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彫刻と余興5

 そう思いながら平原の様子を観察していると、もうすぐ空が白みだすかという時間になって、全員が就寝した。しかし、もうすぐ部隊長達が起きてくる頃合いだろうから、作れるのは一つか二つだけだな。
 まずは串刺しウサギの角の複製品を構築すると、それを風の刃で五センチぐらいの大きさに切断していく。厚さは二センチほどでいいだろう。
 それを数個作ると、残りは情報体に変換して収納しておく。
 切り分けた串刺しウサギの角を机の上に置き、その内の一つを手に取り確認する。切り口が綺麗なので、変に整えなくても、このままで大丈夫かもしれない。
 表面の凹凸も傷が少ないので、実にいい感じだ。
 次は紐を創造するが、前回腕輪を創った時のような金の糸を編んだ物ではなく、町などでよく見かける普通の糸を使って編んだ紐だ。
 それを首飾りの長さに素早く編んでいく。編むのは前回の腕輪作製で慣れたので、首飾り程度であれば一分も必要ない。
 紐を編んだ後は、串刺しウサギの角で作った飾りに、紐を通す為の穴をあける。少し余裕をもって穴をあけた後は、そこに紐を通していく。
 通した紐の長さを調節してから繋げると、しっかりと繋がったのを確認してから、紐と飾りに耐久性上昇を付加させる。容量が十分に在るので、丁寧にしっかりと付加しておく。
 ついでに、飾りの硬度も上げておこう。耐久性を上げても、ぶつけたり踏み付けたりしてしまって、壊れたら意味が無いからな。紐の方も丈夫にしておくが、こちらは適度に柔軟性が必要なので、その辺りも考慮して付加していく。
 その二つの付加だけなので、丁寧にやったところで、使用する容量は半分どころか二割にも満たない。これだけ余裕があれば、長期使用も問題ないだろう。
 魅力は別に上げる必要はないので、これで完成だ。
 実にお手軽な首飾り作製ではあるが、これでも十分に価値がある。売ればお小遣い程度の稼ぎにはなるだろう。
 それから残りも加工していく。首飾り以外にも耳飾りや髪飾りにと。
 思ったよりも簡単でサクサクと作れた為に、数個の装飾品が完成したので、区切りもいいので作製を終えると、出した物を片づけて情報体へと変換して収納する。
 そこまで終えたところで、起きてくる気配を感じてそちらに目を向けると、通路から部隊長が姿を現す。別の部隊の隊長だが、挨拶を交わす。
 それから部隊長が一度通路に戻ると、程なくして、次はボクが所属している部隊の隊長が起きてくる。
 そちらにも挨拶を済ませると、ちょうど他の部隊員達も起きてきたので、挨拶をして少し言葉を交わしている間に朝食を取りに行っていた部隊長が持ってきた朝食を、各自に配って食べた。
 先に他の部隊が見回りに向かい、少し時間を置いてからボク達も出発する。
 昨日はあまり進めなかったが、だからといって早く出る訳ではない。その辺りの時間は決まっているのだろう。
 平原は今日も通常通りに騒がしく、生徒や兵士達も大勢確認出来る。

「・・・・・・」

 そんな中、視界の端におかしな動きをしている魔物を捉える。おかしなというより、東門に来てから目にするようになった、ぐるぐると同じ場所を歩き回っている魔物だ。
 あれは何をしているのだろうか? 今回は大結界の近くでもないし、討伐任務の最中でもないので、周辺の警戒を継続しつつも、その魔物に意識を向ける。
 魔物の周囲にはまだ生徒や兵士達は確認出来ないので、もう暫くは観察できるだろう。
 そういう訳で観察を続けていくが、魔物はぐるぐると同じ場所を回るだけで、他に何か行動を起こそうとはしない。
 ぐるぐる、ぐるぐるとひたすら回る姿には狂気を感じるが、何の意味があるのかさっぱり分からないというのも、また気味が悪いものだ。
 どれだけ視ていても同じ事しか繰り返さない魔物であったが、それを見つけた生徒達にあっさり討伐された。

「・・・・・・」

 しかし、ぐるぐると回っている魔物は回る以外しないとはいえ、個体の強さが他の魔物より少し弱い気がするな。
 それにしても、この短期間に三体も同じような魔物を目撃するという事は、他にも探せば何処かに居るという事だろうか? 平原中に眼を向けるのは不可能ではないが、かなり疲れる上に一瞬しか出来ない。しかも、疲労で当分視界がかなり狭まってしまう。
 流石にそれは避けたいので、止めておこう。今のボクでは、ここの平原の半分でもきついからな。
 そのまま見回りを行うも、今日は魔物達は大人しいようで、大結界近くまで来ても突撃まではしてこない。おかげですんなりと詰め所に入ることが出来、昼休憩を取る。
 のんびりとした時間を過ごしながら平原を観察すると、時間がきて見回りを再開させる。今日はこのままいけば、境界付近の詰め所で一泊する事になるのだろうな。
 そう思いながら見回りをつづける。どうやら本当に今日は魔物達が大人しいようで、夕方には北側の境界付近の詰め所に到着した。
 中に入ると、元々居る兵士達以外には誰も居なかったので、部屋の隅の方に腰掛け夕食を摂る。
 それが済むと、思い思いに時間を過ごしていく。しかし、駐在している兵士達に遠慮してか、部隊員の生徒達は、隅の方でこそこそ話すだけで、静かなものだ。
 部隊長は兵士達同士交流したりもしているが、少し話をしては、生徒達と会話もしたりしている。そんな中でも、ボクは窓の方にぼんやりと眼を向けて時を過ごす。
 ここでは駐在の兵士達が居るので、残念ながら、夜中にこっそり装身具を製作することは出来そうにないな。
 そのまま夜が更けていき、部隊員達は皆寝てしまった。
 部隊長は駐在している兵士達と語らっているが、やはりここは常に誰かしらが起きているな。一応国境守護も兼ねているのだから、当然ではあるが。
 それは残念ではあるがしょうがないので、その間は次の装飾品の意匠でも考えるとしよう。全て同じでもいいのだが、それでは途中で飽きてしまうからな。
 基本は花や鳥などの自然を模倣しての加工だろうが、他には何かないだろうか? 魔物は種類が色々あるからいい題材になるが・・・そうだな・・・あ、そうだ!
 そこで一つ閃くも、それは装身具ではなく、置物になってしまうな。しかし、身につけていて効果を発揮するような魔法を付加するのではないので、ただの美術品という方向でもいいだろうから、作るのは別に置物でもいいのか。それならば、置物を作ってみよう。
 試作してみる置物の造形は決まったし、大きさは手のひらに乗るぐらいかな。付加する魔法は耐久性と硬度を上げるぐらいでいいだろう。維持魔法も掛けて風化により強くしてもいいが、そこまでは必要ないと思う。付加がそこまで長く保つかは分からないしな。
 もしも上手く仕上がったならば、塗装をしてみてもいいかもしれない。
 そう思うと楽しくなってくるが、今は人の目があるので作業が出来ないのが残念だな。転移も出来ないし、今は頭の中で製作していくか。
 串刺しウサギの角を彫るにも風の刃が役には立つが、細かな作業には向かない。しかし、この辺りも加減すればどうにかなるだろう。幸い、串刺しウサギの角は削れないほど硬い訳ではないからな。
 それとも、彫刻用の小刀でも創ればいいのだろうか? それもいいかもしれないな。切れ味を上げれば、串刺しウサギの角もサクサク彫れそうな気もするから、そっちの方が早いか。
 しかし、やはり人の目があるので、それを創るのもままならない。部隊長は眠りに行ったが、駐在の兵士達は眠らないで平原の見張りを行っている。
 しょうがないので、もう少し思考を続けることにする。
 とりあえず贈る相手について考えるが、プラタやシトリー、フェンとセルパン以外には、クリスタロスさんぐらいしか思い当たらない。こういう時、自分の交友関係の無さが恨めしい。
 それでも全く居ない訳ではないので、良しとするべきだろう。
 でも、またプラタ達四人に贈るとしても、置物なんて要らないよな。貰っても置く場所に困るわけだし。というか、置物を渡したとして、どこに置くのだろうか? 拠点となる場所が在るとは思えないのだが。
 そういう意味では、邪魔にしかならないな。いくら手のひらに乗る大きさにするといっても、常に持ち歩くにはかさばってしまう。それでも、贈れば喜んでくれるだろうが、わざわざ邪魔になると分かっているものを渡す趣味はない。
 そうなると、候補は拠点を持っているクリスタロスさんしかいないか。

「・・・・・・ふむ」

 まずは仮でそう決めて、意匠を考えていく。どう彫っていくかも頭の中で思い浮かべていき、塗装も施していく。塗装は顔料を創造して組み合わせていくのだが、この辺りは水晶に色付けしたのとそう変わらない。顔料自体、基礎魔法が使える者なら誰でも創造出来るものなので、そんなに難しくはないし。
 そうして塗装を終えると完成だが、脳内では上手くいった。しかし、邪魔でしかないような気がするな。それでも、作るだけ作ってみたい。クリスタロスさんは拠点が在るから、小さい置物ぐらいなら問題ないだろう。要らなければ捨ててもらっても構わないしな。
 それにしても、こういう時に限って周囲に人が居るな。秘かに作れなくはないが、その分仕事が粗くなってしまうから駄目だ。それに、作るからにはしっかりとした物を作らないと、贈る相手にも失礼だろう。
 クリスタロスさんに贈る置物の想定が脳内で済んだので、次の試作に移る。とはいえ、次に贈る相手がいないので、一般向けに何か考えるかな。前の休憩で作った装身具のようなものを。
 そうして、あれでもないこれでもないと考えていき、夜を過ごしていく。実際に作るのは早くても次の夜だが、何事もなければ明後日の昼頃には宿舎に到着しているので、その時でもいいだろう。
 翌朝に朝食を食べたら、少し休憩してから早々に拠点を出て見回りを開始する。
 折り返しなので、見回る先は防壁の内側だ。こちらはどこでも平和なもので、東門でも退屈なものである。それでも、近場に町や村がある分、人が居るので北門ほどではないが。
 離れたところの人の動きを眺めつつ、周囲の警戒も行う。町や村が防壁近くにあるといっても、肉眼で中の様子が見られる訳ではない。
 肉眼で確認可能なのは、防壁に隣接する場所に生えている森の木ぐらいだろう。
 これは人工林ではなく、自然に生えていた森らしいが、防壁の移動時には邪魔だっただろうな。
 森以外に確認できると言えば、防壁の下を警備している兵士ぐらいか。五人一組で警備しているが、こちらは魔法使いよりも一般的な兵士のほうが多い。それと生徒か。普通は防壁の内側では、魔法使いでなければ対処できないような危険はあまりないのだから、そんなものだろう。
 そうして、のんびりとした退屈な見回りも、昼休憩の為に一時中断して、近くにある詰所の中に入っていく。平原側の詰所とは違うが、中に先客は居なかった。
 詰所で昼食を食べ終えると、少しの休憩を挿んで見回りを再開させる。
 何もない退屈な景色とはいえ、警戒だけはしっかり行う。また西門の時のように、内側に魔物が居ないとも限らないのだから。
 その時に、こちら方面の魔物はプラタが狩りつくしてくれたが、その後にまた魔物を創造なり連れてきている可能性や、あれとは関係ないモノもあるかもしれない。
 人間も魔物を創造することが出来るが、大抵の場合、平原に居る魔物よりも弱い。それでも、魔法が使えない人間にとっては、あまりにも脅威だ。もっとも、魔物創造はそれなりの強さが必要になってくるので、それが可能な人間は少ないのだが。
 今のところ魔物は確認できていないし、そんな兆候も見られない。そもそもそれが可能な魔法使いは、ほとんどが兵士としてハンバーグ公国をはじめとしたどこかしらの国に所属している。
 その為、そのまま何事もなく夕方になり、詰所に入っていく。
 詰所内には先客が居たが、既に夕食を終えた後のようで、のんびりとしていた。
 ボク達は適当な席に座り、夕食を摂る。それが終わると雑談を始めた。そんな中でも、変わらずボクが窓の外を眺めながら平原を観察していると、次の部隊が入ってくる。
 このままいけば、夜中にも誰かしら起きていそうだな。やはり落ち着いて魔法を行使するには、クリスタロスさんのところが静かでいい。自室も静かではあるが、誰が来るか分からないからな。
 平原も変わらず賑やかではあるが、夜にはそれも落ち着いていく。変わった魔物や、魔物以外の敵性生物の姿も確認できない。
 時刻はゆっくり過ぎていき、少しずつ人の数も減っていくが、寝る気配がない者も居るので、今夜も無理そうだな。
 そう思い、窓の外に目を向けたまま、意匠について考えていく。他にも保管庫についても考えるが、外部で維持する事を考えると、中々難しい。
 漂っていた情報体も溶けて消えたが、あの情報は一体どうなったのだろうか? 魔力と同化して消滅したのかな? 情報の部分が溶けだしたと思ったら、それを合図にしたかのように一気に情報が崩れていった。それは一瞬の出来事で、何もできなかった。この辺りは、情報改変しようとした時に通じるものがあるな。
 やはり情報というものは、一つの連なりとして形成されているからか、何処か一部でも崩れれば、連鎖して崩れてしまうモノのようだ。ということは、情報改変は無理ということか。残念だが、そういうものであればしょうがないか。
 では、外部に保管庫を設けた場合、もし情報が流れてしまった時は、溶けていくのが情報部分に達する前に対処しなければならないという事になる。それまでに対処できれば、修繕も間に合うだろうし。
 それ以前に、保管庫が崩れさえしなければ問題ないのだが、そこに重点を置いて考えなければならないな。
 とりあえず、兄さんに警告されたので、存在を区切っている何かについては触れないようにしつつ、魔法で生み出した仕切りを研究する。仕切るのだから、障壁や結界が参考にならないだろうか?
 保管する情報体も魔力に載せて保管するので、魔力をどうにか保管すればいいということになる。
 それならば、魔法訓練をする際に張る、逆向きの防御障壁なんてどうだろうか? 必要な時に取り出せなければ意味がないから、その辺りの調節も必要になってくるか。情報を更新するのは問題なく出来そうなんだよな。
 保管庫の維持の他に、情報の取り出しと更新を行いやすくする事が課題だが、後者の二つはまだ何とかなりそうな感じがしている。そうなると、やはり保管庫の維持が難題になってくる。
 外部に保管庫を創ることは出来ているし、それを組み込むことは可能だ。他の処理をある程度保管庫側に任せることが出来れば、容量にかなり余裕ができるから、大きさも前回の腕輪より、もう少し小さくできるだろう。
 そういう訳で、やはり問題は保管庫の維持になってくるが・・・うーん。どうするか。
 窓に目を向けながら考えていく。夜中になって広間に居る人は減ったが、それでもまだ起きている人が居るので、置物の製作は明日の夜にでも自室で行うとしよう。おそらくギギは居ないと思うし。
 中々名案が浮かばない保管庫の維持の方法に頭を悩ませていると、夜が明け、全員が起床してくる。
 全員と朝の挨拶を行い朝食を食べると、順番に見回りを行うために詰所を出ていく。
 ボク達も詰所を出ると、整列して見回りを行う。
 一応の警戒を行いつつも、平和な防壁の内側を眺めながらの散歩は、何事もなく昼頃には終わり、東門前で部隊は解散する。
 ボクは直ぐに宿舎に戻り自室に入ると、流石にまだ昼が過ぎたばかりなので、ギギがまだ部屋に居た。
 とりあえず、起きていたギギと挨拶だけ交わして、ボクはお風呂に入る為に、着替え片手にお風呂場に移動する。
 個室の浴場は普段から人が多くはないが、今の時間帯ではさらに少ない。というか、誰も居なかった。
 ボクは浴室に入ると、浴槽にお湯を張ってから身体を流し、湯船に浸かる。
 ボーっとしながら、夜になったら創る置物の事を考えていく。独りになったらすぐに取り掛かろう。やっと取り掛かれるのだから。まずは彫刻用の小刀を創るところからだな。
 そんな事を想定し終えたら、お風呂から上がる。
 部屋にはまだギギが居たが、当たり障りのない会話をして時間を過ごし、ギギは夕方に食堂へと夕食を食べに出ていった。そのまま夜警に行くらしいので、ボクはこれから置物を創るとしよう。
 まずは串刺しウサギの角を構築する。取り出すのは、この前切り分けた角の残りだ。
 前回は小物類の作製だったので、角の先端付近を中心に使用したが、今回は置物を作る為に、一番太い根元の部分を使用する。

「ああ、そうだ」

 加工する前に、まずは彫刻用に小刀を創造しなければ。
 刃を入れて長さ十センチほどの小刀を創り、刃の部分は切れ味を上昇させる。それと壊れないように強度も上げて、これで加工がしやすくなるだろう。
 後は小刀が手に馴染むようにする為に、手に持ちながら柄部分に窪みを作ったり、長さを微調整したら完成だ。
 小刀が完成したら、構築した串刺しウサギの角を置物に加工しやすいように、風の刃で切り出す。要らない方の角の残りは、再度情報体に変換させておこう。
 情報体に変換して片づけたら、切り分けた角に小刀の刃を当てる。

「・・・・・・おぉ!!」

 角に吸い込まれていくように小刀の刃が入っていく。感触は全く感じなかったので、もの凄い切れ味だ。やりすぎたかもしれないが、彫っていくには丁度いい。扱いには十分気を付けなければならないが。
 今回作る置物を贈る相手はクリスタロスさんなので、置物の題材はクリスタロスさんにしてみようと思っている。人物を彫るのは難しいが、少しずつ削っていけば何とかなるだろう。
 まずは角の表面をちょっとずつ削って、大まかな形を作っていく。
 暫くそうして、角の表面を出来るだけ薄く薄く削っていき、不格好な円柱が出来上がったところで、一度休憩を挿むことにする。

「ふぅ」

 念のために小刀を情報体に変換して収納し、息を吐く。
 魔法の創造や付加などの魔法関連以外で、ここまで集中したのは初めてかもしれないと思うぐらいに集中している。彫刻というものはここまで大変なものなのかと思うも、本番はここからなんだよな。
 削った角の破片を掃除してから、現在のすっかり丸みを帯びた串刺しウサギの角を手に取ると、それを回して形状を確認する。それを見ながら、どう彫っていこうかを想定していく。

「うーん・・・やっぱり小さすぎる?」

 十分それを行った後に、そう結論付ける。流石に元が細い角一本で置物、それも人物を彫るのは、素人には難易度が高すぎる気がする。

「・・・しょうがない」

 なので、クリスタロスさんのところの訓練所で行う予定であった、素材同士をくっつける事を試してみる事にして、他の複製した角を四本構築していく。
 それらを同じ大きさに切り出すと、不要部分は片づけて、切り出した物同士をくっつけていく。
 くっつけるのに魔法もいいが、接着剤を使用しても接合させるのは簡単だ。彫刻に用いても問題ないように、繋ぎ目を感じさせないぐらいに綺麗に継ぎ合わせなければならないが。
 折角なので、先日街に出た際に見掛けて、気になったので買ってみた、彫刻の接着に使えるという接着剤を取り出し、それで角を接着させる。
 しかし、直ぐには接着しないので、それを一旦空気を固めて作った台の上に置いて、先程まで作業していた、丸みを帯びた角を手に取る。
 そこで一度窓の外に目を向ける。外はすっかり暗くなっているが、まだ日付が変わるほどではない。
 それを確認した後に、小刀を再構築して作業を再開させる。
 まずは頭部を大きめの円にして、首から下の作業に入る。ぼんやりと人型っぽくなるまで削ったところで、そろそろ小刀に付加している切れ味上昇の効果をかなり弱める。今までの作業で、細かな作業をするのに、あまりに過ぎた切れ味は邪魔でしかないのが解った。
 そうして切れ味上昇の付加を取り除くと、作業中の置物に小刀の刃を当てる。

「うん。やっぱり切るというより、削ることを重視した方がいいな」

 先程までの素材に吸い込まれるような刃の切れ味よりも、素材の上を少しずつ滑って削っていく方が、細かい作業には向いている気がする。
 その小刀を使って、大まかながら、もう少し輪郭をはっきりさせていく。
 緩い逆三角形の上に、大きめの球体が乗っている感じまで削ったところで、小刀の刃の形状を変える事にした。

「平らな刃だと、大まかに削るにはいいが、溝を彫るのが難しいな」

 刃を目にしながら、どうすればいいか少し考え、刃に角度をつけてみる。

「なるほど。これで溝が彫れるけれど、表面を少し削るのには向かないな・・・」

 どうしたものかと考えて、もう一本平らな刃の小刀を用意する事にした。いちいち刃を変えるのは面倒くさいからな。
 そういう訳で、新しい小刀を創造してから、作業を再開させる。
 まずは首から下を形にするべく、少しずつ丁寧に腕と脚の形を浮かび上がらせていく。細かな部分はまだ手をつけない。
 現在彫っている置物は、クリスタロスさんが出迎えてくれる瞬間を参考にしているので、手は少し持ち上げている位置で掘っている。脚は少し開いているが、立っているので、そこまで動きは必要ない。
 少しずつ腕と脚の部分に丸みが浮かんでくる。溝などはまだ彫らなくていいので、腕と胴体の間もまだくっ付いたままで離していない。

「・・・ふむ」

 腕や脚の間に隙間を作る前の、ぼんやりとした輪郭の置物を回して、現在の出来栄えを確認していく。

「今のところ中々いい感じに仕上がっている・・・のかな?」

 一度周辺の削りカスを掃除すると、とうとう置物の腕や脚を削り出していく事にしたが。

「その前に、今何時だ?」

 そう思い、時計を確認する。

「おお! もうこんな時間か!」

 現在の時刻は、既に日付が変わって少し経っている時間であった。その一瞬で時が進んだような感覚に、思わず驚きの声が出た。

「どうしようかな・・・」

 明日も見回りなので、そろそろ寝た方がいいか。折角これからいいところなのだが、見回り中は寝ないので、今の内に少しは睡眠は取った方がいいだろうしな。
 次に途中から始める事に心配もあるが、このまま集中し過ぎて時間を過ぎてもいけないし、それに見回りの時間になるまでに完成させるのは無理だろう。何より接着が済んだら、そちらで作業する予定だからな。
 なんにせよ途中で切り上げなければならないので、小刀と作り掛けの置物だけは片して、最後に掃除がちゃんと済んでいる事を確認してから、ボクは眠りについた。今度こそ見回り中に時間が出来ればいいな。それと、朝には作業出来るぐらいまでに接着剤が固まっていればいいが。





 翌日から南への見回りが始まる。東門での前半は、見回りの方が割合は多いのだからしょうがないが、適当に出来る討伐の方が個人的には楽しいな。
 しかし、そうも言ってはいられないので、大人しく見回りに従事する。
 見回り自体は騒がしくもいつも通りで、足止めを一度くらったものの、それだけで初日を終える。
 先客が居ない詰め所で夕食を終えて、夜が更けても後続はなく、日付が変わる前にはみんな寝てしまった。

「・・・・・・始めるか」

 背嚢の中から、朝には接着したが念の為に情報体に変換しないで入れておいた角を取り出し、彫刻用の小刀も構築すると、作業を開始する。

「・・・・・・」

 まずはしっかり接着出来ているか確かめた後、外側を適度な大きさまで風の刃で削っていき、平刃の彫刻刀を手に削っていく。
 一度行った作業だからか、昨日よりも削る速度が早い。おかげで思ったよりも手早く終えられたので、時間にはまだ余裕がある。

「・・・ふむ」

 作業に戻る前に、小刀に目を向けると、少し切れ味を上げておく。削るのを重視したとはいえ、少々手応えが強かったような気がしたから。
 そうして小刀の微調整を終えると、早速脚の部分から取り掛かっていくが、元々作業していた置物と同じぐらいまで作業を進められたので、大まかな部分までは出来ている。なので、今日からは細かな溝を掘りつつ、両脚の間などの離す部分も薄くしていく。
 集中して彫る為に、つい無言になってしまうが、こればかりはしょうがない。まあそもそも、話す相手も居ないのだが。
 細かい作業なので、少しずつ削っていく。これも細かい作業ではあるが、それでもまだマシな方だろう。顔を彫る時が一番大変そうな気がする。
 クリスタロスさんは、露出の少ない無地の簡素な服を着ているので、その辺りは作るのが楽でいい。服の皺ぐらい少しは入れてみたいが、初めての彫刻でそこまでは難しいだろうか? とりあえず、まずは普通に完成させることに集中するとしよう。
 脚の外側を削っては、内側も削る。そうして少し削っては、手を休めて確認するという作業を行う。それを正面からだけではなく、側面や裏面からも行うので、少し作業を進めるだけで時間は凄く掛かった。それでもクリスタロスさんに贈呈するのだから、拙いながらも妥協をしたくはない。
 そうして脚の部分の作業が進み、脚の形が浮き彫りになってきた辺りですっかり朝になっていたようで、日の光が目に入ったので窓の外を確認すると、既に空が白んでいた。
 それを確認したところで作業を中断させると、小刀と作り掛けの置物を情報体に変換して片付け、急いで周囲の掃除を行う。
 掃除を終えて確認を済ませたところで、仮眠室から誰かが起きてきたのを捉える。この感じは、部隊長だろう。
 その予想通りに、部隊長が広間に顔を出したので、挨拶を交わす。直ぐに他の部隊員達も起きてきた。
 部隊長が持ってきた朝食を皆で食べた後、少し休んで見回りに出発する。
 南への見回り二日目も、一度だけ大結界へと突撃してくる魔物に遭遇したものの、幸い近くを警邏していた部隊が居た為に、直ぐに解決してくれた。
 それでも、その日の内に境近くの詰め所には到着できなかった。やはり、今回はそこまで時間を消費しなかったとはいえ、一度大結界付近で攻撃してくる魔物に遭遇した場合は、結構その後に響くようだな。
 詰め所で夕食を摂り、時間が経つごとに人が減っていく。この詰め所にも先客は居なかったし、誰か入ってくる気配もない。
 そして、全員が仮眠室に移動して眠ったところで、昨夜の続きを行うことにする。
 まずは、情報体に変換して収納していた彫刻用の小刀と、作りかけの置物を構築して、机に置く。

「えっと、確かこの辺りを削っていたんだったか」

 作りかけの置物を確認して、昨夜の作業を思い出してから、小刀を手にする。

「今回の見回り中には、脚の部分ぐらいは完成させたいな」

 それを目標に、作業を再開した。
 脚の部分は、輪郭はそこそこ彫れているが、まだ半ばだ。脚の間の空間さえ、未だにほとんど手を付けられていない。それでも焦りは禁物だ。期限が決まっている訳ではないのだから、丁寧にゆっくりと作業しよう。
 そう思い作っていくが、思いの外服の裾の部分が難しい。靴も彫るのが大変そうではあるが、クリスタロスさんは靴も見た目が簡素な物を履いているので、最初の作品としては適正な相手だったのかもしれない。
 そんな考えを頭に浮かべつつ、集中して、慎重に小刀を動かしていく。
 表面を撫でるようにしながら削りつつ、時には大胆に溝を彫る。そうして脚の部分を集中的に彫り進めていくと、一瞬で朝になった。思わずそう考えてしまうほどに、時間の流れが早い。
 掃除と収納をさっさと済ませると、一息つく。そこで起きてきた部隊長や部隊員達と挨拶を交わして、朝食を食べた。
 詰め所を出て見回りを始めると、昼前には境付近の詰め所に到着したので、少し早い昼食にして、折り返す。
 平和な防壁の内側を観察しながら進む。遠くで人が確認出来るが、離れているので、肉眼で見る事は出来ない。
 森の中には人は居ないが、動物の反応はある。しかし、それだけだ。穏やかに過ごしている動物を視ても、あまり面白いものでもない。木々の葉がまばらに遮っているので、肉眼では確認し辛いせいでもある。
 そのまま夕方まで進み、途中の詰め所に入る。先客は居たが、寝てくれるかな? そんな考えを抱きながらも、いつも通りに夕食を摂り、夜中には皆が寝静まってくれたのを確認してから、作業に入ることにする。
 脚の部分は大分出来てきたが、今の作業速度では、今回の見回り中に脚の部分を作り上げるのは無理だろう。それでも焦って作業が雑にならないように注意しなければな。

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