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第3話 ここは異世界でした



「おい待てよ、そこの痴女」


 そういえばもう一人のことをすっかり忘れてましたね。
 にしても、痴女呼ばわりとはひどいです(シクシク)


 ......まぁ確かに裸でうろついていたらそう思われるのも仕方ないかと思いますけど。


「ちょっといきなり何よ! 泣いちゃったじゃない!」


「どうせ嘘泣きなんだろ?」


「嘘泣きだったの!?」


 ばれちゃいましたか。 わざとらしくやったんで当たり前ですね。


 それに比べて彼女は、チョロ......優しい人ですね。
 純粋というかなんというか、騙されやすそうな人です。


「嘘泣きじゃないですよ、本当に傷ついていたんです。それで、何か用ですか? 僕たちはこれから馬車で近くの町にいく予定なんですが」


「いや、その馬車は俺のだし、スキルがないレーラには使えないよ」


 スキル? 
 なんのことでしょうか? ゲームの中と勘違いしているんでしょうかね?


  これだから最近の若者は......


 僕も若いですけどw (ただ言ってみたかっただけ)
 そういえば女の人はレーラというんですね。 覚えておきましょう。
 


「じゃあ、あなたが馬車を動かしてください。それで解決でしょう?」


「いいや、そのまえにお前に聞きたいことがある」


「なんでしょう?」


「お前は何者だ? さっき木の後ろに隠れていたとき、俺の索敵スキルにほとんど引っ掛からなかった。お前が人間なら、勇者とかそういうレベルですら越えている。違うなら......俺の敵だ」


「......ぷっ」


 どうしましょう。 これはヤバイですね。
 結構真剣な顔で話しているので、真面目に聞こうとは思いましたけど、笑いを堪えるのが大変です。


「何を笑っている?」


 ......どうやら堪えきれてなかったようです。


「......いや、その......個人の考えを否定する気はないのですが、さすがに痛すぎるというか。いくらここが日本だとしても、こんな人はめったにいないなと思いましてね」


「えっ!? あなたケガをしてるの!? 私に見せて、治してあげるから!」


「?? ケガなんてしてませんよ?」


「だってさっき、痛すぎる、って言ったじゃない?」


 ......いや、そっちの痛いじゃないんだよ。
 天然なの? わざとなの?


「そんなことはどうでもいいんだ。それよりお前は何か勘違いしているようだけど、ここはニホン?という場所じゃないぞ」


「またまた~~、それも設定ですか?」


「設定? お前はさっきから何を言っているんだ? ここはフリーユ、人間領だ」


「いやいや、そんな場所知りませんよ。外国の地名ですか?」


 ははっ、と笑いながらレーラさんに確認を求める眼差しを向ける。


「ここはフリーユですよ」


 oh......。
 レーラさんなら正常だと信じてたのに。 

 
 それとも異常なのは僕の方なの?


 二人とも嘘をついている様子はないし、僕ももちろんついていない。
 

 いつの間にか空は雲で覆われ、雨さえ降りそうである。

 
 まずは、現状を把握しよう。


 正直、自分が何故ここにいるのか分かっていない。というか、ここはどこ?
 昨日までは普通の高校生活を送っていたはずだ。
 昨日の夜から森で目覚めるまで、僕に何があったのか思い出そうとする度に、まるで鍵をかけているかのように、何一つ思い出せない。
 今、目の前には男女二人。一人は金髪でもう一人は赤い髪。それと重度の中二病だと思われる。
 

 それともう一つ、忘れてはならない重大なことがあった。


 僕は女になっている。それも誰もが認める美少女!  


 比喩ではなくそのままの意味で、声も、顔も、体も、以前の須々木康太()とは見違えるほどに変わっている。

 
 現実ではあり得ないことだ。
 
 
 そう......現実(・・)ではあり得ないことだ。


 僕の頭の中で、これまでの二人の言動が再生される。 
「スキル」「魔道具」「勇者」·······


  ここが現実でないとしたら、もしかして......


 ばらばらだったパズルに最後のピースをはめるため、少しこの二人に確認をしなければならない。



「さっき、スキルが······とか言ってましたけど、それって見せてもらえたりします?」


「もちろんいいわよ」


 そう言うとレーラさんはしゃがんで、近くにあった小石を拾って、思い切り斜め上へ投げた。
 石は放物線を描くように飛び、そのまま落下する。
 


「ウェポンアーツ、弓。 壱の型 全てを穿つ矢(ストライクショット)


 レーラさんの手にはいつの間にか、真っ赤に輝く紅蓮の弓が握られており、彼女が放った矢はきれいに石の方へ吸い込まれ...。


 ドンッ!


 大きな爆発音と共に粉々に砕け散った。


「どう? やるでしょ? こう見えて私、弓は得意なのよ」


 すごいでしょ~~と、自慢げに胸を張るレーラさんだったが、その言葉は僕の耳を左から右へと通過するのみだった。
 不覚にも、その存在を大きく主張する二つの塊に目を奪われてしまったのだ。


「......」


 それ(・・)で確信した。


  あぁ......ここは異世界なんですね。

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