが途中で、成長不全ではじき出された失敗作じゃ」

 そう言う彼女は「今はママとじぃじに立派な体を貰ったから普通に成長するし心配ないがの!」と続けながら笑う。だから、彼女はフォースチャイルドの中で最も幼い見た目をしながら最も早く生まれたのだった。

「で、のう。ワシの場合失敗が成功だったというかちょっと特殊な事情での」
 なおも言葉を続けようとするルピナスに対して、クロウはぽんと頭に手を置いた。

「いいよ、ルピナスはルピナスだ」

 そう言って、クロウはその言葉を遮った。ルピナスが言おうとしているのは恐らく、誰にもなしえなかったDX-001の設計開発を彼女がなしえたその理由だろうとクロウは察する。だが、そんな事はクロウには関係が無いのだ。

「アザレアもアザレアだ」

 表情もなく、ルピナスの隣で佇むアザレアにもクロウは言い切った。瞬間、アザレアの金色の瞳に微かな色が見えたのは気のせいであろうか。

「やっぱり変わったにいちゃんなのじゃ!」

 そう言ってルピナスはクロウに抱き着いた。

「ん、僕はルピナスの『にいちゃん』だ。他のこの艦の人と同じルピナスの家族の一人。まだ『にいちゃん』見習いだけどね」

 そう言いながら、抱き着いてきたルピナスを抱き返してクロウはそのまま立ち上がる。ルピナスはそのままクロウの胸の上でお姫様だっこの状態になった。

「にゃはは!」
 ルピナスは新しい兄にだっこされ上機嫌だった。

「さっきのみんなの質問だけど、僕は『ロスト・カルチャー』だ。その前提で答えるよ」

 クロウはルピナスを抱いたまま航空隊の面々を見渡した。クロウに最初に質問したのは、意外にもケルッコに「人見知り」と紹介されていたトニアだった。クロウは彼女の明るい茶色の瞳を見据える。場の雰囲気のお陰だろうか、トニアもその視線を外すことはなかった。

「タイラー艦長と会ったのは昨日が初めてだ。僕は艦の外の病院で目が覚めて、そのまま艦長に連れられてこの艦に来た。目覚めたときには僕の病室に艦長が居たよ。どういう経緯かまでは僕にもわからないけれど。これでいいだろうか?」

 その答えを聞いたトニアは一瞬目を見開いて、その栗色の美しい髪を波立たせながら首を傾げてクロウへ問う。不安そうな顔にクロウには見えた。

「クロウ君は不安じゃ無いの? いきなり連れて来られて軍人にさせられたって事でしょう?」

 言われてクロウはしばし考える。腕の中のルピナスがクロウの胸の辺りの服を軽く握っていた。

「そうだね。不安じゃないと言えば嘘になるけれど、それでもタイラー艦長は僕に強制する事はしていない。この艦に乗ることも、軍人になることも、僕自身が選んだことだ。まあ、僕にはここ以外に帰る場所も無かったし、僕の探し人を探す手伝いをしてくれるって艦長が言ってくれたっていうのもあるけれど」

 それを聞いたトニアはそっと微笑む。
「ありがとう、ちゃんと答えてくれて。クロウ君の探し人が見つかるように私も陰ながら祈るよ」

「ありがとう」
 応えたトニアに対してクロウも微笑んで感謝の言葉を返した。探し人が見つかるように祈ってくれるこの少女の優しさを感じながら。

「おいおい、じゃあ本当に目覚める前まではただの学生だったのかよ? じゃあ、あの戦闘機のマニューバはどうしたんだ? とてもじゃないけど素人の動き方じゃないぞ?」

 そのやり取りを聞いて逆に疑問の声をあげたのはミーチャのである。彼女はクロウに対して戦闘機の操縦をどこで覚えたのかと質問していた本人でもある。

「簡単です。僕は生前、『戦闘機の操縦を競うゲーム』をやりこんでいたんです。今の時代に似たようなものがあるかどうかはわからないですが、僕の時代では家庭用のゲーム機で世界中のプレイヤーとドッグファイト(戦闘機における空戦格闘)をするゲームがありました。もちろんこの艦のVRほどの再現度では無かったですし、Gも感じる事は出来ませんでしたけど、それでも飛行機の動き方の『癖』みたいなものを僕は理解出来ていたんです」

 それを聞いたミーチャは納得する。文明破壊事変によってゲームなどのサブカルチャーの多くも失われた。現在においてもゲームは存在するが、クロウの言うような世界中のプレイヤーと競い合うような競技は存在しない。無論この宇宙歴においてもインターネットは存在している。だが、ネットワークVRはあまりにも進歩し過ぎた。実際に仮想空間内に現実と見間違うほどの『街』が存在する程である。だからこそ逆に思いつかないのだ『現実離れした経験』を仮想体験するというクロウの言う旧世代の娯楽が。

「なるほどな、それでインストールされたファルコンの操縦方法とその時の経験でユキを落とした訳か」

 ミーチャの答えに対してクロウは頷く。視界の端でユキが照れている、が、クロウは無視する。下手に触れると危険だ。少なくてもルピナスを抱っこしている今、クロウの安全は確保されていると言っていい。流石にユキでもルピナスを放り出して突撃してくる様子は無かった。

「最後は、ケルッコだったかな? どうして僕が『人型機』の特性を知った動きが出来たかっていう質問だったと思うけど」

 クロウの受け答えを聞いて難しい顔をしていたケルッコはクロウに呼ばれて笑みを見せた。

「ああ、すまない。覚えていてくれたか、俺も今の君の答えを聞いてだいたい想像は出来たんだが聞いてもいいだろうか?」

「もちろん、別に隠すような事でもないしね。僕の時代のサブカルチャーには『ああいった人型機』が登場する映像作品が結構あるんだ。僕はそれが好きでかなり見ていたんだよ。いつか乗ってみたいなって思いながらね。まさか本当に乗れるとは思っていなかったけれど、どうやらあの『機体』は艦長がそのアイディアから着想した機体みたいなんだ」

 ここでクロウは抱っこしたままのルピナスを見る。その金色の瞳と目が合うとルピナスは「なのじゃ!」と抱っこされたまま万歳のポーズを取った。あのDX-001を開発したのはシドとルピナスだとタイラーは言っていた。当然ルピナスもその映像作品を知っていた筈だ、そうでなければあのDX-001の不自然なまでのクロウの知る映像作品との一致はあり得ない。

「みんなの言う『人型機』、DX-001の操縦方法は単純だ。ほとんどが脳波コントロールで動く。レバーや操作系統、ペダルなんかもあるけど、それらのほとんどは補助的なものだ。ペダルは重心移動、レバーは細かい操作をする時なんかに操作をリンクさせて使う。僕の知る映像作品でも『人型機』の操作方法については細かく語られていないんだ。でも、このDX-001の操作方法は理にかなっていると僕は思うよ。『そうじゃなきゃ』あんな細かい指の操作までスイッチで行うというのは現実的じゃないからね」

「なるほどね、あのDX-001は『技術』で動かす訳ではなく『想像力』で動かす機体なんだな?」
 そのケルッコの答えにクロウは面食らう。ここまで的確に自分の想像通りの答えを返してくるとは思っていなかったからだ。

「ああ、そうだ。そして僕は『人型機』の『理想的な動き方』を知っていた。映像作品の中でエースと呼ばれるようなパイロット達の『人型機』がどうやって動いていたかを知っていたからね」

 クロウの答えを聞いたケルッコは大きく頷いた。

 だが、この瞬間、クロウに対して疑惑を深めた者が一人いる。ルピナスである。あのDX-001を作ったルピナスは知っている。クロウの言うほどにDX-001の操縦が楽ではない事をである。

 その開発に当たってルピナスもDX-001を『操縦』していた。勿論、機械と言うものはその製造過程においてテストを繰り返す。あれだけ可動部の多いDX-001であればその動作確認行程も膨大となる。今この瞬間においてDX-001を一番動かせるのはこの『つくば型』の中でルピナスのはずである。だが、このクロウは初見でDX-001の性能を引き出して見せた。それに対する疑問は当然である。

 しかし、ルピナスは思うのだ、このクロウは「いいよ、ルピナスはルピナスだ」と言ってくれた。ならば逆にクロウはクロウでいいではないか、と。

「あっ! クロにぃ。ルピナスはクロにぃにお願いがあってタイラーパパに許可を貰ってここに来たのじゃ!」
 だから、ルピナスはその疑問を無視して当初の予定通りクロウに『お願い』をする事にした。

「ん? 何? 出来る事なら言ってくれればやるけど」

「ルピナスにクロにぃの『部屋』を見せてくれるかの? もし許してくれるのならその中の物を少しだけ貸してほしいのじゃ。絶対壊したり傷つけたりしないと約束する!」

 ルピナスの言うクロウの部屋とは、今格納庫に置かれているコンテナに保存されている、クロウの旧時代の部屋に他ならなかった。その思い出がつまった部屋にルピナスは用があるという。

「え、別に構わないけど、あの中にルピナスが喜びそうなもの、あったかな?」

「ありありなのじゃ!!」
 クロウの腕の中でルピナスは万歳をして主張した。

 航空隊員とルピナスを抱いたままのクロウはそのまま格納庫のクロウの『部屋』の前まで移動した。この部屋のコンテナはタイラーによって厳重に施錠されていたが、クロウの生体情報によって開錠出来るとクロウにタイラーは説明していた。

「あ、航空隊のみんな連れてきちゃったけど、いいのかな?」

「多分大丈夫なのじゃ! でも一応念のため、航空隊のねえ達は中に入らない方がいいと思うのじゃ」

「じゃ、開けるよ」

 言うとクロウはコンテナの取手に手をかけ、以前開けた時と同じように一気に下へ引き切った。タイラーが言うには、この取手に触れる事自体が開錠だと言う。これは現在クロウにしか開けられないように設定されているという。ドアは依然と変わらずに自動的に開いた。

「え、ちょっとクロウ君!」
 声を上げたのはユキだ。他の航空隊の面々も中のクロウにとっては何の変哲もない部屋の様子に絶句していた。

「なんです、ユキさん?」

 ユキはクロウに対して、隊長や階級を付ける事を禁じた。クロウは仕方がないのでユキを『さん』付けで呼ぶこととした。珍しくまともに声を上げたユキにクロウは、その茶色い瞳を見開いて酷く驚いた表情をしている彼女に聞く。航空隊の面々もDX-001を始めてみた時よりもずっと驚いているようにクロウには見えた。

「この中身ってまさか、クロウ君が生きていた時代のものなの!?」

「そう、ですけど」

 それが何か、と言いかけて「仮にあのコンテナを丸ごと売り払うとなれば、恐らく孫の代まで遊んで暮らしても余る金額になるだろうな」というタイラーの言葉を思い出していた。だが、確かにそれらは失われたものであるはずだが、歴史の教科書ならいざ知らず、この部屋の中にある多くはいわゆるオタグッツなのだ。クロウにとってそんなものがタイラーの言うように途方もない価値があるものだとは思えなかったのだ。

「あのね、クロウ君!」
 気が付いていない様子のクロウに対して、ユキはそのオレンジ色の髪を揺らしながら、珍しく怒った顔でつめよって来た。

「君の時代のものはそのほとんどが現存していないの! それは例えば音楽とか、映像とかそういったサブカルチャー的なものは本当に数が少ないの! 歴史書とかそういった学術的なものは少しだけ残っているけど、当時の人たちがどんなことを思って、どんなものを好んでいたとかそう言った『感情的』な資料ってほとんど残っていないの!」

 そこまで言って、ユキは「例えば、だけど。クロウ君は自分より4000年前の人がどんな歌を歌ったり、どんな物語を読んでいたかわかったら凄いと思わない!?」と聞いてきた。左手を腰に当て、クロウに人差し指を指しながら、である。

「ああ、なんかすごい事のような気がしてきました」

「すごいなんてものじゃないよ! 特にクロウ君のこの部屋はサブカルチャーの黄金期と言われた前時代の1950年から2100年代のものじゃない! この時代の映像作品の一部でも見つかれば大騒ぎなのよ! 特に人気があるんだから!!」

 それらの前時代サブカルチャーは一般にも浸透し、そのオリジナルは熱狂的なコレクターによって天文学的な金額でやり取りされるという。タイラーがこの部屋を指して『孫の代まで遊んで暮らせる』と表現したのはこのことが所以だったのだ。

「クロにぃ。これを一式借りるぞ。アザレア、申し訳ないがちょっと持つのを手伝ってもらっていいかの、ワシの腕の長さでは間違って落としたりしたら大変じゃ。一応背嚢を持って来たのでそれに詰めて持ってもらえるかの?」

 ルピナスが指さしたのはDX-001を作る際にタイラーが参考にしたであろうロボットアニメのDVDBOXだった。それをルピナスとアザレアが背嚢と呼ばれる軍隊用のリュックサックへ詰めていく。

 因みに、そのロボットアニメの映像作品をクロウとその兄は全て集めていた。公式作品はもちろんOVA、異端とされる外伝や、その他シリーズまでも、である。さらにはマイナーなゲームなども可能な限り集めており、その設定資料なども本棚や収納に収められている筈である。映像作品に関しても少なくともクロウが生前までに発売されたものは全て揃っていた。その結果、大型のリュックサックの背嚢に丁寧に入れていたのだが、入りきらず、一部手持ちのトートバックにはみ出していた。

「いや、いいんだけど、それ全部見たら、えっと何時間だっけ、とにかくすっごい時間かかるよ?」

「いやいやいやいやいや! クロウ君! さっきの話聞いてた!? あれ全部売ったらこの先働かなくてもいいし、地球の一等地に庭付きの豪邸建てて私と毎日セッ〇スしてサッカーチーム位の子供作っても余裕で生活できるわよ!?」

 そう言いながらユキががくがくとクロウをゆする。その例えはともかくその金銭的価値が高いという事だけはクロウにもきちんと伝わっている。因みに若い娘さんとしてその直接的な性表現はどうなの、とクロウは思い、脳内でそっと伏せ字にして差し上げた。

「でも、ルピナスには必要だし、使った後ちゃんと返してくれるんだろう? それなら別に構わない。」

 と、クロウは事も無げに言った。

「うむ、必ず返すぞ! 何、データを少々コピーさせてもらうだけじゃ、作業が終わったらこの部屋に元通りに戻しておくぞい。あ、ここの施錠開錠はワシなら出来るから心配しなくていいのじゃ」

 コピー。それは著作権に引っかかるのではないだろうか、とクロウは思ったが。よくよく考えてみればその版元がこの4000年もの間存続するはずもありえなかったし、クロウの記憶によれば著作権はその作者の死後100年程度で権利として消滅するはずであった。

「なら、なんの問題も無いな。この部屋にあるものだったらルピナスは好きにしていいぞ」

「どーしてそうなるのよぉおおおおおお!!!」

 そのやり取りを聞いていたユキは後ろからクロウの背中に飛びつき、クロウの頭をなんと力の限り噛んだ。それを見た航空隊員達が慌てて止めたが、クロウは頭から血を流し顔面を血だらけにするに至った。

 クロウは頭頂部を美少女に強かに噛まれるという恐らくそうそうありえないシュチュエーションを、痛覚を伴って体感し、そういえば頭の失血ってかなり血が流れるんだっけと、この場においてはどうでもいいことを思っていた。実はクロウは他人に噛まれるというレアなシチュエーションに『生前』から慣れていたのである。

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