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19、泣きたい。

「どウだ!こレが王たル私の力だ!」
『痛……くはないな、別に』

 壁に亀裂が入るほどの衝撃ではあったが、俺自身には対してダメージが入っていない。ということは、奴の攻撃力は俺の防御力より低いって事だな。俺も強くなったもんだ。
 体にかかっていた壁の欠片を払い落とし向き直ると、驚愕に目を見開いている二人が見えた。

「な、無傷ダと……?……フッ、竜よ、早急二私ノものになると近い靴を舐めレバ本気を出さずにいてやるぞ」

 私のもになりなさーいなんて、一度は綺麗なお姉様に言われてみたいものだが、目の前でその台詞を吐いているのは文字通り人間を捨てた豚野郎。挟まれたいのは美人のたわわなメロンにであって汗臭そうなおっさんのたるんだベーコンではないのだ!
 ルシアちゃんはまだまだ幼いが持っているメロンは立派だし数年待てば超絶美人になるだろうから許容範囲だけど。むさくるしいおっさんに求愛された高校生男児の心境を察してくれ。いや今はドラゴンだし求愛された訳でもないけどさ。

『断じて断る!』

 一瞬ルシアちゃんがいつも俺にしている時のように目の前の豚野郎が俺を抱きしめ頬ずりし俺もその立派な腹に擦り寄っている光景を想像してしまった。泣きたい。

「……ナラバ、死ね!」

 おっさんの腕が服を破いて膨れ上がる。筋肉がどんどん盛り上がり、その分何故か腹回りや首回りがシュッとしてくる。
 けど、俺はこいつのものになるのは死んでもごめんだし、死んでやるつもりもさらさらない。

 ゴゥッと飛んできたパンチを飛んで躱すと、後からその風圧で体に衝撃が来る。
 ……昔マンガで両腕に台風を巻きつけて殴る能力者がいたけど、こんな感じなのかなー。なんて暢気に考えてしまうほど、「本気で行く」と言っていた豚野郎の攻撃を脅威に感じない。きっと避けずにまともに受けてもダメージなんてほとんど受けないのだろう。

 両腕を身体の前でダランと垂らし、ノーガードをアピールしてやると笑っちゃうほど怒り出した。フゴッという音が聞こえて本当に噴き出してしまう。
 すると豚野郎はまっすぐにこちらに突っ込んできた。

「血飛沫と共に踊れ!」

 目には目を。風には風を。俺は翼から風を起こしおっさんに向けて飛ばす。
 それまで呆然としていたリザイアが、俺が繰り出していた攻撃を思い出したのか慌てて退避する。それは良いのだが……可哀想なことに、おっさんが部屋のドア側、リザイアが部屋の奥側にいたせいですぐに壁に当たってしまった。が、それでもギリギリ俺の攻撃範囲からは逃れられたようだ。

「ギャァァァァ!」

 俺の放った攻撃は豚野郎の両腕を切り落とし、血飛沫を噴き出しながらクルクルと悶えまわっている。技名通りに踊ってくれるのは良いのだが、見苦しい。
 というか一撃必殺を狙ったのになかなかしぶといな、この豚野郎。

「死ヌ! 王ガ死ぬゾ! おイ、使えナい奴隷共! 今すグここに来テ肉壁とナり王を守れ!!」

 止めを刺そうとするが見苦しく叫びながら部屋を飛び出していく。追いかけながら追撃するのだが、どういうわけかギリギリのところで躱されてしまい決定打にはならない。
 それでも少しずつダメージを与えながら追いかけていくと、とうとう1階の玄関ホールらしき広間に出てしまった。

「使えナい屑が! 肉壁ニなれと言ったラ即座に来なイか!」
「なっ!」

 ジャラ、と鎖を引きずりながら豚野郎を庇う人達の中に、なんとルシアちゃんとマリアもいた。
 いったいどんな目に遭っていたのか、その服はビリビリに破れてしまっている。今にも秘密の花園が見えてしまいそうだ。

『ルシア! 何をしているのだ! 何故そいつを庇う!』

 呼びかける俺の声には一切反応しない。それどころか、敵を見るような目で睨んでくる。これはちょっとどころじゃなく泣きそうだ。

「あれは……隷属の首輪……そんな……」

 追いかけてきたリザイアは小さくまさか領主さまが本当に罪のない人を攫っていたなんて、と呟いた。次の瞬間、何やら決意に満ちた表情をすると短く「御免!」と言うと豚野郎を庇っていた人達をなぎ倒した。

『ルシア?!』
「聖竜殿、早く領主様を! 長くは持たない!」

 ルシアの身を案じ動転する俺にリザイアが呼びかける。見ると、リザイアが豚野郎を押し倒し押さえつけていた。
 さんざん俺の攻撃を避けるのを見ての行動なのだろう。自分ごと殺せ、と叫んでいる。こういうおっさん、嫌いじゃないよ。
 俺はリザイアを蹴ると、豚野郎の腹の上に降り立った。これならさすがに外さないだろ。

「天罰!」

 いつもは翼からだけど、手の先から放出するイメージで力を溜める。豚野郎を後ろ足で押さえつけたまま、その顔に手を当ててゼロ距離から溜めた力を放った。
 ジュッ、と焼けるような音と香ばしい匂いがして、暴れていた豚野郎は動かなくなった。
 同時に、パキリ、と黒い宝玉が割れて俺の中にスゥッと吸い込まれ完全になくなった。


 これで何もかも終わったのだ。とにかくルシアちゃんを治療してやらないと、と振り返る。と、そこには傷だらけのまま敵意剥き出しの眼で俺を睨むルシアちゃんやマリアがいた。

『ど、どうして……?』

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