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できそこないの僕

 僕が今どこにいるかというと、砂浜にいるんだよ。倒れこんでいるんだ。靴とか靴下とかに砂が入ってジャリジャリしているし、ワイシャツの袖から出た腕は汗をかいて砂が張り付いている。だけど潮風は涼しく、爽やかな雰囲気を演出して、あたりは真っ暗で夜空は幻想的な様子を見せている―――なんて言いたいところなんだけど、残念ながらそんなロマンチックなことにはなっていない。町から漏れる文明的な汚い光が星を隠してしまっている。社会のインチキは空を見上げることさえ否定するんだな。いったいお前はどれだけ僕をクソッたれな気持ちにさせるんだ。
 なんでそんな場所にいるかって?そりゃ、家も学校も何もかもに居場所がないからだよ。なんで居場所がないかって?そんなことを聞いてどうするんだい?慰めてくれるのかい?嬉しいね。だけど、その裏にある君の心を考えるとクソったれな気持ちになるんだ。自分が相手を救ってあげた、役に立ってあげた、アドバイスをして優越感に浸れた、そんなことを思って、利己的な快楽のために僕にかかわってくるつもりなんだ。別に利己的なのは構わないんだよ。ただそこで、君のため、みたいなことを言い出すなら、それがインチキくさくて嫌なんだな。言えばいいじゃないか、自分のためだって。だけどほとんどのやつは言うんだ。相手のためだってさ。君がいくら否定しようと、実際にそうなんだよ。だけどまあ、今は少し気分がいいんだ。君がさっきみたいな、そう、くだんないことをさ、言わない限り話してもいい。かなり長くなるよ、たぶん。話すとしたら一週間ぐらいかかるんじゃないかな、内容としては一日分なんだけどね。僕の生涯をかけて溜まった鬱憤があふれた一日だったから、一日一夜でこうなったわけじゃない。実質的には18年分だね。だから最初に結論だけ言ってしまうことにする。
 僕が言いたいのはだね、この世界に生きる価値はないし、僕自身の存在価値もないってことなんだ。でもね、それで終わってしまったとしたら、それはつまらないし、どうせ価値のない世界なら、盛大にやらかしてから死ぬのも悪くない。積極的ニヒリズムって知っているかい?ニヒリズムというのはだね、気取った専門家みたいに言うとしたら、この世に人間が理解できるような本質的な意味や価値がない、神も悪魔も天国も地獄も黄泉も存在しない、自分はただ地球の表面にある凸凹の続きの凸凹で、物質の流れという川の中にある淀みで、そしてこの思考も、五感も、全てただの現象。だから人生も同じく無意味で無価値なものということなんだ。では積極的ニヒリズムがどうかというと、世界が無意味なものと理解したうえで意味を自分で見出そうとすることなんだ。
 僕はこれまで積極的ニヒリズムを意識して生きてきた。どれだけクソみたいな世界でも生きていこうと思っていたんだ。だけど、人の前ではいつも平気な顔をしていても、神経だけは靴のかかとみたいに磨り減ってしまう。とはいってもね、はてしない時は止まらずに流れ続けていて、走り続けなければ追いつけない。なんだか疲れてしまったんだ。ああ…そうだ。疲れたんだ。生きることに。真理とはほど遠い人々、世の中、見えるものといえば、僕と同じような人々の、たとえば君たちのような、頭の冴えた悩める者の魂の摩耗。生き残るのは無知蒙昧な愚衆や、インチキの製造者だけ。そんなクソったれな世の中に、もう20年近くいるわけだ。それは仕方のないことかもしれない。
 ともかくだよ。今日はね、そんなことを再認識させられる一日だったんだ。

 朝、寝た時点では被っていたはずの布団も端っこに追いやられていた。僕は今まで"気持ちのいい朝"なんてものを経験したことはないんだ。必ずといっていいほど何もする気がせず、体が重く、それで休日はまた寝てしまう。決して怠けているわけじゃないんだよ。朝のほうがいろいろ都合がいいことは知っているんだ。僕はそういった事情には詳しいんだ。だけど、どうしても朝だけはダメなんだ。たぶん血圧とか貧血とかの問題だろうけど、そんなものを訴えたところでどうせ怠け者って言われるのがオチだよ。唯一すぐに起きる時といえば、悪夢を見た時だね。追われる夢、落ちる夢、色々あるけど、印象的だった夢は二つぐらい。自分一人になる夢と、ゾンビと人に追われ世界中が敵になる夢だ。これらの夢はそれぞれ、孤独になることと、人生に後がないことを暗示しているらしい。占いなんて信じないけど、あながち間違いではないかな。
 さて、そろそろ起きなければならない。いつものようにキーキー甲高い鳴き声が聞こえるからね。「起きろー!」って。残念だけど、その日は平日だから起きなければならないんだ。ベッドから起き上がり、床に足をつけた。床の冷たさは本当に見事に起きる気力を奪っていくんだ。床に降伏しながら立ち上がる。フラついてしまい、またベッドに腰掛ける。毎朝こうなんだ。朝はフラフラしてマトモに歩けない。それでいて親には怠け者だというレッテルを貼られるからたまったものではない。しばらく座っていると頭に血が通ったのか立てるようになった。そしてリビングまで歩いていった。
 リビングでは母親が弁当を作っている。おはようと言われた。おはようと返した。正直両親が嫌いだから声も聞きたくない。さっさとご飯を食べて部屋に戻りたい。リビングのテーブルにはコーヒーとメロンパンが置いてあった。
 メロンパンは好きだ。安く、甘く、そしておいしい。憂鬱な朝の唯一の救いだと思うよ。ただ、朝に食べると必ずお腹を壊す。そしてコーヒーを飲むとそれが助長される。コーヒーには腸の働きを活性化させる作用があるからね。だから毎朝トイレに行きたくなるけど、それをしている時間はない。全く酷い生活だよ。
 母親がつけたのかテレビが点いている。音量が大きかったから下げた。音っていうのは五感の中でも最も不快に感じる部分だよ。テレビの音量が大きいのは父親もなんだ。こいつらは両方ともつんぼなんだな。だから普段から僕が何を言っても聞き取ってなんてくれないんだ。そのくせ全知全能の神様にでもなったつもりでいやがる。
 食べ終わったからマグカップをシンクに置いて部屋に戻った。部屋に戻ったら、またベッドの中に潜る。少しでも寝る時間を稼ぐために。といっても十分程度しか寝れないけどね。それでも、この十分が体調に与える影響は大きいんだ。
 ドアがコンコンと叩かれ目が覚めた。急いで起きて、寝ていない風を装いながら母親から弁当を受け取った。毎朝この瞬間はヒヤヒヤする。二度寝がバレると、これまた甲高い声でヒステリックに怒鳴るんだ。朝からそんな不快な思いしたくないからね。
 時計を見ると時間は7時半。そろそろ家を出なければならない。制服のズボンとワイシャツを着た。制服のズボンにはベルトをつけない。嫌いなんだ。ベルトが。校則で付けなければならないけど、ワイシャツの裾で隠れるから問題ない。
 自分用のクシをもって洗面台へ行った。まず顔を洗う。そして歯ブラシを咥えてヘアアイロンに電源を入れた。歯磨きしながらクシで髪を梳かす。だけど前髪だけはどうしてもクセがつく。これはもう仕方ないんだ。ここでアイロンを使う。こうしたら前髪がまっすぐになる。口の中の歯磨き粉を洗面台に吐き出した。これで準備完了だ。
 バッグに弁当を入れる。あと必要なのは――そう、これだ、黒いベレー帽だ。学校に持っていくなんて馬鹿みたいに見えるかい?そう思ってもらってもかまわないよ。これは僕が自分の意識を高く保つための道具なんだ。チェ・ゲバラの真似事だよ。世界一かっこいい、とされている男だ。”とされている”なんて言ったのは、彼を讃えているメディアがくだんない謳い文句なんかで彼を俗物のようにしてしまったからなんだ。いくら英雄が他者の勝手なイメージによってつくられる偶像だからってさ、創作の主人公みたいになっちゃ魅力なんてものはなくなるんだな。だからそういう人たち、そういう人たちっていうのは俗物程度の認識で彼を語る人たちのことだよ、彼の著書ひとつすら読んだことはない人たちっていう事実が、僕の中での英雄観をひどく傷つけているんだな。僕としては、そういった偉人でさえ等身大の人間で、人間味のある葛藤があって、失敗とかもして、そして手紙や電話で話せるっていうことが価値があるように思えるんだ。話がそれてしまったね。ともかくだよ、僕は彼になるつもりはないけれど、最も尊敬できる師として学びたいことがたくさんあるんだ。だから彼のようにものを見れるようにベレー帽は離さず持つようにしている。あとは、バッグの中には予備校のテキストが入っている。学校の教材は入っていないけど、元々学校に置いてあるから問題ない。
 玄関で踵の磨り減ったローファーを履いた。まったく革靴の何がいいのか。歩きづらいしコツコツなってうるさい。何もいいところがない。サンダルでも履いて行きたいね。だけど靴ごときで教師に何か言われるのも面倒だから革靴を履いた。そして家を出ようとしたときに、母親がつっかかってきたんだ。
「ちゃんと予備校行きなさいよ」
 まったくさ、その一言がどれだけ僕を不快にさせることか、本当に、なんで見事なまでに的確に僕を不快にさせることができるのか、母親は僕を不快にさせる天才なんだな。間違いない。僕は平静を装って返答した。
「もちろん行くよ。というか毎日行っているだろう?」
 余計な一言が入ったかな。でもまあ、僕だって言いたいことがないわけじゃない。普段からいろんな不満も怒りも抑えているんだ。すると母親が返した。
「そうやって言って、中学校のときサボっただろ!」
 中学の時だって!いったい何年前のことを持ち出すんだよ。ともかくさ、母親は信用していないんだ、僕のことを。僕は返答した。
「やめてくれよ。朝からこんな言い合いなんてしたくないし、僕には時間がないんだ」
「私だって時間は無いわよ!だいたいあんたは、いつもいつもー」
 ああもう、ヒステリーになりはじめた。こうなるともう駄目だろうな。過去のことを根掘り葉掘りして、いかに僕が低能なクソったれ野郎かを言って罵倒してくるんだ。しかもだよ、それを言った後に過去のことでまた怒って、そのサイクルがずっと続くんだ。僕はそれを抑えようと必死になった。
「やめてくれよ、お願いだから。だったら予備校に電話して、行っているかを確認すればいい」
「私にそんな時間があると思ってるの!?あんたの学費を稼ぐために毎日働いて―――」
 マズいね、論理で責めるんじゃなかったよ。母親はいつもこうなんだ。自分に少しでも不利になって、自分が悪いというふうになったら、相手をもっと罵倒するんだ。どうしても自分の非は認めないんだな。
「時間がないから僕はもう出るよ、ちゃんと予備校へ行くから」
 そう言って、僕はドアを閉め、鍵をした。
 マンションの一階の駐輪場に来た。スマホで時間を確認すると7時50分。割とギリギリだ。またこの暑い中を自転車で全力疾走しなければならない。本当ならもっと早く家を出ればいいのだろうけどギリギリに行くんだ。当たり前だね。あんなところにずっといたら頭がおかしくなるよ。クソったれのインチキ教師やエゴたっぷりの女やセックスしか興味のない男しかいない。それでいて日中のほんとんどをそこで過ごさねばならず、それが終わったら予備校ときた。まったくやってらんないね。
 いつものように自転車に鍵を刺して押し込む。位置の確認なんかいらない。ベレー帽を風で飛ばされないように深く被る。スタンドを蹴って道路に飛び出した。学校までの道はほとんどが河川敷の堤防だ。信号がないのはいいけど風が強い。今は夏だから涼しくていいね。だけど運動していると汗をかいてしまう。汗をかくとまたクセが蘇ってくるんだ。
 平日の朝でも河川敷の堤防では老人たちは誰が置いたのか分からないベンチで談笑している。彼らは一体何を楽しみに生きてるのか。人と生産性の無い話で時間を潰すだけの毎日なんか僕には耐えられないね。芸能やらスキャンダルやらについて、テレビで見たようなことをそのまま言って、それで「嫌あねえ」みたいな相槌を打つだけっていう、会話ごっこみたいなことを続けてるんだな。ついでに言うとさ、こういうやつらほど僕たちみたいな若者に対して偉そうにして、ありがたい忠言なんかをくれやがるんだ。
 しばらく堤防を走っていると、小学校のグラウンドが見える位置についた。手前に体育館とグラウンドがあって、奥に校舎があるんだけど、グラウンドからは子供たちの笑い声が聞こえて、体育館からは合唱練習なんかが聞こえるんだ。それを聞いてると、さっきまでとてつもなく不快な気分だったけど、少しはマシになるんだな。だけど、こうした気持ちを持つことが、大人たちと同族になるように思えてクソったれな気持ちになるね。そして、こうして学校に行かされている子供たちも、かつての僕と同じように学習を強制されて、みんなと仲良くして、大人好みの絵とか文を書くことが素晴らしいことだと教えられるんだ。ああ、駄目だな。またクソったれな気分になってきた、もう行こう。そろそろ行かないと遅刻にもなってしまう。

 そんなこんなしているうちに学校に着いた。校門から見える時計は8時15分を刺している。30分までは遅刻じゃないから余裕だね。玄関で革靴を脱いでベレー帽を鞄にしまう。そして学校指定のスリッパに履き替える。スリッパは学年によって色分けがされていて、僕たちは青色だ。高校生ともなると年齢による違いなんてものは少なくなるから、こうして分けられていると分かりやすい。不特定多数のガキどもを大人が扱いやすいようにする工夫だ。だけど、この色にたいしてくだんない誇りなんかを持っちゃってさ、他の学年の人に対して馬鹿にするような奴もいるんだ。
 階段で四階まで上がる。まったく何の拷問なんだろう。学年が上がるにつれて階も上がっていくなんて、それでいて登り降りは階段なんだ。
 息を切らしながら階段を登って教室に入る。すると他のみんなはもう席に座っていて、更にもう担任がいて、僕に遅いなんていってきやがんだ。体育会系この担任は頭まで筋肉でできてるのか、自分が中心に世界が回ってると勘違いしてやがる。こいつが言うに15分には席についておけって、だけどほとんどの生徒が早く来てもバカ話をするかスマホでゲームするかで、僕からしたらそんなことをするために朝早くから来るなんてキチガイだね。
 40分になって、担任が朝礼を始めて偉そうに話をし始めた。またどうせ頭の悪そうなことを言うんだ。ほら、話し始めた。
「たとえ結果が出なくても、努力しているやつは評価する」
 努力を評価するだって!どうやって評価する気だよ。そもそも努力なんて他人が測れるものじゃない。自分しか分からないんだ。基準もないしね。結局は担任の主観なんだ。だから遠回しに媚びてるやつを評価するって言ってるのと同じだね。
 それに、誰だってやりさえすれば出来るようになるんだ。やってできないって言うんなら、それは努力の方向が間違っているのさ。この担任はそれを正さずに肯定しようとしてるんだ。つまり、やっても出来ないヤツっていうレッテルを貼ろうとしてるんだ。まったく何の冗談だよ。あいつは本当に頭の中が筋肉でできてるんだな。
 授業の前には10分の休み時間がある。次の授業の準備をしたり、うんこをするための時間だ。僕はこれが長過ぎると思うね。長過ぎる休み時間を生徒は持て余してるんだ。男も女もバカ話で盛り上がって、教室中大騒ぎだよ。まったく、耳に粘土でも詰めたい気分だね。休み時間なんて半分で十分だよ。全部の休み時間を半分にするだけで30分も早く帰れるようになるんだ。僕は一刻も早く学校をでたいからね。
 それらから気を背けるために、僕は”近代能楽集”を開いた。たしか卒塔婆小町の途中だったかな。三島由紀夫自体あんまり知らないけど、自殺願望のある革命家だなんて、素敵な思想だと思うね。この本にも所々それが現れてるよ。
 本の世界に浸っていると、前の席のオカマが話しかけてきた。彼、いや、彼女?分からないな。とりあえず彼は、クラスの中でも、本当に頭のいい人だと思うね。勉強はもちろん出来るんだけど、政治・経済・哲学、そういったことについて話せるのは彼しかいないんだ。他のやつらは彼を奇異の目で見るけど、彼ほど本当の人間はいないと思うよ。彼を馬鹿にするやつっていうのはさ、大抵は運動部で、行動は微塵も知性が感じられないようなやつばかりなんだ。大声出して騒いだり、教室の中を走り回って暴れたり、授業中も周りのことなんか考えずにずっと喋っていたり、その上他人を表面上の仕草や振る舞いで判断するなんて本当に低脳なんだな。そいつらは彼を面白いおもちゃ程度に見下しているかもしれないが、彼や僕からしたらうまくあしらわれているのは向こうなんだ。
 その彼が僕に「やりたい事はやるべきだよね」って、そう言ってきたんだ。いきなり何のことかと思ったけど、僕は「やるべきだね。別に死ぬわけじゃないし」って返したんだ。後から知ったことだけど、彼は有名私大を受けるか悩んでいたそうだよ。
 一時間目は国語だ。正直言って僕は国語が好きになれない。なんてったってつまらないからね。物語を読んで、内容を解説して、それを黒板に書いてノートに写す。ようは作業なんだ。本当に物語を読むときは、そんな一義的解釈にとらわれずに色んな視点から見るべきなのに。なによりも、その一義的な解釈があまりにも普遍的であることが気に食わないんだ。その文が何を表すかを教師は偉そうに解説するけど、そんなことは読めばわかる。言われるまでもないんだ。当然のことをさも自分しか知らないように話すから視点がズレるんだよ。
 それと、教師の低脳さにも腹がたつね。例えば今回は太宰治だけど、教師自身が太宰治が理解できないと言っているんだ。こいつはキチガイだってね。そりゃそうさ、人間失格とか、そういった話を書く時点で、自身への異常な無能感を持ち合わせているんだ。ただ、彼が文を書く背景には自信というモチベーションがある。ようは双極性があるんだ。僕は彼と同じ想いを何度もしているから分かるんだ。それを教える立場の人間が理解していないんだ。
 だけどまあ、ひとつだけ好きなことを話すとすれば、国語の教科書は好きだな。一冊で色々な話が読める。退屈な国語の時間でも、たとえ同じ話でも教科書を読み返してるだけで楽しいんだ。
 でも、そこで教師がそれを遮ってくる。ノートをとれってね。そしたら僕がこう言うんだ。書かなくても分かる。会話はそれで終わりだよ。続きはない。ただ、毎回のように同じことをするなんて、教師っていうのはままならないものだね。
 二時間目は英語だ。僕は英語が好きなんだ。気晴らしするときは大抵英語の歌ばかり聞いているし、図書館の英語の古い雑誌記事集を見てはニヤニヤしているんだ。僕の生まれる前に起きた出来事、たとえばフォークランド紛争の記事なんかを見つけると嬉しくなっちゃうんだな。ともかく、僕は英語が好きなんだ。だけど英語の授業はそこまで好きじゃないんだ。だからほとんど絵を描いて過ごしたね。それと少し寝たかな、教師に起こされて今習ってる意味のピースのスペルを言ってみろって言われたから"ぴーあいいーしーいー"って答えてあげたよ。考えるまでもないね。寝ていて話を聞いていないだろうと思っていた教師はそれで参ったみたいで、後はほっといてくれたんだ。
 三時間目は化学だ。この授業は不思議なもんでさ、たいていの授業中は脳みその足りない猿たちが騒いでいるのに、この授業は静かになるんだ。なんでかというと、みんな寝ているからだよ。なんで寝ているかというと、教師の話がつまらないらしいからだよ。”らしい”なんて言ったのはだね、僕からすればその教師の話は面白いんだよ。小学校のときに元素図鑑は背表紙が擦り切れるまで読み込んでいたし、なによりもその教師が学生だった頃の科学的な話、たとえばカーバイドランプとかの話を聞くと体の奥がくすぐったくなるみたいに楽しくなるんだ。ほんと、知の喜びというのは素晴らしいものだね。だから、その授業は実質僕ひとりが受けているような感じなんだ。でもやっぱり授業そのものは好きになれないんだな。もしそういった小話が無かったら僕も寝てしまっていただろうね。
 四時間目は物理なんだけど、今回は授業の最初にテストがあるんだ。そのせいで、みんな教師が来るまで必死こいて教科書とかプリントとかを見てるんだけど、本当にバカだと思うね。
 確かにテストはいい点を取るほうがいいけど、直前に詰め込んでそのテストを乗り切ったって何の役にも立たない。高校生ならほとんどのやつは大学を目指してるわけだから、根本から理解していかなくてどうする気なんだろう。大事なのは定期テストやこういった小テストじゃなくて、模試やセンターと二次だろう。何よりも、こうやってチキンレースみたいに勉強をやらされるのが家畜のようで嫌だね。学校に隷属している証拠だよ。
 なんて考えていると、メガネが話しかけてきた。メガネは優等生と言えるほど成績も良くなく、だけど愚直に学校に付き従っている凡人の鏡みたいな奴なんだ。そんな彼は、テスト前とか肝心な時にいつもこうやって取り乱したりしている。その上「お前っていつも落ち着いてていいよな」なんて言ってきやがんだ。僕からすれば、取り乱すほうが理解できないね。別段テストが出来なくたって死ぬわけじゃないし、何よりもこういったもので将来が決定付けられるわけでもない。そして対処方法だって分かっているんだから何も取り乱す要因なんて無いと思うけど。そうやって言ってやったら、彼は理解できないっていう顔をして席に戻って行ったよ。
 ああ本当に、バカバカしいな。ほとんどの高校生はさ、学校と家が世界の全てで、その中の評価にこだわることだけに終始しているんだけど、僕からすれば、みんな騙されてるよ。インチキな大人たちは僕たちを侮って学校で学ぶしかないと考えているけれど、子供が持てる世界なんて学校と家がほとんどなんだから、他の世界から情報を得られなければ、何を頑張ったところで飛びぬけることなんて出来やしないんだ。
 結局この時間も寝たりして不真面目に過ごした。特に物理に関しては、自分で物理現象を調べたり考えたりしているときは楽しいのに、授業になるとどうしてこうもつまらなくなるのか。意図的につまらなくしてるとしか思えないね。個人的には、教師の仕事は授業そのものではないと思うんだよ。教科書がある限り授業の内容なんて誰がやったところで変わらないし、教え方の良し悪しなんてほとんどない。後は生徒が聞くか否かなんだよ。教師の仕事は、いかに生徒に授業内容に関心をもたせるかで、それが分かっていない時点で教師失格なんじゃないかな。今教師の連中は、学生の時にそういうことを考えなかったのかな?考えなかったんだろうなあ。頭の悪い人は疑問を持たない。少し頭のいい人は批判をする。本当に頭のいい人は…どうするんだろうな。誰かトルストイにでも聞いてきてくれないかな。
 昼休みだ。みんなが一斉に弁当を広げ、教室には吐き気がしそうな臭いが立ち込める。仕方ないから自分の弁当を開くけど、食欲が湧かない。弁当をあける前までは食欲があるんだけど、あけると無くなるんだ。
 炭水化物やたんぱく質は、午前中の間に雑菌が繁殖して異臭を放つ。肉は冷たくて生臭くて食べれたものじゃない。一口だけ食べるけど、すぐに弁当を閉じてしまう。僕は潔癖症じゃないけど、どうしても弁当はだめなんだ。後で親に何か言われないように対策をしなきゃいけない。
 そうすると他の人はまだ食べてるのに、僕だけは昼食が終わる。だからまた本を開くんだ。10分間でさえ騒げる低脳たちに30分も与えたらどうなるか分かるかい?三倍うるさくなるんだよ。そういったことから目をそらすのにも本は有効だ。
 個人的な主観だけど、無能ほど本を読まない。本というのは、歴史であって、かつての知の巨人たちが、後の世にも自身の思考を残しておくために作ったデータベースなんだ。この世のほとんどの疑問なんて、自分で考える前に本を開けば、自分で考えるよりよっぽど崇高な結論が書いてある。だから、それらを前提に自分自身の考えをつくることで、偉人たちよりも数段上の思考ができるんだ。当たり前のことだけど、それを本質的に分かっている人は少ない。本質を掴めなければ、何も変えることはできないし、先に進むことはできない。本を読まなければ、誰かの後についていくことしかできない奴隷に成り下がるんだよ。
 さて、三島由紀夫は少し飽きたから、シモーニュ・ヴェーユの”根をもつこと”でも読もう。この本の自由に関しての記述は秀逸だね。自由になり、選択の幅が広がりすぎた人は、その選択の責任に押しつぶされて自由は悪だと思うようになるそうだ。自由が善だと信じてやまない愚かな民衆に聞かせてあげたいけど、きっと聞く耳なんて持たないし、理解もできないんだろうなあ。自由を叫ぶ者は義務の撤廃を求めるけど、それがなくなったときに自らの存在価値を失うことを理解していないんだ。義務は権利であり、社会から求められる役割なんだ。といっても、僕は他人に支配されるのなんてクソ喰らえだと思うけどね。そっちの方が楽なのは確かなんだけど。
 そんなことを考えていると、剣道部が話しかけてきた。彼はおしい人なんだ。何がおしいって、考え方で言えば僕に近いんだけど、俗物的な感情が捨てられないんだ。そして未だ変化を恐れ、選択に対して戦々恐々としている。
 僕は最初の頃に、彼が理解者になってくれると思って話しかけたけど、だめだったね。僕の思考の方が数段上だったんだ。だからおしい人なんだよ。だけど、このクラスの中ではオカマに次いで頭がいいと思うね。もちろん学力の話じゃないよ。
 そんな彼が僕に言ったんだ。「また北半島がミサイルを発射したね」って。つい昨日のことだよ。そんな話題を持ち出すところが、なんとも僕好みだよ。だから僕は言ったんだ。「北にはもっと頑張ってほしいね」って。彼は不思議な顔をしたけど、もちろん考えなしにそういうことを言ってるわけじゃないんだ。この国の国民からしたら、その発言は非国民的だけど、正直なところ、僕は北を応援したい気持ちもあるんだよ。僕は政治が好きだからね。ただ、語る気になるかはわからないな。
「昨日これを買ったんだ」
 そう言って剣道部はデカルトの情念論を見せてきた。しばらく付き合ってみて分かったんだけど、彼は自身がどう見られているか、そればかりを気にしているんだ。そういったくだんない思想も、僕が彼に失望する一因なんだな。その結果、彼が何をし始めたかというと、僕がやたら本を読んで会話の中で引用をしているのを見て羨んでくるんだ。だから彼は哲学書を読み始めるわけだけど、何を読んだらいいか分からないって言って僕に聞いてきたんだ。それが昨日のことだよ。だけど僕は、デカルトとかよりももっと分かりやすいものから読むべきだと言ったんだよ。しかし彼はそれを無視した。じゃあ何のために聞いたのか。そう思って僕は返事をした。
「デカルトとかは難しいと言ったと思うんだけど」
「俺はこれが読みたかったの」
「いいかい、僕は決して考えなしにこういったことを言っているんじゃないんだよ」
「じゃあどういう考えがあるんだよ」
「君は哲学書をかっこいいかっこわるいとか、そんなくだんない判断で選んでいるかもしれないけどさ、それがおかしいっていうんだよ」
「ハイハイ、またお得意のディスりかい?」
 なんだか今日の彼は攻撃的だね。これは流石の僕も頭に来ちゃったな。だから少し考えなしに発言してしまったんだ。
「君に関しては僕は付き合っているメリットを感じないから、君がそういう態度なら僕は何も君に話さないし、本当なら無視することだってできたんだよ」
 言っちゃったよ。僕は低能なせいでこうやって本音を隠せない。だから人付き合いは嫌なんだ!
「お前は損得勘定でしか人を判断できないのか?」
 ほんとは僕はもう口喧嘩なんてしたくなかったんだけど、彼はそうやって続けようとするんだ。仕方ないから僕は返答した。
「この世で損得以外で人を判断している人間がどこにいるんだ?いい人の近くにいるには自分に都合がよく気分がいいからだろう?そうやって、第一には自分の快楽を優先して生きているんだ。その快楽に対して愛だの恋だの絆だの友情だの勝手に意味付けしているにすぎないんだよ。人間関係っていうのはさ」
「わかったよ、俺が悪かったって」
 自身の不利を悟ったのか彼はあやまり始めたんだけど、それでも僕は止まらないんだな。もうかなり頭にきちゃってるもんだから。
「いったい何が分かったって言うんだい?いいかい?君は何もわかっちゃいないんだ。さっきの哲学だってそうだよ。僕はだね、そもそも哲学書をぱっと見て分からないようなやつは哲学なんてやるべきじゃないと思うんだよ。僕が哲学書を開いて常々思うのはだね、まるで著者が自分の考えていることを代弁してくれているように感じるんだ。つまり、既に自分が考えていることを、他の人も同じことを考えているんだと、そう思っているんだよ。だから哲学書を読むのは、自分の考えを確認したり、忘れてしまいそうな思考を焼き直したりするためだけなのさ。哲学者と同じレベルにいなければ何が言いたいのかさえ分からない。哲学書の理解なんて言っているやつは何も分かっちゃいない。つまりはそういうことなんだ」
 それを聞くと彼はルソーの”孤独な散歩者の夢想”を取り出して言ったんだ。
「じゃあこれに書いてあるようなことも考えた経験があるのかい?」
 その内容と言えばルソーの自叙伝みたいなものなんだけどさ、センチメンタルな心情を書き出したもので、当然僕が過去に一度や二度は考えたことがある内容だったんだ。だから肯定の返事をしたら、彼が言ってきたんだ。
「ふうん、おもしろい」
 出たよ!その”おもしろい”っていう発言!僕はその発言が心から嫌いなんだ。何か気の利いた返事をしてかっこつけようとするけど、結局何も思いつかなくて、だけど体裁を保つために言う言葉が”おもしろい”なんだ。その見下して上から評価するような態度がかっこいいと勘違いしているんだな。僕はほとほと呆れ果てて僕は本を閉じて椅子から立ち上がりつつ彼に行ったんだ。
「君は何もわかっていないな」
 実を言うと僕は哲学という言葉が好きじゃないんだ。なんでかというと、やたら難しい言葉を使うっていうのがまずあって、でも難しい言葉自体はそんなに嫌いじゃないんだよ。問題はそれを使う人間の方さ。やたら難しい言葉を使って、それを理解できる自分がいかに偉大かを示すんだ。そして、たとえ簡単なことでも難しい言葉を使うことを哲学なんてくくりにして、哲学は難しい言葉で難しい考えをする、決して凡人には理解できない崇高で高貴な学問なんてインチキな考えを作りやがったんだ。そうやってあぐらをかいている哲学者も、自身も偉大だと思いたくて、同じ土俵に立とうとするやつも、みんなインチキなんだ。
 さて、授業まであと15分。僕はコーヒーを買いに自販機へ向かった。コーヒーのある自販機は、教員用の体育館裏の自販機しか無いんだ。不便だね。ブラックなんてほとんどの高校生が飲まないっていうのも分かるけど。ちなみに剣道部もオカマもブラックコーヒーが好きなんだ。それを買って、教室に戻って、次の時間の体育のために体育着に着替えた。
 五時間目は体育だ。体育はそこまで好きじゃないけどさ、でも不思議なことにやっていると楽しくなってきちゃうんだな。今回はソフトボールなんだけどさ。ソフトボールっていうのは12センチぐらいのボールを人の眉間に向かって投げるゲームだよ。冗談に決まっているだろう?ともかくだよ、練習としてキャッチボールをしていたんだ。そういう指示だったんだ。そしたら近くにいたビリが、ビリっていうのは男子生徒なんだけどさ、定期テストでいつも最下位をとってる、つまりはビリッケツの落ちこぼれ生徒なんだ。彼が嬉しそうにしているから、なんでかを聞いたんだ。そしたらボールが変な動きをしたからって言うんだ。どういう意味かって?そんなの僕だって分からない。ビリ自身に聞いてほしい。それを見ていた剣道部が近くにきて言ってきたんだ。
「下らないことで嬉しそうにするよな」
 本当にさ、どうしてお前は僕をがっかりさせるんだ。
「そうかい?僕はいいと思うな。常識に思える事柄に対しても疑問と楽しみを見つけれるのは」
 僕はそう返事をした。冗談じゃなく本心からこう思っているよ。
「そうは言ってもさあ、当たり前のことじゃないか...」
 彼はそうやってモゴモゴ言っていた。僕はかまわずに返事をした。
「常識やら固定観念なんていうもので固められて、何にも疑問を持たない人間の方がどうかと思うね」
 それを聞くと、彼は黙って立ち去って行ったよ。そのまま特に何もなく五時間目は過ぎていった。
 六時間目は数学だったんだけど、数日前に起こった自殺事件のせいでなくなって、代わりに集会が開かれたんだ。みんな体育館に集まって、だからすごい量の人がいるんだけど、遅れて向かった僕は自分の場所が分からなくてだね、知っている顔を探そうとしたんだけど、ぼやけてよく見えなかったんだ。僕は目が悪いからね。やっと見つけて自分の番号の場所に座って一息ついたら、すぐに立たされて一斉に礼をさせられた。それでもって教師陣が壇上で話しはじめるんだな。内容としては「今後はこういったことがないようにー」とか「調査を進めてー」とか言って、詳しいことは言わないんだ。とはいっても、それはもういいんだ。あいつらがその程度のことしか言わないのなんて誰だって知ってる。問題はその後だよ、年老いた女の校長が話し始めたんだ。
「生きていれば、これからいいことがたくさんある。周りも悲しむ。だから死んではならない」
 なんてさ、全部じゃないけど、たしかこんなことを言っていたんだ。僕はそれを聞いた途端につま先がムズムズして、気持ち悪くてフラフラしてきたんだ。嘘じゃないよ。ほんとにそうなったんだ。そして、正直なところあまり内容は覚えていないんだ。だけど、怒りじゃないけど、激しく思うところがあったのは覚えている。勘違いしないでほしいんだけど、僕は決して校長の意見を間違っているとは思わない。きっと正しいんだろうし、多くの人がこう思っているんじゃないかな。だけどね、これは僕の意見だよ。理解できなくても構わないから聞いてほしいんだ。
 自殺に関して、何か失恋とか、いじめとか、そんなものがなかったとしてもね、起こりうるんだよ。僕たちみたいな若者がおかれている状況は厳しいものでさ、学歴社会なんているクソみたいな価値基準が常に僕たちにかけられているんだ。そのせいで勉強ができないものはとてつもないプレッシャーに押しつぶされそうになっているし、学校と家とを往復するだけの毎日で、着たくもない制服を着てやりたくもないことをやらされて、生きている心地なんかしないんだよ。それでいて、いい高校に行って、いい大学に行って、大企業に就職、なんてさ、そうなる人は全体の何パーセントなんだい?きっとほとんどいないんだろうな。もし仮にそうなったとしても、家と会社を往復して誰かにペコペコするだけの毎日で、いつか飛びぬけれると思いながら何も成せずに死んでいくんだ。もちろん多くに人は競争に負けるだろう。そしたら家やら学校やらに虐げられる。だけど子供には家と学校しか居場所が無いから、結局どこにも居場所がなくなる。居場所がなくなったらあとは死ぬしかないと思うのも不思議じゃない。もっと言えば、失業、少子化、所得格差みたいなさ、ともかく今の世の中は社会問題が山積みで、誰かがなんとかしなきゃいけない状況なんだ。それでいて今までみたいなレールありきの人生なんてモデルすらも無くなって、いきなり生身で荒野に立たされるし、大人たちは自分たちが安全地帯にいることをいいことに、僕たちに偉そうに何か言ってきやがる。いくら綺麗ごとを言ったとしてもね、じゃあ綺麗ごとを言った人が社会から脱落した人を養っていけるのかい?たいていは無責任に励ますだけなんだ。だから綺麗ごとを言う世の中も周りの人達もみんなインチキなんだ。僕はね、死のみが開放に思えるんだ。僕には死んだ彼がとても羨ましく見える。
 気づいたら集会も終わっていて、教室に戻ろうと体育館を出たんだけど、通路の所は風が通っていて涼しくて、それが頬に当たって気持ちがよかったんだ。ずっとそうありたいとさえ思ったほどにね。唯一の慰めだったよ。
 終礼も相変わらず脳筋教師のつまらない昔話をするだけで終わった。昔話をよくするよね。大人は。だけどね、「昔は良かった」だなんて言っているやつほど、何もしてこなかったやつなんだ。自分がその時代を作ったわけでもないくせに勝手に誇りに思って、勝手に現在に失望してるんだ。そしてそれを自分がまるで物知りであるように思わせる道具として使っているんだ。本当は昔のことさえほとんど知らないくせに、もっと知らない現代と比較してるんだから滑稽だな。ほとんどの大人なんていうものは、与えられた都合の良い情報だけ摂取して、歳を食っただけなんだ。挙句、それで自身が成熟した人間だと思い込んでいる低能だ。
 放課後になった。僕には放課後に違反指導が待ち構えていたんだ。自転車マナー違反と特別指導だそうだけど、まったく下らないね。
 どうやって違反したかっていうと、予備校が終わって、クソったれな気分になって帰ってたんだ。それで、制服をちゃんと着るのもバカらしかったから着崩して、少しでも気分を良くするためにイヤホンで好きな曲を流してたんだ。この曲はピアノとフランス語でできてて、もの悲しい雰囲気なんだけど凄く気力が湧いてくるんだ。まあ、曲の話はいいや。
 それで、そうしている場面を教師に見つかって違反指導となったわけだよ。指導の内容は、反省文と、翌日の交通マナー指導のボランティアだってさ。反省文に関しては苦労しなかったね。文を書くのは嫌いじゃない。たっぷりと皮肉をこめて書いてあげたよ。だけど、ついでに読まされた文が最悪だったんだ。"良い子であるために"みたいなタイトルだったかな、よく覚えてないや。だけど、その内容が、学校のクソやインチキを煮詰めて凝縮したようなやつだったんだ。気持ち悪くて最後まで読めなかったよ。そして、こういったものに対して何の疑問も持たずに育ってきた教師に対しても嫌悪するね。異常だよ、こんなの。これを守ってて出来上がるのは、人じゃあない。生殺与奪を他人に握られて従順に従うなんて、家畜だよ。良く言って奴隷レベルのものさ。でも今だけはこれに従っているそぶりを見せないとね。どれだけ嫌がっても生きていくためにはそうしなきゃいけないんだ。

 学校が終わって、4時ぐらいだったんだけど、そこから商店街にある本屋に行った。この本屋は、おそらく市内では一番大きくて、当然取り扱っている本の量も多い。別段何か買いたい本があったわけじゃないけど、とりあえず行ったんだ。行けば興味を惹かれるものに出会える気がしたから。
 しばらく自転車を走らせて、本屋の前に自転車を止める。少し驚いたんだけどね、駐輪場にはオカマがいたんだ。彼は赤本を買いに来たらしい。入店すると、やっぱり沢山本があって、いい気分だね。店頭には最近出た新刊が並んでいるんだけど、僕はあまり興味が持てないんだ。なんだか、登場人物の考えが平凡というか、例えば、サリンジャーを読んだ時のような衝撃がないんだ。
 赤本は別の階にあるから、オカマとは一旦別れて古典文学とかの売り場に行った。辺りをグルグル回っていたんだけど、幸福論なんて書かれている本がとても多い。副題にそう入っているものも含めると相当なものだと思う。有名な作家はみんな、そう、みんなだよ。幸福論なんてものを書いて自分の幸せを自慢する。だけどなんで誰も幸せじゃないんだろうね。少なからず、僕は幸せじゃない。一番の幸せは、何も知らないことだと思うね。知ってしまえば、もう誰も信用できなくなる。安眠できなくなる。きっと、幸福論は不幸な人が読む本なんだろうね。
 結局何も買わなかった。別に、何も欲しくなかったわけじゃないんだ。逆に、なんでも読みたかったんだ。チェーホフとか、ドストエフスキーとか。だけど、残念だけど僕は一冊買うぐらいのお金しか持っていなくて、何かを選んで何かを捨てるというか、そういったのが耐えられなかったんだ。
 オカマと再会して、本屋を出た。もう日は傾いていて、赤い空はいい感じの雰囲気を出していた。せっかく会ったから喫茶店に向かうことにした。そこは土日に僕がよく利用するんだ。店頭に使われていない古いコーヒーミルが置いてあって、古臭いけど全体的に温かい感じの店なんだ。そこでオカマと休憩することにした。
 店に入ってソファーに座ると、いつも通りやたらふかふかしてる。まるでソファーが僕に休んでいけって言っているようだったね。オカマとは正面になるように座ってしばら待つと、お冷とメニューをもって店員さんが来た。
 僕はカプチーノを頼んだんだけど、オカマは琥珀の女王とかいう凄いやつを頼んでいた。オカマの家はお金持ちだからね。彼も高いものを頼むんだ。見た目は、かなり濃いめのコーヒーとミルクが二層になっていて、カクテルグラスに入っている。僕はそれの味が気になって質問した。
「どうだい?女王様は」
「なんかね、ミルク部分はいいんだけど、コーヒーがシロップみたいな甘さで飲むに堪えない」
 言い忘れてたけど、彼は口調は普通に男だよ。ただ仕草や嗜好がまるっきり違うんだ。
「ところで、進学先はどうするか決まったかい?」
 まあ、受験生の間では社交辞令みたいなものだろうね、この質問は。オカマが返答した。
「指定校で一校決まってるけど、それを隠して一般で有名私大を受けることにしたよ」
 さすが、オカマがやることは違うな。彼は生徒とは仲良くはないけれど、教師との関係がいいから、その辺のコネを使ったんだろう。
「あなたはどうするの?」
 オカマが質問してきた。
「評定も学力もダメダメだ。お先真っ暗だよ」
 僕はそう返答した。しばらく考えた後、またオカマが質問してきた。
「といっても、何も考えていないわけじゃないでしょう?」
「もちろんだよ。少し長くなるけど、聞くかい?」
「聞くよ」
 僕はずっとシナモンスティックで混ぜていたカプチーノに初めて口をつけてから話しはじめた。
「僕はね、2つぐらいの未来が見えているんだ。ひとつは大義に生きて殉教すること。もうひとつは、誰も僕のことを知らない土地に行って、そこの人達が僕を知るようになったら、また別の土地に行って、そうやって暮らすことなんだ」
 僕はそう答えた。オカマはまたしばらく考えた後に、やっと口を開いた。
「僕はあなたの頭はいいと思っているし、だからこそ言わせてもらうと、そういった将来観になるのが残念に思ってしまう」
 これは、僕が評価している大人たちからもさんざん言われている言葉だ。やっぱり頭のいい人たちは同じことを思うんだろうな。僕は返答した。
「分かっているよ。ただね、僕にはこの先が真っ暗にしか思えないんだよ」
「死から離れることはできないんだね」
「そうなんだ。僕に待っているのは、死という圧倒的な事実だけなんだ」
 これは僕の本心からの言葉だった。普段だったら絶対に口にしないだろうけど、オカマは頭がいいからね、話してもいいと思ったんだ。
 その後はなんだか重くなってしまった空気を改善すべく明るい話題を出して、一時間ぐらい話してから店を出たんだ。時間はまだ5時半ぐらいだったから予備校に行くのも億劫で、図書館に向かった。幸いすぐ近くにあるからね。今日は6時半までやっているはずだ。
 図書館はいいよね。なんたって本の種類が多い。興味がない分野でも、思いついたようにその分野の本を読んで、少し知れば面白くなって興味が湧くんだ。そうやって、どんどん知識の幅が増えていくと、もうそれだけでも楽しいんだけど、たまに頭がおかしくなりそうになったりする。それでも、知の悦びはとてつもなく僕を惹きつけるんだ。
 図書館に入ると、すぐに人を確認する。あんまり多いとウンザリする。今日はそんなに多くないね。
 そして、中央の階段から二階に上がる。読みたい本は二階にあるんだ。寺山修司著作集なんだけど、その四巻、自叙伝と青春論がまとめてあって、その途中まで読んである。それを持って、ソファータイプの席の端っこに座った。周りにはおじいちゃんばっかりで、学生だと何だか浮いている感じもするけど、まあいつものことだからね。
 スピンを下から引っ張って、前読んだページを出す。にしても綺麗な本だね。きっと誰も読まなかったんだろう。辞書みたいな厚さだから、ためらうのは分かるけど、もったいないなあ。内容は確か、自立のすすめの途中まで読んでいた。寺山修司は本当にこういった記述が多い。不道徳教育講座を書いた三島由紀夫と似たような感じがするね。個人的には日本版のサリンジャーのような気もする。どっちも好きな作家だから、当然彼も好きな作家だよ。
 黙々と読んでいく。彼の書く一文一文全てに共感できるね。まるで、自分の思っていたことを明確に言葉にしてくれているような。ただ、一時間が過ぎた頃には少し気持ち悪くなっていた。いつもこうなんだ。寺山修司を読むと気持ち悪くなる。全部捨てたい。全部壊したい。早く死にたい。そういうふうに思うんだ。
 ああ、ここに、二発の弾丸とピストルがあればなあ。二発欲しいんだ。一発目は心臓に撃つ。これだけでもいずれは出血多量で死ぬけれど、僕は痛みで苦しむのは嫌だからね。二発目は頭に撃つんだ。ただ、弾丸は頭蓋骨に滑って、頭を貫通できないことがある。その時のための保険が一発目だよ。これで確実に死ねる。
 たまにだけど、今みたいに何もかもが嫌になるんだ。周りの低能さや不合理に対してもだけど、それだけじゃなくて、心臓の鼓動、脳の信号、筋肉の動き、五感から来るありとあらゆる刺激、そういったものが全部嫌になって、気持ち悪くて、捨ててしまいたくなるんだ。だけどそんなことは出来ないから、発狂しそうになるんだ。
 もう出よう。ここに、図書館にいてはいけないんだ。そう思って図書館から出た。
 ベレー帽を深くかぶって、街中を自転車で走る。この後は予備校に行かないといけないからね。だけど、しばらくは夕陽に染まる街と、その風を感じながら走っていたかったんだ。
 街ではいろんな人が歩いている。そして、いろんな人が交通違反をしている。そして法を遵守している人がそれに困っている。近代化されていった最近になって出てきた光景なんじゃないかな。こういったものって。
 みんな、他人なんかそっちのけで自分だけがいいように行動している。だから、みんなひとりなんだ。人は本来、他者の介在があってこそ存在できるけど、最近は他人を必要としなくなりその重要性を忘れて、みんなひとりよがりになっている。誰も他人を気にせず、誰も他人に気にされず、自分自身の存在が危うくなっている。これだけ人がいるのに、みんなひとりなんだ。僕も、ひとりだ。
 しばらく走っていて気が晴れたから予備校に向かう。予備校はコンビニの上にある。だからコンビニでアイスコーヒーを買ってから行くことにした。
 レジでアイスコーヒーのカップを買ってから、コーヒーマシンに向かう。すると、足元を小さい女の子が駆けて行った。そして僕の向かっていたコーヒーマシンの前に立ったんだ。背は僕の半分くらいで、たぶん父親とかに頼まれてやっているのだろう。どうせコーヒーマシンは二台あるから、そっちで入れればいいと思って、その子の横に立ってコーヒーを入れようとしたんだけど、その子は「ごめんなさい」なんて言うんだな。それがかわいくてね。あれは反則だよ。最初から怒ってはいなかったけど許してしまった。それはそれとして僕はコーヒーを淹れはじめるんだけど、その子は僕の方をじっと見てるんだよ。どうやらやり方が分からないみたいでね、だからちゃんと見て真似できるようにゆっくりやってあげたんだ。そして、淹れ終わったらフタをしてストローを刺すんだけど、棚にあるフタがとれないみたいだったから、とってあげたんだ。そしたら僕に「ありがとうございます」なんて言うんだな。僕はとてもいい気分になったよ。僕がその子にしてあげたことの数倍はお返しを貰ったね。僕はとてもいい気分で階段を登って予備校へ入った。
 入ってからまず目に入るのは「センター7割!」「〇〇大絶対合格!」そんな文字だ。こういうのを見ると、いつもウンザリするんだ。なんだか形だけ意気込んで、それで自己満足に終わっている感じで、こういった情熱をわざわざ表に出して人にアピールしているようで、それでみんな一緒に頑張るぞ!だなんて言っているんだ。学校でオバサンの教師が、受験は団体戦!だなんて言っていたけど、そんなわけない。そんな綺麗事なわけがない。一緒に行こうねだなんて言っている奴らでも、内心は自分だけ受かればいいと思っているんだ。そもそも競争させている時点でみんな幸せになんてなれないんだからその偽善を認めるべきだよ。
 まあいいや。ロビーのコンピュータで登校入力をすます。そうした後に、沢山パソコンが置いてあるブース内に入って映像授業を受けるんだ。だからブースに入ろうとしたんだけど、ロビーでアルバイトに話しかけられた。
 アルバイトは大学生なんだけど、細身で髪は天然パーマがかかっていて、見た目がいいから女子生徒から人気が高いんだ。だけど読書好きで、とても頭がいいから本心では周りを馬鹿にしていて、相手の頭が悪いと思うと何も話したがらないんだ。そんな彼が僕に何の用だったかっていうと、貸してた本を返しに来たそうなんだ。シモーニュ・ヴェイユ著作集の初期評論集を貸していたんだけど、肝心の僕が貸していたことを忘れていてね。彼もこんなに長く借りたの初めてだって言っていたよ。そこで少し話をしていたら、彼と話そうとブースから出てきた女子生徒が僕に言ってきたんだ。「君ってすごい落ち着いてるね」だってさ。どこを見たらそうなるのか分からないけど、まったく場違いで的外れな発言に心底がっかりした僕は「落ち着くなんて崇高な考えにはなれない」って言って、会話を切り上げてブースに入ったんだ。ブース内は相変わらず湿度が高くムッとしていたけど、文句も言ってられないし適当に席を選んで座った。
 パソコンを開いてパスワードを入れて受講ページを開く。イヤホンをさして再生ボタンを押すと、画面の中で教師が一生懸命説明を始める。僕はしばらくそれを聞いていたんだけど、だんだんと眠くなってきたんだ。それで、20分ぐらい寝てしまって、アルバイトに叩かれて起きた。授業の内容がだいぶ飛んでしまっていたから巻き戻してまた聞き直した。
 学校の授業はクソだけど、予備校の授業は面白いよね。正直、学校の教師には学問を教える資格がないんじゃないかと思うんだよ。指導力というのかな?圧倒的に予備校講師の方がレベルが高い。浅慮かもしれないけど、そう思うんだ。
 一時間半の授業の4分の3ぐらいまで見終わったところで、さっき買ったアイスコーヒーが切れた。また下に行って、コンビニで買ったんだ。今度はホットコーヒーにした。ホットコーヒーは匂いが強いから、ブース内をコーヒーくさくするのもマズいと思って予備校の階段の下で飲んでいた。
 最初は一人だったんだけど、僕が居座っているからか周りに部活帰りの他の高校生が増えてきた。やっぱり学校終わりはみんなコンビニに行きたがるんだね。気持ちは分からなくもない。だけど今は一人にして欲しかったんだ。周りで騒がれると本当にストレスが溜まる。仕方ないから一気に飲んで予備校に戻った。
 授業の続きを再生するんだけど、途端に気持ち悪くなっちゃったんだ。なんでか分からないけど。それで、帰ることにした。ブースを出て、下校申請をしている途中、校舎長が話しかけてきた。
「お前最近おかしいぞ」
 僕はそう言われて初めて自分がちょっと変になっていることに気付いたんだ。僕はしばらく黙っちゃったんだけど、やっとの思いで言葉を絞り出せた。
「なぜ…そう思ったんですか?僕のどこがおかしいんですか?」
「最近まったく何も話さなくなった」
 まったく、そんなことで何か言われるなんて、人間関係は面倒だね。僕は話を終わらせようと思って返答した。僕は他人に心配されたりとか、そういったことが嫌いなんだ。
「大丈夫ですよ。なにも異常なんてありません。心配しないでください」
「本心を語ってくれよ。お願いだから」
 これはもうだめだね。何を言っても言い逃れできる感じじゃない。仕方ないから本心の4分の1ぐらいを話すことにしたんだ。きっと何を言っても理解してもらえないだろうけど、そのぐらいなら大丈夫だと思ったんだ。
「僕はもう何もかもが嫌になっちゃったんですよ。生きるのが辛い、死のみが開放に思えるんです」
 そう言うと、校舎長は慎重に言葉を選んで言ってきた。
「じゃあ、お前は死ぬつもりなのか?」
 僕は冷静なままで返事をするつもりだったんだけど、その頃から思考に熱が入りはじめちゃったんだ。
「そうですね。だけど全く無名なままで死ぬ勇気がないから、2人以上の子ども助けて死にます。2人救えば、社会全体で見ればプラス1だ。だから、その2人が凍え死にそうになっていたら自分の服を与え、凶弾の前に倒れそうになっていたら盾になる、それが僕の夢です」
 それを聞くと校舎長は僕に対してある話をしてきたんだ。
「俺は難病にかかった子供の支援のボランティアをしているんだけど、余命が近い子供に言われたんだ。僕が死んでもすぐに忘れてって。自分の死で他人を苦しめないように、最後にそう願っていた。だから僕もそんな死に方をしてはいけない。その後のその2人の人生が、お前の死という呪いに縛られてしまう」
 それを聞いたあとの僕は完全に冷静じゃなかったな。
「じゃあどうすればいいんだ!大義にも生きれず、インチキな世界で腐っていけばいいんですか?」
 僕はそう言って予備校を飛び出してしまったんだ。決して泣いたりはしなかったよ。泣きたくなるようなことが多すぎて、高校に入った時点では何があっても泣かなくなっていたからね。そして僕はベレー帽を被って駐輪場に向かったんだ。
 外はもう暗くなっていた。帰路につくために自転車の鍵をあけて、駐輪場から出した。だけど、またあの家に帰るのだと思うと、この上なく憂鬱だった。クソったれな気持ちで力いっぱい自転車を漕いだら、ペダルから足を滑らせて道の真ん中で転んじゃったんだ。いやあ無様だったねえ。ダサいったらないよ。転んだ衝撃でベレー帽も少し遠くまで飛んでいってしまった。今度こそ本当に泣きたくなってしまったよ。だけどやっぱり涙は出なかったんだ。立ち上がって自転車を立てようとしたら、そこに僕と同い年ぐらいの、ようは高校生の女の子がいて、ベレー帽を拾ってくれたんだ。制服は他校ので、背中に大きなバッグを背負ってたから部活帰りみたいだったな。
「大丈夫ですか?」
 そう言って僕にベレー帽を渡してきたよ。僕はそれを受け取ったんだけど、返事をしようと思っても声が出なかったし、顔も直視できなかったんだ。その時は本当に惨めな気持ちだったからね。だけど、どうしてもお礼がしたくて顔を上げて、捻り出すように言ったんだ。
「ありがとう」
 彼女は「じゃあこれで」みたいな感じで立ち去ろうとしたんだけど、僕は途端に彼女のことがいろいろ心配になっちゃったんだな。もう時間も遅いし、歩きだし。だから彼女に向かって言ったんだ。
「そっちこそ、もう時間も遅い。気をつけてね。本当に、気をつけるんだよ」
 彼女は頭を下げて「分かっている」といった仕草をして去っていった。
 ひとりになった僕は、スタンドで立ててある自転車の荷台に腰掛けて、ベレー帽を深くかぶってしばらくそこにいた。道の真ん中だったけど、もう夜遅くで誰もいないから関係なかった。それから動くのには何分かかったかな。ともかく、かなりの時間がかかったよ。やっと動いた僕は、思いついたように財布の中身を確認したんだ。

「さて、どこに行こうかな」

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