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第05話 マスターを招待する

「またお前か」
 マスタールームを開けると、開口一番マスターから声が飛んで来た。
 そう言われると思ってましたよ、俺もそう言いたいもん。
 マスターの隣では秘書のランレイさんも冷めた目で見てるね。

「それで? 今度は何だ」
 俺に言われてもね。
 そう思って馬耳ポーリンに目をやると、俺に代わってポーリンがマスターに説明を始めてくれた。

「最近、蒼白草と月光草を納品してくれてる方がいるのはマスターもご存知かと思いますが」
「おー、孤児院の子供達だったな。やっぱりこいつが絡んでやがったか。だが、別に問題は無いだろ、誰が持って来ても薬草は薬草だ。良い物ならうちとしても有り難い、問題なんて無いはずだが」
「はい、素材についてはマスターのおっしゃる通りです、問題ありません。問題は、蒼白草も月光草も定期的に納められると言われた事なんです」
「なにぃ! 定期的にだと⁉ どこかに群生地の穴場でも見つけたか。いや、それでも定期的なんて無理だな。ポーリン、どういう事なんだ?」
 マスターも驚いてるね、やっぱり言ったらダメなやつだったんだ。失敗だったなぁ。

 マスターは一度俺を見た後、ポーリンに説明を求めた。
 ポーリンもマスターの言葉に頷くと、一度俺を見てマスターに説明を始めた。

「実は、このエイージが蒼白草と月光草の畑を作っていると、そう言うんです。だから定期的に納品できると」
「畑だと! 蒼白草と月光草の畑って。ポーリン、自分で言ってる事が分かってるのか?」
「はい、だからこうしてマスターに相談に来たんです」
 この二人の驚きよう…やっぱり薬草を畑で作るのは、この世界では非常識なんだね。この後どうやって説明したら納得してくれるのかな。

「イージ……」
 マスターは俺を見たあと名前を呼んだが、俯いて頭を振り、溜息をついて改めて俺に問いかけて来た。
「はぁ~、何かあるとお前が絡んでるな。なんでなんだ?」
 そんな事俺に言われても知らねーし。

「どういう事なのか、ちゃんと説明してくれるんだろうな」
 説明と言われても、どこまで説明できる?
 妖精が面倒を見てる? マイアが植えた? 衛星が畑を作った? どこまでなら言っていいのかな。
 えーい! もう話を作っちまえ!

「えーっとですね、ここで売ってもらった土地なんですけど、行ってみると凄く沢山の妖精がいまして、その妖精達が薬草を育ててたんです。抜いても妖精が増やしてくれてるんで、定期的に持って来れるって訳なんです」
「ほ~ん」「ふ~ん」
 二人とも信じて無いね。

「一度、見に来ますか?」
「お? いいのか?」

 マスターなら一度見てもらった方がいいよね。見てもらって協力を仰ぐ方がいいと思うし、畑の事も見れば納得してくれるだろうしね。
 問題は秘密にしてくれるかどうかだけど、冒険者ギルドは俺達の味方だと信じてるよ。

「はい、土地は買いましたけど、領主様の話では借地のようですし、自分の土地って事じゃ無いみたいですからいいですよ。でも、できるだけ秘密にしてほしいですけど」
「なにっ! 借地だと! そんなはずは無いぞ! ちゃんとうちが領主様から買ったものをお前に売ったんだ。あんな土地に白金貨五枚も払わせて借地とは言わせん!」

 ありゃ、別の事で怒らせちゃった。
 そうだった、土地は冒険者ギルドから買ったんだから、借地と言われたら冒険者ギルドが詐欺みたいになるよね。信用第一の冒険者ギルドとしたら聞き捨てならない言葉だったよ。またまた失敗か? でも、本当の事だしなぁ。

「あ、でも、領主様から呼び出されてまして、その時に何かあるのかもしれません。依頼で出発する時も領主様に言われましたし、終了の時も娘さんから言われましたから」
 言われたのはネコ耳ターニャからだけど、ターニャに何かできるわけもないだろうし、娘のアイリスから言われた事をそのまま俺に言っただけだろうしね。
 なんで領主様のために俺が言い訳してるんだろ。

「だったら私もその日は一緒に行こう。この件は私もハッキリさせておきたいからな」
 うわっ、喧嘩にならない? 前の時もマスターに行かせず秘書のランレイさんが態々行ったんだから、今回マスターが行って揉めたりしない?

「では、私も同行致します。よろしいですね?」
「ああ頼む。今回はランレイがいてくれた方がいいかもしれんからな」
 おいおい、喧嘩する気満々か?

「はい、マスターは見ていてくださるだけで結構です。今からでも乗り込みたい気分ですので」
 おーい! ランレイさんの方がやる気になってないか?
 領主様に喧嘩を売って大丈夫なの?

「マスター、こちらの件はどうしますか?」
 土地問題の話からポーリンが薬草の話に戻してくれた。
 解決はしてないけど、先送りにできるんならその方がいいよ。このままだったらマスターもランレイさんも領主様の城にすぐにでも乗り込んで行きそうな勢いだもん。話題を変えてくれたポーリン、ありがとう。

「それは私が見てからでいいんじゃないか?」
「そうなんですけど、早めにお願いしたいんです。もし、定期的に納めてもらえるのなら専属契約をしないと薬屋ギルドに取られかねません。うちからも何か特典が無ければ専属契約も難しいかもしれませんし、そのあたりの判断を仰ぎたいのです」
「むっ? こいつがそんな事を言ってるのか」
 マスターが俺を睨む。さっきの土地の話の流れもあって怒りも治まってないからマスターが怖い。

 その眼光にたじろぎ、一歩後ずさりする俺。
「い、いやー、そ、そのー……」
「いや、当然の選択だな。孤児院の面倒を見てくれてるんだ、子供達の命がかかってるんだしそれぐらいは当たり前だな。よし、分かった、納品されたものは全て『#煌星__きらぼし__#冒険団』の達成にしよう。それなら依頼達成金も発生するから買取金額にプラスされる、それでどうだ?」

 怒ってても冷静に判断してくれた。さすがマスターになれるだけの人物だね。
 マスターは俺を見て話してるから俺に言ってるって事でいいかな? ポーリンさんにじゃないよね?
「俺が決めてもいいんですか?」
「お前がリーダーなんだ、決めればいい」
 おお、そうだった。俺がリーダーだった。

「それならお断りしたいです」
「お? なぜだ!」
 いちいち凄まないでほしいんだけど、怖いんですけど。なんか今までより風当たりがキツくなって無い?

「あの、薬草の世話も出荷の手間も、全部【星の家】の子供達がやってます。その上前をはねるみたいですよね。あ、【星の家】っていうのは、新しく建てた孤児院の名前です。それに、【星の家】は俺たちに関係なく独立してやってほしいかなぁって思ってるんです」
「…ふむ、お前の考えは分かる。だが、誰かが見てやらねばダメだろう。お前達は見てやらないのか」

 見てるといえば見てるんだよね。土地は結界で守られてるし、畑は妖精が管理してくれてるんだから、もう子供達だけでも十分なんだよ。何かあれば三精霊が何とかしれくれると思うしさ。あとは、どのルートで売るかだけなんだ。

「そうですね、【星の家】には自立してほしいと思ってますから、軌道に乗れば俺達はいなくてもいいようにしてあげたいんです。キッカ達も孤児院出身とはいえ、もう卒業していますし、ずっと【星の家】の面倒を見るわけにも行きませんから。でも、もう院長先生やシスターと、あとは子供達でできるようにはなってると思います。あとは売り先だけだと思いますよ」
「…ふむ、あの場所で自立ができるようになれるとは意味が分からんな。これはやはり一度見に行った方がいいか…今日、このまま行ってもいいか?」

 今日? 今から? 今日はキッカ達は武具を買う予定だし、俺は商人ギルドに行きたかったんだけどなぁ。
 道にいるトレントを間違って討伐されても困るし、行く時は一緒に行かないとだし。キッカ達はこのまま買い物をしてもらって俺だけで案内しようか。商人ギルドはまた明日にしよう。
 馬の活用の件があるんで商人ギルドに行って登録だけでもと思ってたんだけどね、今回は諦めよう。特に急いでるわけでもないしね。

 それに、孤児院を守るために土地を買って作った家や畑だけど、今は衣食住は充実してきたし、あとはあの場所を悪い貴族や商人なんかに取られないようにマスターの協力もほしい所だしね。悪徳商人がいるかは知らないけどね。
 秘密にしたい所は秘密にしたいけど、話せば話すほどボロが出るし、もうさっさと連れて行った方がいいね。


「もちろん来てくださって結構です、歓迎しますよ。それで、行くのは今からでもいいんですけど、キッカ達はこのあと装備を新調するって言ってまして、そのためにさっき買い取りをしたもらったんですね。俺も一緒に馬車で来たんで、俺だけ別になると徒歩になるんですけど」
「お前達、馬車で来てるのか? あのレッテ山の麓から? 魔物対策はどうしてるんだ! いや、その前に馬車が通れるほどの道はあるのか!?」
 あ、またやっちゃったか。どうも町の人の常識と俺の常識はズレてるみたいだな。
 もう連れて行くんだし、言ってもいいよな。バレバレみたいだし。

「ええ、馬車で来ました。今マスターが言った事も含めて秘密にしてほしいんですが、一緒に来てくれるんでしたら説明しますよ。対策もバッチリですし、きっと驚きますよ」
 ここにはポーリンさんもランレイさんもいるけど、この人達も冒険者ギルドの職員なんだし、冒険者である俺達の秘密は守ってくれるよね?

「分からん事だらけだが、まずは見てみろという事だな。分かった、すぐに用意する。イージはもう出られるのか」
「はい、下でキッカ達が待ってると思いますので、先に帰ると伝えておきます」


 一階フロアに下りるとキッカ達は依頼ボードの前で待っていてくれた。
 冒険者カードもBランクの#金色__ゴールド__#になったと自慢された。俺はDランクだから#銀色__シルバー__#だよ。
 キッカ達はBランクになったから、さっきヤスが見ていたレッテ山周辺の調査のBランク依頼を受けた。調査範囲が俺達が買った場所の周辺なので、領主様関係じゃないかと疑ってしまうのは仕方がないだろう。だからキッカには、なるべく魔物が多くて人が住むには適していないって報告するように言っておいた。実際そうだと思うんだよ。その証拠として、その周辺で討伐した魔物を捕まえてくればいいと付け加えた。
 俺は見た事は無いけど、そこそこ高レベルの魔物がいるそうだから、普通に調査すれば人が住めない所だと分かってもらえるはずだ。

 利用価値がある土地だと思われないためなんだ。利用価値があると思われると売って(貸して)くれないかもしれないからね。売って(貸しでもいいけど)くれないまでも、マイアのいた池周辺だけでも、俺が合法的にいていいようにしたいから。

 キッカ達は先に冒険者ギルドから出て行った。
 武器・防具屋に出かけて行った。
 残された俺が一人で待ってると、フル装備のマスターがやって来た。

 背中には大きなリュックも背負ってる。装備もリュックの上から大盾を被せているし、腰には剣も装備している。
 金属製の鎧に#すね当て__レガース__#、靴も安全靴のブーツタイプより頑丈そうだ。重いんだろうな。
 頭も額当てをしてるけど、中央に魔石を填め込んでいるから何かの効果があるタイプなんだろう。

 何日かけて【星の家】に行くつもりなの?

「……あ、あの、マスター?」 
「なんだ、まだ準備ができてないじゃないか。まさかその格好で行くわけじゃないだろうな」
 いえ、この格好ですけど。これ以上何が必要なのかも分からないんですけど。

「あの、い、いえ、その……」
「そうか、そうだったな」
 収納バッグに仕舞っているんだな。と小声で俺に言ってくれた。俺が収納バッグを持ってる事は知れ渡ってるかもしれないが、容量が大きい事を知ってるのは冒険者ギルド関係者だけだろうから、気を使ってくれたみたいだ。

「は、はい。そ、そうなんです」
 すぐにバレるだろうが、今はさっさと出て行きたかったので、曖昧な返事で誤魔化した。
 大量にいるトレントや道を見たら、この装備も納得してくれるだろう。

 マスターと共に、トレントの守ってくれている【星の家】へ続く道に向かって町を出た。

しおり