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23、一人足りない

 夕食に呼ばれた俺達は、まるで映画のセットのような長いテーブルに座らされていた。
 上座は空席のまま、一番近い席に俺、ルシアちゃん勇者達と並ぶ。エミーリオとアルベルト達は従者だからと辞退し、あてがわれた部屋に食事を運んでもらっていた。正直俺もそっちが良かったなぁ。
 対面にはこの国で召喚された勇者達が座り、俺達と同行してきた勇者達と再会を喜びあっている。
 俺を除いてはしゃぐ子供達……うん、学校に戻った気分だ。

『うん……? 一人足りない?』

 ウメヤマは日本に帰したから、まだ会えていない勇者は10人。でも今席に座っているのは9人しかいない。俺の正面が空席のままだ。
 アスーに召喚されたのはこれで全員か、と確認しようと口を開きかけた時、若い男が入ってきて上座に座った。

「聖女ルシア様、遠方より来られし勇者の方々、よくぞ参られた。余がアスー皇国が皇帝、ファウスト・チエーロ・レ・アスーである」

 皇帝というからもっとフゴフゴした白髪の爺様が出てくるかと思ったのに。光輝くような金髪に小麦色の肌をした目の前の青年はどう見ても二十代前半といった感じだ。
 王座でふんぞり返っているだけではないようで、アルベルト達と同じくらい体格が良くその顔には自信がありありと浮かんでいる。何か言われたら無条件で従いたくなるような魅力も。これがカリスマってやつか……!

「聖竜殿にお目通り叶うとは思わなんだ。伝説通りの神々しさ、透き通る絹のように滑らかな肢体の何と美しいことか……!」

 ちょ、いきなりデレた?! やめてやめて、こっち見てうっとりと頬を染めないで! ぞわぞわする!
 賑やかに歓談するのは好きだからマナーなど気にせず食べてくれと言うが、俺から目を離そうとしない皇帝の視線が突き刺さり居心地が悪い。
 何だろう、エミーリオの信仰やルシアちゃんの愛情とはまた違う、纏わりつくような執着を感じる。
 綺麗に盛り付けられた凝った料理なのも相まって、食べた気がしないまま気づいたら食事は終わっていた。



 そして今、俺は何故か皇帝に抱っこされて手足や腹や尻尾をぷにぷにもみもみされている。いやん、セクハラよ。

『しつこい』
「おや、嫌われてしまったか、残念。いや~、しかし堪能した! 素晴らしい手触り! はぁ、使命がなければずっとこの腕の中に閉じ込めておきたいくらいだ」

 怖い怖い怖い! 何この人。
 俺が嫌がって皇帝の腕を蹴っ飛ばしてるのに何故か嬉しそうだ。
 あぁ、でも取り敢えずは暗黒破壊神を倒しにいく俺達を引き留める気はないようだから大丈夫か。大丈夫、だよな?

『それで、内密でしたい話とは?』
「あ、あの。その前にお話しておかなければならないことが……」

 いつまでもぷにぷにもみもみされていては夜が明けてしまうので、本題を促した。
 ああ、そうだったなと目線をルシアちゃんに移す皇帝を遮ってルシアちゃんがウメヤマの件を切り出す。
 内密の話がウメヤマ脱走の件ではないかと思ったため、呼ばれたルシアちゃんの他に勇者を代表してミドウが来ている。ミドウがウメヤマの持っていた剣とマント、それから熊の手を出す。

「こ、これは……! 一体、どこでこれを? この剣は勇者達の訓練のために余が用意させたものだ」
「はい、これは、勇者コウキ・ウメヤマ様の遺品でございます」
「何だと!?」

 そして、ルシアちゃんとミドウはあらかじめ口裏を合わせてあった嘘話をする。
 道中レオーネの群れに襲われていたウメヤマを助け、共にアスーへと向かっていたが、レ・オルソ・モルテネーロが率いるオルソ・モルテネーロの群れに遭遇してしまったと。
 その際にウメヤマとクドウの二名が戦闘で命を落としたと。

「女神様より授かりました私の治癒魔法でも、死者を蘇生することはできません。……私が、ついていながら……」

 ボロボロと涙を流しながら頭を下げるルシアちゃん。釣られたようにミドウの目からも大粒の涙が。女って怖い……。
 皇帝は泣く二人を前に一瞬たじろいだようだが、俺のぷにぷにボディをもみもみさわさわ(だからやめろと言っている!)すると口を開いた。

「いや、聞けば死の紫斑の進化個体、それも群れ。被害がそれだけで済んで良かった。其方たちが滅してくれなければ、国民に甚大な被害が出ていたであろう。感謝する」

 だから自分を責めるのはよしなさい、とフェミニストな発言。どうやら熊の手を出したことで信じてくれたらしい。遺体はセントゥロが近かったのでそちらに運ばせたと言ったら特に追及もなかった。計算通り。
 皇帝は俺達を案内してくれた執事を呼ぶと遺品を運ばせていった。


「では、余の方から話したかったことだな。先ほどの食事の席で余の召喚した勇者達と顔を合わせたと思うが、実は、あの場にいなかった勇者がもう一人いるのだ」

 ルシアちゃんとミドウの涙が止まるのを待って、ようやく皇帝が本題を切り出した。
 一人足りないと思ったが、やはりいるのか。

「その方は、今どちらに?」

 ウメヤマのように脱走してしまったのか? そうだとしたらこの城の警備大丈夫か?
 と思っていたら、皇帝はとても言いにくそうに説明を始めた。

「実は、な。先ほど顔合わせを済ませた勇者達は訓練もこなしこの国でも有数のレベルまで育っている。が、その一人は、その……」

 ふぅ、とため息。
 皇帝の話をまとめると、訓練を拒否して部屋から出てこようとしないらしい。誰が話かけても一切拒否。食事も碌に取らないらしい。

「レベル1のままの勇者では、連れて行った所で荷物持ちにもならないだろう。召喚国としての務めを果たせず申し訳ない。そこで、どうだろうか。その勇者をこの国へ置いて行っては」

 皇帝の話が本当かはわからない。もしかしたら、手元に置いておいて自国の戦力にする気かも。
 話している間は真面目な顔をしていたが、俺の視線に気づいてデレっと緩んだ顔からは本当かどうか疑いたくなるな。

『取り敢えず本人の意思を尊重したい。二人きりで話をさせてくれるか?』
「構わんが……部屋に閉じこもって以降誰とも会おうともせん。話ができるかどうか……」
『良いから案内せよ』

 皇帝はしぶしぶ、といった様子で立ち上がった。それほど会わせたくないのだろうか?

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