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3話

「寝付けない。」

これも鬱病の弊害なのか。狭い部屋で誰かが隣に寝てる状況だと、寝返りとか寝息とかが気になって眠れない。いや、変な意味じゃなくて。

金髪美女の天使が隣に寝てる状況など、普通は羨ましい状況なのだろう。以前の俺なら間違いなく間違いを起こしている。なのに、どうしてしまったのだ俺は。

そんなことを考えているうちに、朝になった。

酒場に着くと、一際美しい緋色の髪をした女性がいる。リリーだ。

「お、昨日の夜はお熱かったか?お二人さん!」
昨日仲間になった貧乏神は朝からとんでもないことを聞いてくる。

ガブは顔を真っ赤にしながら
「そんなことないです!普通に寝ました!ねぇ!?ミツルさん!?」
と尋ねてくる。

そういえば昨日はよく眠れなかったな。嘘をつくのは良くないことだ。ここは正直に言おう。
「いや?ほとんど眠れなかったよ。お陰で今すごく眠い。」
「もう!なんでそんなこというんですか!?私はしっかり寝てました!」

ニヤニヤしながらこちらを見てくるリリーにガブは必死に弁明していた。

今日は、リリーも含めた3人で暮らしのお金を稼ぐためにクエストに出る。リリーが攻撃魔法が使えるので、それの実験の意味も込めてモンスター討伐に行くようだ。

正直、すごく嫌だ。しかし、お金を稼がなくてはゆっくり出来ないという例のジレンマを抱えている俺は、仕方なくクエストを受ける。

どうやら今日は鬼小僧というモンスターを狩るらしい。体は小さく、単体ではそこまで強くないものの、獰猛さと群れで動くことからこの街の驚異になっているモンスターだ。これまた破格の一匹2万ハンスらしい。

群れで10匹くらいいれば20万、一人辺り7万弱か。これは助かる。一週間はゆっくり出来るぞ。
……当然、借金もあるわけだが。リリーにはその分働いてもらおう。

「それではいきましょう!鬼小僧狩りへ!」

意気揚々と飛び出した俺たち。

町から鬼小僧の巣の目撃現場に向かうまでにリリーのギャンブル魔法について聞いておかなくては。

「そういえば、リリーはどれくらい魔法が使えるんだ?」
「2つだ。1つは以前見せたダイスという魔法。魔法を唱えてから、辺りの4,5,6が出れば敵に爆発魔法のダメージを与えられる。次にカースだ。これも成功すればゴースト系のモンスターに大ダメージを与えられる。どちらも当たりが出たときの破壊力は攻撃魔法の中でも最高の火力を誇る。消費するmpも低いので何度でも使用可能だ。」

おぉ、なんだ。普通に強力じゃないか。これは、借金を負った以上の活躍を期待できるんじゃないか?
そんな期待をしつつ、一応もうひとつの質問もしておく。

「で、外れが出たらどうなるんだ?」
「外れが出たら、ダイスならパーティーメンバー全員が当分麻痺になる。カースなら……」

ん?カースなら?

「カースなら味方が1人死ぬ。」

え?死ぬ?え、なに味方の攻撃であわよくば死ぬの?

そんなの使わせるわけがないだろう。というか、ダイスも全員麻痺って下手したら全滅するじゃないか。怖すぎだろ。なんだよ、やっぱり外れ魔法使いじゃないか。

というか、
「昨日俺たちを助けるためにダイスを…」
「あぁ!お前、運が良かったな!サイコロが3になりかけたときは流石にヒヤッとしたぞ!スリル満点だった!」

人の命でギャンブルするな。まぁ、どうにせよ死にかけてたわけだし。よし、とりあえずカースだけは使わせないようにしよう。
ダイスにしても、麻痺の可能性があるのか。味方の魔法が一番恐ろしいな。


そんなこんなしてると、鬼小僧の巣の辺りについた。うん。いる。3匹か。群れの大半は出払っているようだ。

俺たちは茂みのなかからまずは様子を見る。

鬼小僧は背丈は50センチくらい。成人男性の股の下をくぐれそうな背丈。そんな感じのモンスターが金棒を引きずって歩いている。なにあれ怖い。

茂みから意気揚々と無駄に飛び出そうとしたガブを慌てて抑え、作戦を伝える。不思議とその場の機転は利く。鬱病も軽度なようだな。俺は、さっきのリリーの話を聞いていてある戦い方を考えついていたのだ。

俺は二人の近くによると小声で囁いた。

「まずは先制攻撃をする。リリーは1人で俺たちから離れた所からダイスをあの3体に打ち込め。ここで終われば万々歳だ。これで失敗したら、俺たちも麻痺してるが相手はお前の方を見るだろう。つまり、麻痺が解けるまではお前1人が標的になる。」
「私に死ねというのか?なかなか無茶いうなお前。」

不服そうに言ってくるリリーに大丈夫だと言い、話を続ける。
「次に麻痺が解けたら、ガブはリリーに回復魔法を唱えてくれ。最悪殺されてたら、復活の魔法を唱えるんだ。俺はその間やつらの囮として前に出て、ぼぉっとしてる。そしたら、その隙に再びダイスを唱えるんだ。これでどうかなと……だめそうか?」

自分でもなかなか良いと考えているこの作戦だが、どうだろう?何かが引っかかる。
そんなことを不安に思っていると、ガブが明るい声で
「凄い!ミツルさん凄いです!天才です!」
そんなガブに続くようにリリーも
「あぁ、完璧だ!1度死ぬのは嫌だが、生き返られるのなら問題ない!それでいこう!」

皆、優しいなぁ。なんかこの作戦で見落としてるところがあるように思えるけど、多分大丈夫だろうなぁ。

それぞれ配置についた。よし、始めよう。俺はリリーにその合図を送ると、リリーはダイスを唱えた。

発動と共にサイコロが出てくる。鬼小僧もここで気づいたようでリリーの方を見ている。
へぇ、本当にサイコロが出てくるんだな。

賽が投げられた。転がるサイコロの出た目は……
1だ。失敗した。すると俺たちもそこから身動きひとつ出来なくなる。すると、鬼小僧達はよってたかってリリーを殴り始めた。

まぁ、作戦通りだ。少し残酷だが仕方ない。
にしてもひどい絵面だ。俺のせいでこんなことに。なんてことをしてしまったのだろう。

少し時間が経って、麻痺が解けた。リリーはその場で倒れこみ、それをみたガブがリリーの近くに行って回復魔法を唱える。

俺は鬼小僧の前に出て攻撃する素振りだけ見せてぼぉっとしていた。
よし、作戦通りだ。大丈夫。リリーには後で心から謝ろう。

さて、問題はここで起きたのだ。囮の俺のところに来たのは3匹のうち1匹。残りの2匹はあいつらの方に行ってしまった。
そう。俺に全員が寄ってくるとは限らなかったのだ。俺のせいだ。

俺は慌てて目の前の鬼小僧を適当にあしらうと、二人の前に立ち、攻撃から庇った。鬼小僧達はそんな俺に容赦なく棍棒を振るう。痛い。すごく痛い。俺はそのまま意識を失ってしまった。


俺は気がつくと木陰に寝転がっていた。そんな俺の顔を見て、ガブはホッとしている。リリーも無事なようだ。良かった。

「鬼小僧は?あいつらはどうなった!?」
慌てて聞く俺に、リリーは笑いながら答えた。
「逃げてきた!もう一度ダイスを唱えても良かったのだが、あそこで外すと全員が死んでしまう。ガブが死んだらもう本当にお陀仏だからな!無理せずに煙幕を使って逃げてきた!」

そうか、引っ掛かっていたことはこれだったのか。ダイスの成功確率が50%だからといって、2回投げて2回目で必ず攻撃できるとは限らない。そうなったら終わりなのだ。

リリーに救われた。初めの登録の時に言われた、俺の知能が高いといったのはなんだったのか。俺は俯いていた。

ガブが何か慰めようとしてくれているのだが、リリーはそれを制止して、一言いう。
「今回はあんたのお陰でかなり良いところまで行ったな!作戦聞いた時は勝ったも同然だと思ったわ!次も頼むぞ、リーダー!」

ヤバイ、泣きそうだ。もう貧乏神なんていうのやめよう。とりあえずクエストは失敗ということだったが、仕方ない。とりあえず謝ろう。

「ごめんな、俺のせいで。こんだけ頑張っても報酬もらえないんだな。」
「何を言ってるんですか?ミツルさん。全滅とはいかなかったけれども報酬は出ますよ?2万ハンス。」
え?なんで?
きょとんとした俺にガブは続けた。

「何をとぼけてるんだかわかりませんけど、最初に寄ってきた鬼小僧に改心の一撃を当ててたじゃないですか!凄いあっさりと倒したんでビックリしましたよ!」

なんと、適当にあしらったあの一撃は改心の一撃だったらしい。どんな奇跡だ。

とりあえず、換金しに酒場に戻った俺たちは、そこで衝撃を更に受ける。

「あ、ミツルさんのパーティーにはリリーさんがいるんですね!そうしたら、報酬は1万ハンスになります!半額は借金の返済に充てますね!」

ああぁ、そうだった。リリーは借金持ちだったのを忘れていた。やっぱり貧乏神じゃないか。

とりあえず、一万ハンスを受けとるとガブはニコニコしながら
「これで今日もお酒が飲めますね!3人でパーっとやりましょう、パーっと!!」
悪魔かお前は。俺をゆっくりさせてくれないのか。
「お、いいねぇ!ガブ!飲もう飲もう!」
貧乏神がそれに呼応する。

あぁ、俺はいつになったら落ち着いた小屋でゆっくり出来るのだろうか。とりあえず、ビールを頼んで乾杯をする。

乾杯をするとリリーはやたらとニヤニヤしながら聞いてきた。

「で、今日の夜もお熱いんですか?お盛んですね~」


あ、まだ誤解してたんかい。

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