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第59回「僕が主人公の舞台」

「風通しのいい着替えもあるっす。メドラーノ市長からこういう日用品を提供してもらえるのでありがたいっすね」

 チャンドリカの一言が、どうにか話題を変える契機になりそうだった。

「他に変わったことはないか」
「水と食料はロンドロッグとの協同で確保できているっす。城部分の修復も、コンスタンティンが石工たちを手配してくれることに……ただ、やはり今後の要塞化も考えるなら、より専門的な技術を持った集団に接触したいっす。現状では城の地下とロンドロッグの地下で連絡が取れないから、包囲されてしまえば各個撃破される恐れがあるっすよ。まあ、二つの拠点があるだけでも戦略上で充分な優位に立てるのは、この前の戦いが証明しているっすけど」

 それでも、前回の戦いで彼らも学習するはずなのだ。チャンドリカを攻略するためには、より強い戦力が必要だと。さらに言えば、もしも僕のルテニアでの行為がバレていて、かつチャンドリカが僕の拠点であることが露呈した場合、人類国家が総出でここに攻めてこないとも限らない。
 そんな下手を打ったとも思わないが、噂はどういうふうに発展するかわからないし、またいくつかの情報の断片からでも真実を探る当てる智者がいないとも限らない。
 チャンドリカ付近では神としての力は最小限に留めつつも、より迅速な行動が必要となってくるだろう。

「所帯が大きくなるといざこざも起きるだろうから、それを調停や修正する集団も必要だな。やることは山積みだ」

 でも、その山積みが楽しくもあるんだな。
 これはシャノンたちとの旅では味わえなかった快感でもある。僕は常に脇役であり、同時に主役になりたがってもいた。それを稚気として抑え続けていたが、ついにこの舞台のセンターに立つことを許されたのだ。
 誰にも邪魔はさせない。
 そういう気持ちだ。まさしく稚気の発露だが、誰だって持ってる全能感の表出としては、これ以上ないステージであることも事実なのだ。

「では、自分はここで。着替えはもうすぐ用意できるっす」

 脱衣所まで案内したところで、チャンドリカはビシッと敬礼をしてみせた。魔王軍のものということは、先ほどのサマーがしたものを真似たらしい。彼の記憶にはアクスヴィルや他のものもあるだろうに、よほど気に入ったのだろう。

「ありがとう」
「ありがとうございます」
「チャンドリカ、君は入らなくていいのか」

 僕がそう尋ねると、チャンドリカは声を出して笑った。

「自分はこの城っすよ。いつでも水浴びしているようなもんっす」

 そうして、手を振って去っていった。

「あいつの性別がわからないのが気になるんだけどな」
「城に性別なんてあるんでしょうか」

 サマーの疑念は当然だったし、僕だってそう考えていた。
 でも、だからこそ、気になるってもんじゃないかね。

「ほら、神。サマーもこう言っている。神の考え方は経済ではない」
「言語にも女性名詞と男性名詞があるくらいだ。城が絶対的な中性であるとは考えにくい。僕たちのような生命を守るという意味では母性を感じるが、一方でこの城は攻勢面での備えも有している。果たしてオスとメスのどちらかというのは極めて魅力的な問いかけだよ」

 でなければ、他人の裸に強烈な興味を示すもんか。

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