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13、良いよ、俺は。

 生徒達が落ち着くのを待ってから、1号は再び話し出した。

「オーリエンで召喚されたのは11名。その内工藤が日本に帰還した」
「やっぱり、帰れるのか?!」
「嘘だろ? どうやって……」

 1号の二回目になる帰還という言葉に再び騒めきが起きる。
 帰れるという期待に鼻を膨らませて興奮する者、今更帰れるかと激昂する者、絶望したように膝から崩れる者など反応は様々だ。
 ざわざわと騒ぐアスーの勇者に対して、実際に工藤が帰還するのを見送ったオーリエンの勇者達は大人しい。

「ふむ。結論から言うと帰れる。ここにいるルナの能力でな」
「私は元々地球の人間ではないの。異世界を渡る能力を持っていて、楓と出逢って日本に留まることにしたのよ」

 1号の言葉をルナさんが補足して再び妖艶に微笑む。その姿に男も女もぽーっとしている。
 こんな美人なのにきのこ如きにそこまで惚れ込むとか、一体どんな言葉で口説き落としたんだろうか? 後でそっと教えてもらって、是非今のような般若モードのルシアちゃんに使いたいものだ。

「で、アスーで召喚された梅山と五十嵐も既に帰還している。俺は教師として、この世界よりもお前達生徒の方が大切だ。暗黒破壊神とぶつかる前に全員帰還させたいと思っている」
「でも……私達、人を殺してしまいました……」

 今まで通りに生きていくことなんてできない、と泣き出す女子に同調して男子達も帰れないと言い出す。

「うん、それでもだ。悪い夢を見ていたと思えと言っても無理だと思う。だが、日本では裁かれることもない。だから、お前達は親を、家族を、友人を、そして自分自身を幸せにしてやることで罪滅ぼしとしろ」
「奪ってしまった命の分まで懸命に誰かのために生きるの。辛くなったら、事情を知っている私達がいくらでも話を聞くから」

 優しく微笑むルナさんが泣いている女子の肩を優しく撫でていく。それだけで涙を拭い覚悟を決めたような顔つきになっていくのが不思議だ。あれもルナさんの何らかのスキルなのだろうか?
 1号が話をする前にルナさんをこちらに呼んだのは、日本へ帰れるという話を信じてもらうためだけではなくて皆を宥める役目もあったのかもしれない。
 実際、人間離れした雰囲気を持つルナさんの言うことを、俺を含めてここにいる生徒達全員が疑うことなくストンと受け入れてしまっている。
 全員が落ち着くのを確認して、再びルナさんが口を開く。

「ただし、私の力には制限が多くて、一度に全員を連れて帰ることはできないの。私が異世界を渡れるのは1日に2回、月の出ている間だけ」
「つまり行きと帰りだな」
「更に、一度に運べるのは一人または一つの荷物だけなの」
「リュックみたいな鞄に詰め込んで身に着けているならばいっしょに運べるぞ!」

 ルナさんが日本に帰るための制限などを説明するのに、1号がいちいち口を挟んでくる。
 以前二人以上運べるのか試したら二人目は弾かれてしまったのだと。その二人目は元の世界にいたが、1日じゃ戻ってこれないほど遠くへ飛んでしまっていたらしい。
 凶悪なモンスターが跋扈するこの世界で全員バラバラになったら眼も当てられない大惨事になること間違いないな。

『ところで、人数が合わないようだが?』
「……そうだった。残りの4人なんだが、問題があってな」
「私の能力でも、どこにいるかわからないの。私が召喚に気付いて楓を別の場所に行くよう干渉した時、同じように何かが干渉している感じがしたわ」
「最初それを聞いた時、4つの国が同時に召喚を行ったことで干渉し合ったのかと思ったんだが」

 1号の推測にルナさんが頷く。ノルドで召喚失敗して生徒達がバラバラ死体になったのは干渉し合った結果だろうって。それを聞いて、他の生徒達がよく無事だったなと顔を青褪めさせていた。
 ルナさんは干渉していた力に悪意のようなものを感じたらしい。他の生徒達も守りたかったらしいが、きのこを守るだけで手いっぱいだったんだと。俺の方を見て申し訳なさそうな顔をするルナさん。良いよ、俺は。おかげでルシアちゃんと出逢えたんだから。

「ルナの話を色々聞いた結果、干渉して今ここにいない天笠、南海、深山、吉野の4名は未探索区間、つまり暗黒破壊神の領域にいる可能性が高い」

 やっぱり名前を聞いても男か女かもわからない。
 つか、それって結局どこにいるかわからないってことだよな。

「なら、俺も探すのを手伝います」
「私も」
「俺も」

 これまでの罪滅ぼしのつもりなのか、谷岡が真っ先に挙手をし、それに続いて次々と手が挙がった。
 その光景に、1号がお前達……と目を潤ませている。
 そんな感動的なシーンに水が差したのは、空気を読まない本田の一言。

「そう言えば、栗栖で思い出したんだけどさぁ。あいつ自分のこと暗黒破壊神とか言ってたじゃん? 案外あいつが暗黒破壊神なんじゃね?」
「ははっ、そりゃ楽勝だな! とっととぶっ飛ばして全員連れて日本に帰ってやろうぜ」

 本田の言葉に宮本が笑う。
 それはもしかしたら場を和ませようとしたのかもしれないが、死んだ人間で笑いを取ろうとするのはあまりにも不謹慎だ。
 女子達が窘めようとするが、なおも軽口を叩き続けている。そんな彼らに、ルシアちゃんがキレた。

「リージェ様は暗黒破壊神なんかじゃありません!」
「は? 何で今ちび竜の話?」
「そうだよ。チビが聖竜だってことはもう知ってるし」

 そういや、本庄以外の生徒達は俺が転生してるって知らないんだっけ。

「リージェ様に謝ってください!」
「いや、だから何でちびが」
「この竜が栗栖なんだよ。ね、栗栖」

 本庄がルシアちゃんと本田達との会話に割って入ると、途端に「え?」という言葉が波紋のように広がった。

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