バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

表と裏とその奥に4

 迷宮都市を築いていた巨大生物を迷宮都市ごと消し飛ばした魔法跡を調べ終えた後、プラタ達が話し合いを行っていた場所まで戻ってきた。空には星が瞬き、半分ほどの月が優しく世界を照らしている。
 周囲には未だに何も無いが、それは今はどうでもいい。
 戻ってきたら四人は話し合いを再開させる。ボクも最初は少し参加していたが、今は離れた場所で干し肉を噛みながらそれを眺めていた。
 予定では明日の朝から仮宿を築き、そこでボクは当面寝起きする。プラタとシトリーが世界を調べてくれているので、何か判るまではこのまま拠点の構築に重きを置くようだ。
 翌日から仮宿を造る傍らで、拠点の構築も始めるとか。とりあえずボクが活動する場所については決まっているらしい。
 その決まっている内容について尋ねてみたが、地上五階地下三階という部分だけで後悔した。
 一応そのまま詳細を聞いてみたが、最上階は見張りの意味合いが強く、対空戦も視野に入れた遠距離用の魔法武器を設置するのだとか。
 四階は武器庫と見張りや拠点の警固をする兵士の詰め所。三階は居住区画で、二階は仕事場や資料室など。一階は兵士の詰め所と来客用の場所だとか。
 間取りに関してはまだ確定ではないようだが、地上については今のところそんな感じ。
 兵士を置くとか居住区とか、どれだけ人を連れてくる予定なのかと思わないでもないが、やっぱりなんか大きな話になってきているな。話を聞いた感じ、建物自体も結構な大きさになりそうだし。
 地下の部分は、地下一階が警戒区画らしく、侵入者を撃退する事に主眼を置くらしい。
 地下二階は居住区画で、ボクの居住空間は地上ではなくここに用意されるとか。
 地下三階は魔法道具を設置する場所らしく、転移装置だけではなく拠点を守護する為の魔法道具もここに設置するらしい。そして、その拠点を守護する魔法道具はボクに作製してもらいたいらしいが、無理なら別の場所に頼む事も出来るし、もしくはプラタが代わりに創るらしい。
 その拠点を中心に周囲に他の拠点を築くとか・・・。砦みたいなものなのか、はたまた国になるかは不明だが、ボクの活動拠点が中心地という事は確定らしい。
 何だか考えるのも面倒になってきたというか、任せているので関わりたくない。正直転移装置が置けて休めるのであれば何でもいいし、その為には安全の確保が重要なのは理解出来る。転移装置を護るのも、安心して休める場所を確保するのも容易なことではないからな。
 それを真面目に考えてくれた結果だろう。人海戦術も立派な方法だ。やり方はよく知らないが、何処からか人員を連れてくる当てがあるようだし。
 それでも今はまだ休む家すらないので、そこら辺に空気の層を敷いて横になる。起きていてもやる事はないし、今日は疲れたからな。
 空気の層を敷いた後、その上で横になって目を瞑ると、直ぐに意識が沈んでいった。





 朝になり目を覚ますと、近くに家が出来ていた。それも簡易的なモノではなく、四五人が普通に暮らせそうな二階建ての立派な家。

「・・・・・・えっと」

 起きてすぐというのもあるが、予想外の事態に思考が追い付いていない。上体を起こしたまま呆然と家を見上げている姿は、傍から見ればさぞ間抜けだったろう。そんな事を考えながらも、どういう状況なのか理解する為に思考を回転させていく。

「あー・・・と? えっと、家が出来てる?」

 見れば誰でも分かる事が口をついて出る。しかし、それもしょうがないだろう。寝起きだし、まだ理解が追い付いていないのだから。

「はい。ご主人様が御休みになられる仮宿を建築いたしました。粗雑な造りで申し訳ないのですが、拠点を構築するまでの間これで御容赦下さい」

 そう言って、いつの間にか隣に居たプラタが何処か申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや、十分過ぎると思うけれど・・・」

 視線の先の立派な家に目を向けて呟く。中はまだ見ていないが、外観はしっかりしていて一晩で出来たとは到底思えないほど。
 大きさも休むだけならばこんなに必要ないだろうというほどに過度だし、これならここで生活できそうだな。

「そう言っていただけて安堵しました」

 ホッとしたように微笑むプラタ。
 それを目にした後、何時までも座っている訳にもいかないので、起きて空気の層を散らす。
 立ち上がった後に伸びをすると、まずは家の中を確認してみる事にする。家に近づくと、一層家の大きさが判った。
 同じような大きさで切り出した石を積み上げてで出来たその家だが、石の色を一定の間隔で変えているので、見た目がお洒落だ。よく視れば壁に保存系統の魔法を基にした防御魔法が組み込まれているようで、防御力がかなり高そう。
 こんな方法の魔法も在るのか。保持や保存系統の魔法を防御にと考えた事もあったが、もう存在していたんだ。
 玄関扉は周囲の壁の色と同色で、四色で彩られている。しかし、壁と色が同じなので、直ぐには扉に気がつかなかった。
 扉自体は普通で、外観は人間界に在りそうなお洒落な家といったところ。これを仮宿扱いなのだから、プラタ達は一体どんな拠点を築くつもりなのか。
 話を聞いただけでも凄かったが、不安と期待が入り混じった妙な高揚感を今は感じている。それに気がつくと、ボクも拠点を築く事を結構楽しみにしていたんだなと思った。
 扉は小さな取っ手が付いているだけで鍵穴のようなモノは確認出来ない。
 他には特に何も無いので、立派な家に少し気後れしつつ取っ手に手を掛ける。そうすると、一瞬だけピリッとしたような感覚が手に走った気がして、取っ手に眼を向ける。
 眼を向けた先には、少し変わった魔法が組み込まれていた。

「これは・・・・・・魔力を調べているの?」

 読み取った魔法は視たことがない魔法。というよりも、魔法を途中までしか構築していないような不完全なモノ。
 それでも記憶に在る魔法と照らし合わせて予測を立ててみると、少し後ろに居るプラタに問い掛ける。

「はい。魔力は個体差が在りますので、個人の特定に役立ちます。それを利用して、登録した魔力以外では開かないようにしております。ですが、稀に似た魔力の持ち主も居りますので確実ではありませんが。ですので、個人の認証方法は複数用意したうえで総合的に判断するようにしております」
「へぇ。凄いんだね」

 プラタの説明に相づちを打ちつつ、扉やその周囲に眼を向けて探ってみる。すると、確かに様々な魔法が組み込まれているのが判った。
 しかし、複数用意して総合的に判断するのは解るが、十や二十どころの話ではない数で入念に調べる様になっているのは、やり過ぎではないだろうか? これ、仮宿だよね? そう思いはしたが、それを口に出したりはしない。相手はプラタだ、ちょっと調べただけで様々な角度から五十ちょっとの認証魔法がこちらを調べ、同時に迎撃魔法が二十ほどこちらに狙いを定めていようとも、おかしくはないのだろう。プラタは昔から少々大袈裟だからな。
 まあそれでも、問題なくボクがボクだと認証してもらえたようで、何事もなく扉が開く。取っ手に触れるだけで後は全て自動のようだ。
 何とも便利なモノだと思いながら、開いた扉を通って玄関に足を踏み入れる。
 家の中は外観以上に広かった。これなら四五人どころか、その倍は一緒に暮らせそうだな。

「これは、空間を歪めて広くしているの?」
「はい。少しでも御寛ぎ頂ければと」
「・・・そっか。ありがとう」

 何も言わずにお礼だけを言う。
 空間の歪曲。背嚢などの荷物入れによく用いられる魔法だが、それを家に用いるというのは空想に近い・・・はずだったのだが、実際に目の前で実用されている。これを維持する魔力を供給し続けるのが困難なはずなのだが、どうやっているのだろうか? 外部からの魔力の供給だけでは難しそうだが。
 疑問に思いつつも、玄関で靴を脱いで中に入る。やはり裸足は開放感があっていいと言いたいが、勿論靴下は履いている。それでも靴を脱いだので解放感があって気持ちがいいのだ。
 床板は木のようだ。何処から持ってきたのかは知らないが、鮮やかな色合いをしている。
 木の床板なのだが、踏んでも実家や今まで泊まった駐屯地の宿舎の様に軋んだりはしない。それに密かに感動しつつ、中を進んでいく。
 玄関入って直ぐは広間になっていて、正面に両開きの大きな扉。左右には廊下が伸びている。
 左右の廊下は途中で分かれながらも、奥で直角に曲がっている。確認出来る扉の数的に、家の大きさの割には部屋数は少ないようだが、その分一部屋一部屋がかなり広いようだ。扉と扉の間がかなり広い。
 とりあえず左右の廊下は後回しにして、正面の両開きの扉に目を向ける。

「この先は?」
「二階に上がる階段や、奥や中央の部屋へと行けます」
「左右の廊下からは奥へと行けないの?」

 奥の方で曲がっている様なので、てっきり奥に続いているのだと思ったのだが。

「あちらからは側面にはいけますが、中央やその奥には行けない構造となっております」
「そうなんだ」

 なんか複雑な構造になっているようだが、周囲と中央が独立していると考えればいいのかな? 再度確認したいが、これ仮宿だよね? 拠点がある程度出来たら壊すやつだよね?
 そんな驚きを抱きつつ、扉に手を掛ける。ここでも個体認証があったようで、手からピリッとした感覚が伝わってきた。
 念入りなものだが、プラタは一体何を想定してこれを創ったのだろうか? むしろそちらが気になる。こういうのは侵入しようとする者に対しては有効だが、いきなり建物ごと破壊してこようとする者には意味がないだろうから。
 死の支配者側はいきなり建物を破壊してきそうだし、この辺りに侵入してくるような者でも居るというのだろうか? ここで野宿していた間はそんな存在は感知しなかったが。まぁ、世界は広いからな。
 開けた扉は重さをほとんど感じさせなかった。まるで浮いている様な軽さ。そんな扉の先は、これまた広間。
 今回は正面に大きな階段が二階へと続いているが、何となく、どうせこれにも何かしらの仕掛けが施されているのだろうと思い、魔力視で注意深く確認してみる。
 そうすると、そこには迎撃用の魔法が大量に組み込まれていた。
 仮にボクがここに組み込まれている迎撃魔法を全て受けたとしたら、万全の防御をしていてもただでは済まないだろう。少なくとも怪我を負う。いや、死なないまでも大怪我ぐらいはしそうだな。
 その怪我の回復に時間を掛ければ、その間にプラタ達の誰かがやってきて終わりだろう。全ての魔法を身に受けるというのはそうそうないだろうが、それでも何とも恐ろしいものだ。
 二階へと続く大階段に組み込まれた迎撃魔法に戦慄するも、これは侵入者用なのでボクには関係ない・・・はず。プラタだから大丈夫だと思うので、緊張しながら階段に足を乗せる。
 階段を一段一段確かめるように上っていくも、罠は起動しない。どうやら問題なかったようだ。扉で問題なく認証されているのだから当然といえば当然なのだが。
 その事に内心で密かに安堵しつつ、二階に到着する。
 二階はだだっ広い空間が広がっているが、中央に壁に囲われた場所が在るので、そこは部屋なのだろう。他は隅の方に一部屋あるだけ。一階と違って二階は二部屋だけの様だ。
 その二部屋以外は床が在るだけで、ただただ広い。そうとしか言えない。
 中央に大きな部屋が在っても、他に部屋が一つしかないのだから当然か。
 隅にある部屋は小さいので物置のように思えるも、ボクの感覚では、あれぐらいが普通の部屋なんだよな・・・。

「ここは何もないんだね」
「はい。中央の部屋がご主人様の部屋で御座います。もう一つの部屋からは屋上へと上がれますが、倉庫も兼任しておりますので、必要であれば御使い下さい」
「そ、そうなんだ」

 あの中央の大きな部屋はボクの部屋だったのか。あんなに広くても落ち着かないのだが。それに、ここは屋上もあったんだ。

「屋上ってどんな感じなの?」
「はい。元々ここに在りました迷宮都市を構築していた巨大生物を参考に、上空を飛ぶ者を撃ち落とす魔法道具と、下から登ってこようとする者を迎撃する魔法道具が設置しております」
「そ、そうなのか」
「はい。この地を狙う者に容赦は致しません」
「う、うん。頼もしいよ」

 この状態のプラタが護るこの地を攻撃出来るのは、それこそ死の支配者達ぐらいだろう。
 それにしても、この家の魔法道具はプラタが創ったのだろうか? 視た範囲でだが、かなり質が高い魔法道具ばかりなのだが。

「ここの魔法道具はプラタが創ったの?」
「はい。基本的にはそうですが、幾つかはシトリーも創っております」
「そうなんだ」

 プラタは魔力を生み出す妖精なので、魔力にかなり精通している。なので、上質な魔法道具が創れてもおかしくはないだろう。
 シトリーだってかなり高位の魔物らしいので、プラタ同様に上質な魔法道具が創れてもおかしくはない。魔物は魔力で身体を構築している存在だからな。
 それにしてもこの魔法道具の数々だが、もしかしたらボクが創る魔法道具よりも上質な物かもしれないな。・・・もっと精進しないと。魔法道具に関しても、現在は以前よりも質が落ちてしまっているのだから。
 勿論研鑽していけば以前の水準以上になるかもしれないが、それも時間が掛かるだろう。魔法の修練だけではなく、そちらもしていこう。幸い今はまだ時間があるようだし。
 この仮宿に居る間は、魔法道具作製の修練に力を入れた方がいいかな。拠点が出来れば訓練所も出来るだろうが、ここでは訓練所が無いようだし。そういえば、訓練所の事をプラタに話したっけ? まぁ、今確認すればいいか。

「そうだプラタ。拠点を造る時に訓練所も造ってくれない? 魔法の修練に使えるようなやつが欲しいんだけれど」
「畏まりました。御任せ下さい」
「お願いね」
「はい」

 これで大丈夫だろう。拠点が出来たら魔法の修練が出来る。やりたい事も多いが、確認すべき事も結構あるからな。やはり気軽に魔法を放つ訳にもいかないから、そういう場所は重要だ。それに、誰に見られているとも限らないからな。監視している連中については諦めよう。
 そんな話をした後、プラタにボクの部屋だと説明された中央の部屋へと移動する。大きな部屋だが、どんな部屋なのか気になってはいたのだ。
 扉を開けようとすると、今までと同じように個人認証をする魔法が起動する。今回はピリッとした感じはなかった。
 警戒していたから分かったが、ここの認証魔法は視るのが難しいようになっている。という事は、ここに来るまでにもこういった魔法が起動していたのかもしれない。
 そんな事を考えていても、ボクを認証した扉は自動で開く。

「この扉って、認証しても勝手に開かないように出来るの?」
「可能です」

 ボクの確認に、プラタは肯定した後にその方法を説明してくれた。といっても、内側から扉に触れて魔力を通すだけのようだ。
 流す魔力は一秒以上流す必要があるらしいが、量は必要ない。それだけで認証後に自動で開くかどうか切り替えられるらしい。切り替わったかどうかは扉の内側の色が変わる事で判断出来るのだとか。つまりは色を見て現在の設定も判るという事。
 その工夫に感心しつつ、魔法道具もただ性能を追求するだけでは駄目なんだなと改めて実感した。
 僅かに開いた扉を押し開けて中に入ると、そこには寝床と箪笥がひとつずつ在るだけで、他には何も無かった。
 どちらも大きさは普通なので、何だかより寂しさが増している様に思える。これなら向こうの物置で十分だったのではなかろうか? かといって欲しい家具とか無いからな。
 この広さはどうしようか。まだ一割も使用されていないのだが・・・魔法道具置き場と考えればこの広さもいいか・・・な?
 そう思い直せば、何も無い方が周囲を気にせず魔法道具の作製が出来るというものだろう。何事も前向きに考えていくべきだろう。
 部屋に入って壁の方に近づく。その後に壁の様子を観察してみると、魔法的な防御もしっかりと施されているのが確認出来た。これならば、ここを訓練場として使用したとしても大丈夫かもしれない。
 まぁ、使用しないけれど。流石に部屋の中で魔法の修練はやりたくないからな。
 魔法道具でも同じようなものかもしれないが、不測の事態が起きない限りは安全だから大丈夫のはず。暴発なんてそうそう起きるものではないだろう。
 部屋の壁は魔法だけではなく、物理に対してもしっかりと防御力が発揮されるようになっているみたい。これなら戦闘訓練どころか模擬戦をしても問題ないと思う。それこそ半端な武器では、この壁にはかすり傷すら付けられないだろう。
 魔法にも物理にもかなり強固な壁だが、それは製作者を考えれば当然か。むしろこれは外敵からボクを護る為なのか、それともボクの実験や修練から外部を護る為なのか分からなくなってくるほど。もはや牢獄だな。
 とはいえ、製作者がプラタかシトリーなのだから、外敵からボクを護る為なのだろう。ここに入るだけでも大変そうだったし。
 これからプラタ達は拠点の構築に入るので、ボクは大人しくここで魔法道具の作製に勤しむとしよう。拠点づくりの邪魔をしてはいけないからな。
 まずはどんな魔法道具を創ろうかと考えていると、ここまで案内してくれたプラタが一礼して去っていく。
 それを見送った後、まずは今まで視てきたこの家の魔法道具を自分なりに創ってみる。現在のボクとプラタやシトリーとの差を理解しなければならないからな。

「・・・・・・そういえば、現在のボクが魔物を創造した場合、フェンやセルパンと比べてどうなるんだろうか?」

 フェンやセルパンはボクが兄さんの身体からこの身体に移ったとしても、ボクを創造主として認めてついてきてくれている。有難い事だ。
 まあ今はそれはさておき、もしも現在ボクが魔物創造を行った場合だが、フェンを創造した頃と比べると今のボクの方が実力としては上だと思う。ただ、何かしら兄さんの影響を受けていないとは言い切れないので、難しいところ。
 それはセルパンにも言える。あの頃よりも今の方が実力は上だと思うが、潜在能力というか、基礎となる部分で異なるからな。魔物創造には魔力操作は必要だが、戦闘の技術や知識なんて必要ないのだから。

「うーん・・・とはいえ、ここで魔物創造なんてする訳にはいかないよな」

 魔物創造自体は比較的安全な魔法ではあるが、創造した魔物が安全かどうかはまた別物。場合によっては創造した魔物と戦闘になる事もある。頻発するほどではないが、用心するに越した事はないだろう。
 そういう訳で、魔物を創造するという案はここでは却下する。ここで戦闘しても問題無いだろうけれど。
 よく視れば、壁だけではなく天井も床も魔法と物理両面で高い防御性能を有しているようだ。正直ここに籠れば人間界よりもずっと強固な砦になるのだが。
 というよりも、ここの強度はドラゴンでも破れないのではないだろうか? ボクでも突破は難しいと思うのだが・・・気にしないでおこう。
 さて、それでは認証魔法のひとつを創るとしよう。そうだな、個人認証からでいいかな。あれは個人が内包する魔力を識別する魔法道具なので、まずは魔力を登録するところからか。

「・・・・・・んー? そういえば、いつの間にボクの魔力を登録したのだろうか?」

 この家に施されている魔法道具は問題なくボクがボクであると認証したが、あれをするには魔力を登録しなければならない。
 勿論魔力だけではなかったようだが、中には魔力で個人を特定する魔法道具も混ざっていた。あれに魔力を登録するには、登録する者が魔法道具に魔力を通すのが手っ取り早いが、当然ながらボクはそんな事はしていない。この家を造っている間は寝ていたので、その時に密かに魔力を通したのだろうか? もしくは外から魔力を計測して登録したのかも。
 魔力を登録する方法はいくつか在るから何とも言えないが、まあいいか。それよりも、認証用の魔法道具を創って自分の魔力を登録してみよう。
 認証用の魔法道具は、然程難しいモノではない。魔力を内部に取り込み、取り込んだ魔力の波長や性質などを記録して、それを対象と照合するだけなのだから。
 魔法としては難しくはないが特殊な魔法で人間界では知られていないが、魔法道具の実物を観察しながら創れるのだから難しくはない。
 そうして創った認証用の魔法道具に自分の魔力を少量流して登録させる。量が多すぎても壊れてしまうので、流しすぎないように注意しないとな。
 それが済むと、しっかりと魔力が記録されているのか魔法道具を確認してから、実際にちゃんと自分が認証されるか確認する為にその魔法道具を近くに置く。
 魔法道具を置くと、起動させてその前を通ってみた。仮に認証に失敗しても攻撃してきたりはしないから安心だな。

「さて、結果は・・・」

 置いた魔法道具を手に取って確認してみると、問題なくボクをボクと認証していた。
 ちゃんと認証していた事に安堵した後、次は防御壁を創ってみる事にした。参考にするのは勿論この部屋の壁だ。といっても、部屋を作るほどに大きな壁を作るつもりはないので、小さな板を創る程度だが。
 そうなると、組み込める魔法にも限度があるので、周囲の壁と同程度という訳にはいかないだろう。まぁ、試作だ。組み込める限度まで組み込んでみよう。それで自分の現在の実力が判るだろうし、それで十分だ。
 まずは板を創る。一メートル四方の板・・・というか箱を創る。縮小した部屋のような感じ。その分容量も増えるし。
 準備を整えると、それに魔法を組み込んでいく。

「ぬぅ。それにしても重いな」

 やはり石の箱は重いようだ。鉄だと重すぎるし木だと軽すぎるかと思ったのだが、これでも駄目だった。床に置いて作業しているとはいえ、持ち運びが疲れる。
 かといって木だと石よりも軽いが、その分容量が減る。重量が全てではないのだが、手っ取り早く容量を増やすにはそれが一番簡単な方法だろう。
 手の込んだ道具を創造すれば、軽量で容量が多い物も創れるのだが、ただの実験用でしかないのでそこまではする気はない。長く使うとか、誰かに贈るとかなら話は変わってくるのだが。
 とにかく、創造した石の箱に魔法を組み込んでいく。魔法と物理の両面に対処出来る防御魔法だから・・・。
 容量的にその両面となると中途半端になってしまうな。しょうがない。片方で可能な限り強固なモノにしてみるとしよう。物理は魔法よりは簡単なので、ここは魔法に対して防御力が高い石の箱を目指すとするか。
 そうと決まれば早速現在の自分に出来る限界まで密度を上げた防御系統の魔法を組み込んでいく。実用するモノではなく実力の確認でしか無いので、余裕とか考えずに組み込める限界まで容量を使う。

「・・・・・・貫通性の高い魔法を警戒するべきか、それとも爆発系の魔法の警戒に重点を置くべきか」

 防御魔法を組み込みながら考える。
 魔法に高い防御性能を有するといっても、魔法攻撃にも様々あるので、どれに重点を置くべきか悩んでしまう。容量が多ければ満遍なく組み込めるが、その場合恐ろしいまでに大容量が必要になってくる。
 なので普通は中途半端になろうとも全般的に上げるか、何処かに特化して上げるかに分かれるのだが、ここの壁は全般的に高い性能を有しているので、例外も例外だろう。もしくは中途半端に全般的に上げてこの性能とか? ・・・まさかね。
 浮かんだ自分の考えに少し苦笑を浮かべつつ、どれに重点を置くべきか思考していく。魔法の枠組みはもう大方組み終わったんだよな。

「さて、どうするべきかな・・・」

 とはいえ、所詮は実験用。そう深く悩む必要もないので、適当に貫通性の高い魔法に対して特に防御性能が発揮するように魔法を組んでいく事にした。
 貫通魔法とは、一点に力を集める事によって突破力を増す魔法。
 それは防御壁を突き破ったり、放たれた魔法を貫いたりと、突破力に重点を置く事によってそれらを可能にする魔法なので、戦闘ではよく用いられる。特に一対一では必須とも言える魔法だろう。逆に爆発系は対集団戦で有効な魔法だ。
 貫通力が高いという事は接触する一点を強化すればいいだけの話なのだが、それは難しい。攻撃する場所は相手次第なのだから。
 ではどうするかだが、それは攻撃を誘導するように造ればいい。だが今回は実験で攻撃するのは自分なので、強度を確かめるだけで十分。貫通力の分散とか考えると面倒だし。
 まずは全体を強化した後に、攻撃地点を強化していく。単に障壁を厚くするだけではなく、受け止めるような柔軟な造りにした方がいいだろう。
 貫通力を流すような造りが理想だが、これが結構難しい。構造を弄ってもそれを隠蔽する必要もあるから、この辺りも中々に苦労するところだ。

「拠点防衛ってのも難しいものだな。大結界も苦労したが、あれとこれでは違うからな」

 大結界もこの石の箱も魔法道具としては同じだが、大結界の場合は魔法道具の本体は安全な場所で保管してあるので、結界自体が壊れたところで何の問題もない。本体が無事であれば、後は供給する魔力さえ確保できれば結界は直ぐに修復や再度発生させる事が出来るのだから。それに、結界自体がそれなりに魔法に対して耐性を有しているので、やりやすくもあった。
 石の箱の場合、石の表面に結界を張るのでなければ、石を強化しなければならない。しかし、基礎となっているのがただの石である以上、限度というモノが在る。結局は表面に結界を張るのが一番簡単で強度が上がる。
 しかしその場合、大結界のように普通に結界を張った方が運用しやすい。表面に結界を張るなら同じようなモノだし、偽装でないならそちらを選ぶ。

「そのはずなんだがな・・・」

 部屋の壁に目を向けると、自然とそう言葉が零れる。
 ここの部屋の壁は、結界を表面に張るなんてことはしていない。素材の強度を極限まで高めているのだろう。ぱっと視た感じでは、ただの壁だ。

「中に結界が混ざっているというよりも、素材の合間を縫うようにして魔力を編み込んでいるような感じか? でも、それだけで防御力が妙に高い理由にはならないし、やはり技術力か?」

 よく視れば、かなり細かな網目状にした魔力が壁の材質の中を包み込むようにして走っている。
 それにより材質を魔法的にも補強しているのが視えるのだが、それが表に出ないように上手く隠している。そのおかげで、一見するとただの壁であった。

しおり