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8、え? どうかした?

『エミーリオもエヴァも怪我はないか?』
「はいっ! 時間が惜しいですしすぐに出発しましょう」
『待て待て、国内でこんなにモンスターがいたのだ。連戦になる可能性もある。装備とステータスを確認してみろ』

 エミーリオ騎士だよね? そういうの基本だよね? あれ? 何でそんなキラキラしたさすが聖竜様みたいな目で見てくんのかな?
 エヴァは我関せずといった感じでこれから向かう先を見つめている。イナゴの群れに遭遇したときも落ち着いていたし、さすが騎士の馬だ。

「あっ! レベルが1つ上がっていました!」
『そうか。暗黒破壊神と戦うのであればもっと精進するのだな』

 俺は数を倒したからめっちゃレベル上がったけど、手助け程度にしか戦っていないエミーリオはそんなでもなかったんだな。もっとも、エミーリオのレベルは34というから、レベルが高かったせいで上がりにくいのもあるのだろう。
 装備品や持ち物も点検、どこも破損は無いようだ。

「ところでさ、これどうすんの?」

 1号が指し示すのはバラバラになったイナゴの死骸。さすがにもうギチギチと歯を動かしている奴はいないから近寄っても安全だ。
 ここはダンジョンではないから、死骸は消えず残ったまま。つまり、誰かが処理をしなければならない。燃えて灰になり崩れた奴がほとんどだが、原型をとどめたままの奴とかは見た目にもグロい。そもそも、あいつら俺よりでかいんだよ。埋めるにしてもかなりの重労働。

「ふむ、確かにこのままにはしておけませんね」

 死骸をここに放置すれば、今度はそれを食料にするモンスターが湧くかもしれないそううだ。

「任せてください。大地よ――」




 エミーリオが土魔法を使って一気に死骸を埋めてくれた。
 が、数が数だけに、息が上がっている。どうやらMPを使い果たしてしまったようだ。

『ふむ、仕方ない。休憩にしよう』
「すみません。自分が不甲斐ないばかりに……」
『気にするな』

 休憩、と言っても、エミーリオがMP切れだと水もない。
 うーん、息切れしているエミーリオに何か飲ませてやりたいんだけどなぁ。エミーリオが水を出せることにすっかり甘えて、飲み物を携行していなかった。

「水、水、水……」

 辺りを見回すけれど、更地である。と、突然頭のすぐ上からバシャッ、と大量の
 水が降ってきた。まるでバケツをひっくり返したかのような水量だ。

「にゃっ?!」
『――≪リージェ≫がスキル≪水魔法≫を獲得しました――』

 よくわからないけど俺が出した水のようだ。驚いて変な声が出てしまった。
 濡れ鼠ならぬ濡れドラゴンだ、などと笑い転げている1号は後で殴っておくとして。今ので5しかMPが減っていない。まだ使えるな。よし。

『エミーリオ、手を出せ』
「え、はい、こうですか?」

 出された手の平を満たすようにイメージして、と。
 えっと、普段エミーリオが水を出すときに呟いている詠唱何だったっけ? まぁ、俺流でいいか。

「水よ、集いて俺様の命に従え。エミーリオの疲れを癒す雫となれ」
「ありがとうございます、聖竜様。いつの間に水魔法を……」

 よしよし、イメージ通りに水が出たな。え、いつの間にって、今だけど?

『――≪リージェ≫のスキル≪水魔法≫が≪水よ、集いて俺様の命に従え≫に改名されました――』

 うん、もう良いよ使えれば何でも。

『飲むが良い』
「は、はい…………こ、これは……っ?!」

 一口水を口にしたエミーリオの目が驚愕で見開かれる。
 え? どうかした?

「……やっぱり! MPもHPも回復してます!」

 首を傾げていた俺を抱っこして高い高いの状態でくるくると回るエミーリオ。やめれ。俺はそんなことで喜ぶ小さい子供じゃない。まぁ、生後半年だけど。
 何だかひどく興奮状態で何言ってるかわからないエミーリオを落ち着かせて話を聞くと、気怠さが一気に取れたのでステータスを確認したら減っていたMPとHPが回復していたのだと。

「自分の出した水だとそんな効果はなかったのですが……」

 試しに、荷物の中から器を取り出して水を出してもらって飲む。
 疲れた体に染み渡るような感じがして美味しい水ではあるが、ステータスに変化はない。
 今度は俺が出してみる。……変わらないな。

 あ、そういやエミーリオの疲れを癒すようイメージしたわ。
 もう一度、疲れを癒すようしっかりイメージして水を出すと、今度は少し回復した。
 おお、これ、戦闘中にやったら無限に回復できるんじゃねぇ?

『ふむ、どうやら、回復するようイメージするとその効果がつくようだ』
「なるほど! もう一度やってみます!」

 エミーリオが真剣な顔で器を水で満たす。そして、飲んでみてくれと寄越してきた。
 いや、俺もうお腹タプタプだよ? ねぇ……。

「……どうやら、治癒スキルのある聖竜様だけが回復付与できるようですね……」
『……うっぷ……そのようだな……』

 キラキラと期待に満ちたエミーリオの視線に負け、頑張って飲み干した結果、エミーリオの水はただの水だった。
 捨てられた子犬のような顔で落ち込むエミーリオと、腹がタプタプで仰向けに倒れる俺というシュールな状況に空気を読まない1号の回復したんだし出発しようぜ、という声。
 やめて、今動かさないで……(泣)

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