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第4話 イリノアの街

それから数時間後、ようやくイリノアの街に到着した深琴だった。着くには着いたが、それなりの時間になっていた為に、街も静まりを見せ始めていた。深琴は馬を馬房につなぐと、ファブルに教えてもらった店に向かった。

「確か、看板に風変わり?――ここ?……とりあえずこの紙に書いてもらった物を聞かないと」

その店は偶然にも昼間、深琴の兄であるオルトが入った風変わりの店だった。夜は飲食兼居酒屋に変わり商売を行っていた。深琴は自身を落ちつかせるように、深呼吸をしてから店の中に入って行った。




「あの~遅くにすみません。このお店って昼間は万屋よろずやをやっているお店ですよね? この材料を探しているんですが、ありませんか?」




深琴の説明を聞いた従業員は奥にいた店主に話をすると、店主がこちらに来て話をしてくれた。

 
挿絵




「お嬢ちゃん、その材料はあるにはあるが高価なものだから他の場所に保管しているんだ、それと、お金はちゃんとあるのかい?」




その質問に深琴は答えるように腰袋をカウンターにのせてから金貨を出して見せた。

「わかった、でも今すぐには無理だ、明日の朝にならないと、保管場所の宝庫番は来ないんだよ」




店主が言った予想外の回答に、一瞬にして心が焦りへと傾いてしまったが、深琴は食い下がった。そうしなければセテの村にいる子供たちの命が危ないことに直結しているからだ。

「そんな! それだと間に合わないかも知れないんです――村の子供たちが今も苦しんでいるのに、待たなければいけないなんて……なんとかなりませんか?」




店主に詰め寄る深琴だったが、店主は申し訳なさそうに首を振りながら答えた。




「気持ちはわかるが、宝庫番が来るのを待つしかないんだよ……宝庫番の居場所もあっしたちにはわからないからね」




深琴はその言葉を聞いて愕然としながら自分に託されたみんなの想いに押しつぶされそうになっていた。




「みんな……ごめん……どうしよう」




「すまないね、今直ぐここで手に入る他の材料はこちらで手配するから、暫くそこで待ってなさい」




そういうと店主は従業員に指示をして材料を用意させる。――そんなようすを傍らでじっと盗み見していた男が深琴にそっと声をかけてきた。




「そこのお嬢さん――何かお困りの様ですね?」




沈んだ表情の深琴が振り向くと、そこには男が立っていた。男の背は少し低く、目は細くつり上がっている。そして珍しい形のカギを深琴に見せて話し始めた。




「どうしました? 何か必要なものなどありましたら私の方でも用意はできますよ。これでもこの町ではちっとは名の知れた商人ですから……これは貴重な金属でできた鍵でしてね、そこいらの商人なら欲しくてたまらない物が沢山入った所の鍵でもあるんですよ」




男が言うと深琴はハッとしたような顔をして、その男に事情を説明しながら材料の紙を見せていた。




「え! それじゃ~この紙に書いてある物も手に入るのですか?」

「はい、もちろん揃いますよ」




男は即答で言うと、その言葉で一気に深琴の表情も明るくなっていた。見せた材料の紙などまともに見ないで受け答えをしていて、深琴も普通の時ならおかしいと思ってもいいはずなのだが……今はそんな事さえも判断できない程、困っていた。




「 今直ぐに揃いますか?」




「平気ですよ」




男は頷いて答えた――その返事は何かを含んだ感じがしていたのにも深琴は気づかずに、それよりも、これでセテの村の子供たちが助かるという思いの方が強くなっていた。

その男が深琴と店を後にして外に出て行くのを見た店主が声をかけるが、その声は届いていなかった。




「あれ? お嬢さんどこに行くんだい!」




すれ違いで別の入口から深琴の兄であるオルトが入って来て、店主に注文する。




「何か適当に酒を見繕ってくれるか……」




「旦那か……ちょっとお待ちくださいな、どこ行っちゃったのかね~さっきのお嬢ちゃんは」




その独り言を聞いたオルトはなんとなく気になったのか、店主に尋ねてみた。




「何かあったのか?」




「いや、あのですね……」




店主が今あった出来事を細かくオルトに話すと――その内容に怪しいと思うところがあったのだろう、店主に聞いていた。




「で、このイリノアの街にその材料を扱う商人は何人いるのだ?」




その質問に店主は肩をすくめて答えた。




「いや~あんな貴重な物はあっちこっちの店で扱ってはないですよ、イリノアの街では、あっしの所しか扱ってませんし」




店主の答えにオルトは女性を連れだした男に怪しさを確信した。




「その男、娘をつったようだな……」




そういうとオルトは持っていた飲み物を飲み干しカウンターにお代を置いて、その娘を探しに店を出て行った。

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