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新たな仲間


「……ど、ど、ど……」
『どうした?』
「あ、あの鳥仲間になりたいって……」
『は? ……ははははははははは! マジか! この世界そんなシステムがあるのか⁉︎ あははははははははは!』

 なぜか大爆笑のジーク。
 こっちは全然笑えない。
 頰が引きつり、どうして良いのかさっぱりである。
 七色鳥はくい、と小首を傾げ『ダメ?』と聞いているようだった。
 困り果て、ショコラを見る。
 ショコラはショコラで分からない、という表情。
 まあ、そうだろう。

『ふーん? で、どうするんだ? この世界で活動していくのなら、仲間(笑)は必要だろう?』

 今絶対セリフの後にカッコ笑い、が付いた。
 忠直ですらそれに気付くほどあからさまだっだ。
 じとり、と睨むが効果はない。
 むしろますますジークの笑みが深くなる。

「……ま、まあ、そ、そうだな? えーと、俺がこの表示を押しても良いのか?」
「ぴぃー」
「ウルル!」

 いい、と言われている気がする。
 ので、渋々【はい】の表示を押した。
 すると案の定、ウインドウに『七色鳥が仲間になった! 名前を付けますか?』と出る。

「名前……名前を付けるのか?」
『一種の契約のようなものだろう。ドラゴンにもショコラって名前を付けただろう? まあ、こちらの世界では意味合いが違うだろうが』
「あ、そうか……うーん、それじゃあ……」

 じー、と七色鳥を見る。
 すると、キャ、と顔を羽根で覆い、どことなく照れている様子、に見えなくもない。
 いや、きっと気のせいだろう。
 気のせいであれ。

「じゃあ、ねぎまで」
『ふはははははははは! いいな! 最高!』
「ウルルルルル〜!」

 怪鳥改め、七色鳥更に改め、ねぎま。
 ねぎまが仲間になった。

「…………」

 しかし、しくじった気がする。
 主に、ネーミングを。
 今更後悔しても遅いが。
 鳥を見ていたら、それしか浮かばなかったので仕方ない。

「さて、と……仲間が出来たのはいいが……次はどうしたらいいんだろうか?」
「きゅー、きゅー」
「ウルルルル!」
「……まあ、可愛いからいいか……」
『良くねーよ。……とりあえず地形をスキャンしてみたらどうだ? 買い取り対象の情報だぜ?』
「そうなのか⁉︎ ……え? 地形のスキャン……? ど、どうやるんだそれ」
『腕時計を地面に置きな。で、スキャン開始、と言えば自動で始まる。お前は魔力ないから少し時間がかかるけどな。あ、【界寄豆】の周りではやめろよ。振動で上手くスキャン出来ない』
「え? こいつ揺れてんのか?」

 どれ、と触ってみる。
 グググ、と、わずかに震えている感覚。
 本当に動いていた。

『おい、あまり触るな。葉の部分はともかく、根に近い場所は世界規模の養分吸収が行われてるんだぞ。自殺志願者かテメェ』
「っう!」

 そうだった。
 これはそういうものだった。
 慌てて手を離し、距離を取る。
 心配したショコラとねぎまが近付いてきて、忠直を見上げていた。
 二人……ではなく二匹の頭を撫でて安心させ、森の方を見る。

「そ、そうだな。じゃあ……森へ行ってみよう。ショコラの親も探さなきゃだしな」
「きゅー」
「そうだ、ねぎま。ショコラみたいなドラゴンを知らないか? こいつ、親とはぐれたようなんだ」
「ウルル? ウル、ウル」
「……うーん、まだ何言ってるか分からねーな。動物の言葉が分かるようにとかならないのか?」
『追加オプションで、百万』
「う……くそう……」

 金銭感覚がズレつつあるが、百万円って大金である。
 それを改めて思い出し、首を振った。
 保険保障で三百万。
 落下で死なないように借りた飛行補助機百万。
 帰る時に必要になるだろう航空機レンタルが百万。
 これらの動力が魔力である故、ジークに魔力供給してもらうのに二百万。
 ジークのサポートが二百万。
 口止め料として渡されるはずだった一千万はすでに九百万、奪われている。
 残りは百万。
 この後、どんな事態になるのかも分からないのだ。
 この口止め料残金百万円は、何が何でも残しておきたい。

「この辺りならいいか?」

 森へ進み、少し広くなった場所に着く。
 草は生えているが、振動のようなものは体感出来ない。
 少しだけ汗ばむ。
 暑いわけではないが、暖かい。
【界寄豆】はここから見上げても巨大で、その先端が向かう空は雷雲が立ち込めている。
 本当に、そこだけ。
 なるほど、こうして見ると実に気味が悪い。

「……。どれ。……えーと、スキャン開始」

 腕時計を外して、地面に置く。
 教わった通りに言葉を紡ぐと、腕時計から光の波がゆらゆらと広がる。
 波紋のように、いくつもいくつも輪が波打って広がって……そしてスーッと消えていく。

「これ、どうなったんだ?」
『まだスキャン中だ。送れる魔力量はどうしても限界があるからな……性能落ちは仕方がねーや』
「ふーん?」

 よく分からないが、そんなにすぐにスキャンが終わるものではないらしい。
 しかし、待っているのも退屈だ。
 辺りを見回していると、ガサガサ音が近付いてきている。
 ハッとした時にはすでにショコラとねぎまがその方向へ臨戦態勢。
 音が静かになる。
 緊迫感が増していく。

(あれ? ……これ、もしかして……またさっきみたいな事に……?)

 と嫌な予感を感じるのは遅すぎた。

「グルルルァァァァァァアアァ!」
「うわああぁ!」
「きゅー!」
「ウルル!」

 今度は忠直ぐらいある巨大な狼が現れた。
 銀の毛並み。
 赤い瞳。
 胸元には不可思議な模様。
 鋭い牙と爪を剥き出しにして、飛びかかってきた。

「きゅう!」

 ショコラがすぐさま狼の腕を掴む。
 力は互角。
 睨み合う両者。
 じり、じり、と相撲を取るように攻め時を伺っている。
 そうして、二匹が半回転ほどした時に忠直は見付けてしまった。
 狼の左の肩の上付近に、あの黒いコブがある。

(この狼も【界寄豆】の豆を食ったのか……。それなら!)

 あのコブを燃やせばねぎまのように元に戻るはずだ。
 とはいえ、あの位置は少し厄介。
 ショコラは狼を抑え込むので手一杯のようだ。
 ならばねぎまか?
 しかし……。

(ねぎまはどんな事が出来るんだったか……とりあえず突進してつつこうとしてきたよな……。でも、あのコブって直接触って大丈夫なのか? いや、絶対危ないだろ色的に! そんな危険な目には遭わせたくねーし……)

 考えていると、腕時計からジークが叫ぶ。

『魔力上昇! なにかしてくるぞ!』
「なに⁉︎」

 ジークが叫ぶ。
 狼を見ると、喉元が光っている。

「ショコラ! 離れろ!」
「!」

 忠直の指示にショコラが狼から手を離して距離を取る。
 その瞬間、狼の口から氷の(つぶて)がいくつも放たれた。

(氷!)

 それを見た瞬間、咄嗟に叫んだ。

「ベビーブレスだ!」
「きょおおぉ!」

 ほぼ、後ろへ飛んでいる途中。
 宙にいる状態からの抵抗。
 炎の中に消える礫。

(炎の威力が……上がってる!)

 一回り小さかった先程までのショコラのベビーブレスよりも、我がの威力が上がっていた。
 すると、ショコラの横にまたウィンドウが現れる。

『スキル、ベビーブレスがファイヤーブレスに進化しました』

「! 技が進化!?」
『へえ、ますます面白い世界だな。ゲームっぽくて……』

 ワクワクした声色のジーク。
 こっちは全くワクワク出来る状況ではない。
 睨み合いの後、再び狼の喉元が光を帯びる。
 同じ技を繰り出すつもりだろう。
 進化したベビーブレス……ファイヤーブレスなら、礫は防げるが……。

(あっちの手数の方が多い。必ず避けきれない礫がある……まずいな)

 ショコラのファイヤーブレスが前方一直線なら、向こうは十個ほどの礫を一斉に放ってくる。
 それに、素早さは恐らく向こうが上。
 回り込まれて礫を放たれると、反応が遅くなる事がどうしても出てくる。
 先程ねぎまと戦った時の、ねぎま状態だ。

「!」

 地団駄を踏むねぎまを思い出す。
 せっかくこちらは二匹いる。
 ここはねぎまの力を借りるしかない。
 向こうはこちらに危害を加える気満々。
 ここであの獣の豆を燃やすのを諦めれば、何をされるか分からない。
 自分の身を守る為にも、この二匹を守る為にも……。

「ジ、ジーク! 何かないか!」
『は? 抽象的すぎて具体性に欠ける質問するな。何がして欲しい』
「ぐっ……だ、だから、あの狼の豆を燃やす方法!」
『……ふふ、いいな。面白い……。ゲームのサポートキャラっぽいのも楽しいが……』

 ああやはり、完全に面白がっている。
 それが気に入らない気持ちもあるが、今それを言っても事態が好転するわけでもなし。

『まずステータス確認とか出来ないのか?』
「え? ステータス?」

 ステータスとはなんぞや。
 ゲームとかしないので、純粋に聞き返した。
 その時、目の前にまたウィンドウが現れる。


【ショコラ】
 種族:ドラゴン(幼少期)
 レベル:10
 HP:1560/1076
 MP:500/480
 ちから:506
 ぼうぎょ:952
 すばやさ:234
 ヒット:54
 うん:159
[戦闘スキル]
『ファイヤーブレス』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
『ドラゴンクロー』
『ドラゴンテイル』
[特殊スキル]
『力強化』
『防御強化』
『鱗強化』
『素早さ強化』
『経験値取得増』
[称号スキル]
『竜王の転生者』


【ねぎま】
 種族:七色鳥
 レベル:12
 HP:230/230
 MP:95/95
 ちから:32
 ぼうぎょ:24
 すばやさ:69
 ヒット:32
 うん:66
[戦闘スキル]
『つつく』
『魅了のダンス』
[特殊スキル]
『素早さ強化』


「なっ……」
『うわ、倍とかそういうレベルじゃねーな……』
「ん!? お前ステータスとか見えないって言ってなかったか!?」
『は? 解析したに決まってんだろ』
「あ、ああそう……」
『さすがドラゴンというべきか……。ともかく、これで使える技が大体分かった。ねぎまを使うなら『魅了のダンス』で敵の気を引きつけて……』
「ああ! ショコラのファイヤーブレスでコブを焼き払う! ねぎま! 『魅了のダンス』!」
「ウールル!」

 ねぎまが飛び出す。
 狼が飛び出してきたねぎまに顔を向けると、ねぎまがくるりと回り始める。
 片足だけで立ち、その場でくるくる、くるくる。

(ま…………)
『回るだけかよ!』

 思ったが口にしなかった事を、ジークは口に出しちゃった。
 しかし、そのくるくるが効くのか、狼は顔をふらふらさせる。

「な、なんにしても効いてる! ショコラ! コブにファイヤーブレス! 手加減でな!」
「きゅー!」

 ゴッ、とショコラの口から炎が吐き出される。
 狼の首元に生えた黒いコブに、炎が直撃。
 思わず拳を握り締めた。

「ギャァァン!」
「よし!」

 狼は生きたままその場に倒れ込む。
 開きっぱなしのウィンドウの、二匹のステータスに変化が生じた。


【ショコラ】
 種族:ドラゴン(幼少期)
 レベル:12
 HP:2053/2053
 MP:700/700
 ちから:836
 ぼうぎょ:1230
 すばやさ:540
 ヒット:54
 うん:160
[戦闘スキル]
『ファイヤーブレス』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
『ドラゴンクロー』
『ドラゴンテイル』
 New『ファイヤーボール』
 New『ウォーターボール』
 New『ウインドショット』
[特殊スキル]
『力強化』
『防御強化』
『鱗強化』
『素早さ強化』
『経験値取得増』
[称号スキル]
『竜王の転生者』


【ねぎま】
 種族:七色鳥
 レベル:13
 HP:250/250
 MP:98/98
 ちから:37
 ぼうぎょ:28
 すばやさ:72
 ヒット:32
 うん:66
[戦闘スキル]
『つつく』
『魅了のダンス』
[特殊スキル]
『素早さ強化』

「レベルが上がった?」
『そこじゃねーだろ』
「え?」
「きゅー、きゅきゅー!」
「お、おお! ショコラ、良くやった! ねぎまもお疲れ様! やったぞ、お前らまた勝ったな!」
「きゅきゅー!」
「ウルル〜!」

 駆け寄ってきた二匹の頭を撫でる。
 怪我もなさそうで安心した。
 いや、しかし、もしかしたらどこか……。
 ねぎまは安全地帯から回って……いや、踊っていたので大丈夫だろうがショコラは大丈夫だろうか?
 体をチェックするが、痛そうにする素振りはない。
 むしら、鱗がますます艶やかになったような気がした。
 それがなんだか自分の事のように誇らしくて、頭を撫でる。
 それを、腕時計の向こう側で眺めるジークは腕を組み、眉を寄せていた。

(ステータスの上がり方が異様だな。ドラゴンってこーゆーもんなのかね? ファンタジー世界と縁がなかったからな……。それに、称号? 『竜王の転生者』だと? ……まさか……)

 ジークがそんな事を考えていると知らない忠直は、二匹のモンスターに押し倒されて頰を舐め回される。
 可愛いが、さすがに力強い。
 二匹を宥めて、頭を撫でてご機嫌を取る。
 そうこうしてる間に、狼がゆっくり起き上がった。
 耳を下げてどこか申し訳なさそうな顔をした姿に、忠直も眉を下げる。

「気が付いたのか? 良かった……痛いところはないか?」

 立ち上がって、近付いた。
 手を伸ばすと狼は耳をピンと立ち上がらせてキラキラした目で見上げてくる。
 あれ? このパターンは……。
 そう思った時には、ウィンドウが表示されていた。


『フェンリルが仲間になりたそうにこちらを見ています』
『フェンリルを仲間にしますか?』
【はい】 【いいえ】


「…………」
『どうするんだ?』

 楽しげな声色でジークが聞いてくる。
 こんなピュアな瞳で見上げられて……断れる人間は犬嫌いな奴だけだろう。

「…………はい」
『フェンリルが仲間になった! 名前を付けますか?』
「…………えーと、じゃあ……シロで……」
『お前のネーミングセンス死んでねぇ?』
「あおん!」

 フェンリル改め、シロ。
 シロが仲間になった。

しおり