バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

事情を聞きました

「我が父は『修道院や孤児院が領土の近くにあるのは邪魔だ!』という考えでして、本来ならこの修道院に使われる支援金を横領していたんです。」
「つまり、自分の懐に入れていた、と言う事ですか?」
「はい……、本当に申し訳なく思っています。」
 私は内心(やっぱりなぁ~)と思った。
 実は貴族の中にはこういう考え方をする人は珍しくない。
 私の父親が正に同じ考え方をするタイプ。
 領民をあまり大事にしない、孤児とか奴隷は容赦なく差別する。
 人として最悪なタイプの人間なのだが、質が悪いのがお父様の年代の貴族は大多数が差別主義者である、というのが頭が痛い話だ。
 その息子とか娘は、見事に二つに分かれていて親と同じタイプになるか、反面教師として親とは全く違うタイプかだ。
 私は後者で、だから家族との仲があまり良くない。
 王妃教育の一環として孤児院の手伝いを王妃様とやったりしていた。
「それで、その前公爵様はどうされているんですか?」
「つい最近病気で亡くなりました。僕は引き継いだばっかりなのです。」
 引き継いだ直後に私は手紙を出してしまったのか、タイミングとして良いのか悪いのか複雑だ。
「この事は国に報告して然るべき罰は受けるつもりです。勿論、今まで横領していた支援金はお返し致します。」
「そうなると生活が苦しくなるんではないでしょうか?」
「そうなっても仕方が無い事です。父は既にこの世にはいませんし……。」
 うん、この人は誠実で良い人だ。
 王都ではいろんな貴族を見てきてそれなりに人を見る目はあると私は思っている。
 トーマス様は人格者である、と私は思った。
「それでは、この修道院の再建に協力して頂きませんか? 見ての通り私一人では直せない所もありますので。」
「勿論です。今日はその下見にやってきたんです。」
「それじゃあ中をご案内致します。足元にはお気を付け下さい。」
 私はトーマス様を修道院の中に連れて行き案内した。
 トーマス様は細かいところまでチェックされていた。
 後日、職人を連れてくる、と言われ帰っていた。
「……ああいう誠実な方もいらっしゃるのね、王都にはなんでいないかしら? やっぱり王都に来ると人の感覚が鈍ってしまうのかしら。」
 トーマス様にはこのままでいてほしい、と思ってしまった。

しおり